75
めぐは、車掌室へ行こうとして
個室、Quartetから
廊下へ出た。
走りだした列車は、結構揺れるのだけど
それは、線路がポイント、と言う
接続部分を超える時に
レールの曲がっているところ、継ぎ目を
乗り越えてゆくから、それで
揺れるので
リサは、おじいちゃんに「レールに乗った人生は嫌」なんて言ったけど
レールにだって、継ぎ目も揺れもあるのだ。
もちろん、それはリサの反発心からの言葉
だったり
するのだけど。
揺れる車両、遅れているので
少し急いでいる、そんなせいも
あるのかもしれない。
どこかにつかまらないと、歩けない。
廊下へ出るタイミングを見ているめぐの目前を
身なりの整った婦人が、失礼、と言って
通り過ぎる。
若いめぐに対しても、礼儀を持って接するその婦人の
後ろ姿に、緊張はあったが
傲慢さ、は見られない。
足早に、車掌室へ。
客室からドアを隔ててデッキへ行き、後に
最後尾の車掌室へ。
磨り硝子の向こうで、にこやかに話をしている
車掌、つまりリサのおじさんに
声を掛けた。
「明日の朝、乗り換えに間に合うでしょうか?」
故障で、出発が10分くらい遅れたので
乗り継ぐ列車の指定をしている、との事。
ふつう、長距離夜行列車には
途中、途中で
停車時間が長くとってあるから
心配はないのだが
そういう事は、時刻表には書いていない。
いろんな考え方があって
そういうものを無駄だと言う人々も居る(笑)。
公共の、国鉄なので
意見を言いたい、そういう人々も居る。
でも、安全の為にとってある時間なので
そういう専門的な事は、専門家に任せた方がいいのだけど。
人々の意見をまとめるのは、結構難しい。
リサの大学進学の費用が無駄だ、と
言う人が居たりするように(笑)。
意見はいろいろ。
でも、この国の国鉄は
税金で運営している訳ではないので
意見に左右される事はなくていい、のだけど。
車掌として、リサおおじさんは
「間に合うど思うがの、万一の時は
待っててもらうとが、手配はします。
」と言って、列車の指定券を見せて貰って
メモしていた。
無線で「1れっさ、車掌です。明日の朝、乗り継ぎの乗客あり。遅れのサイ、配慮願う」と。
しばらくして、「1列車車掌、指令了解。
配慮する。」と。
それを聞いて、婦人は安堵の表情。
ありがとうございます、と
丁寧に礼を言った。
実際には、先のことなど解らないのだけれども。
人間は記憶を元にして推測する
そういう機能があるから
何時間も先の予定を
シミュレーションして
それに合わせようとして
苦しんだりする。
神様や、天使のように
時間に支配されない者からすると
ちょっと不可解な感覚だったりする。
めぐは、人間だけど
魔法使いだから、その悩みも解るし、時間を変えてしまう便利さも解る。
どちらも解るけど、でも
人間らしく、時間に沿って生きるのも
それもいい思い出になるような、そんな気もしたりもする。
なんでも魔法で解決してしまうと、つまらないようなそんな気持ちにもなる(笑)。
ミシェルは、その
おじさんの車掌さんぶりを、興味深く見ていた。
婦人がデッキの向こうに行ってから
「お客さんも、いろいろあるんだね」と。
少年っぽい言葉で。
おじさんは、車掌からミシェルの叔父、に戻って
「いろんなひど、おるの」。
それぞれに、理由があってしていることだから、と
優しい笑顔でそう言った。
ミシェルは、うなづく。
少年の笑顔には、どこかしら青年の憧憬のような
雰囲気も見えた。
「ミシェル」めぐは、デッキから声を掛けた。
ミシェルは、なんとなく身構えた。
「どうしたの?」と、めぐは不思議(?)。
「リサ姉ちゃんみたいに怒るのかと思った」と、ミシェル。
ちょっと、上目で、恥ずかしそうに。
色白、細面、短い髪はばさばさで。
いまふうかもしれない、なんて
めぐは思ったけど
それは、あんまり好みじゃない(^.^;)
「うん、でも....怒られるのって嫌じゃない?
思い通りにさせて、って思うでしょ」と
めぐがそう言うと、ミシェルは
普段、おとなしい少年なのに
わが意を得たり、と
「うん。おねえちゃんの思い通りに動くのって無理だもん。
何考えてるか分からないし」と、ミシェルはにこにこ。
生き生きとした若者らしくて。
普段は、気を使ってるんだ。って
めぐは、ミシェルの気持を思ん慮った。
そういうミシェルの気持は、なんとなくめぐにも理解できる。
お姉ちゃんが、ミシェルの事を大切にしてくれているから
お姉ちゃんのために、おとなしい子でいてあげよう。
ミシェルは、お姉さんへの思いやりで
そうしている。
少年なりに、行動力はもっているけれど
お姉ちゃんの心配を呼ばないように、と抑えている。
相互の思いやりだと思う。
めぐも、そういうところはあるけれど
誰にでもある事だろうと思ってて。
おじいちゃんや、おばあちゃん、両親が
心配しないようにと、抑えているところがあって。
それも思いやり。
リサもまた同じで、機関士のおじいちゃんの
気持を大切にしていて
ずっと、幼い頃からそんな風に「誰かのため」で
行動してきたから
自分自身の為に行動する、って
なんとなく恥ずかしいような、そんな気がして。
今は、そのおじいちゃんの願いが
果たせなくなりそうだったから、困っただけ。
ミシェルは、それを気にして
リサおねえちゃんを探しに来た。
ひとりで鉄道に乗って....とは言っても
中学生くらいなら。
大丈夫かな(笑)
めぐは、そんなふうに思った。
「いつも旅行してるの?」と、めぐはミシェルに尋ねる。
ミシェルは頷く。「僕も、国鉄は無料だから」と
ちょっと恥ずかしそうに言った。




