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2話 井戸とウキ

ウキが飛びついたことによってバケツいっぱいに入ってた水が半分以上こぼれているのに気が付いた。


 「あっ」

 

自分の腰からスルスルと『ウキ』が降りていくのがわかった。


『ウキ』はこぼしてしまった水が地面に吸い込まれていくのをジーッと眺めている。珍しいものを見ているのかそれとも面白いのか完次にはわからないが、『ウキ』の眼は真ん丸と大きく見開いている。だが、完次の眼にはロボットではなく一人の少女にしか見えない。

 

初めてこの工場で作った二足型ロボットそれが『ウキ』。決して飛びついたり、私を強引に起こしにきたりきたりすることができない。そんな機能なんてつけた記憶もないし、そんな技術も持っていない。それに、俺が作ったロボットはこんなに可愛らしい少女の姿をしていない。四角の体に四角の顔、そして四角の足。どの角度から見ても人間には見えない代物になっていた。


誰よりも『ウキ』を見ていた。そして誰よりも『ウキ』を知っている。・・・はずだった。


「すいません」


「いえいえ、大丈夫ですよ。水はまた汲むことができるので・・・それよりお嬢ちゃんは濡れなかったかな?」

「うん ウキは平気だよ それより見て 水がね・・・こうジュワ―って広がってね なくなったの 少しずつなくなったの 」


少女ウキは手を広げてるジェスチャーを老婦人に見せていた。本当に子供みたいだ。何度も見ても自分が作ったロボットとは思えない。


「あらら そうかいそうかい 不思議だね ウキちゃんは不思議さんを見つけるの得意だね」

「ウキね 初めて見たの 楽しかった」


少女ウキは、自分がした過ちを理解していない。この老婦人が大切に運んでいた水をこぼした事に対して「ごめんなさい」と言えと注意しようとした時、少女ウキの眩しい笑顔が飛び込んできた。


異世界に来た事、自分が作ったロボットが動いている事で混乱していたのにそれらすべてが忘れ癒された。


不思議と口元を緩みかけた。


「すいません 湖まで水を汲んできますので場所を教えてくれませんか?」


冷静になると自分にも非があることに気が付く。『ウキ』だけの責任ではない、自分にも責任がある。しっかりと持っていれば、半分もの水がなくなることがなかっただろう。


≪これは返せる過ちだ≫


「いいのよ 湖は少し遠いですし まだ家には残ってるから 大丈夫ですよ」

「それは申し訳ない。また、水を汲みに行くようでしたら私に声をかけてください。私に手伝わせてください」

「それは、助かるわ ありがとう」


老婦人は笑顔をくれた。ほっと一安心だった。心の優しい人でよかった。この小さな村で、悪さなんてしたらすぐに広まるだろう。いきなり来たよそ者が老婦人に迷惑をかけたなんて噂がすぐに村中に広がっていくだろう。変な噂が回らなくて。


「毎回湖まで水を汲みに行ってたんですか?」

「そうよ 最初は大変だったけど60年近く湖に通っていたからもう慣れてしまったわ 」


完次がいた世界なら簡単に水が飲める。蛇口をひねるだけで水がでてくる。だがこっちの世界では水場まで行きバケツいっぱいにいれ何往復もする事を聞いた。こっちの世界では水を手に入れるのにも苦労する・・・前いた世界がどれだけ住みやすい世界だったかを思う・・・


「お水がほしいの?」


袖をちょんちょんと引っ張られたので、視界を腰のあたりに移すと少女ウキが見上げてキラキラとした瞳をこちらに向けている。


「そうだなー 近くにあればほしいかも・・」

「だったら だったらね あそこにお水がたくさんあるよ」


袖が切れるのではないかと思うほど、グイグイと引っ張られた後、ウキは少し離れた村の広場らしき場所の真ん中を指さしている。


いくら住みやすい世界で生きていた完次でも水が出るには様々の道具や機械が必要なことを知っている。もちろん完次の工場には地面を掘る物なんて置いてはいない。それに何も調べてもいないのに水脈があるなんて言う言葉が信用できない。それに子供の言葉だ。さらに信用できない。


