「解放」
「ツタンカーメン 興味深キ ファラオ ナリ」
最後のメジェドが言い残す。
「ガサク ハ オシリス神 ノ 審判ヲ 受ケル ニ アタワズ」
そしてメジェドは空へビューンと飛び去った。
ファジュルが不安そうに眉を寄せ、ツタンカーメンはほほを膨らませる。
「メジェド君は別に意地悪で言ったわけではありませんよ。ただ、それくらいオシリス君の社殿の審判は厳しいのです」
プタハ神が慌ててフォローし、ソカル神がこくこくうなずく。
「ガサク君は、私が治めるアメンテトに来てもらうのが良いでしょう。アアルの野のような贅沢な暮らしはできませんが、永遠の命は与えてあげられます」
ツタンカーメンが冥界に来て最初に見た、あの場所だ。
「あ、あたしもそこへっ、あのっ、あたしもガサクと一緒にっ」
ファジュルにプタハ神がうなずく。
「それがいいでしょう。アメンテトにはファジュル君のご先祖様もそろっていますからね」
そんなやり取りをする横で、サルワが「わしが奴隷……」とブツブツとつぶやいている。
「いったい何をさせられるんじゃ? この年で力仕事は……昔は妹達の世話をしとったから家事なら多少はできますが……お食事のお世話……いやしかしファラオには一流の調理師や見目麗しい給仕係が……掃除……洗濯……お着替えのお手伝いとなれば奴隷の中でも上位のもんの仕事じゃろうし、他には……おふ! お風呂のお世話! ファラオ様のお風呂のお世話!!」
一人でジタバタするサルワを、アテン神だけが面白そうに見守っている。
「んじゃこれで奴隷解放な。サルワー! もう行っていいぞー!」
ツタンカーメンが軽く手を振る。
「そんな!? お風呂は!?」
叫ぶサルワをアテン神の触手が絡め取り、空へと舞い上がって、旅の続きへ連れ帰る。
「お風呂ーーーーーっ!!」
声が遠ざかって消えていく。
まさかサルワがお風呂奴隷にやる気を出していたとは夢にも思わず、ファラオはちょこんと首をかしげた。




