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のんびりモーニングが終わって。


図書館に

とりあえず行く事にした、めぐ。



お休みを貰って、わたしたちのところへ旅する、そのお許しを

司書主任さんにするため、それと

クリスタさんを代役(笑)に

するために。




「休暇もらえるかなー」と、めぐ。



「クリスタさんってめぐに似てるから

髪をアップにしたりすれば、わかんないんじゃない?」と


わたしはジョーク。


「天使さんに似てるって、なんか嬉しい。」って


めぐもにこにこ。



クリスタさんも「めぐちゃんみたいにかわいくできるかしら」なんて。






わたしとルーフィも、図書館に

ついていくことにして。


家の前の坂道、細い路地を

こんどは4人一緒に降りていく。




「でも、天使さんであたしと一緒に

18年も過ごしていたのって」と、めぐは言う。



「重くなかったですか」と

クリスタさんも、ユーモア。



「いえいえ、ぜんぜん」(笑)と

めぐも。


天使さんが心に宿っているめぐは

そういえば、ちょっとだけ

天使さんみたいだったっけ。



それも、懐かしい思い出。



そのめぐに恋しちゃった人も

いたりした。





でも、わたしに恋する人は少ない(笑)。なーんて。




坂道を下りながら、ご近所さん、お向かいさん。


お水を撒いているおばさん、とか


にこやかにごあいさつ。




べつに気にならなかったけど、


向こうの世界と変わりないから

ここが違う世界だ、って言っても

ほんとにわからない。




お向かいさんも、不思議にも

思っていないのかな。


B&Bのお客様かな、くらいに(笑)。






天使さんと人間さん



坂道を歩いて、石畳の大通りに下りると

路面電車の停留所が見える。


図書館には、歩いても行けるけど


クリスタさんも一緒だし、たまたま

走ってきた電車に乗る事にした。



重たい鋼の塊感がある、古い形の

路面電車。


石造りのビルディングの間に張られた

ワイアに、架線が引かれて。


その下を、ゆっくりと

揺れながらやってくる。




線路の継ぎ目を車輪が越える度に

意外に軽やかな音を立てて

重い電車は、近づいて来る。


質量は、地上の重力に従って

重さ、の実感を与える。



アイザック・ニュートンが

林檎の落果を見た時と変わらない

G=9.8m/(s)2 である。



最近は、ニュートン、と言う単位で

それを表記している。



3次元的な概念なので、

例えば空間が歪み、重力場が

複数あれば


マクロレベル、例えば

地球の自転に伴う重力場の

計算値と実測値に差異が生じたりする。




それを観測すると、地球上には

異次元の空間が点在しているとする

論文すらあるくらいである。





ルーフィたちと、めぐたちの空間も


そんな、隣接する空間であるようだ。




「あ、電車、きたきた!」とめぐは

電車停留所で、挙手。



バスみたいだけれども、路面電車は

そんなふうに走っている。


時刻表はあるが、ほとんど曖昧なもので


日中は、15分くらいでやってくる、そんな感じの、楽しい乗り物だ。



時刻表が必要なのは、お仕事や

学校に行く人の朝、くらいで


別段、慌てる事のない人には

気にする事もない、そういう代物だった。



電車が、ブレーキを軋ませて停車する。


鉄の車輪に、樹脂のブレーキ片を

当てて制動をするので


振動して、大きな音が出る。



変な音だけど、機械っぽくて

好ましい、と言う人もいた。






空気仕掛けの扉が開き、乗車。


階段を2段昇る、木造りの床。



ワックスの匂いがする。




「さ、クリスタさん」と

ルーフィは、彼女をエスコート。


「これが、路面電車なのですね」と

クリスタさんは楽しそう。



天使さんになる前も、路面電車の

ない町にいたのかな?


珍しそうに、車内を見回している。



ステップをのぼるクリスタさんは

ちょっと不思議なくらいに軽快だ。


・・・・・そういえば。

クリスタさんは、天使でも人間でもない、と言っていたから

未だ実体が無いのかもしれない。


質量が無ければ、重力場の

影響は受けない。



異次元の空間を持つと言うのは、そういう事で



移動が高速で出来たりするのは

そんな理由もある。




グリーンのモケットで

ベンチのようなシートは作られていたけれど

その簡素で武骨なデザインは


かえって、故郷のような温かみを感じさせた。


でも、とりあえず空調が入っていて

一応は近代的ではある。


車両はそこそこ空いていたので、わたしたちは

並んで、シートに腰掛けた。




図書館は、駅に近い方なので

お買い物とか、ご用のある方とか


日常っぽいひとたち、それと

夏休みなので、どこかに行くのだろうか


カラフルな服装のひとたち。

楽しそう。



「わたしたちも、旅に出るのかなー」なんて

めぐは、そんな風に。



「旅かぁ。出かけるまでも楽しいのよね」と、わたし。



トラベルライター、なんて仕事をするとは思わなかったけど

その前からも、旅行はなんとなく好きで


あちこち出かけた。



出かける前に、プランニングしてる間が、一番楽しかったりするんだけど。







ふわふわ



電車が揺れても、クリスタさんは

かーるく、ゆらゆら。


わたしもダイエットしようかしら(笑)


