~普通の小学校~
僕が通っていた小学校は、実に普通の小学校だった。
この時代、日本中に存在していた小学校。そんな普通の小学校の1つ。
それは、決して、何も問題がなかったというわけではない。何1つ問題が起こらず、事件も起きず、そういうのは逆に普通ではない。異常。何か異様さを感じさせる。どこかで、何かが隠蔽されているのではないだろうか?そのような異様さを。
僕の通っていた小学校は、そういうのではなかった。細かい問題は、日々起こっていた。
子供達は廊下を走り回り、毎日のように先生に怒られていた。細かいイジメのようなものも起きていた。
イジメという程ではなかったかも知れない。小さな芽の内に摘み取られていたからだ。誰かが誰かに悪口を言う。それに対して、悪口を言い返す。やがては、取っ組み合いのケンカに発展する。たとえば、そういうのだ。そうして、例の“帰りの会”で議題として取り上げられ、僕らは延々と何時間でも教室に残される。
一番大きな事件といえば、やはり、アレだったかも知れない。
僕が小学校6年生の時。僕のクラスは、6年3組だったのだけれども、問題が起きたのは6年4組の方だった。4組の担任の先生は、まだ若い女の先生だった。運の悪いことに、4組は素行の悪い生徒が揃ってしまっていた。もちろん、全員というわけではない。クラスの中の4人か5人くらいだろうか?かなり性格が悪く、街でも頻繁にゲームソフトなどを万引きしたりしていた。
大人になって考えると、彼らにも理由があったのだろうな、とわかる。確か、家が貧乏で。僕の家なんかとは比べものにならない程の貧乏で。つき合っている人達(たとえば、お兄さんとかその友達だとか)も、素行が悪く、その影響をモロに受けてしまっていたのだろう。
いずれにしても、6年4組の教室は、いつも荒れていた。生徒達が歩き回り、はしゃぎ回り、授業にならないコトもたびたびあった。隣のクラスだったので、よく覚えている。いつも、そんな声が聞こえてくるのだった。そんな時、僕らのクラスの担任の先生は、よく部屋を出て、隣のクラスまで注意しに行っていた。
こういう先生が担任だったらよかったのかも知れない。もっと背が高く、いつでも怒鳴り散らし、それなりに経験もある男の先生だったら。けれども、6年4組の担任の先生は、そうではなかった。女の人だったし、何よりもまだ若かった。経験が足りなかったのだ。
“小学校を天国みたいに幸せな場所にしてみせる!子供達にいい思い出を作ってあげるんだ!”といった希望は抱いていたかも知れないけれども、現実は非情だった。こういう人は、もっと小さな子…たとえば、1年生とか2年生を担当するべきなのだ。あるいは、小学校ではなく、保育園とか幼稚園の先生になった方がよかったのかも。きっと、その方が向いていた。
人には、向き不向きというものが存在する。得手不得手というものも。彼女は、合わない性格で合わない場所に配属されてしまったのだ。だから、いつも子供達に泣かされてばかりいた。
結局、何ヶ月か担任を続けた後、ついに6年4組の女の先生は、学校に来なくなってしまった。
そうして、その後はベテランの男の先生が担当することになった。背は低く、ヒョロッとした感じの人だったが、眼光は鋭く、常に確固たる思いを持ち合わせているような人だった。だからだろうか?その後、6年4組はおとなしくなった。他のクラスと同じように静かになり、卒業まで特に大きな問題も起こさずに過ごすことができた。