7話 どうやら俺は面倒なことに巻き込まれたらしい
今週誕生日だったので、張り切って書いちゃいました。
今回で、邂逅編、元い本当の意味でプロローグ終了です。
注:質量を持った空気が存在しています。今回は説明回です。何時もの様に、九千文字と多いです。頑張って読んで下さい。
前回のあらすじ
バイトから帰ったら、今日知り合った女子五人と見知らぬ男性一人が家に居ました。
「で、どういった了見なんだ。一からきっちり説明してくれ」
俺は皆を連れってファミレスに来ていた。話を聞くに、まだ夕食を摂ってないらしく、屋敷にも人数分の食材がなかった為、こういう結果になってしまった。
今回は昼のように金を貸すなんて太っ腹なことはできない、というかそこまで財布に余裕がない。一人暮らしの高校生の辛い現実だ。きっちり割り勘で払おう。俺は既にブリューテで食べてるけど……。
「ちょっと待ってくれ。今メニュー選んでんだ」
乙女達はこっちをまったく見ずに、メニュー表を見ている。
何か、…我が儘な娘達に付き合う父親の気分だ。
その中で唯一人、辺りをキョロキョロ見渡しながら、おどおどしている人がいた。
「秋葉さん、どうしたんですか?」
「いえ、私、こういった料亭は初めてでして、何をしたら良いのか全く分かりませんの」
…料亭ねぇ。そんな高価な料理は置いてないんだけどなぁ。
「……そういえば此処に来る間も落ち着きがありませんでしたね」
「あら、良く見ていらっしゃいますね」
「それはもう。初めて都会に来た田舎者のようでしたから」
「言い得て妙ですわね。流石、奏馬さま♪ 実は今まで屋敷の敷地外に出たことが殆どないのです。お庭を散歩するぐらいはしてましたけどね」
昼に会った時は、お嬢さまみたいと思ったが、完全に箱入り娘らしい。じゃあ辺りを見渡してるのは、全て初めての光景だからか。案外、ファミレスでの挙動もそれが大半だったりて。
「秋葉さん、何をしたら良いのか分からないと言ってたので説明しますね。先ず、このメニュー表から食べたい料理を決めて下さい。決まったらこのボタンを押すんです。すると、女中さんが来てくれますので、決めた料理の名前を言って下さい。暫く待つと料理を持ってきてくれます。今回は大人数なので、皆が決め終わったらボタンを押します。分かりましたか?」
料亭と思ってるなら、ウェイトレスとかも女中って言った方がきっと伝わるよな?
「そうなのですか? 分かりました。ところで、一つ質問しても宜しいですか?」
「何ですか?」
「どうしてこのボタンを押すと女中さんが来てくださるんですか?」
「え?」
これはまた、どうして空が青いのかレベルの変な質問をしてきたな彼女は。簡単に言うと、「そういうシステムになってるから」だが、彼女はそんな回答に満足すると思えない。
「基本的な料亭だと、女中さんって声を掛けたら直ぐ出てくるじゃないですか。それと同じです。このボタンは声と同じ役割をしてるんです。この店は仕切りもなしに多くのコミュニティーがやって来る場所です。そんな中、大きな声で女中さんを呼ぶと、当然その人以外にも女中さんを呼ぶ声もある訳です。そうなると、場の雰囲気はどうなります? 常に騒がしい空間が形成されるんです。それは、静かに食事したい人にとっても迷惑ですし、女中さんも声が飛び交って何処に行けば良いのか分からなくなってしまいます。そうならないようにした結果、このような形式になったんです」
自分なりの思案を彼女に提示する。実際のところ、どうなのかは全く知らないが、これで納得して貰えるだろうか?
「そうだったのですか。私の配慮が足りませんでしたわ。考えれば直ぐに分かることでしたわね」
納得どころか、反省までされてしまった。本当のことでないだけに、真に受けられると心が痛い。
「さ、秋葉さんも料理選んで下さい。夕食摂ってないんでしょう?」
「はい。でも奏馬さまは?」
“奏馬さま”、何故か俺は秋葉さんからそう呼ばれている。此処に来る道中でも止めるように言ったが、頑なに断られた。
「俺はもう食べてきましたから。お気遣い有り難う御座います」
「おい奏馬。そっちの話は済んだか? 注文しちまうぞ」
「待て。まだメニュー決めてない」
今度は俺が皆を止めるか…何時になったら本筋に戻れるんだ。
「奏馬さま、これはどういった料理なのですか? 洋食には疎いもので」
ようやくメニューを選び始めた秋葉さんはこの調子だ。本当に何時戻れるんだ?