なんて思うくらい、軽快だった。



あのくらい軽いと、ハイヒール履いても


ガイハンボシになんないわ(笑)


なーんて。



クリスタさんも、わたしも

ぺたんこの靴だけど。



もちろん、めぐは学生だから


そうだったりするけど。





階段とか、あるきづらいもん。





「あ、着きますよ」って

ルーフィは、クリスタさんをエスコートして。



2ステップの電車を下りる。




ワンコインを、料金箱に入れて。



透明なプラスチックの料金箱の入り口に

ベルベットのコンベアが、コインを


キャシュボックスに運ぶ様子を

クリスタさんは、不思議そうに

見ていた。


大きな瞳は、透明感があって。

のんびりとした表情なので


遠い、記憶の中にある

ノヴェルティな感覚、それを

思わせるような感じ。



ゆっくりとステップを降りて。



図書館の前、ペイウ゛メントは

柔らかい桜色。


街路樹が緑に生い茂る夏。


蝉の鳴き声が、そこかしこに。



木漏れ日、きらきら。




「さわやかですね」


クリスタさんは、白い夏帽子。

さらさらとしたサテン。



めぐは、ストローハット。

端っこがぱらぱらしてる、男の子みたいな。



夏、らしい。




わたしは、いつも取材で使っている

コットンの帽子。


地味だな(笑)。



でも、記者だもん。





ルーフィは、おばあちゃん特製の

パナマ帽。



すらりと背が高いので、よく似合う。





「大きな建物ですね」と

クリスタさんは図書館を見上げた。



ガラスの塔みたいに見える

図書館は

ステンドグラスがあったり、てっぺんに

太陽みたいなモニュメントがあったり。



ちょっとアート。


芸術っぽい建物だ。







シスターズ・アンリミテッド



もう、図書館は9時から開いているけれど

いつも、夏休みは自由出勤になっていて


勉強を一番にして、お手伝い程度でいいから、と

司書主任さんは、思いやりのある方。



それなので、エントランスから入る。



ひろーいフロアは、クーラーが無くてもひんやりと涼しい。


もちろん、クーラー入れればもっと涼しいけれど。



でこぼこの装飾タイルを模した床、LEDの壁面掲示板。


ステンドグラス。



凝った造形は、建築家さんがアート、として

がんばった結果だろう。




自動ドアから、第一図書室へ。



空港の金属探知機みたいなアンテナが、左右にあるのは

本についているRFIDを拾うためのもの。




正面左手に、緩やかな曲線を描いた貸借カウンター。


まだ、時間が早いので、人はほとんど居ない。




家族連れが多いこの図書館は、午後から混み始める。

夏休みは、朝から学生も来るけれど

大抵、上のフロアの学習室に直行してしまう。



家にいると、クーラーの電気代が掛かるので(笑)なんて理由だろう。


わたしも、学生の頃はクーラー好きだった。


今は、そうでもない。



年かな(笑)。




司書主任さんは、私達を見て、発見!と言う表情。




「いやぁ、3姉妹かと思った....。」と、にっこり主任さん(笑)。




めぐは「おはようございます。あの、主任、こちらはクリスタさん。わたしの...。」


そこまで言って困った(笑)わたしの天使さん、とも言えない。



「うんうん、そっくりだねぇ。いとこ?」と、主任さんは結構な誤解をしてくれて

めぐは助かった。



「それにしても、3人そっくりだね」と、それも意外なお言葉。



家族でない人から見ると、そう見えるらしい、と

初めて気づいた。





「本をご覧になるのなら、どうぞごゆっくり。」と、主任さんは

にこにこ。


めぐは、ちょっと困って「あの...主任、じつは、その....。ちょっと、

お休みを頂けないでしょうか。それで、代わりにクリスタを。」


と、主任さんに言うと、主任さんが今度はびっくり。



「えっ。...ああ、図書館は別にいいけど。そんなに忙しい訳でもないし。」



それは事実で、夏休みが終わる頃、子供たちで賑わうけど

貸借カウンターは混まない。


子供たちは、絵日記に書く天気を調べに来るのだ。



「クリスタさんを代わりに?...気を使わなくていいけども、でも、居てくれると

嬉しいね。夏休みだから、小さい子も多いし。」



児童図書のコーナーは、夏休みは子供たちで賑わうので

時々、めぐも手伝っていた。



お母さんが本を読めるように、赤ちゃんコーナーもあったりして。

絵本の読み聞かせも、人気だったりした。



「よろしくお願い致します」と、クリスタさんは澄んだ、明るい声で。




「いい声ですね。絵本を読んであげたら、ちいさい子が喜ぶかな。」



なんて、司書主任さんはにこにこ。




「めぐちゃんは、時間あるの?」と、主任さん。うなづくめぐを見て、



「それじゃ、すこーしだけ、クリスタさんにお仕事を教えてもらえると

ありがたいな」と。



「はい。ありがとうございます」と、めぐと、クリスタさん。



ならんでご挨拶すると、なんとかシスターズ、みたいな

歌手みたい(笑)。



That's the way of the world



めぐは、クリスタさんと

ふたりで。


ロッカールームに向かった。


その、後ろ姿を見ていると



「ほんとに姉妹みたいだ」と

ルーフィ。



「偶然かしら」と、わたしは

何気なく。




「うーん、わかんないけど。

一緒にずーっと暮らしてたから

似てくるのもあるんじゃない」と

相変わらず、アバウトなルーフィ。



「何か、曰くがあるのかも

しれないね」とも。



曰くなんて、きいたことないけど(笑)。



まあ、こっちのめぐは

わたしとは、似てるけど

ちょっと違うんだけどね。









めぐは、ロッカールームで

クリスタさんに、新しいエプロンを

奨めた。


グロス・ブラックで

オレンジ色で「としょかん」と

胸のところに刺繍がしてある、

いつも、見慣れてるそれ。



ロッカールームは、誰もいない。

静かで、白い壁。

グレーのスチールロッカー。



どこにでもある感じ。



「そのね、紐のところをループにして、首にかけるのね」と、

めぐは、自分がいつもしているように。


胸当てから出ている細い紐を

肩に回して、交差させて

横から、ループに通して。

背中でちょうちょ結びにする。




「こう・・・ですか?」


クリスタさんは、うまく紐が回せない。




「このエプロン、初めて?」と、

めぐは聞く。



「はい」と、クリスタさん。


ちょっと恥ずかしそうだけど、

天使さんだもの。



エプロンで家事、なんて(笑)


それはしたことないだろうな。(笑)





