~普通の初恋~
僕は、普通の人間だ。だから、普通に恋の1つもする。
初恋は小学生の時だった。同じクラスの女の子。一緒の班になったこともある。その子が横に並んで座っていると、それだけで幸せだった。天国にいるような気分だった。もちろん、学校に行くのも楽しかった。
その子が風邪で学校を休んだ日には、ショックで1日中落ち込んだ。「お見舞いに行こうか?」なんて思ったくらい。
でも、僕は普通の小学生だったので、そういった思いはおくびにも出さない。全部隠し通した。
どんな子だったかって?
そりゃ、普通の女の子だった。今になって思い直すと、そう思える。でも、僕にとっては特別だったんだ。
クラスでは、あまり目立たない方だった。だけど、決して性格が暗いわけではない。むしろ、明るかったし、気も強かった。ただ、そういうのをあまり前面に出さない子だったんだ。“自分よりも相手を立てる”そういうのがわかっている人だった。
たとえば、クラスで掃除当番なんかが決まらない日がある。あるいは、何かやっかいな役割、○○委員とか△△係とか、そういうヤツ。学級委員長とか、そういうのはすぐに決まる。クラスで目立つ子が、「はい、はい、は~い!」と真っ先に手を上げてくれるから。副委員長くらいまでは、どうにか決まる。
図書係は、本好きの子が。生き物係は、ペットを飼うのが好きな子なんかが担当してくれる。そうではなく、もっと地味なヤツ。存在するのかどうかすらわからない、何の為に存在しているのかもわからないような地味な係。そういうのが、最後まで余る。そうして、その係が決まるまで、先生は僕らみんなを家に帰してくれない。
“帰りの会”という(または、“終わりの会”とも呼ばれる)謎の儀式で、延々と話し合いは続く。話し合いとはいっても、ほとんどは沈黙の時間。1時間でも2時間でも修行僧のように黙ったまま座らされて、誰かが手を上げるまで先生は待っている。
そんな時、決まって、その子が手を上げるのだ。そうして、みんな解放され、ホッと安堵のため息をつく。 後は、そのあるのだかないのだか、何の為に存在しているのかもよくわからないような係の仕事を、その子が最後まで続ける。誰にも気づかれず、感謝の声1つもかけられずに。
時々、僕はその姿を眺めて「なんて偉い子なんだろう!」と感心するのだった。実に普通の小学生であるこの僕が、生まれて初めて好きになったのは、そんな女の子だった。