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デート
その日の朝も、普通に目覚めたわたし。
きょうは、土曜なので
めぐの学校も、おやすみ。
だけど、図書館は開いてるので
午後から、司書の仕事に
めぐは、向かう。
土日は、休んでもいい事になっている。
めぐは、学生だし
図書館は月曜休みだから
そうしないと、一日休める日、が
なくなっちゃうから、って
主任さんが、計らってくれるから。
でも、たいていめぐは
土日、図書館が忙しいから
お手伝いに行っていた。
それで、今日は「デート」だからって(笑)
主任さんが、休みでいいよ、と言うのに
めぐは、仕事をします、と言った。
ちょっと、デート、なんて
言葉が恥ずかしかったのもあるから
お仕事、と言う事で
図書館に行きたい、そういう気持ちも
あったりもした。
やっぱり、ルーフィの事が
好きだったので
本当は、断りたいと
そう思ってたけど。
でも、断るのも悪いし、ただ、映画見てくださいと
言われるだけなら、断らなくてもいいかな(笑)
なーんて。
そんな、まあ
フクザツな気持ちで(笑)
きょう、を
迎えためぐだった。
その話を、聞いたわたしは
「モテるわねぇ」と冷やかしたりして
自分の分身(笑)が
モテるのは、悪い気はしない。
そのうち、ルーフィは
いなくなっちゃうんだし。
それなら、こっちの世界で
いい人を見つけてくれた方が
安心、な
そんな気もした。
その話を、ルーフィにもしたけど
「そうだねぇ。それはいいかもしれないね。」と
返事しながら、ルーフィは別の事を考えていた。
天使さんの、元悪魔くんとのおつきあい(笑)には
時間が掛かる。
その間、神様が待ってくれるだろうか。
神は気紛れな一面もある。
それに....
めぐに、魔法を使う能力が芽生えてくる、のは
当然である。
今のMegと同じ血統なのだから。
それで、天使さんが
めぐと一体で居づらくなるのは、当然で
別離する事になったら、神は
それを好機として
めぐの人生のリセットを提案し、天使の帰還を
命ずるのではないか?
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いくつかの世界
しかし、もし、「リセット」が行われなければ
めぐの記憶、それと
おばあちゃんの記憶に
異次元からの来訪者、つまり
ルーフィとMegの事、とかが
残る事になり
神様としては、それを消去したいと
思う事だろう。
それが、後々のめぐの
人生に影響を与えると、問題になる。
と、ルーフィは推測した。
しかし、めぐが魔法使いとして
時空を旅する能力を持つ、となると
リセットする意味はなくなる。
なぜなら、自身が異次元を旅する存在になるから、でもあるし
魔法使いは、魔界に近い存在である。
天界の盟主であろうと、一存だけで
魔法使いの人生を左右する事は出来なくなるから、だ。
その魔法使いの世界、などと言うものは存在せず
どこにも属さない異端の者、と言う事になる。
その雰囲気が、天使さんに相容れない物であることもまた、事実である....。
いつか、めぐ、と
天使さんは別れる事になる。
めぐ、の気持次第だけれども.....。
魔法使いとしての人生を進むなら、天使さんとは別離。
たぶん、天使さんは天に戻る事になり、にゃごの転生を
見守る事もできなくなる。
でも、そうでないなら
神様は、めぐの時間軸を逆転させて
赤ちゃんの時から、人生をリセットさせて
初めから無かった事、にするだろう。
そうすれば、天使さんと悪魔くんの出会いも無かった事になる。
少なくとも、元悪魔くんは、そのまま悪魔くんで....
魔界から出る事もないだろう。
そんなことを、めぐが考えているかどうかはわからない(笑)。
きょうは、とりあえず、楽しい初デート(?)