背中クロスが大変っぽいので

首のとこで、ループにして

くぐるようにした。



そういうふうにしてる子もいる。



今は夏休みなので、結構、みんな

休暇を取っていた。




もともと、図書館でバイトする子の

ほとんどは、カレッヂに行ってて

司書資格を取って、採用試験を待ってる、


そんな子がほとんどだったから

ハイスクールのめぐよりも

夏休みが早かった。


それで、ヴァケーションに

出掛けてしまっているのだった。




図書館そのものは、正規職員だけで


仕事はほとんど間に合う。



なので、めぐたちは

ほとんどインターンシップみたいな

そんな感じだった。





「うん、ステキね、クリスタさん」と

めぐは、にこにこ。


ふんわりヘアーのクリスタさん。

さっぱりショートの、めぐ。


ふたりで、にこにこ。



「さ、いきましょ!」


「はい」



ロッカールームから、短い廊下を歩いて


さっきの、第一図書室へ。





ほんの少しの時間だったのに

返却カウンターには、列が出来ていた。



「お待たせしました、どうぞ」と

めぐは、慣れた手つきで

コンピューターの、返却スイッチを押した。



返却と書いてあるのは、ディスプレイの画面なので


そこをタッチしてもいいけど

慣れた人は、キーボードのF1キーを押していた。




それを、クリスタさんは不思議そうに見ている。



「あ、とりあえず見ててね」と、

めぐはクリスタさんに言い

テキパキと作業。


返却の雑誌を、バーコードリーダーで読み取らせる。


すると、画面に雑誌名と

借りた人の名前、返却日が表示される。



簡単なデータベース検索だが

天使さんは、コンピューターを

見たことがないらしい。




不思議そうに、大きな瞳で見ている。




返却カウンターの向こうでは

銀髪のおばあちゃんが、にこにこ。

やわらかな表情で



「かわいいのね」と、めぐと

後ろにいるクリスタさんを見比べて


「よく似てる。お人形さんみたい」と

にこにこ。



めぐも、にこにこ。「あ、いえ・・・」

恥ずかしくなって、それしか言えなかった。


リーダーで読み取った雑誌の

無線タグに返却情報を書き込む。



雑誌を、ライターにかざすと

ぽん、と音がする。



面白い機械なので、クリスタさんも珍しそうに、眺めていた。。



「どうなってるのかしら?」と

つぶやきみたいに。



「わたしも、よくわからないの」と

めぐ。











Island in the sky



居並ぶ、返却カウンターの人たちが

とりあえず捌けた。



めぐが、コンピュータ処理をして、クリスタさんが

その本を返却カートに移す。



最初は、大きい本、小さい本、と

分類していたクリスタさん、だった。



途中で、それを返す書架がある事に気づいた。



「めぐさん、これは....書架に戻すのですか?」



「はい」と、めぐは答え、「ああ、そうですね。本の背中に貼ってある

分類コード、数字ね。その順番に並べて置くと返すの楽ね。」



郵便配達の順路表みたいに、カートを進める順番に

本を並べると便利なの、と


めぐは言った。



「でも、さっきみたいにいっぱい並んでるときは

とりあえず、並んでるひと、大変だから。重たい本持って

立ってるの」


だから、先に処理しちゃうのね。



そう、めぐは言った。


クリスタさんは「自動で処理できたらいいですね。」と、

なんとなく。



めぐは思った。



.....。自動。



入り口のRFID検出機で、本の情報は読める。

だから、貸し出ししていない本が通ると

チャイムが鳴るもの。





.....似たような仕掛けで、できそう!。



なんとなく、ひらめいたりして(笑)。




ものを考えるのは、楽しい。


作るのも。



ソフトウェアを作るのは、女の子向き、かもしれない。



体力も図面もいらない。


発想と言語能力だけ、だもの。





「ありがと、クリスタさん!}と、めぐは

アイデアをもらえたことに感謝した。



クリスタさんは「....はい。?」と、


ちょっと意味が分からない。




「ああ、面白い事思いついちゃった!みんなが並ばなくていい仕組み。

クリスタさんが教えてくれたのよ。」



「....?」クリスタさんは、やっぱり訳分からない(笑)。


でも、なんとなく仕事が創造的で面白い、って事は

感じ取れたみたい。




事務的職業みたいな司書、でも

考え方ひとつで、楽しくもなるし

創造的にもなる。



本が好きな人が、もっと好きになってくれるように。


それは、最初から変わってない。



機械の言葉



プログラムも、仕掛けをみなければ

魔法、に似てるのかしら。


そんなふうに、めぐは思った。



