「牛」
一度目の発酵を無事に終えたパン生地を、手ごろな大きさに切り分けて、パンの形を整える。
門番に供えるシンプルなパンを、通る人一人につき十六個。
「できましたか? では残りの生地で、牛の人形を作りましょう。これが牛肉の代わりになります」
「なるのか!?」
神の言葉に思わずファラオが叫んだ。
「ここは冥界ですからね。このパン生地だって、もとの小麦だって、物質ではなく霊体です。
牛の形にして、牛肉だ牛肉だと念じれば、牛肉の霊体が宿って牛肉の味になるのです」
「それでいいのか!? 本当に!?」
「はい。地上の遺族が供物を用意する場合も、事情があって牛肉が手に入らない場合に限ってですが、心がこもっていればこれで大丈夫です。
ああ、でも、裕福な人がただのケチでこれでごまかしたみたいな場合には、心がこもっていないと見なされてしまいますよ」
ファジュルが作ったパンの牛は、リアルさの中に愛嬌があり、実に見事な出来だった。
ガサクの牛も、不器用ながらもどうにか形になった。
ツタンカーメンの牛は、カバだった。
どこからどう見てもカバにしか見えなかった。
それでもファラオは牛だと言い張り、神の異論すら退けた。
ともあれパン生地は二度目の発酵に入る。
ファジュルがかまどの準備をし、ツタンカーメンはその横で手伝いたそうにウズウズする。
ハタプ神はガサクを連れて、薪を取りに小屋を出た。