ルーフィとは、いつも一緒なので
それをデート、なんて思う事はなかったけれど。
改めて誘われるのは、なんとなく緊張も感じたり。
朝
図書館へは、お昼少し前に着くように
めぐは考えた。
几帳面な性格なので、遅刻をした事はない。
そういう所は、司書向きである。
着るものとかにあまり、深い拘りもなく
簡素で綺麗なもの、愛らしいものを好んだけれど
そういうところも、じつは、図書館のアルバイトに採用されるには
大切な部分だったりする。
文化的な場所なので、相応の身だしなみができる人が向いている訳、だ。
今朝も、デートに誘われたとは言え、いつもの服装で望む。
別段、その方に失礼でなければ良い。
もともと、ルーフィが心にあるので
誘われたとしても、その人と恋愛になることは無い、と
めぐは思っていた。
クロワッサンド、めぐのお母さんの発明した
楽しい朝食を、みんなで楽しく頂いた。
「めぐちゃん、かわいいものね。いいなぁデート」なんてわたしが言うと
めぐは、ちょっと恥ずかしそうにうつむき加減になった(笑)。
クラスメートと話してるみたいで、わたしは楽しい。
わたしのハイスクールだった頃、ってデートなんて
なかったなぁ(笑)。
とか思いながら。
やっぱり、天使さんが宿っているせいかしら、と
わたしは思ったりもする。
お池で
めぐは、それでも楽しそう。
まあ、女の子だから
誘われる、って事は
ないよりあった方がいい、のだろう。
映画を見てください、という程度の
軽いお誘いなら、気楽に答えられるから
気遣いのある、良いひとね、と
わたしは思った。
みんなで、ひさしぶりに
一緒に図書館に行った。
「いつも、一緒だと楽しいね」と、わたし。
「そうだね」と、ルーフィ。
めぐも、楽しそう。
いつもみたいに、ルーフィと、わたし。
めぐ。
図書館は、いつもと変わらないけど
お昼前だと、空いていて静か。
ちょっと、裏のお庭に回ってみると
きれいなお水がいっぱい。
「わぁ、きれい!これなら、わんこさんも喜ぶね」と、めぐ。
きょうも暑くなりそうだ。
地下駐車場で、クーラーを掛けた車の中で
待っているのも、わんこにとっては辛いと思うし。
ガソリンがもったいない(笑)。
それを言うとルーフィは「うーん、主婦っぽーい」と
ユーモアで答えた。
おばさんっぽいかしら(笑)。
でも、地下駐車場の空気も悪くなるし。暑いし。
それなら、お池に。
お水を張ってあると、自然に、みんな
お水のそばに集まってくる。
わんこも、にゃんこも。
おとなしいにゃんこは、おもしろいけど
首輪にリード、なんて子も居る。
そのうち、わんこの中から
お水好きな子が、泳ぎだしたりして。
いぬかき、かしら。
シュナウザー、レトリバー、ラブラ、フレンチ。
気持ち良さそう。
その、わんこたちの
気持ちよさそうな泳ぎを見ていると
涼しそうで、わたしも泳ぎたくなっちゃった。
「泳ぐ?」と、ルーフィはにこにこ。
「ばーか」と、わたしはあごをつきだして(笑)。
水着持ってないもん(笑)。
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魔法?
めぐは、いつものように
ロッカールームに行って
黒いエプロン、オレンジの文字で
としょかん
と、書いてある
いつもの服装で
アルバイトに臨んだ。
きょうは、映画を見るのだけど
それも、アルバイトにしていいと
主任さんは言ってくれた。
でも、それはちょっと
悪いから。
アルバイトは、途中で抜ける事にした。
そろそろ、映画の試写会が
始まる頃。
アンデパンダン、という
フランス語でインデペンデンスを意味するらしい
言葉で、独立した作家の催し、を
意味しているらしい。
芸術家っぽい雰囲気、ちょっとおしゃれかな、と
めぐは、なんとなく思っていた。
そんな時、裏のお池の方でひとの叫び声が
あがった。
なにかしら?と
めぐは、声のする方向へと
裏手の通路から、お池の方へと向かい
ドアを明けた。
「あっ。」と
めぐも、ちょっと声をあげてしまう。
お池に入っていたわんこたちを追って
かわいいこいぬが、お水に入ってしまって
驚いて、溺れてしまいそうになっている。
次の瞬間。
湖面が揺らいだ、と
思うと
何かが、その
溺れている子犬を、ひょい、と
くわえて
浅瀬に跳び去ったように見えた。
一瞬だったので、よく見えなかったけれど
それは、おうちで
お留守番をしている、にゃご、に
似ていた。
「にゃご?」
めぐは、その光景に
びっくりした。
ふつうのこねこ、なのに....。
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天使と悪魔
その、にゃごの活躍を
池の畔にいた、ルーフィとわたしも
見ていた。
「あれって、にゃごだよね」と、わたしは
ちょっとびっくり。
「そうだね、魔力を持っている筈は
ないけれど」と、ルーフィ。
転生して、猫として生きているのだから
悪魔くんだった時分の記憶は、忘れている筈だけど
もともと、寡黙だった彼が
いま、ただの猫として生きているのか?