「貸出は、F2キーですか」と、

クリスタさんが、柔和に

たずねてくる。



いま、お客さんはいないので

その間に、少し仕事を覚えよう。


そんな感じかしら。




「そう、F2、を押してね。」

と、めぐはにこやかに。


「どうして、画面に触れてもいいのですか?」


と、クリスタさんは素朴な疑問。



「それは、画面のその場所を触ると、F2キーを押したのと

同じスイッチが入るの」と、めぐ。



「スイッチって、明かりを点ける、あれ、ですか?」と、クリスタさんは

幼い子みたいに聞くので

めぐは、愛しくなった(笑)。




「はい。コンピューターってね。

スイッチが一杯入ってるの。

それで、点けたり消したりして

言葉や数字を、人間のね。

それを覚えていくの。」と

めぐは、学校の授業で習った事を

そのまま言った。



「ことば・・・・」クリスタさんは、少し思案顔。



「そう。たとえば数字のゼロ、はね

コンピューターさんは、スイッチをひとつも入れないの。

一、は、ひとつ入れるのね。」と

めぐは、数学の2進法の授業を

思い出して。



「2は、ふたつですか?」と

クリスタさんも楽しそうに。




「はい。ふたつのスイッチで、でも

ひとつめのスイッチは切って。

ふたつめを入れるの。」と、めぐ。



「両方入れると?」と、クリスタさんはクイズみたいに。


「4かしら?」と、めぐも少し不安げ(笑)。



「そうなんですね。それで文字は、どう覚えるのですか?」と、クリスタさん。



「その数字をね、組み合わせて文字を覚えるの。例えば、記号の?、は0133、と言うふうに辞書があるのね。

そのキーを押すと、辞書が数字の0133、と翻訳するのね。」と

めぐは、こないだ使ったキーの

コードを答えた。





「外国語みたいですね」と、クリスタさん。



「はい。魔法みたいでしょ?」と

めぐはにこにこ。




・・・・・そういえば、ルーフィさんの

書く魔法陣も似てるって。



そんなこと言ってたっけ。



ふと、めぐは

イメージで、ルーフィを空想した。



遠くから来て、また、遠くへ帰って行く。



不思議なひと・・・・。


彼の世界は、一体どこなんだろう。



それは、未だ謎だった。















もうひとつの恋物語



「できるの?それは助かるなー」

司書主任さんは、めぐのアイデアを聞いて喜んだ。


貸し出しは別にして、返却処理は自動にしたかったのだ。


この図書館は、夜間返却ポスト、と言うものがあって


閉館時間でも、本を返せるようにポストがある。



その返却処理が大変。



朝、ポストの中が満杯になっているので


コンピュータに一冊づつ掛けて、書架に返す。


それだけで2時間くらいは掛かってしまう。




めぐのアイデアでは、図書室入り口にあるアンテナと

似た仕組みで、本の図書コードを読み取ると

貸し出し情報を本のRFIDタグから消す。



コンピュータのデータベースから貸し出し情報を照合し、

あれば、消去する。


それだけの事。



ポストの左右にアンテナを張っておけば、せいぜい1冊か2冊の情報を

読み取るのにエラーはないでしょうから。



めぐは、そんなふうに想像した。




その情報を受信したら


RFIDタグに返却情報を書き込めばいい。



割りと、そこは簡単。





主任さんは「それね、自動にしたいと思っていたの。

でも、お金がとってもかかるって聞いて。

できるなら、1階のカウンターも自動にしちゃえば、楽でしょ。」




めぐは、ちょっとひらめいた。


「それなら、ポストのも1階で自動処理にしちゃうのも.....。」



返却ポストに入った本を、入り口から持ってくれば

自動ドアの横、アンテナを通るから

ポストにアンテナを作らなくてもいい。



本を持ってくるのは、開館前だから

その時だけ、ソフトウェア・スイッチで

返却情報を書き込めばいいだけ、だ。



普段はスイッチを切っておけば、受信アンテナだけになる。





「なるほど。それだとアンテナ代がいらないね。」司書主任さんは

名案ににこにこ。





めぐは楽しかった。



役に立つ工夫をすること、そんなことを

考えるのは、ちょっと楽しい。







「おはようございます。」

さわやかな声が、高いほうから聞こえてくると

めぐは思った。



めぐは、知らない人だけども....。



司書主任さんは「ああ、ひさしぶり」。



その青年は...そう。めぐを、かつての人生(笑)で

デートに誘った、司書主任さんの甥、映画作家さんである。


めぐは、映写技師さん、って呼んでいた(笑)けど


めぐの、2度目の人生では、その事が何故か起こらなかった。

それは、たぶん、めぐが魔物に襲われなかったせいで

