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「さっき言ってた、呪い。解く方法はないの……?」


 レスティは新しく用意してもらった服に身を包みながらソフィに問う。


(服ももったいないし、もっと戦うとき気をつけないと……最初から攻撃を受ける箇所に布がない服でもいいけど)


「少なくとも、僕の前の代の人たちは見つけられず、たどり着けなかったみたいだね。ただ、古い言い伝えによれば、迷宮の奥、過去に打ち負かした魔物の怨念がそこに残り、それを浄化する事が出来れば、呪いは解ける、といわれてはいるけれど。どっちみち、僕に出来るのは迷宮に潜る事だけさ。僕のためにも家のためにもね」


 ソフィも着替えをすませて真新しい服に鎧を身に付けて、荷物を担ぐ。レスティも大方の準備を済ませると、ソフィアのそばにより、その長く垂れたままの髪を一まとめにして結んでやる。


「手伝うよ、私も。迷宮の奥まで、足手まといかもしれないけど……がんばるから」

「足手まといなのは僕だけどね……ありがとう」


 髪を結び終えると二人は部屋の外に出る、ちょうど部屋から出てきたドーラと共に、一番騒がしい時間の食堂へと降りていく。


「おや、あんたたちこんな時間にそんな物騒な格好でどへいくつもりだい? うちは今傭兵を雇う予定もないんだがね?」


 三人が階下に降り立つと、マギーが物々しい武装の彼女たちに気づいてすぐに声をかけてくる。迷宮内では朝夜関係ないとはいえ、わざわざ夜中になってから迷宮に向かうなどという変わり者は早々おらず、その上つい先ほど迷宮から戻ってきたばかりの三人とあればその驚きも納得できると言うものだ。


「ちょっと迷宮の方まで用事があるので」

「なんだ譲ちゃんたち、さっき帰ってきたばっかりじゃなかったのか? それともなんだ、迷宮に忘れ物でもしてきたのか?」


 ソフィの言葉を聞いていた酒を片手にしていた冒険者がそんな冗談をいうと、周りがドッと沸く。そんな様子にマギーは呆れながらその男の頭を軽く小突くと、ソフィに向き直る。


「でもどうしたってんだい本当に。さっきまで迷宮にいたってのに今からまた潜るなんで、正気の沙汰とは思えないよ。そんなに生き急いで、何しようってんだいあんたは? 自分だけじゃない、あんたに付いてきてくれる二人も危険に晒してまで、いかなきゃいけないような事なのかい?」


 腕を組んでソフィの姿を見下ろしながらマギーはそう諭す。ソフィはそんなマギーの心配する口調に申し訳なさと、うれしさに笑みを浮かべながら言う。


「いかなきゃだめなんです。僕らは冒険者ですから。そこに目指すものがあるのなら多少の危険を顧みずに飛び込まなければならない。冒険できないものに冒険者である資格はない。常に安全に万全の準備をもって低階層で狩りをし続けるくらいなら、最初から僕は迷宮になんて潜ろうとは思いません。僕が欲しいのはそんなものじゃない」


 ソフィの言葉に食堂内の冒険者たちがシンと静まり返るのがわかる。誰しも最初はそうだったのだ。だがやがて己の限界を知り、妥協する。冒険者は皆、理由と希望をもって迷宮へと挑む、その初心を忘れてしまえば、冒険者などやめてしまったほうがそのもののためのはずだ。

 それを今、だれがも痛感していた。

 静まり返った食堂の中、マギーがため息を付いてカウンターの中へと入っていく。


「せめてなにか食いもんもっていきな。干し肉だけってわけにもいかないだろ? 歩きながら食べられるもんつくったげるから、すこしだけまってな」


 そういうとマギーは厨房内で調理を始める。それを見ていた周りの店員たちも、すぐにその手伝いへと走る。やがて出来あっがたサンドイッチの入った紙袋を受け取るとソフィは頭を下げる。


「お手数おかけしてもうしわけないです。ありがとうございます」

「迷惑かけてると思うならこっちが安心できるくらいの腕前みせてくれればいいのさ。よっぽどのことなんだろ? ちゃんと帰ってきて、結果を出すんだね。レスティも後ろの子も、しっかりたすけてあげな」

「はい」

「まぁ、ほどほどに」


 それぞれの返事にマギーは笑いながら、三人の背を軽く押す。


「いってきな」


 マギーの言葉に三人はそれぞれ、トーンこそ違えど、同じ言葉を返す。


「いってきます」


 そうして、食堂の入り口から三人がでていくのを全員がゆっくりと見届けていた。


「わけぇってのはいいねぇ。俺もまた奥をめざしたくなっちまったよ」


 小太りの冒険者がぐいっと酒を煽ってそう呟く。


「俺らもあんな風に迷宮に潜ってたころもあったんだがなぁ……そろそろ潮時かね」


 他のテーブルで夕食をとっていた中年の男もそんな呟きをもらす。


「なにいってんだいあんたら、少なくとも今はあんたたちのが深くまで潜ってる手練なんだから、もっと胸をはんな、そんであの子達に偉そうな顔で小言をいってアドバイスの一つでもしてやればいいのさ。そんで、あの子達がもし有名になるようなことでもあれば、あいつらは俺たちが育てたんだって自慢してやんな。諦めるくらいなら、あの子達に、あんたたちが目指したもの預けてみたらどうだい?」


 マギーの言葉に、食堂にいる冒険者たちは一瞬だけきょとんとした後、各々、呟きながら、脱力するようにため息をついて、再び三人が降りてくる前の喧騒のように騒ぎ出す。


「そいつもいいかもしれねぇなぁ」

「ま、低階層でくすぶってる俺らに教えられることがそんなにあるともおもえねぇがな」

「おいおい、お前らといっしょにすんなよオレはいつも中層で稼いでるんだ」

「てめぇのおかげじゃなくて魔法使いのクランメンバーのおかげだろうが!」

「なんだとこらやんのか!」

「あぁん!? おういいぜかかってこいや!」


 再び騒ぎ出した客たちを眺めて、マギーは苦笑を漏らす。こんなに陽気に元気そうに笑う客の姿を見たのは久しぶりだった。どんな仕事でも続ければ初心を忘れて腐っていくものだ。それを刺激する新人の影響にマギーは感謝しながら、注文の入っていない料理の調理を始める。


「女将さん何つくってるんですかい?」


 従業員の一人がそれに気づいて調理の手を止めて覗きこむ。


「なぁに、あの子達結局ろくにたべられてないだろうからね、帰ってきたらおいしいもの沢山よういしといておかないとと思ってね」

「そうですね、こっちもすぐ片付けて手伝いますよ」

「ありがたいね。いっつもまぁ騒がしいけど。あの子達が功績上げて帰ってきてくれるようなら一つ大々的に宴会の一つでも開いてあげなきゃね。ついでに他のやつから絞りとって金も宣伝もばっちりさ」


 マギーも客たちと同じように陽気に笑いながら料理を続ける。

 宿屋、カミツレは今日も騒がしく繁盛している。

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