6話 違和感と完次
ゴブリンとの戦闘を終えた道中で完次はある異変に気が付いた。セラの歩き方が戦闘を行う前よりぎこちない。ケイトもルーネも気づいていない、セラの自身も気づいてないのか隠しているのかわからないが歩き続けている。だが、少し気になる。ほんの少しだけおかしい。
「セラ お前どこか痛くはないか?」
「すまん 完次 痛みとかは うちらよくわからないだ」
「嘘だろ」
「嘘じゃなぜ うちら全員 腕や足を切り落とされても平気で話せるぜ たぶん頭だけになっても平気だと思うぜ」
完次の頭の中に有名なアニメのシーンが出てくる。そのアニメのシーンは、人造人間が頭だけになっても平気で話をしていたシーンだ。おそらくセラ達もそのような行動も可能だろうとすぐに理解をした。
「それでは 怪我をしてもわからないのではないか?」
「怪我??? あぁ 故障の事か 故障なら頭の中で警告音がビィービィーと鳴って教えてくれるよ」
セラは頭を軽くコツコツと叩いていた。人間は痛みという『感覚』で自分自身の異変や異常に気付くが、セラ達は異常が起きた事をパソコンなどと同じで『情報』として知るようだ。だが、ここで一つ推測する。
「今はその警告音鳴っているのか?」
「鳴ってもいない 異常を知らせるようなデータもないぜ」
やはりな。
おそらく、セラ達も人間と同様に異常になる前のサインを見逃す傾向にある。人間もそうだが、大きな病気になる前には何かしら前兆がある。その前兆は些細な問題と捉えてしまう人が多く。病院で診察されるまではわからない。セラ達も同じなのであろう。ネジの緩みを認識できず爆発、システムの些細な異常を感知を出来ず暴走、ロボットアニメあるあるの一つであろう。
そのようなあるあるにならないよう。完次はセラ達の定期的なメンテナスをするとともに今のセラを調べることにした。
「セラ すまない 気になるから ちょっと調べさせてくれ」
「えっ ちょっと・・・」
些細な事だが気になってしまうと、いても立ってもいられない。心配性な完次は常に徹底的に調べる。。一つの問題個所でロボットは動かない時もあるし故障の原因になるので、自分が納得するまでは隅から隅まで調べて原因が解明をし修復をするまでは諦めず調べ続ける。これは、セラ達を作っていた時もそうであった。
スイッチが入ってしまった完次は、これから診察しようにもセラのニッカが邪魔で診察ができなかったで、迷うことなくニッカを捲った。セラの綺麗に焼けている魅惑の小麦色肌が見えたが、スイッチの入った完次には興味を引くものではなかった。露出された引き締まった脹脛を直で触る。人間の肌とほとんど変わらないが、少し押すと骨ではなく金属に当たる感触があった。
・・・外見だけではわからないな もっと中身を診れないか? どこかスイッチみたいなものがあると嬉しいのだが… ・・・
完次はいろいろと触った。脹脛、膝、膝上、太もも、股関節。一通り触ったが何処にもスイッチらしいものがなく、完次と同じ人間らしいモノの作り方をしていた。今度はマッサージをするように調べることにした。
そして、完次がセラの膝裏を触っている時だった。何かのボタンみたいなモノを発見する。発見した時には、いろいろと迷ったが押すことにした。
プシューっと、いかにも何かが開く音ともにセラの脹脛は金属部品や配線などを露出させた。露出された部分は、素人が見たら全くわからないような仕掛けで、配線などがごちゃごちゃとしているが、完次にとっては簡単に見分けが出来、懐かしい気持ちにもなっていた。
・・・ 懐かしいな セラを作っていた時 ここで苦戦したし ここで新しいアイディアが産まれた 今になったらもっとうまくできるなここの箇所とかたくさんあるな… ・・・
懐かしい気持ちと浸っていると、セラがうまく歩けてなかった原因が解明した。
・・・ 溶けてやがる こんな状態でよく歩けてたな 人間なら歩けないぞ ・・・
損傷している箇所は、安定性を増すために使っていたサスペンションだった。人間でいうアキレス腱の役割を果たしていたサスペンションのバネが溶けていたのだ。これでは、衝撃を吸収できずにいる。しかし、『歩く程度なら問題ない』。これで、セラに損傷している情報がなかったのに納得ができた。
しかし、これでは戦闘が起きたら問題だ。戦闘を行う事により悪化、おそらくバランスを失われ歩けなくなるか、最悪場合体中が動かなくなる。
完次は少しほっとした。事前に見つける事ができた事が嬉しかったのだ。そして、この修理は比較的簡単な方でもあるから取り換えれば、セラは元のように歩ける。
