~普通の赤ん坊~
僕は、普通に病院で生まれた。
それから数日して、家に連れて帰られて、お父さんとお母さんの元で育てられた。
お父さんには、おじいちゃんとおばあちゃんがいて、時々、僕の顔を見にやって来た。あるいは、逆に家族で遊びに行ったりした。お母さんにも、おじいちゃんとおばあちゃんがいたけれども、遠くに住んでいたのでなかなか会えなかった。
こういう所も、日本人の一般家庭によくある境遇だ。
僕が最初に言葉を喋ったのは、1歳を越えてからだったそうだ。遅くもなく早くもなく、大体平均的な年齢だろう。「あ~」とか「う~」とか「うぎゃあ」とか「あばば」ではなく、ちゃんと日本語として通じる言葉だ。
一番最初に、喋ったのは「マ~マ」だったらしい。本当かどうかは知らないけれども、お母さんはそう証言している。お父さんは一番最初は「パパ」といって欲しかったらしい。
でも、今ではお父さんのことをパパと呼んだり、お母さんのことをママと呼んだりはしない。お父さんはお父さんだし、お母さんはお母さんだ。不思議なものだなと思う。
ま、言っちゃ悪いけど、僕の家はそんなにお金持ちではなかった。どちらかといえば貧乏な方だったろう。それでも、いくらかのおもちゃは買ってもらえたし、本なんかも買い与えられた。そんなにポンポンと好きなだけ買ってもらえたわけではなかったけれども、1つのおもちゃでひたすら遊び、1冊の本を何度も何度も繰り返し読んだ。もう、ボロボロになるくらいに読み返した。
それ以外にも、時々、近所の小学校の体育館でバザーが開かれることがあって、僕はよく、そのバザーとやらに出かけた。バザーには、近所の子供のお母さんたちが、要らなくなった物を安く販売しているのだった。当然、古くなったおもちゃなんかも並んでいる。それも格安の価格で。20円とか30円とか、そんなもの。
僕は、お母さんから100円玉1つをもらって、ウキウキしながらバザーへと向う。そうして、いくつかの使い古されたおもちゃだとか本だとかを購入して帰ってくるのだ。
それが、保育園とか小学校低学年くらいの子供時代の僕の楽しみだった。