14話 魔法VSロボット 終戦 1
完次はエイト達にお願いをした後、急いで工場に向かう。逃げたのではなく自分が唯一できる事…エイト達が怪我をして戻って来てもいいように工具や部品などの準備する為だった。
昨日まで純白の鉱石の研究をしていた工場内は入口から完次の作業場まで綺麗に掃除されているが、作業場に到着すると机の上も床も物で溢れかえている。此処だけは散らかっているが、完次にはどこに何があるのか手に取るようにわかっている。
机の端置いてある道具、箱を取り紙くずやたくさんの本に埋もれている工具などを瞬時取り出し、ガラクタの山から必要になりそうな物をいくつかと持って行く。
そして、鉱山に冒険にしに行った時と同じリュクサックに部品や工具等を全て押し込み玄関に向かうとケイトが下向いて立っていた。
その姿を見た時、悲嘆しているケイトが発言する悲しい言葉を予測できていた。
「 … すいません 誰一人 救えませんでした 」
当然だろう。
あんな無茶なお願いが叶ったら奇跡だ。地獄と言っても過言ではない炎の海。そんな中で真っ黒になっていく人々の命を救えなんて無茶な話であった。
「無理なお願いをしてすまなかった… って…っ…」
「誠に申し訳ございません」
しかし、完次の反省の意を伝えるよりも先にケイトは完次に対して深々と頭を下げていた。なぜそこまで謝る。謝罪する必要性がないほど精一杯努力した事は一目瞭然だ。
ケイトのメイド服は血と泥でぎっしりと染まり袖は無くなり裾は普段見えてないお臍までも今なら見えるほどまで破かれ、ロングスカートもびりびりに破き下着だけが見えないような極ミニスカートになっている。
また、ケイトの綺麗な手は爪の間にも血がびっしりと付いている。この姿を見て何をやっているのだと恫喝する者はいないだろう。
こんなケイトになんて言葉をかけるべきなのか、コミュニケーション能力が欠けている完次にはわからない。
「頑張った」と伝えてもいいものなのか、何もやって野郎に「頑張った」などと声かけられたら嫌いな人もいる。しかし、努力した人に労いの言葉をかけるのは普通だ。しかし、労いの言葉は本来目上の人がかける言葉…そんな言葉をかけていいものなのか…と頭の中は混乱し答えを導き出せずにいる。
そんな完次は言葉をかける事を辞め行動を取る事にする。
落ち込んでいる時自分がされて嬉しかったことを思い出していくがここ数年間は何もない。さらに遡っていくと完次が幼い頃までたどり着いていた。
・・・ そういえば俺が失敗して泣いていた時 祖母が頭を撫でててくれたな あの時は本当に安心した… これだ これしかない ・・・
意識して女性に触れる事が初めてな完次は、震えながらもケイトの頭を軽く撫でる。
いつも綺麗でサラサラと靡いていたケイトの髪は血がついてたのだろう髪がパサついている。そして、いつも香水なのかわからないがいい匂いがしていたケイトだが、今は付着している血液で鉄のような匂いがしている。
ぎこちない完次の手は何度も何度もケイトの頭を撫でる…立場は変わっているが懐かしく最高の思い出が優しい匂いと共に思い出す。実際こうやって祖母は何度も何度も撫でてくれていた。
幼き頃泣き虫だった完次は毎日泣いていた。泣く度に泣き止むで撫でてく落ち着きを取り戻すと毎度「もぅ大丈夫よね」と言い撫でる事を止めると、数度頭をポンポンと優しく頭を叩き後祖母は聖母のような笑みを浮かべてくれていた。完次はこの笑みに何度も救われていた。
どんな嫌な事であってもこの笑みを見たりすれば平気だった。だから自分もそんな笑みを浮かべる事が出来るのといいのだが…
ケイトが頭をあげると同時に完次なり聖母のように笑みを浮かべようとしたが、ウルウルとした瞳で完次をじっと見ているケイトと、目線が合うと今まで経験したことない感情に襲われた。
…トクン…
これが恋という感情でケイトが初恋の相手だとしたら、その初恋は一瞬で覚める…容姿は妖艶の美女。性別も女性。若く家事全般が全てが一級品。そして、男性心を確実掴む仕草。最高の女性であるのだが、目の前にいるのは自作ロボットだ。
・・・ こんな目でみられたら普通の男は瞬殺だよな だが、この娘はロボットだ この娘はロボットだ。 ・・・
何度も言い聞かせてギリギリのところで完次の初恋は訪れずに済んだのだ。だが、ケイトの正体を知らなかったら完次は恋に落ちていたのかもしれない。