快活な女の子になっちゃったから(笑)。ちょっとした誤解だけど


恋愛ってそんなもの。



その、映写技師さんで

今のめぐは、もちろんその事を知らないし


知っているのは、ルーフィと、Meg、それと神様。


それと、これを読んでいるあなた(笑)くらいである。






First site



めぐも、もちろん

映写技師さんも

その、最初の人生を

覚えてる訳もない(笑)。


でも、彼の好みの女の子は

魔物と関係ないから


当然、変わっていない。



めぐと一緒に、なんとなく会釈をした

クリスタさんは

めぐに似ていて、それでいて

おとなしくて従順な、そんなふうに見えたのだろうか。


もちろん、天使さんだから

魅力的なのは、言うまでもない。



ところどころ、ニキビが出たり

蚊に刺されたりして(笑)

夏らしく、生き生きとしている

めぐ、に比べて


そうした生物的な跡がまったくない

クリスタさんは、とても美しく見えた。

(笑生き物ではないので当然だが、美とは、そんな見方もあったりもする。)





映写技師さんは、クリスタさんと、めぐ、と見て




「よく似てらっしゃいますね。あの、お茶でもいかがでしょうか。」とか(笑)。



それまで、めぐの事を

図書館で時々、見かけてたのに。


そんな事を言った事はなかったから



彼の目的は、クリスタさんだろうか(笑)。


わかりやすい人である。




「あ、あの・・・・」と

クリスタルさんは返答に困る。


天使さんだから、欲はない。

青年と付き合うつもりは全くない(笑)。

もちろん、元悪魔くん、いまはにゃご、を

ずっと見守るためである。



それが、天使さんの愛なのだ。



でも。



めぐは、いい子だけど


こんなにあからさまに、女の子を誘う

映写技師さんに、ちょっと・・・・(笑)。


ふたりだと誘いやすい、それもあるだろうけれども



クリスタさんは地上の天使さんだから

人間にとっては魅力的。でも

それは罪つくりである。


永遠に成就しない恋、なのだから。



ひょっとすると、にゃご、みたいに

転生すれば恋は叶うかもしれないが・・・・・。





好き嫌い



わりと、男の子の方が

女の子の好き嫌いを

恋愛について、言ったりする。


面白い傾向で

霊長類、つまり

人間のお友達くらいは

そういう雄が主体で


他の動物は、概ね

雌が選択権を持っているけれど

でも、来る雄の中から選択する。



つまり、人間は

それだけ、選択について

自由だ。






めぐはルーフィが好きなので

別段、映写技師さんが

クリスタさんに興味を持っても

なんとも思わない。




過去のいきさつについて、知らないのだから

当然である。



でも、そのいきさつを知っている


ルーフィとわたし、Megは、釈然としない(笑)。




「天使を誘惑するなんて。」


と、わたしが言うと、ルーフィは


「フレンチポップスのタイトルみたいだね」と笑う。



「冗談じゃないわよ、まったく。

こないだ、めぐを誘っておきながら。」





「それは、ほら、神様のせいで

無かったことになってるから」と

ルーフィ。




「それにしたって、軽いよ」と、わたし。



「だって、めぐちゃん自体が変わってしまってるんだもの。

最初から、あの、元気いっぱいの

台風娘なんだから。」と、ルーフィ。



「人柄は同じじゃない」

と、わたしは(怒)。





「ま、恋心なんて不条理なものさ」と

ルーフィは、シャンソンみたいに。

イヴ・モンタンの真似っぽく(笑)。




お気楽魔法使いめ(笑)。





映写技師さんは、映画鑑賞会を

開くつもりで、司書主任さんを

訪ねてきたらしい。



そのあたりは、めぐの最初の人生と

おんなじだ。



「どうしてなんだろう?」とわたしはつぶやく。




「まあ、同じ人間の考える事って

そんなには変わらないから。

魔物が関係ない映写技師さんは

ふつうに映画を作ってる。でも

めぐちゃんは、魔物に関わったから

見た目の雰囲気が少し変わった。

そのぐらいの事かな。クリスタさんが

ここに来るのは偶然だけどね。」と、ルーフィ。




「神様は、天使さんが人間界に

いる事をお許しになってるのかしら」

と、ふとわたしは思う。



「さあ」と、ルーフィ。


そして


「許さない、とすれば

何か起こるかもしれないね。」と。








まあ、そのあたりは

例えば、映写技師さんも

この世界に魔物が居なかったせいで

大胆になっているのかもしれなかった。



魔物が居た頃は、ひとの心にも魔物が棲んでいたから

女の子でさえ、自分を偽って高く売ろう、そんな世界だった。


女の子雑誌の恋愛コーナーを見ると



「お金持ちでイケメンの彼をゲットする方法」(笑)


