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奏でる季節  作者: Lie
3/9

2話 どうやら俺はフラグを立てたらしい

当初は「カメラの死神」と同時進行していく予定でしたが、時間の都合でそれが不可能だということが分かりました。これからはこの作品を優先して書かせてもらいます。身勝手な行動ですがどうかお許し下さい。m(_ _)m


注:今回の話を読んでもメインヒロイン全員は登場しません。次回で一応のメンバーは登場させる予定です。ご了承下さい。

 前回のあらすじ


 世話係、始めました。




 悪夢だ。これはきっと神の悪戯か、悪魔の微笑みだ。もしそんなの者がいるならば、神も悪魔も俺以上のSだ。

 理事長と加藤先生のお願いで転入生の海里夏姫と凩冬華の世話係をやる破目になった後、三郎の提案で俺のクラスは席替えをした。その結果、俺は今、もっと悲惨な目に遭っている。

 ……あれ? もしこれに神や悪魔が関係しているならば、席替えを提案した三郎はそいつらのしもべかそれ自身じゃないか?

 そんなありもしないことを考えながら現実逃避。………するわけにもいかず潔く現実を見る。

 席替えの結果、俺は窓のある左から二列目の最後尾。そして、俺の左側には凩が、右側には海里が、斜め左には三郎がいる。

 この現状に誰かの陰謀を感じられずにいられるだろうか。ただでさえ、二人の世話係になって男子勢からの殺気が痛かったのに、席が隣になったことにより今やそれは二倍どころか二乗、三乗にまで膨れ上がっている。放課後になった瞬間俺をりに来る空気さえその様子から窺える。


「余程縁があるみたいだね僕達」


 凩が椅子を引きながら落ち着いた声で無表情にそう言う。


「そーだな。まぁ席が近ければお前も世話しやすいと思うから別にいいだろ周りの奴らは気にするな。えーと…名前何だっけ?」


 海里も凩同様に椅子を引きながら俺の気持ちを察してか微妙な励ましをしながら名前を聞いてくる。


「奏馬だ。知識の識に奏でる馬と書いて識奏馬。呼び方はどうでもいいからそっちで決めてくれ」


「じゃ奏馬だな。あたしも適当に呼んでくれて構わないぜ」


「識君だね。僕も好きに呼んでいいから」


「じゃあ夏姫と冬華で。これからよろしく」


 互いに挨拶し終わり俺は疑問を彼女達にぶつける。


「ところでどうして二人の両親は態々(わざわざ)理事長にお願いしてまで俺…というか“識”を名字に持つ人と同じクラスにしようとしたんだ?そこだけがどうしても理解できないんだが」


「おおよその見当はついてるけど、確証がないから質問の答えは分からないだね」


「だな。先生がああ言うまであたしは知らなかったしな。そんなことよりあたしはこの学園の理事長にビックリだ。よくこんな願いを聞き入れたよなー」


 はい俺の質問は回答を得られないまま終了っ! 見当がついてるならそれぐらい言ってくれてもいいだろ。というか薄々感じていたがこの二人我が強い。別の言い方をすると人の言うこと聞かない、自分勝手。こいつ等の教育係の人を尊敬します。ええホントもう。


「理事長は気まぐれな人で面白そうと思ったことは直ぐ実行する迷惑極まりない人なので今回もその類だと思う」


 俺はこの二人に対する不安を大いに抱えながらゲッソリして答える。


「ふーん。まいっか。それにしても奏でる馬か…あたし達を任せるにはそれ位の名前じゃないとな。いやー良かった良かった」


 夏姫はそう言いながらニコニコと笑っている。

 とは言うものの“あたし達を任せる”ってどういうことだ? まさか何もかもを俺にやらせようとは思ってないよな。例えばパシリとかパシリとかパシリとか…。いくら世話係でもそこまでやってやる道理はないぞ。何か怖いから一応注意しておこう。