二十分後、やっとのことで注文を終え、待ち時間。暇なこの時間、本来の目的について話している途中に料理が来て、水を差されるのが嫌だからという理由で、自己紹介をすることになった。どうやら女子達は互いの名前は知っているが、詳細は知らなかったようだ。
皆のことは曲がり形にも知っているけど、さっきから何も喋らないこの男性については少しばかり聞いておいても損はないだろう。
因みに、春ちゃん達の名字は櫻井と言うらしい。だから“櫻探知機”だったのかと、今更理解する。
女子達もこの男については全く話を聞いてない素振りをしていし、お前は一体誰なんだ?
女子達のと俺の自己紹介が終わり、遂に謎の黒髪男性の番になった。
「俺の名前は、亀山弦十一郎。歳は22、2月22日生まれ。就職先決まらなくて道端で途方に暮れてた時、そっちの人から声を掛けられて、あの屋敷で執事をやることになった。因みに執事としてのスキルは当然皆無だ」
「ちょっと待て。それが貴方の名前ですか? 弦十郎でも一郎でもなく?」
「どんな名前だよ」
「名前的にどうかと思うよ」
「珍妙なお名前ですね」
「変な名前〜」
「春、確かに変な名前だけど、さすがに失礼よ」
冬華を除く皆が笑いながら彼を見る。
同情はしない。
「そんなボロクソ言わないでくれ。自分でも変な名前って思ってるんだから…」
弦十一郎、——は呼びにくいから亀山。亀山は、…うん、この世の終わりを連想させるような顔でそう言う。
「亀山、…さっき執事やることになったって言ってたが、本当にお前必要なのか?」
徐々にテーブルに料理が並べられていく中、夏姫がそう質問する。多分、亀山がいることによる利益を聞きたいんだろう。
「俺に声を掛けた人はこう言ってた。『一人ぐらい成人がいた方が良い。自動車の運転ができる奴がいた方が良いだろ』って言われた」
亀山の目は遠い。
どうやら彼は、名前どころか、待遇まで悲惨らしい。同情はしない。
「第一声の質問から分かってたけどさぁー。何せ、『運転免許証持ってるか?』だったからなぁー」
「料理も段々揃ってきたな。そろそろ本筋に戻るか」
夏姫が亀山の話を無視して、話を戻そうとする。追記、扱いも悲惨だ。
「そうだな。質問だけど、皆が俺の許嫁ってのは間違いないんだな?」
「ああ」
「同居するのも?」
「ああ」
「その為に、俺の両親があの屋敷を買ったことも?」
「ああ」
「亀山の処遇が酷いことも?」
「ああ」
「確認するように質問するのはやめてーっ! 今までも露骨だったけど、これ以上は勘弁して。俺のライフはもう0よっ!!」
「俺が質問するよりも、そっちが説明した方が早いな。一から頼む」
「では、私が説明いたしますね。お父さまから、私が説明するように言伝を承ってます」
「お前らのスルースキル高過ぎだろ…」
秋葉さんが打って出て、話始める。食事に手をつけてないことから、その真剣さが伺える。所々五月蝿い蠅が集ってるが、気にせず話を進めよう。
「奏馬さまは、四季神の伝説、元い御伽噺はご存知ですか?」
「ん? ああ、多分知ってる。確か、四人の女神が一人の王子に恋をして、喧嘩する話だよな」
「間違ってねーけど、アバウトすぎね?」
夏姫が注文したカルボナーラを口に運びながら言う。
「そうか? 神話だと神さまの都合で世界崩壊なんて多々あるだろ。それにこの話、協調と恋は盲目を題材にした話だろ? 何時如何なる時も、理性と協調性は失うべからず。常に冷静に周りを見渡せる力を付けろ、ってこと伝えたかったんだろ。…この話が何か関係あるのか?」
「はい、結構重要です。お父さまの話によると、この話は実際に在った事らしいのです。少なからず改竄はされているものの、私達の家系の文献にはそう書かれているそうなんです」