とか、つまりは人騙し(笑)の手法ばかりが書かれていたりした。




まあ、悪い大人が書いてたんだけど。




それなので、映写技師さんのような青年が

女の子に恋したとしても慎重にならざるを得なかった。


傷つけられたりしたくないもの。




そんな訳で、以前の映写技師さんは、従順なめぐを好んだとしても

おじさんを通じて、デートに誘ったりしたけれど


今、神様が粛清した世の中では

魔物は、人の心に棲んでいないから


そう臆病になる必要もない。



めぐが台風娘(笑)なのも、そのせいだけど。





「ま、いいことなのさ。伸び伸びと恋でもなんでもすれば」と

ルーフィは、楽しそう。





「ルーフィはどうなの?」と、わたし。




「どうって?...ああ、僕はここの世界の住人じゃないもの」ルーフィは、疑問形。





そっか。



わたしは納得。



わたしたちの世界は、神様が粛清しなくても

ほどほどに欲がある人が居て、それなりに暮らしている世界。




魔物が心にいない、か、どうかは知らないけれど(笑)。




そんなに世の中も住みにくい訳でもなかった。



経済は相場師中心で動いてもいなかったし

お金持ち中心でもなかった。



為替レートは固定だったし、金融市場も

国内だけだったので

銀行は、国家が保護して

産業をバックアップしていた。


そのおかげで、ヘンに競争しなくても

平和にみんな生きていた。





めぐの世界は、ひょっとすると

まだこれから騒乱が起こるかもしれない、そんな風に

わたしは思ったりもした。




相場があるなら、結局損をして不幸になる人がいるから。










「生まれ育ちで、後の性格が決まるなんて.....。

過去に戻ってやり直したくなるわ。」と、わたし。



ルーフィは、笑って「僕らは、時間旅行者だから。

そう思うけど....そうだ。面白いオモチャがあるよ。」


と、ルーフィは、とても小さなメモリーカードを取り出した。


「なにそれ?」と、わたしは、ルーフィのてのひらをよく見る。




「これはね、未来から持ってきた量子コンピュータさ。

ニュートリノ通信を併用して、量子テレポーティングで

高速超通信ができる。」


ルーフィはにこにこしながら。


よく分からないけど(笑)。



「光速を超える、と言う事は

アルバート・アインシュタインの相対性理論だと

時間が逆転するのさ」



と、ルーフィはにこにこ。


そんなバカな(笑)と、わたしは思った。


理論的に、計算でそうだとしても。


生物は代謝で生きているから、それを逆転はできないと思うけど....。



「そうだよね。でも、通信だったらできそうに思わない?データの入れ替えだもん。」

と、ルーフィは言った。そして、その量子コンピュータに

データを送った。



「何をしたの?」と、わたしは????(笑)。




「この中の、メモリエリアからね。もう1台の量子コンピュータに

通信でデータを送ったのさ。もし、光速を超えていれば....。」



転送時刻が逆になっているはず。



ルーフィはそう言った。



「それで、どうするのよ。」と、わたし。



「過去の自分に通信するのさ。」


と、ルーフィは楽しそうに言った。





魔法・量子力学



「それでどうなるの?」と、わたしは

ルーフィに答えを求めた。



ルーフィは、量子コンピューターの

データを見ている。


「僅かに時間が戻るようだね。

データの上では。」



「よくわかんないよ。」と、わたし。




ルーフィは、にこにこして

「ほら、インターネットだって

地球の裏側まで、情報を送るけど

あれは、順繰りに送ってないでしょ。


伝わってるだけで。


暗いとこで、ライト点けると

遠くが明るくなるけど。


点けたり消したりすると、一瞬で

向こうでも同じ事が起こる。」




「あたりまえでしょ」と、わたし。




ルーフィは、にこにこ。



「そう、それを符号にすれば光通信になるけど、量子でするのが

これ、なの。



まあ、大昔に送るのは無理だろうけど。」









魔法・4次元



「まあ、記憶ってのも

これに似てるよね。



青空を見て、気持ちいいって

思う人は多いけど


人によって違う。



青空ハイキングで迷子になったら

淋しい気持ちを思い出すかもね(笑)。




そういうのを、一瞬で連想するのはさ、


これに似てるでしょ?