「一つ言っておくけど、俺が世話係でもすて——」


「失礼するでありますっ! 我輩、伊勢野三郎であります!!!」


 俺の言葉を遮って勝手に名を言う三郎は何故か敬礼していた。何故か三郎の背後に敬礼した星の付いた黄色い帽子を被っている直立で緑色のカエルが見えるがたぶん目の錯覚だ。


「うん。よろしく伊勢野君」


「元気がある奴は好きだぞ。よろしくな三郎!」


「おうっ!オレもこんな美少女達と席が近いなんてめっちゃ嬉しいわー」


 馬が合うのか三郎と夏姫は和気藹々と語り合っている。二人とも人一倍無駄に元気だから気が合うのかもしれない。

 そのことを二人には聞こえないように冬華に話す。


「三郎と夏姫は結構似たもの同士かもな」


「そうだね。案外お似合いかも。それに僕と君も余り人のこと言えないよ」


 冬華は淡々と言うが最後の意味がよく分からない。


「何が?」


「似たもの同士ってところ。識君とは気が合いそう」


 ますます意味が分からない。彼女と俺の何処にそんな共通点あるのだろうか。


「因みにどの辺りが?」


「……雰囲気?」


 ダメだこりゃ。本人ですら疑問形で首傾げてるし今の間は何だ。一生懸命探していたとしか思えない。しかもその結論が“雰囲気”という最も曖昧で具体性に欠けるものだ。それでよく似たもの同士とか言えたな。

 その時授業終了の鐘が鳴り響く。


「はいっ、これで今日のホームルーム…を終了します。……あと来週からは通常授業ですので忘れ物のないようにして下さね。そ、それじゃさようなら気をつけて帰ってくださいね」


 そして加藤先生はそそくさと教室を出て行く。

 俺が夏姫や冬華と駄弁っている間にホームルームが終わる。勿論加藤先生の話なんて一切聞いていなかったZE☆


「奏馬、ホームルームも終わったことだし、ちょいとあたし達に付き合ってくれねーか?」


「付き合うって…何にだよ」


 一瞬嫌な汗が首筋を伝う。

 そういえば三郎によって遮られた忠告を最終的に言えてないっ!? 下手をしたらこれはパシリのお誘いかもしれない。慎重に話を進めないと……


「校舎と街の案内を頼みたいんだ。あたし達昨日こっちに来たばかりで何も知らねーんだ。これから長い付き合いになる友人として頼むよ、な?」


 そう言いながら夏姫はオーバーアクションに両手を顔の前で合わせてお願いしてくる。

 それを見て自分が恥かしくなる。その態度は世話係どうこう関係なくただの同等な友人としてのものだった。もしかしたら関係ないのではなく、ただ単に気にしてないか忘れているだけなのかもしれない。どちらにしろ勘違いしていた自分が恥かしい。


「分かっ…た……」


 俺は夏姫の頼みを了解しようとしようとしたが、夏姫の後ろから殺気の壁が押し寄せてくる。それは紛うことなきクラスの男子共からのものであった。

 そうだった。すっかり忘れていた。奴らは私怨で俺をりたくてうずうずしている飢えた獣。それが今、加藤先生という飼い主とホームルームという名の首輪が外れたのだ。俺をりに来るのは半ば必然である。とにかく、この場に居ちゃ俺の命がない。しかし既に男子共は壁際を残して俺を包囲している。さて、どうやって逃げようか。……やっぱりこれしかないか。


「二人とも少しだけ此処で待ってて。こいつ等撒いて直ぐ戻るから」


 そう言いながら教室の窓を開ける。


「あと夏姫、御免。俺、お前のこと誤解してたわ」


 そして俺は窓から中庭へ飛び降りる。


「バカお前ここ三階だぞっ! それにその言葉は死亡フラグだっ!! 死ぬ気かっ!! 帰ってこれねーぞっ!!」


 頭の上から三郎の声が聞こえる。

 だが問題ない。フラグとは立てて何ぼ、折って何ぼだ。それに俺の身体能力なら三階程度の高さ余裕で着地できる。

 そして俺は足が地に着いた直後前転して衝撃を減らして見事着地して逃げる。

 これだけ距離があればかなりの時間を稼げるだろう。今の内に何処かに隠れよう。






 隠れる場所を探していた俺は結局学園の屋上に行くことにし、今扉の前まで来ている。俺をりに来た男子共も標的が屋外に逃げたのに、まさか校舎に戻っているとは思わないだろう。