「ちょっと待って下さい。もう少し分かり易く説明して下さい。私達って、貴女達のことですか? それとも…」
「はい。奏馬さまの御察しの通り、この場に居る約一名を除いた家系全てにですわ」
つまり、四季神の話は実際に過去に起きた事で、俺の家系は少なからずそれに関わってるってことか。だけど、これだけじゃ訳が分からない。だから何だ、で済んでしまう。第一、あの話の何処が正しくて、誤ってるのかも見当がつかない。…いや、頼るなら文献の方か、表に出てるのは使えそうにない。
「実は、この話には続きがありまして、“その後女神さま達は地上に下り、王子の望んだ世界を噛み締めるように見て渡り、この世を守り続けることを更に誓う”、というものですわ。此処で問題なのは、“女神さま達にも寿命が在った”、ということですわ。そして、神としての使命を行えるのは実子だけ」
なるほど、女神達は王子への誓いを守る為に、嫌でも子孫を残さなければならなかったと。女神の存在自体が不明だけど。
「しかし、代を重ねていく内に、禁忌である人間の血が、女神さま達の身体に混じりました。規律を破った女神さま達は、地上に堕とされ神界に行くことが二度とできなくなりました…」
ああ、大体のことは分かった。それでも女神達は、生き続けたんだな。誓いの為に。血を絶やさない為に、人間と交わって。つまり、君達はその女神達の子孫だと言うんだな。そして、俺は王子の血筋だと言いたいんだな。この話から見出せる俺との繋がりなんて、それくらいしか思いつかない。
「それで、その後に何が起こったんだ。それが、俺と君達が許嫁同士になる原因だろ。そこがまだ分からない」
行く当てのない憤りが沸々と湧き上がり。漏れた思いが棘と化し言葉に乗り少し荒々しくなる。
「……異常気象という現象がありますわね。これは、女神さま達が地に堕ちる前は、起きることのなかった現象ですわ。つまり、異常気象とは、女神さま達の四季の調整がなくなったことにより起きているのですわ。今の世は、四季の女神さま達がいなくなった世界なのです。では、何故、四季の女神さま達のいない世界が崩壊していないのかというと———」
「俺達が出て来たんだな。つまり、これは唯許嫁を決める為のモノではなく、儀式的なモノなんだな? 不完全ながらも、元凶の血筋を持つ俺達の誰かが、俺と繋がりを持つことによって、世界崩壊を緩和できるんだな」
「御名答ですわ。流石奏馬さま」
「ふふふ…」
ふざけてやがる。誰がこんな話信じるかよ。
「識君?」
「…お前等、本当にこんなメルヘンな話信じてるのか? どうかしてるぞ。それに俺はな、悪魔は信じても、神は信じないことにしてんだよ」
「…何でだ?」
俺の貶しに夏姫の言葉にも棘が生える。
「ある人は言う、神は観測者だと。傍観してるだけの観測者なんて存在しないのと変わらない。ある人は言う、神は物書きだと。人の人生勝手に操作して幸福にも不幸にもするそいつは、神じゃない。平然と人を弄ぶ悪魔だ。そんな奴を神と認めろという方が無理だ」
勿論、両方共存在するとは思ってない。だけど、神は絶対にいない。それだけは確実に言える。
……ぐぅぅ〜〜〜〜。
何処からか腹の虫が盛大に自己主張している。俺は空気の読めないその音の在り所を探る。しかし、それは案外速く見つかった。何せ、赤くなって俯いてる黒髪の乙女が目の前に居たんだから。
「そ、奏馬、さまっ。ずっと質問したいことが、あ、あったのですが、宜しいでしょうか?」
秋葉さんは声を裏返らせながら、恥ずかしさを押し殺して聞いてくる。
「あ、ああ」
この状況下で質問しなければならないこととは一体なんだろう?
