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「力ある言葉」

 呆然とするファジュルの手を引き、ガサクが逃げ出す。

 置き去りにされたツタンカーメンが大蛇と向き合う。


 護符はない。

 プタハ神やソカル神もそばに居ない。

 助けを求める()細い声は、大蛇の腹の中から聞こえ続ける。


 大蛇がファラオに踊りかかった。

 ツタンカーメンが大蛇に槍を投げつける。

 ひょろひょろと飛んできた槍を、大蛇は余裕でパクッとくわえてニヤリと笑う。

 その隙にツタンカーメンは、ファジュルが落としていった死者の書に飛びついた。


 バッと広げ、汚れていない部分を探す。

「『冥界において敵に対抗する』の章!」

 挿絵では冥界を旅する死者が、蛇を槍で突いている。

 それはまさに今のツタンカーメンの状況だった。


「われは天を切り裂けり! われは地平をつんざけり! われは果てしない時を、力ある言葉とともにあり!」

 突然の祝詞に大蛇がたじろぐ。

 ファラオは続きを読み上げる。

「われはわが口をもって食い、わが顎をもって食物を砕く! それらの物が、わがために、絶えることなく間違うことなく減らされることなく捧げられ……って、これ、お供え物の話かよ!? 何だよ、天を切り裂くとかって!?」


 大蛇が槍をくわえたまんまブフーと笑う。

 と、同時に槍が光を放った。

 太陽のようにまばゆく、なるほど、地平をつんざくような光である。

 大蛇が目を見開く。

 ツタンカーメンは死者の書の続き、次の祝詞を唱え始めた。


「『冥界において、もろもろの敵に対抗するために現れる』の章! なんじ、自らの腕を喰らいしモノよ! われはなんじに従うことなし! わが敵は全て太陽神ラーの暁光によりて退けられし! われは供物をなせりが故に……って、結局、お供え物かよ!? ……なせりが故に、わが手は冠の主のごとくなり……冠の主って、ファラオだよな!? まんま、おれだよな!?」

 これが古代エジプト人の信仰である。

 かつてはファラオしか行けなかったアアルの野に、それ以外の人間も行けるようにと作られたのが、ファジュル達の死者の書なのだ。


 大蛇がペッと槍を吐き捨てて、改めてツタンカーメンに向けて牙を剥く。

 その鎌首が振り下ろされるより早く、ファラオの唇が祝詞を紡ぐ。

「われはホルス神のごとく立たん! われはプタハ神のごとく座せん! われはトート神のごとく強く、アトゥム神のごとく強く、わが両足をもって歩まん!」

 槍が、まるで透明な誰かの手で掲げられたかのように空中に浮き上がる。


「太陽神ラーにより、敵はわれに一任されたり! 敵はわれよりのがるることなかるべし!」

 太陽のごとく輝く槍が、大蛇に飛びかかった。


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