 屋上への扉を開けると陽射しと突風が校舎内に入り込み思わず右腕で目を防ぐ。その最中、腕の隙間から後ろ向きに立っている人影が見えた。

 先客が居たのか……。

 俺は邪魔しちゃ悪いと思ってその場を去ろうとする。が、相手も他人が入ってきたことに気付いたのかこちらに振り向く。


「あら、ご機嫌よう」


 穏やかで丁寧な口調で挨拶をする長髪黒髪の女子。一つ一つの物腰の柔らかな動作から良家のお嬢さまであることが窺える。ネクタイの色からして三年生のようだ。


「こんにちは。先客が居るとは思いませんでした。邪魔すると悪いのでそれでは」


 そう言って屋上を立ち去ろうとすが、それを屋上に居た女子がそれを止める。


「構いませんわ。どうかお気になさらないで下さい。わたくしも少し風に当たりに来ただけですから」


「それではお言葉に甘えて少しだけ。そんなに長居するつもりはありませんから」


 そうして俺は彼女が立っている隣にあるベンチに座る。十分位隠れていれば男子共も流石に諦めるだろう。


「……」


「…………」


「……」


「…………」


 気まずい。彼女は気にしないでと言っていたが、気にしない訳がない。直ぐにこの場を離れたいが、それは彼女の好意を踏み躙ることになる。彼女もずっと黙ったままだし、何か会話でもして気を紛らわせた方がいいのかもしれない。

 「新学年の目標は何ですか?」、「学園長の話長かったですね」、「良い天気ですね」、………………。


「そんなの会話として終わってるっ!!」


「!」


 俺は俺自身の会話力のなさに両手で顔を覆いながら嘆く。そしてそれを声に出していたことに気付き更に嘆く。いきなり喋ったからか、はたまた俺の叫び声を聞いたからか、彼女はびっくりしてこっちを見ている。

 本当にもう恥ずかしい……。


「ふふっ」


 笑われた。恥ずかしすぎて死にたい。


「面白くて可愛らしいお方ですね。」


「なっ?!」


 何デスカコノ人ハ……。人の恥を笑うだけでなく弄ぶとは。しかも悪気がなさそうなところからして無意識だ。この人は天然で他人ひとを弄ぶドSだ!


「それにしても今日は新鮮なことが沢山あってとても有意義な日ですわ」


「え?」


 彼女はそう言いながらとても満足そうに、幸せそうに笑う。


「実はわたくし、今まで学び舎に通ったことがないのです。ですから目に見える全てが新鮮で、知らないことが多くて、とても幸せですわ。ですからそれを今まで取り零していたと思うと非常に残念な気持ちになります」


 そう言った彼女は愁い気でどこか儚げで、今直ぐにでも散って消えてしまいそうだった。


「そうだったんですか。……じゃあこれからはその取り零した分以上に楽しいことが起きないといけないですね。友人になりましょう。俺で良ければ手伝いますよ」


 そんな彼女を見ていられなくて、ほっとけなくて、柄でもないことを言う。

 差し出した右手を彼女はきょとんとしながら見た後、暫くして微笑み手を取る。


「有り難う御座います。とても嬉しいですわ。宜しくお願いします。……失礼ながらお名前は何と申しますの?わたくし月乃宮秋葉つきのみや あきはと申します」


「ははっ、そういえばそうでしたね。俺は識奏馬です。これからよろしくお願いします」


 そう言って握られた手を握り返す。


「! そうですか貴方さまが……」


「ん? 何か言いましたか、秋葉さん?」


「い、いえっ! 何でもありません」


「そうですか? それなら良いのですが」


 心なしか彼女の顔が紅い気がする。何かとても慌ててるようにも見える。本当に何でもないと良いけど……

 その時屋上にとても強い風が吹き荒れる。


「風が強くなって参りましたわね。わたくしはそろそろお暇させて頂きます。それではご機嫌よう」


「さようなら。何かあれば二年D組に来て下さい。」


 そして彼女は屋上から去っていった。

 本当に最初から最後までお嬢さまみたいな女性ひとだったな。そういえば初めて学校に来たとも言っていたな。じゃあ秋葉さんが三年生の転入生だったのかな。

 気付けば時間は当初予定していた十分を優に越えていた。






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