「そ、その、この料理はどうやって頂けば宜しいのでしょうか?」
早口になりながら、彼女が頼んだドリアを指差す。
………。
…なんだろう、この出端挫かれた感。それに、秋葉さん、敢えて料理に手をつけてなかったんじゃなくて、唯単に食べ方が分からなかっただけだったのか……このKY世間知らずめっ!!お蔭で毒気がすっかり抜けたわっ、有り難う。収集つかなかったんだ。
「秋葉さん、このスプーンを使って、粥を食べるように掬って食べれば良いんですよ。熱いですから気をつけて下さいね」
「分かりましたわ」
そう言って彼女は恐る恐る一口口にする。
「! 奏馬さま! これ、とっても美味しいですわっ!!」
秋葉さんは、珍しく声を張って、目を輝かせて感想を言う。
彼女はこんな顔もするのか。こんなに喜んでくれるならもっと、色々なことを体験させてあげたいな。
「口に合ったようで何よりです。皆の料理も少し分けて貰ったらどうです?」
「いえ、今日はこれだけで良いです。これ以上はもったいないので」
「そうですか」
「おい、奏馬。ちょっと良いか?」
話し掛けてくる夏姫の声は、既に棘が抜けていた。普通に話そうということか。
「あたし達は別に、四季神の伝説なんか信じてねぇーよ。世界が崩壊するなんて全然考えられねぇ。あたし達も納得してる訳じゃねぇ。唯、餓鬼の頃から言われ続てたから体性がついただけだ。正直、あたしもこんな仕来りどうでも良いと思ってる。お前がどう思おうが勝手だが、一応仕来りだからな。あの屋敷であたし達も暮らすことになるのは承知してくれ。でないと今日泊まる場所がねぇんだ」
「家出少女かよ! ———まあ部屋も余ってるし、それくらいなら構わないが、恋愛対象として見ることはないと思うぞ。それに皆を養える程の資金はないから、そこのとこだけ何とかしてくれ」
「分からねーぞ。同居してたら案外そうなるかも知んないぜ。資金については問題ない。既にお前の口座にでも金が入ってるだろ。明日、見に行けば?」
夏姫は頬杖とつきながらニコリと笑う。
「ちょっと待て。何でそっちが俺の口座知ってんだよ」
「こう見えてもあたし達、貴族だぜ。それくら訳ないさ」
少し威張ったように胸を張る。
「マジかよ。でも他の皆は兎も角、夏姫、お前はらしくないぞ。上品の欠片もねえ」
「なくても良いんだよ! 結局は血筋の問題なんだから」
血筋ねぇ。そんなんで待遇が変わるからこの世は世知辛い。蛙の子が一○○パーセント蛙になるとは限らない。鯉が龍になることもあれば、その逆もまた然り。また、天才も努力しなければ凡人に劣る。人それぞれ、得手不得手はあるが、結局は努力しなければ何も始まらない。血筋なんて案外関係はないんだ。 ……血筋?
「秋葉さん、食事中失礼ですが質問しますね。…俺の親は駆落ち結婚したって聞いてるんですけど、もしかして両親は駆落ちしてない?」
「ええ、そうですよ。お二人も私達と同じように出会って御結婚なされたんです。因みに秋菜さま、——奏馬さまのお母さまは、私の叔母にあたります」
今衝撃発言したぞ秋葉さん。つまり貴女は、俺の従姉ってことですか?
