~普通の野球観戦~
今回は、僕が小学校の時の思い出を話そう。
珍しく、お父さんが野球場に連れていってくれた時の話だ。
以前にも話した通り、僕の家はちょっとばかし貧乏だったので、あまりお金のかかるような遊びはさせてもらえなかった。ま、それとは別に、両親共にケチであったというのもあるのかも知れない。
いずれにしても、その日は珍しく家族で野球観戦に出かけた。4人家族で。僕のお父さんと、僕のお母さんと、僕と、僕の弟の4人。そう、実は僕には弟がいたのだ。いや、いるのだ。今でも元気に生きている。
僕らが応援していたのは、“ジェリーフィッシュ”というチーム。意味は、クラゲ。チームカラーは紫。ピンクに近い紫色だ。
なんだか、弱そうな名前だろう?事実、弱いチームだった。50年の歴史の中でも、強かったのはほんの一時期だけ。万年Bクラス。ただ、その時期は珍しく強かった。去年はリーグでも3位だったし、その前の年も2位だった。6チームいる中でその成績なのだから、なかなかのものだ。
そうして、今年は開幕から絶好調!優勝も狙える位置にいた。
確か、僕らが球場にジェリーフィッシュを応援に行ったのは、7月か8月だったと思う。夏だったのだけは確かだ。しかも、次の日は学校が休みだったし、お父さんも「明日は会社が休みだから、ゆっくりできる」なんて言ってたから、金曜日か土曜日だったのではないだろうか?もしかしたら、夏休みだったのかも知れない。
その辺の記憶はハッキリしないが、球場での出来事は、よく覚えている。僕らは家族でお弁当を持参していた。僕の家は、どこに行くにもお弁当を持っていくのだ。動物園だろうが、水族館だろうが、お墓参りだろうが、どこへでも。だから、球場に行くにもお弁当を持っていくのは当然だった。
でも、せっかく球場に来たのだ。球場特有の食べ物というのも食べてみたい。僕は、そんな風にワガママを言って、どうにか一番安いうどんを買ってもらうことに成功した。ただし、弟と半分こだ。2人で1杯のうどん。「1杯のかけそば」なんて話もあるけれど、あんなようなもの。アレよりかは、少しだけマシだったけど。
球場のうどん屋さんの前には長い行列ができていた。
ジェリーフィッシュの本拠地であるこの球場の名物でもあったし、何よりもみんなお金がなかったのだ。貧乏な中、球場に応援に駆けつけている。そんなに高い食べ物は頼めない。自然と、一番安いうどんが人気商品となる。
うどんの中でも一番安い、ただのうどんを頼んだ。俗に言う“素うどん”というヤツだ。それだけしかお金を渡されていなかった。確か、350円くらいだったと記憶している。正確な値段は覚えていないけれども。
他にも、“きつねうどん”だとか“肉うどん”だとか書かれた看板がかかっていたが、僕らには縁のない商品だった。
「おにいちゃん、僕、肉うどんが食べたいよ」などと弟は言っていたが、どうしようもない。僕は、それ以上のお金を持っていないのだ。僕の家は貧乏なのだ。
結局、普通のうどんを頼んで、観客席までこぼさないように注意しながら持ち帰り、弟と一緒に食べた。
最高に美味かった!!それだけは、覚えている。
試合の内容はあまり覚えていない。ただ、最後だけはハッキリと記憶している。忘れるはずはない。
確か、8回裏か9回表、ジェリーフィッシュは負けていた。そこで、お父さんが言ったのだ。
「そろそろ帰ろうか?」と。
「え?」
僕は、耳を疑った。まだ試合は終わっていないのに。
お母さんも、それに従った。
「そうね。そうしましょう。試合が終わるまで待っていたら、電車がムチャクチャ混んじゃうし」
仕方がない。親の命令は絶対だ。それも、どちらかが反対してくれれば、まだ希望はあるが、両親共に意見が一致してしまっている。こうなっては、もう反撃の可能性はない。僕と弟がどんなにダダをこねても、最終的な結論は決まっている。無理に反論すれば、こう言われるのは目に見えている。
「もう!そんなワガママを言うんだったら、もう2度と連れてこない!」
いつものセリフだ。この必殺技が繰り出されてしまったら、僕らではもうどうしようもなくなる。手も足も出ない。そうなる前に、素直に従って帰るしかない。
で、家に帰ってからテレビをつけると、ちょうどスポーツニュースでプロ野球の結果を流しているところだった。
「ジェリーフィッシュ!大逆転!最終回に見事得点し、サヨナラ~!!」
ニュースキャスターのその言葉を聞いて、お母さんはこういった。
「アラ。こんなコトなら、最後まで見て帰ればよかったわね」
なんだ、それ!
僕は、この日のコトを絶対に忘れないと心に誓った。そうして、大人になった今でも、やっぱり覚えているのだった。