ドスン
甘い空気から打って変わって工場の外から物騒な音が聞こえた。何か異変が起きたのか思い完次は急いでリュクサックを持ち外に出る。
工場から出ると広場だった場所に村人達の遺体が綺麗に並べられ手向けがされている。だが、炎が徐々に村を飲み込んでいき民家のほとんどが炎に包まれていた。
あの炎の中でもエイト達が奮闘していると思うと、完次も再び奮起し工場内に戻ろうとすると姫様の服装をしているマーニャがいる。だが、マーニャはまるでデートに遅刻した彼氏を怒って待っている彼女のように、私は怒っているアピールをしながら完次を鷹のように鋭く睨んでいる。
ドスンドスンと音を立てながらマーニャは完次の元に寄っていく。
「―――」
「ん? なんて言ったんだ?」
マーニャがモゾモゾ言っていて完次に聞き取れなかったが、顔が真っ赤で憤怒している事だけがわかっている。だが、何に対して怒っているのか完次にはわからないが、嫌われている事だけは理解をした
・・・ これはマーニャには完全に嫌われてるな 極力話しかけないようにしよう ・・・
完次はマーニャの冷たい視線を避けるように視線を逸らすと、逆側にセラも待っていた事に気が付く。
「マーニャ 勝負は引き分けだぞ 」
「… わかったわ ×××」
マーニャはぶつぶつと小言言いながらセラの方に歩いていく。その姿を見て怪我がなく帰って来てくれた事は嬉しく思うのと同時に、魔法にも勝てたセラとマーニャを誇りに思っていた。
後は、エイト、ウキとスーの子供達を探しに行っている組と笛の主を探しているルーネも無事に帰ってくる事を信じるのみだが、一番の心配の種であった魔法使いとの闘いに二人が無事に帰ってきてくれて完次の心には少しゆとりが出来ていた。
ルーネは異世界のモンスターを倒せるほど強い、モンスターと戦い魔法使い達にも勝っていたセラが無傷で帰ってきたのだそのうち帰ってくるだろう。そして、エイト達も他のメンバーに比べて比較的に安全な物をお願いしたからそろそろ子供たちを連れてそろそろ帰ってくるだろうと思っていた。
しかし・・・
「あなたが完次?」
突然可愛らしい声で声をかけられた。今まで一度も聞いたことがなく、エイト達ではない事はすぐさま理解する。それに、可愛らしい声をしているのに完次には不気味に感じ取れた。
その声の主を探そうと辺りを見渡してもどこにもいない。
辺り見渡していた完次は、セラとマーニャが上空を睨んでいる事にふっと気が付く。セラは歯を食いしばって何かに耐えているようだが表情に出ていて、そのまま何かに豹変するのではないかと思うほど怒り狂った顔をしている。
そして、マーニャも先ほどの怒った顔が可愛らしく見えるほ恐ろしい顔をしながら空を睨んでいる。
完次も恐る恐る見上げると、自然に眉間に皴が寄り歯を食いしばった。
完次の視界に入ったモノ、それは箒に乗り黒と黄色の縞々でできている派手なジャケットにミニスカート、表生地が黒色で裏は黄色のマント、頭にも黒と黄色で出来ているシルクハットをかぶった女性がいる。
そして、箒の先端には服は土やオイルなどで汚れ、腕や足は曲がってはいけない方向に向き全く動かないルーネが空中でフワフワと飛んでいた。
まるで浮遊マジックのようにルーネは吊るされていたが、その女がポイっとゴミ箱にゴミを投げるような仕草をすると、浮遊していたルーネが完次に向かって落ちていく。
落ち来るルーネを完次は受け止めた成功すると、誰がどう見ても重症だと理解するほどルーネが弱っていた。
支柱諸共に両腕両足は折られ逆向きとなっていてオイルも漏れている、折れた個所からは骨はないが中の支柱や配線がむき出しになっていてバチバチと火花が発生し、いつオイルに引火するかわからないくらい重症であった。
完次はふつふつと湧き出る感情を抑え切れなくなっていた。ここまでする必要性があったのかといろいろ質問攻めにしたい…上空を飛んでいる女をセラ達と同じ目で完次も自然ににらんでいた。
「そんな怒らないの 自己紹介してあげるから ゴッホン 私はササンドラ王国 魔法軍総隊長 プレメンセンス=ハロウィン よろしくね」
完次にシルクハットを脱ぎ丁寧に頭を下げたが、込み上げてくる感情は消えはしない…むしろ強まっている。
底知れぬ苛立ちの中でも自分が手を出せば一瞬で殺害されてしまうと理解できるほど、あの女から殺気というか悍ましい気が感じ取れている。
