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~普通を手に入れる為に犠牲にしたモノ~

 誰にだって、なりたいモノの1つや2つはあるだろう。

 けれども、それを手に入れる為には、何かを犠牲にしなければならない。


 僕が望んだのは“普通”だった。普通の人生。普通の結婚。普通の家庭。そして、何よりも普通の幸せ。

 その為に犠牲にしたモノは数知れない。普通の人生だって、案外大変なのだ。誰にだって手に入れられるようなものではない。特殊な人生を歩んでいる人には、それがわからない。

「なんだよ、平凡な生き方を選んじまいやがって。男なら、もっと別の人生を歩んで見せろよ!もっとドデカイ勝負を挑んでみろよ!」などと軽々しく口にする。

 けれども、その先にあるのは、大抵は失敗だ。ロクでもない結末が待っている。酷い時には、誰にも相手にされず、何者にもなれずに、ただ孤独なまま死を迎えるはめになる。

 そういうのは遠慮したい。僕の選んだ道というのは、それとは無縁なモノだ。もちろん、この人生だって、どこに落とし穴が待ち受けているかわからない。だから、細心の注意を払いながら進んでいく必要がある。それでも、比較的安全で安定した道であることに違いはない。


 それなりにまとまった額の給料が毎月口座に振り込まれるし、そう多くはないとはいえボーナスだってある。休日も、ま、そこそこ貰っているし、有給だってあるにはある。そんなに頻繁に使うわけではないけれども、それでも親類の葬儀などがあれば、会社も有給を取るのを許してくれる。妻も子供もいて、両親も健在である。

 これを幸せと呼ばずに、なんと呼ぼう?


 もちろん、僕はこの普通の幸せを手に入れる為に、様々なモノを犠牲にしてきた。

 甘い話には極力乗らないように気をつけてきたし、危険には近寄らないようにしてきた。ほんのちょっとでも危険な香りがすれば、サッと身を翻し、そこから立ち去る。数え切れない程、そのような行為を繰り返してきた。

 これは選択の問題なのだ。AのルートとBのルートがあった時、僕は確実に安全なルートを選択する。他にどのような利点があろうとも、危険度が高ければ、そちらの道は選ばない。

 世の中には、全く逆の選択肢を選ぶ人間というのがいる。きっと、そういう人は、僕とは全然違う人生を歩んでいることだろう。1つ2つでは、そんなに変わりはしない。けれども、長い人生の間には無数の選択肢が存在する。何百・何千という選択肢が。それらの選択肢をいちいち逆に選んでいたら、全然違う人生になってしまうのは当然のことだ。


 いずれにしても、僕はこの普通の人生でよかったと思っている。

 そうして、普通の幸せを噛みしめながら、僕は今日も生きていく。

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