一安心をしたが少し問題がある。『直せる』と言ったがそれは工場に戻り道具を使い、ガラクタの山から代わりになる部品を使ってのことだった。ここにはその部品も道具もない。それに、あと少しで目的の鉱山だ。完次の眼にも大きく連なっている山が見えている。あの場所にたどり着けば夢にまた一歩近づける。
セラのために戻るか。
自分の夢を取るか。
その二択を選ぶ権利があるのだ。迷う人は迷う。悩む人悩むだろう。普段の完次なら、二択を選ぶときは悩んで悩んで答えだすタイプである。
しかし、今回は答えは決まっていた。
迷う必要はない。
『セラを直す』ために戻る。
まだ手に入れてない宝もほしいけど、この手で作ったセラをこのまままにすることはできない。苦戦をして、たくさんの思い出を作りながら完成したセラはどんな宝物より大事である。それは、他の娘達も同じであり、ウキもスーもマーニャもルーネもチュームもケイトそれにエイト。皆それぞれに思い出があり全て完次にとっては、かけがえのないものである。
一度前世界で生活をしていた時に、セラ達を見て破格の金額で買い取りたいという人が現れた事があったが、今も昔もそしてこの先も完次はいくら積まれてもセラ達を売る気がなかったのだ。それが、例え巨大ロボットへの道が開けたとしても、それまでに作ったロボットを渡す選択肢は完次の中には存在しない。
どれも特徴があり、完次には自慢の完成作品なのだ。自分が死ぬまで大切に保管する予定であったが、今となっては、目の前で活発に動き回っているし自分より強い。守れるかわからないが、大切な気持ちと守りたいという気持ちは完次の中では変わってはいなかった。
セラを安全地帯に置いて行くという選択肢もあったが、心配性の完次はその選択肢を辞めた。もしも、モンスターに襲われたらなんて考えたら居ても立っても居られない。それに、仲間外れにするみたいでいやでもあった。ここまできたら、この四人で最後まで冒険したかったのである。
だから、帰るという選択肢を取った。後悔するような事も無いのでセラ達に伝えようと、自分の膝をポンと軽く叩きその場立ち上がろうとした時だった。
「完次さん お取込み中失礼します 一応必要になると思いいろいろと持ってきました 使えそうなものありますか」
ケイトは、大きなリュックサックをスッと中の物が壊れないように丁寧に降ろした。完次はその大きなリュックサックを広げると中には、大切に包まれている道具ケースと、たくさんのガラクタの部品が入ってた。
綺麗に包まれていたケースを広げると、自分がよく使っている道具が一式揃っている。どれもがロボット作りに必要なもので、セラを『直す』のに必要な道具でもあった。
そして、もう一つ大きなリュックサックがこちらに移動してくるが目に入った。小さな体のルーネは自分の体の何倍もの大きなリュックサックをゆっくりと屈みながら降ろすと、中からは発電機が出てきた。
発電機、道具一式、そして交換部品。これだけあれば、工場に戻ることなくこの場所で直せることを確信した。
「ケイト ルーネ 本当にありがとう」
だが、ケイトは少しモジモジと何か言いたげな様子で、ルーネは少し怒っているようにも見える。どうしたのかと気になり声かけようとすると、モジモジと言いたそうにしていたケイトが恥ずかしそうに口を開いた。
「完次さん 感謝のお言葉大変うれしく思うのですが ただセラお姉様の格好が・・・」
完次は、無我夢中になっててセラのことを忘れていた。ここでロボット作りのスイッチをオフにした。そして、恐る恐るセラの方へと視線を動かすと、セラがM字開脚して座り込み、顔を真っ赤に瞳をウルウルとしているのが視界に入った。
「すまない 夢中になってしまって・・・それに・・・」
頭の中は真っ白になってた。なんと言えばいい。いきなり女性の脚部を触り始め、さらには服を捲り股関節までじっくりと触っている。完次もその時の感触は覚えている、引き締まっているが柔らかく気持ちよい感触が残っている。
傍から見れば完次がとった行動は、ただの変態だった。いや、変質者だった。
これから、セラに思い切り顔面を殴られてもおかしくない。いやむしろ、殴ってもらったほうが罪が晴れるかもしれない。しかし、ゴブリンを一撃で倒した拳・・・あれを画面に受けて無事に生還できるのかと、考えている時だった。
「いいよ 平気だから」
セラが寛大な心の持ち主でよかったと思う完治であった。そしてこれで、セラに伝えたいことが伝えられる。
「 本当にごめん これから気を付けるようにする それと・・・問題個所わかったから 治すから 違和感を感じたら教えて あと楽な体勢でいいからね」