「そのお嬢ちゃんね なかなか頑張ってたわよ まぁ結局私には勝てなかったけどね 最後はあなたの名前を何度も…何度も…呼んでたわよ 完次…ニゲテ…ニゲテ… ここまで頑張ってたお嬢ちゃんが最期に呼んでいる男だからきっと強いだろうなぁって期待したんだけど… 魔力もなしも能力者でもない… 服装も下品で顔立ちも下品 この男のどこがいいのかしら」
ハロウィンは肩をすくめ深いため息を一つ吐いている。どうやらハロウィンという女性の期待を裏切ったようだ。
自分を馬鹿にされることはいいのだが、自分が努力し知恵を絞った作品を馬鹿にされることは許せなかった。それに、あの似てもいないルーネのモノマネはこちらを完全に馬鹿にしている。
「お前…」
怒りの頂点を超えた完次の怒鳴り声と被る形で怒鳴っている人物がいる。
「てめぇ 大切な家族を傷つけられて頭に来ているのに 憧れている人も馬鹿にするとか… 死にてぇのか」
セラだった。
セラはもぅすでに体中が赤くなり戦闘態勢に入っていた。しかし、ゴブリンと戦った時は違い蒸気がプシュープシューとセラの関節から大量に噴き出していて、あの時数倍の力を出していた。
「あら 貴方のような雑魚に貴方よりも数倍も可愛くて数段強いハロウィンちゃんが負けるとでも? 」
その言葉聞いた瞬間完次は背筋凍りつくほどの殺気を感じ取る。その殺気はハロウィンからではなく、下っ端のヤンキーのようにポケットに手を突っ込みがら上空にいるハロウィンが睨んでいるセラからだった。
「セラ御姉ちゃん…加勢しますわ」
「おぅ マーニャ全力で行くぞ」
「当然ですわ 私も完次様を馬鹿にされて冷静にいられるように作られてはないですわ」
「だな 私が前に出るから マーニャはサポートを頼む」
一呼吸を置き二人は同時に実行した。
【Change Excavation mode】
【change Painting mode】
完次は目の前で自分が造り出したロボットが変身したのだ。もちろん完次はそのような機能は付けていない事を知っている。だが、驚きはせずただただ少年が羨望の眼差しでヒーローを見るような眼でセラ達を見ていた。
セラとマーニャは魔法使いと戦った時と同様に騎士と色鮮やかなドレスを着用した姫様に変身したのだ。
「イイ…無茶苦茶カッコイイ 」
ロボットの変身はいつ見てもカッコいい。一瞬の出来事だったから詳細は良く見えなかったが、それは後でゆっくりと拝見しようと思っている完次は、セラとマーニャが変身した姿を見て負傷しているルーネの存在を忘れてしまったほど愉悦していてた。
「だろ。 おまけに かなり強くなったぜ これであの野郎をぶっ飛ばしてくるから待ってろよ」
・・・ 勝てる ・・・
完次はこの状態のセラとマーニャなら勝てると直感した。セラとマーニャから漲るエネルギーを感じ取った完次は、ハロウィンをセラ達に任せる事にして急いでルーネの治療の為、セラ達の邪魔にならないように工場に戻ることにした。
「セラ マーニャ この魔法使いを倒してくれ」
「おぅ」
「了解ですわ」
二人は完次の言葉を聞きハロウィンの元に飛びかかる。
自分より小さいはずの後ろ姿が今はとても大きく勇敢、勝てると思っている。
その時だ、襟元をクイクイと引っ張られる感覚した。完次は視線を下にやると、ボロボロの手でTシャツを握ているルーネが口をパクパクとしながら何かに伝えようとしている。
生きてた…よかった。
よかったと安心しようとしている自分に気合を入れなおした。ここからが重要で自分にできる事だ。それを実行しようと再び工場に向かっている進んでいる歩をはやめたが、再び襟元を引っ張られた。
そして、ルーネは再び口を動かしている。ようやく完次はルーネが何かを伝えたい事を悟った完次は、口元に耳を傾けると衰弱した声で伝えてもらった言葉が…。
「オ ネ ガ イ 逃 ゲ テ 」
その言葉は、まるでセラ達が敗北を予期しているように聞こえた。
空中に飛び回っているハロウィンに対してセラとマーニャは必死に飛びかかり殴る蹴るなどの打撃攻撃やランス状の武器で突撃などしていて優位な立場で戦っている。
なのに、負けるというのか?
ルーネの言葉も信じたいが信じられない。
・・・勝つよな… 大丈夫だよな… ・・・
もう一度セラ達の戦いを見ると優位に戦えている。その姿を確認取れた後、自信を取り戻した完次はルーネを抱きながら工場に戻っていくのだ。