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「薪」

 小屋の裏、薪の山の横で。

 素知らぬ顔を装いつつも、ハタプ神は内心ではワクワクしていた。

(私がプタハ(・・・)神だと明かしたら、ガサク君はどんな顔をするでしょう)

 アポピスとの戦闘中にはぐれてしまったツタンカーメンを、プタハ神とソカル神は必死で捜し回った。

 やっと見つけたと思ったら、ファラオは年こそ近いものの見るからに身分の異なる者達と何やら仲良くなっていた。


 プタハ神は青年に見覚えがあった。

 自分の神殿に頻繁に忍び込んでいたコソ泥だからだ。

 いずれ罰せねばと思いつつ、他の用事に追われて後回しにしているうちに、いつの間にか来なくなったので忘れていたが、まさか死んでいたとは思わなかった。


 人々の祈りを受け止める神への罪は、人間同士の罪とは比べ物にならないほど重い。

 そんな神殿荒らしの悪党がファラオと一緒にいるとはいったいどういうわけなのか。


 ソカル神は生前のガサクについて調べるために地上へ飛び、プタハ神は農園のもともとの管理神の協力を得て、正体を隠してガサクとの接触を図った。

 サルワがファラオを奴隷扱いして神を騙そうとしたのには驚いたし、俗な言い方をすれば“ムカついた”ので、神罰としてサルワが持っていたピカピカの死者の書を、ガサク達のほとんど読めないほどに汚れた死者の書とすりかえてやったのは、まあ、ご愛嬌である。


 昨夜遅く、ソカル神が報告に戻ってきた。

 ガサクは神殿から盗んだ薬草を、ファジュルに届けていた。

 身寄りのないガサクは幼い頃からいろいろな人のいろいろな物を盗んで暮らしてきたが、神殿から盗んだのは薬草だけだった。


(ファジュル君が小鳥さんと呼んでいた相手が実はガサク君でしたなんて、私からバラしてしまうのは野暮ですからね。

 まずはここで私の心の広さを見せつけて、薬草の件は怒っていないと安心させてから、ファジュル君と二人きりになるように仕向けて……ううむ、ツタンカーメン君が邪魔ですね)


「ハタプ神様、罪をあがなう儀式についてッスが……」

 来た来た、と、心の中で小躍りしつつ、プタハ神は平静を装ってガサクの言葉の続きを待った。

(そうそう。まずは本人の口から罪を告白させて、懺悔の言葉を聴いてから、この変装を解いておごそかに……)




 ガサクが語った罪は、プタハ神が待っていたのとは別のものだった。

 神は彼に憐憫れんびんを覚えた。

 けれど……


 ツタンカーメン達のところへ戻った時、ガサクはこうなると最初からわかっていたようでいつも通りの態度だったが、ハタプ神はひどく肩を落としていた。


 お供え物の内容は、もとの資料では……


 赤牛の股と首と心臓と蹄。

 また胸より流出せざる血液、四皿。

 護符。

 白パン十六個。

 八個のパセン(もしくはペルセン)。

 八個のシェネン。

 八個のケンフ。

 八個のヘベンヌ。

 八大杯の麦酒。

 大器の穀物。

 白牛の乳汁を盛りたる四の土器。

 新しき野菜。

 新しき橄欖(オリーブ、もしくはそれに似た植物)。

 軟骨。

 眼の顔料。

 ハアテト軟膏。

 火にて焚く香料。


 となっているところを本作では大幅に省略いたしました。

 パセンって何だろう……


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