~普通の街~
僕が生まれたのは、普通の街だった。どこにでもあるような平凡な街。逆に、平凡過ぎて見つからないくらいかも知れない。なにしろ、海もあれば山もある。商店街もあれば、田んぼや畑もある。そんな街なのだから。
どれ1つとして特徴はない。けれども、それなりに何でもある。バランスは取れている。そんな街。
子供の頃の僕は、そんな街があまり好きではなかった。あまりにも退屈過ぎたからだ。
もっと大都会に生まれたかった。巨大なビルが建ち並び、映画館もあれば、大きなゲームセンターもある。遊園地だとかスケート場からも、そんなに離れてはいない。そんなイメージの中の大都会。
あるいは、古風な家の建ち並ぶ観光地とか。観光客が大勢訪れ、おみやげなんかを買っていく。そんな風景に憧れた。
けれども、大人になってからは、そうは思わなくなってきた。この街の良さに気づいたからだ。何もないけど、何でもある。バランスの取れた、この街。それは、圧倒的な住みやすさだった。
あまりゴミゴミしていない。適度にゆとりがある。緑がある。公園だって、あちこちにある。そんなに大きな公園ではないけれども、それでもちょっと歩けば、どこにでもある。
子供達の叫び声も笑い声も絶えない。どこにでも子供がいて、大声をあげて走り回っている。考えようによっては、ちょっと迷惑かも知れないけれども、僕はそんな環境にすら微笑ましさを感じていた。
気が向けば、歩いて海を眺めに行ける。山にも登れる。それって、とても贅沢な環境なのかも知れない。ちょっと遠くに行きたいならば、自転車に乗ればいい。電車だってある。バスだってある。もっと遠くに行きたいならば、自動車かバイクを運転すればいい。
買い物に不便もない。結構安いスーパーが、そこら辺に何軒もある。飛び抜けた特徴は何もないけれど、住むのにだけは向いていた。住みやすさだけは抜群だった。
大人になった今の僕は、そんな街が大好きだ。