1話 村と魔法
眩しい日差しと共に知らない村が視界に入る。見慣れたコンクリート造りの家が一軒もなく逆に木造建築の家が多く見えている。完次が通っていた高専が山の中にあり、その近くの景色にどこなとなく似ている。高専には少し嫌な思い出があるが、場所は好きであった。ゆっくりと時間が流れるような感覚と気持ちよい風が吹く場所。少し懐かしく思えた。
完次が懐かしい気持ちに浸っていると、ここの村人であろう人物が口をポカーンっと開いて完次の工場を見ている。外人ような顔つきで、あまり言いたくないがスラム街にいるような貧しい恰好をしている。
工場がそんなに珍しいものなのかと思う。だが、村人がぞろぞろと集まってくる。全ての人が物珍しそう目をして集まってくる。あっという間に完次の工場の周りには人だかりができてしまった。
パッと見た感じだと中年の男女から高齢者が多く子供が少ないように見える。完次より少し上の30、40代の村人が多いように感じられた。
そこに、完次の工場には目をやらず一人の高齢者が重たそうに水いっぱいのバケツを運んでいるのが視界に入った。
完次は、工場の前に集まっている人達をかき分け、高齢者の元に駆け寄りバケツを持ってあげた。考えるよりも早く体が動いてしまう。
完次は、幼い時から祖父母に育っててもらっていた。両親は自分を産んですぐに事故で他界したことを大きく小学生を卒業した時に祖父母に教えてもらった。完次は初めての授業参観の時になんとなくだが気が付いていた。自分には父親と母親がいないことを。母親と父親がいないことをいいことにクラスメイトに少しいじられたことがあったが、完次は別に気にしてはいなかった。幼い完次でもわかるほど十分すぎる愛情を祖父母からもらっていたからだ。だから気にすることはなく。むしろ、祖父母こそが自分両親だと思っている。
そんな祖父母を高専卒業近くに老衰で亡くした。卒業式の日祖父を亡くし、その後を追うように数日後に祖母も亡くした。
卒業したら今までできなかった分たくさん楽な生活送ってもらおうと思っていたが、恩返しできず祖父母を亡くなってからは物凄く後悔した。そして、この先どうすればいいのかも悩んでいた。
だけど、残されていた遺書を見てみると「少しだけどお金を残してあります。好きなように使ってください。」と書かれていた。何に使おうか悩んだけど、自分の夢を全力で応援してくれた祖父母。だから、自分の夢に使えば祖父母も喜ぶと思い、自分の夢であるロボット製作工場の資金にあてさせてもらった。
自分が成長していく共に祖父母の体は衰えていくのだ。祖父母は全然平気と言っていたが、無理をしているのはわかっていたが、中学生になった時には買い物や荷物持ち家の手入れなども手伝っていた。
だから、高齢者の方が困っているのを見ると反射的に手伝ってしまうのだ。
完次はご老人が持っているバケツを手に取つとご老人は驚いた顔をした。
「家まで運びます」
「それはそれは ありがとうございます」
ご老人は頭を下げた後ニコッと笑ってくれた。その笑顔はどことなく祖母に似ていて少し先ほどまで落ち着かない気持ちだったが少し落ち着きを取り戻してきた。
「湖から運ぶのは大変だったので、本当に助かります。」
「いえいえ、失礼ですが水道水はどうしたのですか? もし壊れたのなら直せますが・・・」
「スイドウスイ? そういったものはこの村にはありませんが。」
なんか片言だけど・・・・水道が繋がっていないのかな。今だったらほとんど町や村にも水道は通っているのに、ここは通ってないのか。だったら近くに井戸がありそうだけど。
完次は辺りを見渡しても井戸らしいものがなかった。
井戸もないとかどんな田舎だよ。いやむしろ田舎の方があるのではないか?といろいろと思ったがこの老婦人に聞いたほうがいいと思った。
「そうですか。あと、ここは何処ですか?」
「ここは、アサゲ村ですよ 貴方は・・・その・・・冒険者さんではないのですか」
冒険者?何を言ってるのだ?ゲームか何かが?それにアサゲ村ってなんだ。朝下?朝毛?どんな風に書くだ?
「アアア アサゲ村? すいません。 何県ですか?」
「ナニケン? すいません。わかりません。 でも、ここはササンドラ王国の領土 アサゲ村ですよ。」
ここは、外国か?でも、日本語が通じてるし海外ではないよな。いけない。また混乱してきたぞ。それに老婦人さっき【冒険者】とか言ってたけど…ゲームでしか聞いてことないけど…それとも最近アニメで見たけど 異世界に飛ばされたとか…まさか… まさかね
「水を運ぶ時に魔法でも使えたら楽ですよねー アハハハ」
完次は冗談ぽく言った。まじめに話したら馬鹿にされるか 笑われるにきまっている。冗談なんて普段に言わないからうまく言えらか自信はない…できた気がする。
「そうですね できたらいいですね」
よかった。これで魔法でも使いますかなんて言われたら 大変だったわ。第一異世界に飛ばされるなんて考えるのがおかしいだよ。アニメの見過ぎだよな。
変な考え方をしたと思い、冷静に考えるために一つ深呼吸をしようとした時だった。
「私は魔法を使えないですが あの娘は少し魔法を使えますよ 」
老婦人は木に実った果物を採っている村人を指をさしていた。少々失礼だがボケたのかと思った。魔法がこの世にあるはずがない。これが常識だった。むしろ私は魔法を使えると言ったら冷たい目で見られることの方が多い。だけど、その常識がたった今なくなった。
完次の視界に飛び込んできたものは、1m程空を飛びながら果物を採っていた少女の姿。
完次は目を疑った。
何度も目をこすってみるが、飛び込んでくるものは変わらなかった。
人が空を飛んでいる。間違いなく飛んでいる。ワイヤーとか吊るされていることもなく。少女は空を縦横無尽に飛びながら果物を採っている。
「魔法を使えるなんて羨ましいですよね。 アサゲ村は、魔法を使える人少ないけどね 王国に行くと多くの人が魔法が使えるですよ いいですよね」
老婦人の話は完次の耳には届かなかった。いつの間にか自分も工場前にいた村人と同じ顔をしていた。驚き。いや、何が起きているのか分からないのだ。
自分が名付けたロボットが動くは、魔法が使える人がいる 頭の中が爆発しそうになっている。
一つ一つ整理しようと努力するがダメだ。目の前の現実が受け止めれない。
ドンッ
急に体が重く感じる。腰のあたりに錘を付けられた気分だ。腰に視界を移すと起きた時に体の上に乗っていた少女・・・いや・・・ロボット 『ウキ』の姿がある。
「パパ どこに行くの?ウキちゃんを置いていかないでよ」
パパ? いつから俺は子持ちになった…
混乱する完次だが一つわかったことがある。
ここは今までの世界ではない事だけは理解をした。