もし、そうでないとすると....
その瞬間の雰囲気を、ルーフィは感じ取っていたけれど
魔力を持つ者の雰囲気はなかったようだった。
「うーん」ルーフィは考える。
まさか、だけれども
天使さんが、にゃごを促して
助力したのかもしれない。
にゃごが、いいことをすれば
神様だって、転生を認めてくれるかもしれない。
そんな、天使さんの願いが
通じたのかな?
天使さんの幸せは、みんな、が
幸せになってくれる事。
そのため.....?
元悪魔くんの幸せ、は
天使さんのそばにいること、だけど
いま、にゃごになっている彼が
それを、感じ取れているか、は
わからない。
人間に、運良く転生できても
前世の記憶を持っているかは
わからない。
それでも、悪魔くんは
魔力をすてて
転生を選んだ。
天使さんは、彼に
幸せになってもらおう、と。
無償の愛は、美しい。博愛と呼ぶべきだろうか。
「じゃ、そろそろ」司書主任さんは
カウンター業務についているめぐ、に
映画の試写会に行くように、促す。
「すまないねぇ、迷惑じゃなかったかな」と
主任さんは、甥のわがままを詫びる。
「いえ、迷惑だなんて....」と、めぐは言う。
迷惑ではないけれども
はじめて、知らない人に会うのは
あんまり好きじゃないめぐ、だった。
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映像のイメージ
....そういえば、なぜ、ルーフィさんを想いはじめたのか
わからない。
めぐは
そんなふうに回想しながら
3階へ、エレベータでなく
吹き抜けにある、まわり階段を歩いていった。
中央部が大きな吹き抜けになっていて、重厚な階段の手摺りは、オーク。
ステップには、消音のためにクッションが敷かれている。
近代建築の粋を凝らしたようなデザインの図書館を、めぐは
気に入っていた。
ずっと、ここで働けたらいいな。
そう想ったけれど、それは、現実ではなくて
めぐのイメージの中の、そう、4次元のものだ。
時間軸・空間軸が伸縮自在なイメージ。
だけど、全体でエネルギーの総和は保たれている。
例えば、空間軸を縮めれば、時間軸は自由に伸縮できる。
その反対もそうだ。
なので、思い出の空間は記憶の中にしか存在できない。
その代わり、時間軸を自由に、つまり
遠い過去の記憶を一瞬に呼び出せるのは、ほとんど0次元のイメージでしかない
空間だから、無限大に近い時間軸の中を自由に動けるのである。
司書主任さんの甥御さんが作られている映画、は
それを、2次元の平面に展開したようなものだ。
そこに、作り手のイメージを変換していく。
ロー・テクノロジーなメディアだけれど、それ故に面白い。
ただ、3次元の時間軸に固定され、つまり
長い時間座って居なければならないのは、今日的でなかったので
短編映画が今の主流だった。
3階への階段を昇りながら、めぐは
それでも、ちょっと楽しそう。
新しい出会いがあるのは、それはそれで
女の子にとっては、うれしい事だ。
ミニ・シアターには
お客さんはまばら。
大きなテレ・ヴィジョンで鑑賞するので、明るいところが
どことなく救われる(笑)。
映写技師
「はじめまして、お呼び立てして申し訳ありません」と
その、主任さんの甥御さんは
爽やかに告げた。
すらりと長身で、細身。
和やかな雰囲気は、どことなく
あの、主任さんに似ていた。
映画作家と言うと、気むずかしそうな
おじさん、をイメージしてしまうけど(笑)
映写技師、と言うとぴったりくるような
さっぱりした人だった。
めぐも、定型的な挨拶をして
とりあえず、salute。
