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「一任された」

 ツンツンツンツンツン!

「しゃしゃしゃしゃしゃしゃ!?」


 燃える槍が逃げる大蛇を追いかけ回して突っつき回す。

 ツタンカーメンの周りをぐるぐるぐるぐる走り回る。


「あのー……敵が一任されたってのは、おれにじゃなくて槍にってことなの?」

 つぶやいても誰も答えてくれない。


 背中、脇腹、しっぽの先。

 大蛇はもだえて槍の狙いをかわし続けてきたが……

「しゃアーーーーーーーッ!!」

 ついに穂先が急所を捉えた。

 槍は大蛇の肛門にぶっ刺さった。


「うわあ」

 ツタンカーメンは思わず顔を覆った。

 くねくねとうねっていた大蛇の体が、ピンと一本の棒になる。


  ぽんっ!


 大蛇の口から、豪華そうな服を着た老人が吐き出され、お尻から煙を上げて転げ回った。

 大蛇は、槍は抜けたが、すっかりシュンとなって、すごすごと去っていった。


 槍から火が消えて、ただの木の杖に戻る。

 ツタンカーメンは「うええ」と、すごく嫌そうな顔をしながら、困った汚れのついた杖を手に取った。

 だってこれがないと歩けない。


 一方、老人は、自分が大蛇の胃袋から出られたと気づいて、大蛇が落としていったカツラをかぶり、天に向かって感謝の祈りを捧げた。

 古代エジプトでは裕福な者は、ハゲていなくてもわざわざ髪を剃ってカツラをかぶる。

 老人は裕福かつ天然のハゲであった。


 見える場所にはない太陽を、何度も何度も拝み、称える。

 信心深きその姿は、ヅラ老人といえども美しい。

 頭を下げる度にヅラがずれるのも、古代エジプトにおいては、決して笑うような光景ではない。




 おれさまが助けてやったんだぞ、と、大げさに言うのも上品でないし、そもそもあれは太陽神ラーの力。

 ツタンカーメンは静かな誇りを胸に杖をつき、黙って立ち去ろうとした。


「おーい! つーたん!」

「つーたん! 大丈夫!?」

 ファジュルとガサクが駆け戻ってくる。


「ったく。振り返ったらお前が居ないし、何か変な光が見えるし」

「つーたんが蛇に食べられちゃわなくて本当によかったーっ」

「「ところで」」

 汚れた杖にすがるツタンカーメンを、二人はすごく嫌そうな顔で見た。



「せっかくラー様の加護で助けられたというのに、今度は何じゃい、汚いガキがうじゃうじゃと」

 老人がようやくツタンカーメン達に気づいた。

「ああ、寄るな、寄るな! その臭い杖をわしに近づけるんじゃない!」

 鼻をつまむ。

 ツタンカーメンは老人を助けたことをほんのちょっとだけ後悔した。



「おじいさん、蛇のお腹の中に居たの? 大丈夫なの?」

「お供え物は……持ってないみてーだな」

 ファジュルとガサクが老人を取り囲む。


「わしゃ、ラー様の護符が守ってくだすったおかげでケガ一つないぞよ。しかし持ってきていた供物はぜーんぶ、蛇めの胃液で溶かされてしまったわい」

 その護符も、一部は溶け始めている。

 もう少し出逢うのが遅ければ危ないところだった。

 腰紐につけられていたゆがんだ護符からレリーフがはがれ、同時に腰紐が切れて、老人の腰布がハラリと落ちた。

「イヤーン!」

 老人の下着があらわになる。

 ツタンカーメンは老人を助けたことを割りと本格的に後悔した。


 ……こんなつもりじゃなかったんです……

 ……ただ、限られた武器で戦おうとして……

 ……気がついたらこうなってたんです……

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