「何を言ってるだ 嘘はいけないぞ」

「出るもん 本当に出るもん ウキちゃんにはわかるもん あそこの下にいっぱいいーーーっぱい 水があるもん 本当だもん」


これだから子供は少し苦手だ。子供というか確証のない自信を持つ人が嫌いなのだ。完次はできるだけ安全な方向に考える。〔石橋を叩いて渡る〕をモットーに生きてきた。だからこそ、安全にのんびり暮らせていたのだ。


人の迷惑になることなりそうなことから極力避けて通る。これまでは、そうだったのに・・・なのに、少女ウキが・・・・頼むからこれ以上騒がないでくれ 人が注目する そしてこれ以上迷惑をかけないでくれ…異国の地だから…尚更、穏便に過ごしたいんだ。頼むよ・・・頼むからその確証もないことを言わないでくれ

 

「だめだ。そんなことは信じられない。 第一出るなんて確証なんてどこにもない」


少し怒鳴ってしまった。子供に相手に怒鳴る。あんまり、よろしくない事だ。でも、そう思っても…遅過ぎたのだ。


ウキを見ると瞳に涙がたまっているのが分かる。もうすぐで、あの涙が瞳から離れて頬を伝って地面に落ちるだろう。


苦手だからと言ってムキになるなんて情けない大人だ。でも、少女ウキの言葉を信じあの場所を掘ってみて水が出なかった事を考えると、きっと村人の人達は俺の事を変な人と思うだろう。高専を卒業した時からこれまで、自分の責任は自分ですべて取ってきたつもりだ。だから自分がミスしたのなら何事もなく自分で責任を取るつもりだ。だが、他人の責任を自分が取るのは今までなかったし・・・苦手だ。


だから、ここ少女ウキを信じない。一度工場に帰ってこの老婦人のご自宅を訪ねて、子供の戯言でしたと言ってごまかそう。さっきの戯言を聞いてるのもこの人だけだしうまく誤魔化せば・・・この手でいこう。


「あ あの・・・・・」

「なら 掘ってみようぜ!!」

完次が声かけると同時に、完次より大きく勇ましい声が聞こえた。 

 

振り向いたら声の主は工場で見た短髪の男らしい娘セラだ。他の娘たちもいる。何しに来た。それにさっき何て言った?掘ってみようぜ?何を言っているだ。


第一どうやって掘るつもりだ。地面を掘り返すための道具や機械などは何処にもない。スコップ等があったとしても硬い岩盤に当たったらお終いだ。


セラや他の娘達が移動したから工場の前にいた村人も移動している。そして、大きな声を出したからこちらに注目の元になってしまった。


これはまずい。なるべく早くこの場をまとめて工場に帰って。少女等を工場から出ないようにしないと、こいつらのせいでめんどくさいことになってきた。早く早くしないと・・・


「あのなー こいつが言ってることがでたらめかもしれないだぞ。しかもどうやって掘るつもりだ。」


完次はまたしても怒鳴ってしまった。しかし、今度の相手は泣き目にもならず、完次の方をじっと胸を張っている。その目は真っすぐと何かを見ている。何を。くっそムカついてくる。その目知っているだよ。何を見ているのかもね。


あぁムカつく。ムカつく。どうしてこうも苛立ってくるのか。自分が平穏に暮らしたいから…それもある。人に迷惑をかけたから…それもある。だが、違う。どれも違う。


自分ができない事をしようとしているのが苛立つ・・・いや、羨ましいからだ。自分にできないことをしようとするその心が羨ましい。自分ができないことを平然と出来るの才能が羨ましい。だから、当たってしまったのだ。自分が才能がない・・・いや弱い人間だからだ。



完次も若い時はリスクを考えずに行動を起こしていた。だが、失敗。失敗。失敗。の連続であった。その失敗の連続が完次にとって大きな失敗恐怖よりも大きなものになっていて、自然に失敗を恐れるような考え方になっていた。


そう今のセラの眼は、昔の挑戦的な自分にそっくりなのだ。何事挑戦していく姿。自分にはないものが多いから挑戦して自分のものにしよう努力していた自分と同じ。そして、ウキの眼も幼き自分に似ている。幼い頃に根拠がない自信を持つ人が多くいるだろう。〔アスレチックの高い場所から飛び降りても平気だ〕この時は、周にいる大人達は危険だからやめなさいとか言うが、自分には飛べる自信しかないのだ。これは子供の時にしかわからないだろう。大人の言葉に耳を貸さず、いざ飛んでみると膝を擦りむいたりして怪我をするが、飛べたことには変わりない。その後、祖父母に怒られたところまで覚えている。