映画そのものに、格別の主張を持っているような
そういうタイプでもないらしい。
映画作りが楽しくてしている、そういうタイプに見えた。
映画そのものは、めぐにとっては
よくわからないものだったけれど(笑)
意外に、好青年だった事で
めぐも安堵した。
あの、司書主任さんの親戚なら
まあ、大丈夫だとは思うけど(笑)
気質は、遺伝するので
甥御さんだと、遺伝情報も似ている。
気質は近いもの、かもしれなかった。
ルーフィに、めぐが惹かれたのも
そんな理由があるのかもしれなかった。
ルーフィとMegは、同じ魔法使いとして
遠い先祖が近しいらしい。
それなので、こちらの世界のめぐ、と
近しい事も十分考えられた。
もっとも、魔法使いだと
めぐが決まった訳でもないのだけれども。
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いろいろ
映画は、めぐには
なんだかよく分からないものだった(笑)
でも、楽しんで作っている事は
なんとなく伝わってきた。
本を読んできて、分かった事に
書き手の気持ちが伝わる、って事があったっけ。
そう、めぐは思った。
書き手が楽しんで書いているものは、
それが、難しい理論でも
楽しさが伝わってくる。
書いている人の、書き方に
自由な発想とか、喜んでる気持ちとか。
文章で出てくる。
理論的な本なら、例えば
いろいろな推論をしても、アクティヴに、肯定的に
明るく推論をしていたりする。
そういう姿勢は、例えば時間に追われていたら
できないだろうし
3次元の時間軸に縛られる生き方って
大変なんだろうな、と
めぐも思ったりした。
めぐ自身は、ルーフィに出逢って
時間旅行をする人、を
なんとなく憧れを持って見たから
そんな風に思うのかもしれないけれど。
映画が終わって。
でも、明るいミニシアターだから
映画の世界から戻る、なんて
感じじゃなくって。
司書主任の甥御さんは、映写を終えて
「ありがとうございます、おつきあい頂いて」
と、だけ言って、片づけに入ったので
めぐは、なんとなくホッとした。
連絡先とか聞かれたりしたら、ちょっと困ってた
ところだったので(笑)
ご挨拶だけ済ませて、1階に戻って
仕事をしようと思っていたら、司書主任さん、
いつもみたいににこにこして
「やあ、ムリいって済まなかったね、映画、どうだった?」
と、聞くのでめぐは
「芸術的ですね」と、よく分からなくて
感想に困ったので(笑)
そんな風に答えた。
司書主任さんは「ははは、君は正直だなぁ。
私も、時々見るけど、よくわからないんだ」と。
丸顔でにっこり。
ひとのよさそうな司書主任さんは、でも
恋人とか、いらっしゃらないのかしら、と
めぐは、ちょっとおもしろい想像をした。
甥御さんは、姿のいい青年だけれども
めぐは、見た目にそれほど惹かれないタイプみたいで
安心できる、司書主任さんタイプの方が
なんとなく疲れないな、と
そんな気持ちを持った。
それは、女の子の持つ
防衛本能のようなもの、かもしれない。
やっぱり、いきなり
見ず知らずの人から
誘われると、身構えちゃうのがホントの気持ち
だと思う。
そういう時に、気楽につき合えるタイプじゃない。
めぐは、そういう子だった。
ルーフィも、司書主任も。
めぐを守ってくれるような、お兄さんタイプだから
安心できて。
映写技師さんも、人はいいのかもしれないけれど
どことなく、若者らしいアグレッシブな雰囲気を
感じて。
それが、もし、自分に向けられたら怖い、と
思ったりもするのだった。
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思い出