そんなことはいざ知らず、彼女は食事を再開する。
「今回はちょっと趣向を変えようということで、駆落ち設定を加えてみたらしいぞ。もう分かってると思うが、お前も貴族だぞ」
世界崩壊どうこう言っといて、中々楽しんでやがるな、これを管理してる奴。神みたいで、かなり癪だぞ。ぶん殴りてー。
「因みに、許嫁を決めて結婚すれば、晴れてお前は“四季家”の当主だ」
「待て、四季家って何だ。識家じゃないのか?」
「“識”は当て字だ。四季の名は、貴族の中じゃ有名だからな。一般家庭に紛れるように秋菜さんが改名したらしいぞ。お前の本当の名前は、“四季奏馬”だ。」
な、……なんてダサい名前なんだぁぁーーー!! 識奏馬ならまだしも、四季奏馬はダサいダサい。字のバランスが世界崩壊レベルに最悪だ。母さんも風情がないから変えただけだ、きっと。
「あー、考えてもどうにもなんねえな、これは。取り敢えず、これからは俺の屋敷で皆と一緒に暮らしていけば良いんだな。もう一度言っておくが、恋愛対象として見ることはないぞ」
「あー、それで別に良いよ。あたし達も同居して許嫁決めろって言われただけだからな。恋愛しろなんて言われてない」
夏姫は手首を軸に手をフラフラふって答える。
適当だなおい。一応暮らせる空間があれば良いのかお前は。
「だとしたら、皆に言っておかないといけないことがあるなぁ」
俺は口先らを吊り上げて少し笑う。
「いきなり悪意の籠った笑みを浮かべるなよ。怖いよ。何だよ」
「俺の家で暮らす以上俺のルールには従って貰う。これからの生活を円滑にする為だ、守ってくれよ」
「分かった。で、そのルールは?」
「先ず、食事の時間だ。朝は七時。昼は十二時。夜は八時、——と言いたい所だが、俺はバイトの関係で今日みたいに遅い時がある。俺が居る時は七時だが、居ない時は好きにしてくれ」
「識君、朝食の時間をもっと遅くできない? 僕、朝弱いんだ」
冬華が小さく手を挙げて、時間変更を求めてくる。
「何時が良い?」
「……十二時くらい」
「昼だよ。学校大遅刻だよ。却下だ」
「…分かった。七時で良い」
良いのかよ。諦め早いな。
「次、学校行く日は最低でも七時五十分には家を出ろ。その時間に俺が出て鍵閉めるから。門限はないが、遅くなる時は一言連絡してくれ。皆、ケータイ持ってるか?」
とは聞いてみるが、結果なんて殆ど曝け出されてる。春ちゃん達が持ってないのは確認済み、秋葉さんは箱入り娘で必要の意図が見えない。夏姫と冬華は何かと外に出てるっぽいし、きっと持ってる。
「持ってるに決まってるだろ」
「持ってるよ」
「けーたい…とは何ですか?」
案の定の結果、説明は何処かで見た光景なので割愛。簡単に経緯を言うと、俺の戦闘不能状態のスマホを見せた後、冬華が代わりに自分のを見せて、秋葉さんが物珍しく手に持って見渡していた。結局のところ、明日皆でケータイを買いに行くことになった。夏姫曰く、俺の口座に金が入ってるとのことだが、本当だろうか。
「奏馬さん、質問ですが、料理は誰が作るんですか?」
春香ちゃんが睨みつけながら俺に聞いてくる。どうやらまだ昼のことを気にしてるらしい。
「唐突だな。そんなに睨むなよ、苛———まあいい。料理は俺が作るから、心配するな」
「安心できませんね。貴方に他人に料理を振る舞える程の実力があるんですか?」
彼女は、何処となく挑発的な口調で迫ってくる。
「無礼るなよ。これでも自分の作る料理には五月蝿いんだ。味とレパートリーの広さには自信があるぞ」
何せ料理が趣味ですから。
「そーなんですかー。では、期待だけはしておいてあげますね」
「上から言ってるけど、春香ちゃんも料理できるのか?」
「もちろん。拘りもありますよ」
なのに何故、マッドサイエンティストなんだ。疑問を隠せない。
「それだけ自信があるなら、俺がバイトの時は君が料理を作ってくれないかな?そうしてくれると俺も安心なんだけど」
浮んだ疑問を無視して、俺は提案をする。
「嫌です。何でわたしが奏馬さんの代わりをしないといけないんですか。全部自分で何とかしたら良いじゃないですか」
「おやおや、春香ちゃんは料理の腕が俺に劣ってるのを目の当たりにしたくないのかな? それとも皆の前に出せる程じゃないのかな?」