遠くの事象に、一瞬で。」






と、ルーフィは

楽しそうに言った。



「僕らの時間旅行も、これに似てるね。

元々の次元から、どこかの時間に

リンクする。



時間が伸び縮みするって言うけど

スピードが速ければ、縮むもん。

気分的に。



量子コンピューターはさ、科学で

魔法を実現してるんだね。

テレパシーの代わりに、携帯電話が出来たように」




ルーフィは、楽しそうに科学の話をした。




「いつか、わたしたちみたいに

時間旅行する機械が出来るの??」


と、わたしは聞いてみた。




「当分出来ないと思うけど。

エネルギー保存法則、から見ても。

ただ、通信ならできる事は

今、証明されたね(笑)」




そう言っている間に、めぐは

クリスタさんと一緒に


今度は、書架の整理。


返却本をカードに載せて、

元々あったところに戻す、地味だけど大切な仕事。




「本の背中に、分類コードがあるでしょ?その番号順に書架があるの。


空いているところが、本を戻す所なのね。」




そう言いながら、めぐは

なんとなく、これからの旅の事を

空想していた。


なんたって、時間旅行はじめてだもん。


天使さんがずっと護ってくれていて。


それで、魔法を使えるように

守護神のまま、離れてくれた。



・・・・・でも、そうすると

旅行先では、護られていないのね。



ちょっと、そのことに不安を感じためぐだった。



向こう、魔物はいないのだろうけど。




ルーフィさん、守ってね!。




そんなふうに思った。






「本の返却って、借りた人がなさるのかと思っていました。」と

クリスタさんは、常識的な事を言う。


「そう、学校の図書館は今でもそうですね。貸し出しカード書いて

それを、本のカードと入れ替えて。

そのあと、本を自分で返して。

この図書館も、前はそうだったんだけど、本が増えちゃって

カード置き場が混雑しちゃうし、返す所がまちまち、になっちゃって。」



分類コードの下3桁は、書架の番地になっていて

番号順に左から並ぶようになっている。


天使さんと絵本



書架を整理しながらも、時間は

経過する。


「はい。図書館の仕事はだいたい、これで全部。おつかれさまでしたー。」と、めぐはにこにこ。


「ありがとうございます。あの、絵本の読み聞かせって、さっき聞いた・・。」


と、クリスタさんは覚えてた。



司書主任さんが「声がいいから」と

推薦してくれた、児童図書館の


ちいさな子へのサービス。



絵本を、読んであげたりするのだけど



お母さんが、本を探す間とかに

ちいさな子が、退屈しないように、って

考えたサービス。




3階のシアターで、子供向けの

映画を見せたり。



児童福祉のような事もしていたのは

もちろん、公共サービスという

側面もある。



「あ、じゃ。行ってみましょうか。

1階だもん」と、めぐは

カートを押して、カウンターへ。



主任さんはいなかったけど

司書さんの仲間に「ちょっと、児童コーナー見てくるね」と言って。



うん。と、カウンターの仲間がうなづいて。




児童コーナーへ向かう。





そこには、以前と同じように


チャイルドマインダーが

ちいさな子と一緒に

本を読んでいたり。




「楽しそう」クリスタさんは

にこにこ。


天使さんだから、幸せそうな

ひとを見てるのが好きなのかしら。。



そんなふうに、クリスタさんを見て


めぐは思った。




オープンスペースの、その場所は


児童図書館の、奥にある。




靴を脱いで、子供たちが


転がってもいいように。

クッションフロアになっていて。



大きな、ぞうさんの形のクッションとか、キリンさんのとか。


子供達が喜んで、じゃれている。




クリスタさんとめぐが、コーナーに入ると



ひとりの子が、絵本を持って

クリスタさんに近づいて。


じっと、彼女を見上げた。



「ご本、読むの?」と、

クリスタさんは、綺麗な声で言う。


その子は、まんまるの笑顔で


うなづいた。



「はい。それでは」と


クリスタさんは、フロアーの隅のソファーに腰掛けて。


ひざに、その子を乗せて。



「ゆきのひとひら」と言う

その絵本を、読みはじめました。




「スノー・フレイクは

こなゆきのなかで、めざめました。


まっしろな、どこまでもつづく

ゆきのはらへ。


ゆっくり、ゆっくりと


おそらから、まいおりるのです。




少し、難しい言葉のところがあって

絵本、と言うよりは

児童文学の、その本を

クリスタさんは、ちいさな子が

喜んでくれるように、やさしく読みました。




綺麗な澄んだ声なので、マインダーさんも


しばし、その声に心惹かれました。




めぐは、思います。



「歌を歌ってあげたら、みんな喜ぶかしら」




とても綺麗な声なので、メロディにのせたら

さわやかな風のよう。



そんなふうに思った。





クリスタさんは、絵本を読み続けます。



「まっしろな、おかのむこうに


おみみが、ぴょこん。



さく、さく、さく・・・・・。



なにかしら、と、スノゥ・フレイクは


おもいました。



ゆきうさぎさんでした。




おくちを、もくもく。


あかいおめめは、きらきら。




はじめまして。



そう、スノゥ・フレイクはこころで

つぶやきました。




ゆきうさぎさんは、おみみをぴょこ。




はじめまして。



ゆきうさぎさんは、そうおへんじしたのです。







「うさぎさん、かわいー」と、



クリスタさんのおひざで、絵本を読んでもらっている

その子は、にこにこしました。



その声を聞いて、みんなが集まってきます。



おとなりに、ひとり、ふたり・・・・。




いっぱい、ちいさな子が集まってきました。







天使さんの歌



ちいさな子は、めいめいに

好きなご本を持ってきて。


「よんでー」

「これ、よんでー」


(笑)