それはそれで、楽しい出来事が
あるのかもしれないけれど。
でも、今のめぐにとっては
いまの気持ちは、自然なものだったから
特別に、変えなくても
いい。
そういう、素敵な季節を
生きている。
その時は、気づかないけれども
後になって、振り返ると
そう思う。
そんなことが、誰にでもあるものだ。
「じゃあ、ありがとう、本当に。」
司書主任さんは、いつもの
のんびりした表情で。
すこし、忙しかったからか
汗の
浮かんだ額で、そう告げた。
その、汗の感じを
めぐのクラスメートたちは、
ちょっと嫌ってしまうような、そんな季節だったりもするけれど。
めぐは、そんな風には思わなかった。
お父さんみたい。
そんな感じにおもうだけ、だったり。めぐのお父さんは、優しいから
幼い頃、いつも一緒にいて
守ってくれる、神様みたい。
そんな存在に感じていた。
それも、ファンタジーなんだろうけれども
でも、少年期にはよくある
現実と夢想の
合間を、曖昧に漂っているような
いまの感じを、めぐは好きだった。
幼い頃から、ずっとそれは続いていて。
その世界が、本の世界に
つながっているようにおもっていたりもした。
めぐのお父さん
そんなふうに、お父さんが
優しかったので、めぐは
お父さんを嫌いにならなくてすんで
よかた、と思っている。
お父さんに、怒られた記憶が
ほとんどないからだ。
それは、やっぱり
お父さんが、めぐのことを
可愛がっていてくれたから、
なんだろうな、って
いま、すこーしだけ
大人にちかづいて
めぐは、そんなふうに思う。
図書館で、小さな子が
泣いているのを見かけて、
お母さんに叱られて、泣いてる。
そんな情景を見かける時、
かわいそう、って思うことが多かったりする。
それは、子供の気持ちが
なんとなく、想像できるからで
思いのまま、気のむくままに
遊んでいたい、って思ってて。
そんな時、お母さんは
3次元的な、日常のスケジュールに追われて。
それで、子供の自由な感覚、4次元的なそれを
3次元に合わせようとして、
いらいらしたり。
そんな構造が、おぼろげに
わかってきたのも
めぐが、ルーフィと会って
時間旅行のお話を聞くようになって。
物理学、を
勉強するようになったから、かな?
なんて、思ったりも、した。
めぐのお父さんは、幼いめぐに
いらいらしたりしなかったのかなー
なんて、思ったりしたけど
いつも、にこにこしていて
のんびりしているおとうさんは
おばあちゃんに似てるのかなー、
なんて、そんなふうに思う。
おばあちゃんは、おとうさんのことを
「やんちゃな子だったのよ」
って、お庭のおおきな木に登って
おりて来ないで、夕陽を見てた事、
2階から、トランジスターラジオを
落として。
ラジオがかわいそう、って
ずっと撫でて、ごめんね、って
泣いてて。
それがきっかけで、ラジオを修理する事を覚えた、こと。
いろんな思い出を、話してくれたけど
いまのお父さんからは、想像できない
優しくて、行動的な少年、どことなく
ルーフィに近いのかしら。
そんな事を思うと、ルーフィがいつか
お父さんみたいにまんまるに
なちゃうのかな(笑)なんて
その絵を想像して、おかしくなっちゃって
笑ったりしたり。
ひとりで、笑ってると
だれかがみたら、変、かしらってちょっと恥ずかしいけど。
それも、めぐの心が
自由に、4次元的に飛翔していて
それは、ちいさな子供の心が
自由なのと、そんなに
かわらないような。
そんな気がして、それもまたちょっと
はずかしくなっちゃう、めぐ、だったりした。
お父さんもそうなのかしら?w
恋と記憶
