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「社殿への門」

 荒野をドドンとさえぎって、地上の感覚でいえばどうしてこんなところにと思うような場所に建てられた石積みの塀。

 立派な門と、三名の門番神の前に立ち、ツタンカーメンが死者の書を読み上げる。


「守る者の名はセケト=ラ=アアシト=アルなり!

 見張る者の名はセメツなり!

 知らせる者の名はフ=ケルなり!

 祝えり祈れり、オシリス神の社殿への門よ!

 祝えり祈れり、オシリス神の社殿の門番達よ!」


 まず門番達の名前を正しく呼ぶ。

 それから長い祝詞の中で、冥界の支配者であるオシリス神を称え、自分達が死を通じてオシリス神の仲間になったこと、故に自分達が歓迎されるべき存在であることなどを告げて、門番達に供物を差し出す。

 ツタンカーメンは自分がファラオだと言わなかったが、その辺の事情は門番達にはあらかじめプタハ神からこっそり伝えられていた。


 セケト=ラ=アアシト=アルは迷った。

『ファラオのくせに肉をパンで代用しようとするな』と言うべきか否か。


 セメツは迷った。

『供物なら王宮の神官達がたっぷり寄越よこしているのでこんなパンなんか必要ないぞ』と言うべきか否か。


 フ=ケルは迷った。

『カバは食えないぞ』と言うべきか否か。


 門番達がヒソヒソと話し合う。

「まあでも、通さない理由はないわけなんだよな」

「そうなんだよな」

「じゃあ、そういうことで」

 門番達は改めて真面目な表情を作り、重々しい仕種で門扉を開いた。 


 ツタンカーメンの両隣で様子を見守っていたガサクとファジュルが歓声を上げ、ツタンカーメンも自分のパンが受け入れられたと誇らしげに胸を張る。

 この先に待つはずの楽園を思い浮かべて胸が高鳴る。

 けれど門の向こうに続いていたのは、ここまでと何も変わらない荒野の景色だった。


「オシリス神の社殿は?」

 ファラオが遠くまで目を凝らしても、それらしいものは見えない。

「まだずっと先であるぞ」

 答えたフ=ケルも、他の二人の門番も、完全にあきれた様子だった。


 自分が見た資料には、門や門番の記述しかなく、塀や周囲の景色は筆者の創作となっております。


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