あの時は、どうして信じてくれないだろうとか、ああいう大人にはなりたくないって思っていたけど今の自分がああいう大人になってしまってるな。昔の自分にあったら怒られなきっと…



「ウキ 嘘ついてないもん あそこには水があるもん」


少女『ウキ』はポロポロと涙をこぼしていたが、一生懸命に歯を食いしばってこれ以上泣かないようにしている。子供の泣き顔はずるい。こんな顔をされると自分が悪くないと思っていても悪いのではと考えさせるからだ。


「・・・ わかった やろう」


言ってしまったという後悔が一番最初に襲った。でも、その後悔は一瞬で消えた。この後どうすればいいのかを考えている。パイプにそこらへんにある鉄板を溶接してスコップみたいなものを作るとか、先ほどまで考えつかなかったことが頭の中に広がってくる。


「 やるってきめたなら 私に任せな それに完次 例え水が出なくても 私が責任を取るから 安心してな 」


男の子っぽい『セラ』が胸をはりドンっと胸を叩いていた。責任を取る・・・かっこいいじゃん。なんだよ。こいつ、俺よりも男らしい。なんでそんな簡単に責任を取るとか言えるだよ。


男らしい『セラ』に本当に女性なのか疑問に思うが、少し視線を顔から下の方にやると女性だと思うものが見える。サラシを巻いているのに隠しきれてはいない大きさの胸をセラは持っている。言動と行動力は男勝りだが、細身の体、くびれ、そしてサラシを巻いていてもわかる大きい胸。小麦色の肌をしているからなのか全体的に引き締まって見えるが、曲線てきなラインをしている。どこからどう見ても女性の体形だ。


しかし、どうやって掘るつもりなんだ?


工場に戻ってスコップでも作るのか・・・・!?

 

その答えがすぐわかった。


セラの細くて引き締まった綺麗な腕が


ドリルになった


「えっ」


ドリルになった手を見て最初に思ったことは意外にもカッコイイだった。どうして変形できたのかではんく。幼い頃に見ていたロボットアニメに出てくるワンシーンを見ているようだった。理屈なんてどうでもいいただ単純にかっこいいのだ。


そして、このワンシーンを見た後、疑問から確信に変わった。なぜ目覚めた時、見知らぬ少女が8人いたのか、


やっと確信した この娘達は俺が作ったロボットだ。


理屈・・・なんてどうでもいいか・・現に起きている事を説明しろなんて言われも無理だし 異世界にどうやってこれたなんかもわからないのに説明なんてできない。だが、この娘達は俺が作ったロボットというのが直観でわかった。


最初はゆくっりと回転していたドリルも気付けば高速回転しているド。セラはその回転するドリルを地面に突き刺すと、どんどん地下へ 地下へと進んでいきあっという間にセラの姿が穴の中に消えて見えなくなっていく。


しばらくすると、セラが土を掘り進める音がなくなり 


暗闇の穴の中から 


「おーい ロープ持ってきてくれー」


セラ暗い暗い穴の底からから元気よく叫んできた。


いつの間にか多くの村人が集まっていた。多くの人がセラが掘っていった穴を見つめ、完次達を疑うような目で見つめている。


完次は肩を誰かに叩かれて後ろを振り向くと、メイド服の娘『ケイト』が長いロープを持っていた。

メイド服の娘『ケイト』に感謝を伝え後、その後に長いロープを穴の中に落とし、頼むぞ  頼むから水よ あってくれ 何度も心の中で祈り 暗い穴の中にいるセラに問いかけた


「セラ 水はあったのか?」

 

心臓がバクバクとなっているのが自分でもわかるほど高鳴っている。

もしかしたら、情けなく声も震えていたのかもしれない。

 

暗い穴からセラが出てくると


「ウキが嘘つくわけないだろ これからは信じてあげてもいいじゃないかな 」

 

セラの顔や体に泥がたくさん付いている。そして、ニッカポッカが濡れているのに気が付く。


ロープの先端にバケツを結び、再びに暗い穴に落とし、持ち上げると


 水が入っていた。


 村人は「おおー」と歓喜と拍手に沸いた


 完次は胸をなでおろした。そして、自分の非をしっかりと認めた。


「ごめんな ウキちゃん」


ウキは怒ることもなく再び満面の笑みを浮かべくれた。



 

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