お父さんは、お母さんと
どんな恋をしたんだろう、なんて
中学生の頃に、聞いたっけ。
めぐは、なつかしく
思い出に浸ったり。
そんなことを思うのも、
恋って気持ちがちょっと不思議だった
そんなせいもあるのだけれど。
とつぜん、だれかが気になって。
いつも、その人の事を
考えたり。
それって不思議だな、って。
めぐにとって、ルーフィは
別世界の人だから、いつかは
お別れすることになるんだろうけど。
でも、好きな気持ちは
計算してするんじゃないもの。
そんなふうにも、めぐは思った。
それは、にゃご、いまは
にゃごになっている、元悪魔くんも
同じだった。
本当なら、魔力を手に入れていたのに
それを捨てて転生した、悪魔くんも
やっぱり、好き、と言う気持ちのままに
行動している、のだろう。
もちろんその事を、めぐは
たぶん知らない。
なので、図書館のお池で
にゃごが大活躍した意味も
どうして、子猫が
そんな事ができるのか?も
わからなかった。
とりあえず、めぐのそばにいる
にゃご、は
ふつーの子猫にしか見えないから
「見間違いなのかなー」
なんて、にこにこしながら思ったり。
土曜日の図書館も、そろそろ
終わり。
いろいろあったなぁ、と
すてきだった一日を、思い返しながら。
映写技師さんも、思ったよりは
怖くなくって、よかったし。
でも、改めてデート、は
ちょっとご遠慮したかった。
やっぱり、ルーフィが好きだもん。
心のなかで、でも「ルーフィ」って
さん、なしに呼んでみると
どきどきした。
恋人になったみたいな、そんな気がして。
それは、ファンタジー、なんだけれど、
そういう時間って、楽しくて
いつまでも、心のなかのルーフィと
恋していたかった。
不運なことに、(笑)
ルーフィは、いつもそばにいるので
本物を目の前にしていると
やっぱり、夢想には浸れないので
ひとりで恋してるのも、いいかしら。
そんなふうに思う、めぐには
なので、映写技師さんみたいな
現実のおつきあい、は
まただちょっと早いのかな。?
そんな感じかもしれなかったり。
曖昧な、そんな季節は
駆け足で過ぎていってしまう。
めぐ自身が、そう思えば
いつでも、その季節は
過ぎていってしまう。
なので、「のんびりでいいの」と
めぐは思ったし、司書主任さんも
そんな、めぐを
大切にしてくれていた。
記憶と時間
その、いろいろあった土曜日も
なんとか、終わり。
図書館は、帰るひとで賑わうように
エントランス・ホールをノイズが包む。
アート・オブ・ノイズなんて
気取るつもりはないけれど
めぐには、そんな都会の喧騒も
楽しむ気持ちが、あったりもした。
めぐのお母さんも、楽しいひとで
ジャズ音楽を聞いたり、ダンスをしたりと
毎日を楽しく暮らすひとだったから
そのせいも、あったりもするかもしれないな、と
めぐ自身は、思っていたりもして。
幼い頃の思い出に
縁側にあった、ラジオ、脚のついた
ステレオから
英語の放送と、ジャズ音楽が
いつも、ながれていた。
そんな記憶が、めぐ、には
朧げにあったりもする。
大きな木があって、お風呂場が
外にあって。
やっぱり、桧のお風呂だった。
いまのお家、じゃなくって。
前に住んでいた、公園のそばの
おうちだったっけ。
その公園にも、大きなお池があって。
いつも、杭の上で
カメさんがお昼寝してたっけ。。
どうやって、杭に登るのか
不思議に思っていたけど
めぐが、お散歩で近くに行くと
カメさんは、ぽちょん、って
お水に飛び込んじゃうので
ついに、わからずじまい。
「いつか、あの公園のそばのお家をたずねてみたいな」
なんて、めぐは思うのだけれど。
お池、と言うと。
