表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/83

「つーたんだ」

 ギザの地にピラミッドが建てられたのは、ツタンカーメンが生まれる千年も前。

 初代のファラオの誕生は、さらに五百年の昔。

 人の歴史よりも古い時代の戦いが、ガサクの眼前で再現されようとしていた。

 かたや、兄を殺して地上の王の座を奪った、エジプトの闇。

 かたや、父の仇を退けて王位を取り返した、エジプトの光。

 金や宝石の護符をフル装備したツタンカーメンが、光の神ホルスの分身として、闇の神セトと睨み合う。

 ガサクが息を呑んだ、その音が開戦の合図になった。

 先に動いたのはツタンカーメンだった。


   ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちっ!


 ホルス神から借り受けたハヤブサの翼の先端で、邪神セトのほほを左右両側から連続でビンタ。

 そして邪神がひるんだ隙に……

「逃げるぞ!」

 ツタンカーメンはバッと飛び下がり、ガサクを抱き上げた。

 いつの間にかガサクの霊体カーの悪霊化は止まり、もとの姿に戻っていた。


 羽ばたきで起きた砂煙を、はるかに見下ろして舞い上がる。

 砂を払うセト神の姿がどんどん遠ざかる。

「……ファアオ様……?」

「つーたんだ」

 一瞬の沈黙を風の音が包む。

「どうして……」

「おれがケンカに慣れてないだけ! ほんとはホルス神のほうがセト神よりも強いんだからな!」

 と、ツタンカーメンは言うが、神話では互角だったとされている。

「いや、何で逃げてるのかじゃなくって、何で、その……つーたんが……」

 何でファラオが墓泥棒なんかに手を差し伸べるのか、と、問いかけてやめる。

 出逢ってから日は浅くとも、つーたんがそういう性分なのはわかる。


 耳もとで風が唸る。

 不意に……

「……フハハハハ……」

 風に邪神の笑い声が混じった。


「!?」

 ガサクの赤銅色の肌に、墨で描くかのように、幾何学模様や動物の絵がひとりでに現れた。

「何だ、これ……!?」

 胸や腕、先ほどセト神に触れられた場所を中心に、それは全身に広がっていく。


「落ち着け! 象形文字ヒエログリフだ!」

「何て書いてあるんだ?」

「ええっと……あっ、じっとして。顔を動かすな」

 この体勢だとガサクのほほのものが一番読みやすい。


 あしの穂の絵柄はアともイとも読む。

 半円はT、ぎざぎざはN。

 そして太陽を表す二重の円。

(太陽神アテン?)

 いや、その手前、ほお骨のカーブの先にも言葉が続いている。

 これはアテン神の名にあやかった人名だ。


「『アクエンアテン』」

 ツタンカーメンの先代のファラオの名前。

 それがガサクの耳に届いた瞬間。

「っ!!」

 文字からトゲが生え、ツタンカーメンの腕をつらぬいた。



「痛てーッ!!」

 危うくガサクを放り出しそうになったものの、どうにかこらえ、それでもこのまま飛び続けるのは無理で、ひぃひぃと叫びながら荒野の真ん中に不時着。

 衝撃でガサクから手が離れ、そのまましばらくゴロゴロ転がる。

 霊体なので血は出ていないが、全身傷だらけになってしまった。

「うう~っ」

 身を起こし、ツタンカーメンが腕飾りの“ホルス神の目”の護符で自分の体をサッとなでると、それだけでトゲの刺し傷も、着地の際のり傷も、跡形もなく消え去った。

 これが霊に対する神の力だ。


「ガサクー! 大丈夫か? おまえもこれ、使うかー? ……おい!! ガサクっ!!」

 慌てて駆け寄る。

 ガサクは、背中から生えたトゲが地面に刺さって、空に向かってジタバタしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