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「カバじゃないぞ」
泥を固めて作った小さな火山のような形のかまどの中に、薪を並べて、火を点ける。
パン生地はかまどの外側の斜面部分に貼りつけて焼く。
やがて芳ばしい匂いが漂い始めた。
パンを入れるための籠はハタプ神が用意してくれていて、お供え物を抱えた三人組は、元気良く手を振って農園から去っていった。
ツタンカーメンとファジュルは何も知らない笑顔で。
ガサクも澄み切った感謝を述べて。
三人を見送って、ハタプ神は小屋に戻って変装を解いた。
一般的なエジプト人と変わらない赤銅色の肌から、冥界神の緑の肌へ。
三人が去ったあとの小屋はやけに静かで、皿の上にカバパンが二つ残されていた。
ツタンカーメンがこっそり作っておいた、ハタプ神とソカル神の分。
お供え物ではなくお昼ご飯だから、オシリス神にはナイショで、とのことだった。
カバの味になっても困るので、特に念を込めたりせずに、ただのパンとして食べた。
ほんのり甘くて、ふっくら優しいパンだった。
「ファラオには、悲しい思いはさせたくないのですが……」
プタハ神は誰にともなくつぶやいた。