めぐは、思い出した。
お池にお水を入れて、わんちゃんが
泳いだりして。
それで、困ったりしたことは、なかったかしら。
主任さんは「べつに、かわったことはなかったね」
と、おっしゃってくださっていたけど。
わんこさんも、泳いだりまま
おうちに帰るのも、ちょっと大変かもしれないわ。
そんな風にも、思って。
「わんこの美容院さん、来るといいですね」と
主任さんに言ったり。
「そうだね、おおモテかもしれないね」
と、主任さんは、いつもみたいに
にこにこしながら、答えたりして。
夕暮れの図書館は、のんびりと
時間が過ぎていくようで。
そのことも、めぐを
ご機嫌にする理由だったりもした。
時間って、自然に
淡々と過ぎていくものだけど
それは、いま、わたしたちが
住んでいる、この地球が
太陽の回りを、とんでいる。
それで、時間の単位が決まって。
一日が24時間で、って
割り切れない数字になったりして。
不思議におもったりもする、そんな
時間、ってものだったり。
それとは別に、時間の感覚は
ひとりひとりにあったりして。
生物学の本を見ると、お魚の
背中にある器官で
光を感じて、メラトニン、という
ホルモンが分泌され
それで、人間も時間を感じる、という
面白い話を、みたことも、あって。
でも、その感覚は25時間で
一周なので
おひさまに、朝、おはよう、って
当たるのも大切で
そうしないと、時間感覚が
わからなくなって、いらいらしたりする。
そんなことも、書いてあったりして。
それで、いつか、児童図書館で見た
いらいらしている、若いお母さんと
坊や、そんな情景を
思い出したりもして。
いろんなことが、科学と時間に
結び付いていて。
時間を旅するって、結構
大変な魔法なんだ、って
いまさら実感する、変なめぐ、だった。
めぐ自身は、その能力が
目覚めている実感はないけれど。
とりとめなく、考えていると
ルーフィとMegが、5階から
降りてきて。
めぐの楽しい空想も、終わる。。
好きって感覚
「よかったね、デート」と、わたしはめぐに言った。
ほんとうは、感想を聞きたかったけど
でも、ルーフィもいるので
それは、めぐの気持ちを考えて(笑)控えた。
だって、めぐはルーフィが好き。
でも、誘われるのは
それなりに楽しい。
と、思う。
それは、自然な感情。
恋愛、とかじゃなくっても
映画見るくらいは、別にいいんじゃないかしら。
でも、ルーフィの前で
それを言うのは、ちょっと妙かな?
なんて。
ライバルをやっつける、意地悪さん
みたい(w)だもん。
当のルーフィも、平然としているから
そんなに、気にすることもないけど。
めぐは、聞かれたことには答えなかったけど
でも、ちょっと恥ずかしそうだった。
「こんど、いつ?」なんて
ルーフィは、ふつうに言うので
ちょっと、めぐはかわいそうだったけど。
「でも、きょうのにゃご、すごかったよね:」と
わたしが言うと、めぐははっ、と
気づいたように
「あれ、やっぱりにゃごだったのかしら。」
そうだと思うけど、って
わたしは、めぐに答えると
ルーフィも「うん、そうじゃないかなぁ」なんて。
どうして、そういう事になるのかは
まだ、めぐには話してなかったので
ただ、不思議な子猫ちゃん、って
感じで見てるんだろうけど。
それで、ルーフィは「にゃごは、この世界でいい事をしたいんだよ」と
和やかな言葉で、そういうと
「そうなんですね.....。」と
めぐは、解ったような、そうでないような
曖昧な微笑みで答えた。
なんとなく、その、半疑問の表情はかわいくて素敵って
わたしは思う。
わたしも、3年前は
あんなだったのかな?