完次に言われセラは、エム字開脚の状態から足を伸ばした。
完次は、ケイトが持ってきてくれた道具箱からT型レンチ、スパナ、ペンチを取り出す。
深く深呼吸をし、集中する。周りの景色や音などを遮断し、完次に見えるのはセラの損傷してある箇所のみを見つめている。一つのミスで大きなミスに繋がることが多いので、配線などを切らないよう正確且つ慎重な動きが必要。それに場所が、モンスターが出現する森できるだけ素早くやらないといけない状況でもあった。本当ならこんな場所で修理はしたくないが、セラをこのまままにすることはできなかったので、仕方なくここですることにした。
損傷したサスペンションにあるバネ、まずここを取り出す。慎重にT型レンチでボルト回し外し、溶けたばねを取り外し、そこに新しいバネを入れる。本当はオイルも交換したいところだが、時間がかかる事とサスペンションのボルトを外している時に配線にも損傷があることに気が付いた。これにより、オイル交換よりも配線の修復にすることを瞬時に判断をした。
完全に切れているところがあるそこは新しい電線を、損傷が激しくないところは応急処置としてビニールテープを巻いた。その動きは、素人からしたら職人のように見え同じ職人から感心するような動きであった。
しばらくして、完次は軽く息を吐いた。残りは安全な場所でやろう。最初の判断が正しかった。少しセラは重症であった。まだまだ修復をしないといけない箇所がある。それらを、この危険な森で修復やる自信と速さは今の完次にはない。残りは、この先で安全な場所を見つけてやることにした。
「セラ少し歩いてくれ」
セラに話しかけたのに反応がない。まさか、失敗としたのか心配になり、先ほどよりも大きな声でセラに声をかける。
「セラ まさか動けない?」
セラは気付いたのか完次の方を見た後、顔をブルブルと横に振り頬っぺたを数度叩いていた。
「あぁ悪い 悪い 少しぼーっとしてただけだから」
セラはスッと立ち上がり歩いた。完次の厳しい目から見ても普段通りに歩けている。完次は、心の中で少しガッツポーズをした。短時間でここまで出来は自分でも評価したい所だが、まだ完全には治っていない。油断はできない。残りは安全な場所が確保できた時、その時が来るまでにセラを修理する箇所の順番を頭の中で考えていくことにした。
「 セラ 完璧に『治した』訳ではないから戦闘は駄目だ ケイトとルーネ もし戦闘になりそうならセラを担いで逃げれるか? 」
「はい 可能です。私が完次さんを担ぎ ルーネちゃんがセラを担ぎます これで戦闘から逃げれますのでご安心を 」
「可能」
ケイトの回答に、自分を担ぐ所に多少疑問になったが、全員で逃げれるようになら良しとした。
完次はセラがここまで運んでくれた荷物を持ち出立をしようと思ったが、結構重くよろけてしまった。少々恥ずかしい気持ちにもなったが気分が良かった。
「それじゃ行くか」
力が入った声になっていたかもしれない。普段なら恥ずかしいし人より前を歩くことなんてしないが、今はそれでも良いと思っている。これまで自分が何も役に立っていない罪悪感があった。
自分が無力だから気にしても仕方ないと思いつつも、罪悪感に押し潰されそうになる事がる。だからこそ、自分にしかできない事を見つけると嬉しいものだ。
自分にしかできない事が見つかり罪悪感というプレッシャーから解放された完次は、こちらの世界でも生きていける…かも、と思うようになったのだ。そして気分が良い完次は、他の三人よりも早く歩き始めていた。
「セラお姉様 羨ましい あんなかっこいい状態の完次さんを近くで見れるなんて 羨ましい限りです」
ケイトは嫉妬を隠せない眼差しでセラの事をギロッとみている。
「あぁ かっこいい いや超カッコイイ 見たか? あの真剣な眼差し あんな真剣な目で仕事してるところを見て惚れない女はいないよな くうううううううう どうやったらあんあかっこよくできるんだ」
そんなケイトの視線を知らないセラは、完次が自分にしてくれた事を振り返って頭の中がお花畑になっていて周りが見ていない。時折足をバタバタとさせ、恋する高校女子みたく愛らしい少女のようであった。
「早く 行くよ」
頭の中がお花畑セラとそのセラを睨んでいるケイト、彼女らを注意するルーネは少し呆れている。完次に遅れないように、先程まで使っていた発電機をリュックサックに入れ、一足先に完次の後追う。
だが、もしセラの立場だったらと妄想するルーネ。顔はすぐに赤くなり誰にも気づかれないようにフードを限界まで引き延ばし顔を隠したが、口元が緩んでいる。