「っそんなんじゃないですよっ!」
「だったらやってくれるよね? それに、自分の作った料理が他人に喜ばれることは、料理を嗜む者にとっては至高の喜びじゃないかな?」
「むぅぅ〜〜。分かりましたよ。引き受けますよ」
彼女は頬を膨らませながら、一応承諾してくれる。
…ふふ、ちょろいな。
「……性格悪い」
「奏馬、…その誘導は酷いぞ」
「策士ですね」
俺と春香ちゃんの遣り取りを見ていた三人が、ジト目で見つめてくる。
「何だよ、皆の食が守られたんだから別に良いだろっ!!」
「それでも遣り方ってもんがあるだろ」
「五月蝿いわい! これが俺の遣り方だ。それより、ルールの続きだ。脱線してるぞ」
「はいはい、とっとと話してくれ」
「風呂は個室にある浴室を使っても良いけど、基本的に大浴場を使ってくれ。水道代の節約になるからな。俺は大浴場は使わないから安心してくれ」
「? 何で識君は使わないの?」
「莫迦か。あんなでかい浴室に一人で入るのを想像してみろ。何処となく悲しくなるわっ」
「じゃあ、あたし達と一緒に入るか?」
夏姫が笑いながら冗談を言う。
「誰が入るか。それにそんなことを言うと——」
「絶っっ対、イヤです!!」
春香ちゃんが顔を紅くしながら、大声でテーブルを叩きながら立ち上がる。
「———真に受けて過剰に反応する奴が出てくるだろ…もう遅いけど」
「すまん。配慮してなかった」
「櫻井(妹)さん、店内だから静かに」
「ワルイワルイ、冗談だから気にするな」
「はぁー、皆飯食い終わってるよな。店の迷惑だから、もう出るぞ。他のルールは帰りながら話す」
…どうしよう。このグループ、世間体気にしない奴等多過ぎる。貴族とは、こういった奴等の集まりなのか? 兎に角今後、苦労することになるのは確実だな。……気が重いなぁ。
「そうだな、夜も遅いし、ベットのセッティングもしないといけないから、そろそろ出た方がいいな」
「皆、財布出してくれ、今日は割り勘だからな」
「今、財布持ってねぇぞ」
「財布なんて従者が持てばいいんです」
「済みません。お生憎さまですが、お財布は持ち合わせておりませんの」
なんということでしょう。七分の四が財布を持たずに歩き回る貴族共でした。この時点で俺が料金の三分の一を払うことは確定のようです。
「僕は持ってるよ」
「俺も」
結局、俺と冬華、そして完全に空気になっていた亀山で、金を出し合って代金を支払った。お蔭で俺は財布の底を叩く破目になった。何時振りだろうか、財布が空になったのは……。
「おい夏姫、お前正午に続き、今回も財布を持ってないとはどういった了見だ」
店を出て夜道を皆で歩きながら、夏姫を咎める。
「しょうがないだろ。忘れてたんだから」
「罰として十一だ。今回は冗談じゃないぞ」
「だから、直ぐ返せるって言ってるだろ」
「何勘違いしてんだ? 俺の言う十一は“十秒で一割の利子”だぞ」
「正に鬼畜の極み!!」
そう言って夏姫は飛び跳ねて走り去ってしまった。きっと財布を取りに行ったんだろう。
「……屋敷の鍵は俺が持ってんだけどな」
「鬼畜だね」
「鬼畜ですね〜」
「お兄ちゃんは平然とこういうことするから怖いんだよ。春香ちゃんも気を付けてね」
「…うん」
許嫁を決めるのは気が進まないけど、皆と一緒に暮らすのは悪くないと思っている。面倒もあるだろう、意見が噛み合わない時もあるだろう。だけど、今まで以上に楽しい毎日になりそうだ。
因みに、その後の夏姫はと言うと、玄関の扉を突き破り、財布を入手したが、手持ちが少なすぎて撃沈していた。そして、夕食代と修理代両方を支払うことになった。
四季神の伝説。正に胡散臭い話ですね。奏馬も冷静でいられたなら、穴を穿つ事が出来たかもしれないですね。
作中、「無礼るな」という言葉がありますが、本当は正しい使用方法ではありません。本当は「無礼し(なめし)」という形容詞です。言葉の意味は、礼儀がない。無礼である。無作法である。という意味です。
キャラ紹介はもう少し待って下さい。現在、作業用のしかありません。
注:私の中でも、亀山は酷い扱いです。彼に陽の光が当たる事はあるのでしょうか。