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~普通の父親~

 僕のお父さんは、普通のお父さんだ。

 子供の頃からずっとそうだったし、今でもそうだ。特に大きな欠点はない。そりゃ、鼻くそをほじるとか、水虫があるとか、その程度の欠点はある。けれども、ギャンブルで身を崩しただとか、浮気して家庭を崩壊させただとか、そういった大きな欠点はない。小さな犯罪1つ犯さない。そういうのを異様に嫌う人だったから。


 お父さんの口癖、それはこうだ。

「何になってもいい。どういう人生を歩もうが構わない。だが、犯罪者にだけはなるな。人に迷惑をかけるようなコトだけはするな。それだけは守れ」

 僕が子供の頃から、ずっとそう言っていた。言い続けてきた。だから、僕はそれを忠実に守り続けている。そうして、普通の人間になった。普通の人生を歩む普通の人間。そこには、確実に父親の影響がある。


 僕のお父さんは、非常にマジメな人だ。お母さんもマジメな人だけど、それに輪をかけてマジメな人だ。堅物といってもいいくらいに。普段は、会社に通っている。いや、もう定年を迎えてしまったので、通っていたというべきだろう。

 通勤時間は、毎日決まっていた。朝の6時には起きて、準備を整え、7時には家を出る。ほぼ毎日同じ時間。5分と違わない。スーパーカブという名のバイクを唸らせ、家を出る。午後の6時には家に帰ってくる。午後5時くらいには会社を出発しないと間に合わない計算になる。

 残業は、ほとんどしない人だった。いや、できなかった。僕が小学校に通う前くらいまでは積極的に残業をこなし、残業代を稼いできていたらしいのだけど、やがて、それができなくなった。会社が倒産してしまったのだ。

 そこで、別の会社に移ることもできたらしいのだけど、僕のお父さんはそうはしなかった。倒産した会社に残り、働き続けた。お父さんの会社は、別の会社の傘下となり、運営自体は続けられた。けれども、給料は下がり、残業代もほとんど出なくなり、そもそも「残業自体なるべくしないように」というお達しが出された。それからはずっと、早く帰ってくるようになったそうだ。

 だから、僕が覚えているお父さんは、いつも決まった時間に家を出て、決まった時間に家に帰ってくる。そういう記憶しかない。


 犯罪だけではなく、事故もほとんど起こさないお父さんだった。アレだけ毎日のようにバイクに乗り続けていたのに。休みの日だって、頻繁に自動車を運転していた。けれども、事故を起こしたのなんて見たこともなかった。小さな事故1つでさえ。

 それが、定年間近になって、事故を起こした。それも、大きな事故を。完全に相手が悪い。いつものようにバイクに乗って出勤している途中だった。お父さんは、交差点で完全に止まっていた。そこに、信号を守らない自動車が突進してきたのだ。

 結果、お父さんは何ヶ月も入院しなければならない程の大けがを負った。もちろん、保険が下りる。10:0で相手が悪い。にも関わらず、そうはならなかった。人のいいお父さんだ。いろいろと相手の人に言いくるめられたのだろう。

 最初は、全面的に非を認めていた相手の人だったが、何だかんだと理由をつけて、9:1にしてくれと言ってきた。

「こちらが悪いのはわかっている。けれども、全面的に過失を認めてしまうと、保険料が上がってしまう。そうすると、生活が苦しくなる。悪いのはわかってはいるのだけれど、どうにかそこは譲ってはもらえないだろうか?」と、そんな感じだったらしい。

 それが、いつの間にか8:2になり、やがて半々というコトになっていた。最後には、お父さんの方が悪いと言い出す始末。それで、さすがのお父さんも激怒した。実際には、相手は保険になど加入していなかったのだ。

 その後、何ヶ月にも渡って、論争が続いた。結局、裁判沙汰にこそならならなかったものの、お父さんは随分と疲弊してしまった。誰がどう見てもわかるくらい痩せてしまっていた。確実に寿命を縮めてしまっただろう。


 そんなお父さんを見て育った僕だから、それを参考にしないわけはない。見習うべき場所は見習い、そうでない部分は受け継がないようにと気をつけている。

 普通にもいろいろあるのだ。僕が目指すのは普通の人生。けれども、そんな中でも譲ってはならないものがある。お父さんの人生から、それを学んだ。

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