なので、ちょっといっぺんに読むのは無理。



「じゃあ、読書室にいきましょう」と


と、めぐは、小部屋になっている


読書室を、クリスタさんに奨めた。


ふつうのおうちの、リビングくらいの

広さだけど

図書館で見ると、なんとなく狭く

感じるのが不思議。



東向きで、明るい白い壁の

がらんと何もない、ちいさな子供と

絵本を読むための、スペース。

時々、お母さんが、お昼寝したりしている(笑)。


それはそれで、いいこと。



この図書館は、そういう場所。


みんなが、楽しむところなのだ。




子供たち、めぐ、クリスタさん。



そこに入ると、扉を閉じて。



図書館だから、静かにしてあげないと

本を読む人が、かわいそうだから。



それで、タイプライターを打つ人のために、最初は考えられたそう。



今は、みんなコンピュータになったから


それほど、音を気にすることもない。



それなので、子供達が騒いでも

大丈夫なように(笑)。



こういう時は、お部屋に

連れて来る。そんな感じ。




「なにして遊ぼうか?」

めぐは、楽しそうだ。


子供達も、絵本でも、なんでもよくて。


遊びたいのだ。



ちいさな子供達は、いろんなひととふれあって


いろんなことを、覚えていく。


時には、いたずらをして

叱られたりするけれど



お母さんがやさしくしてくれれば

そんな時、安心したり。


ちょっと、いたずらしてみて

お母さんの優しさに甘えるのが

嬉しくて、そんな事をしたりする。


そうして、許してくれる優しい人が


そこにいるって覚えていく。


大切な人だって、思うのだ。




恋愛も、なんとなく似ている。

優しいその人が、わたしを

許してくれる。ささえてくれる。


そんな時、その人を

忘れられなくなる。


そういう恋もあったりする。





「ゆきのひとひら」の

続きを、クリスタさんは

読みはじめた。


「ゆきうさぎさんは、おみみをぴょこ、としてから。

さくさくさく。



丘のむこうがわに、あるいていきました。


ふわふわの粉雪の上に

かわいい、あしあとがちょこ、ちょこ・・・。」



クリスタさんは、自然に

クリシェの、きれいなメロディーを

口ずさんだ。



無伴奏の、バロック音楽のように

典雅な響きを感じさせる歌は

天使さんらしい、心を惹かれるものだった。



子供達も、めぐも


すっ、と


歌声に引き込まれた。




眠ってしまう子もいたり。



時間を忘れてしまうような、ひとときだった。



天使さんのお仕事



歌声は、とても微かなもので

爽やかな風のように、空間を満たした。


「すてきね、クリスタさん」と

めぐは、笑顔でそういった。


クリスタさんは、すこしはずかしそうに

俯いてうなづいた。




「おうた、うたって?」と

こどもたちは、クリスタさんに戯れた。



クリスタさんが、天使さんだとは

どの子も知らないだろうけど

歌声の美しさは、感覚で判るのだろう。



分類すると、対数目盛りのグラフで

きれいな幾何学的図形になる

その音階と和音。


不思議なものだけれども

特別、勉強しなくても

こどもたちは、おそらく

普遍的に感覚を持っている。



それを、時間の流れに沿って並べるメロディー、時間に関係なく鳴らすとハーモニー。



ハーモニーとメロディーは、同じ音階とは限らないけれど

調和する音、そうでない音があったりする。



それも分類なのだが、根拠はやはり数学、幾何学的な集合であり


物理的に言えば、周波数、と言って

一秒に何回振動するか、で

分類した数値の事だが


それが、たとえばオクターブで

値が倍になる。



偶然ではなく、そうして

音階を作って行ったのだが



そのオクターブは最も調和的響きで


その次に、5番目の音と協和的である。



それは、分類でも美しい形だし

感覚的にも美しい響きなのだ。




神様の領域と比喩されるが

物理はそれが、自然であると

定義している。



自然だから美しく聞こえるのである。

 

その感覚は、自然界で生きてきた

長い時間の中で記憶されてきたものだ、と

進化生物学は教えてくれている。。




天使が、人間の生理に沿った

歌声を歌えるのは、少し不思議な事だけど


天使も、この3次元空間では

物理の法則に

沿っている。



そういう事なのだろう。




近年語られるゆらぎ理論、なども

自然法則を象徴しているもので



周波数が高くなるほど、ゆらぎが

小さいのは当然で


高い周波数は、小さく軽いものが

振動するからなので

大きな重い物は、ゆっくりとしか動けないので



ゆらぎも大きくなる。




それも、時間の経過に沿って

観測した結果である。


時間は、かくも支配的なので

時間旅行は、とても

魅惑的である。






子供たちは、とても楽しそう。


歌を歌うだけの事で、そんなに喜んでもらえるなら。




音楽は、心を解放する。

時間の流れに沿って、音の流れを追って行くのであるし

ふつう、快い表現をするものだから、で


たとえば、子供たちが自ら

音楽を選んで聴く事はそんなにないから


時々、音楽に親しむのはいい事なのだろう。






「いいよね」と、ルーフィは、クリスタさんの歌を聞いて、そう思った。



わたしもそう思う。



子供たちが、幼いとき


若い親は、扱いが分からないで

ちょっと、子供にとって辛い扱いをしてしまう事が

計らずともあったりする。



そんなとき、大人がヘッドホンで音楽を聴いて

解放されるような、そんな事を

幼い子はできないから


快い音楽を、時々聴いて。


その快さを記憶して、育っていけば


傷つく子も減るのかな、なんて、わたしは


元悪魔くん、いまは、にゃごになっている

彼の事を連想したりした。




もし、クリスタさんに、映写技師さんが

恋心を覚えると(笑)



ふたりはライバル、に

なっちゃうんだけど。




もちろん、クリスタさんが天使だと言う事は

誰も知らない事だし、誰も信じないだろう(笑)。


ニンゲンの姿をしていても、心は天使さん。

そういう人は、ひょっとするとクリスタさんのような天使さん

なのかもしれない。


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