とか思って、過去にタイムトラベル
してきたんだけど。
ちょっとした間違いで
長旅になっちゃった。
実際、好きって感情も微妙なもので
幼い頃に、趣向はできあがるから
わりと、お父さんとか
お兄さん、を異性のパターンって
最初は思い込む女の子は、多かったりする。
それが、快い存在は否か、は
その時の感情に左右される。
つまり、快い時にそばにいると
快い存在になったり、する。
不条理だけれども、おそらくは
赤ちゃんの頃の記憶って、そんなものなのだ。
お母さんが、のんびりと
赤ちゃんを可愛がっていられて。
おとうさんも、お世話ができて。
そういう時の、お父さんの匂いとか
お母さんの雰囲気、を
朧げに覚えてて。
後になって、恋する時に
好き嫌い、のどこかに
それを忍ばせたり。
たまたま、めぐ、は
お父さんが優しかったから
お父さん、みたいなパターンを
優しい、って感じるのかもしれない。
愛と心、現世・時間
もちろん、お父さん嫌いって子もいるけど
心の底から言ってる子って、そんなにいなくて。
ハイスクールくらいだと、いろいろ
男の子とかを
ちょっと、粗暴で嫌、って思ったりするから。
それで、お父さんが乱暴な事をした記憶、とか
あったりすると
それを連想して、嫌い、って思う事もあったりもするけど
自然に、大人になると
忘れてしまったりする。
ふつう、娘を可愛がらないお父さんは少ないし
めぐは女子高だから、男の子から嫌な事をされる事も
学校では無かったりする。
なので、クラスメートでお父さん嫌い、な子って
めぐのお友達にはいなかったよう、である。
好悪の感情は、単純なシステムで
電気で決まっている。
と言うと、不思議に思うけど
理科の実験で、小学校の時に
塩水を電気分解したような、あんな単純な仕掛けで
決まっている、と思うと
だいたいアタリ(笑)。
塩水の濃さが変わると、電気分解される気体の量も変わる。
ある量に達すると、「好き」とか、そう感じるように出来ている。
好き・嫌いって、そんな程度のもので
その量が「閾値」。thretholdだ。
コンピューターは、これを真似て作られたけど
気持、そのものをコンピュータが真似できないのは
記憶を、一杯ならべて連想する仕掛けが
スーパーコンピュータでも、まだ出来ないから、だ。
その、大切な記憶は膨大で、それが人柄、とかを形成している。
なので、神様が「めぐの人生をリセットする」と言い出した時
天使さんは、それを思い直してもらうように、考えた。
経験が変われば、別の人になってしまうし
今、ルーフィを想っている、その大切な時間も
訪れないかもしれないから、だ。
時間。
誰にでも平等なのは、3次元の場合で
ルーフィは、魔法でそれを乗り越えたりできる。
4次元の時間軸を持っているのである。
Megも、ルーフィに付随する事はできる。
もちろん、めぐも
Megの3年前(笑)だから素質はあって。
能力の兆しが見え始めている。
きちんと、能力を使いこなせれば
神が、めぐの人生をリセットする必然は無くなるのだけれど
今、気づいているのは、天使さんくらい、だ。
「つぎのデートはさ、どっか美味しいものでも食べてさ」と
ルーフィが言うと、めぐはちょっと淋しそうな表情になって。
「はしたないわよ、ルーフィ」と、わたしはそう言って嗜める振りをして
ルーフィの無神経さを諌めた(笑)。
ルーフィも気づいて「そっか、レディのする事じゃないよね」と。
この国にも、そういう風潮があって。
それは、働くより投機の方が儲かるのが流行った頃だった。
政府がそれを流行させて、土地の値段、などと言う
本来価値の無いものを吊り上げてお金儲けを企んだ。
この間まで言っていた、金融緩和と同じような企みで
所詮はギャンブル、なので
正当な事をすると、損をすると言うヘンな風潮が横行したのである。
それは、30年程前だったから
丁度、めぐのお父さん世代は、そういう風潮に晒された時期で
紳士淑女よりも、ギャンブラーと遊女が増えた時代だった。
それで、お金を使って女の子にサービスするのが当然、なんて
ヘンな時代だったから
女の子も、高いものを買ってもらうのが普通、とか
美味しいものを食べさせてもらって当然、とか。
それはつまり、お金を払う方が労働でなくて
ギャンブルで得たような金を使っていたから、で。
そういうハシタナイ事は、紳士淑女はしなかった。
めぐのお父さん、お母さんもそうだった。
それは、例えば人の価値をお金で買うようなもので
高く売ろうとする女の子は、商行為をしているのと同じ。
だからハシタナイので、まともな女の子は
そういう誘いには乗ってはならない。
まともな男の子も、そういう事はしない。
形を変えて、金融緩和などと言い
また愚行を繰り返そうとしていた政府は
この世界では、ルーフィらの尽力で
心を入れ替える事ができた、のだけれども(笑)。
それは、人間界にありながら
動物界の法則で生きる事と同じだ。
転生する時に、再び人間には戻れないと
思うべきだろう。
にゃんこのごはん
「にゃごー、ごはんよぉ」って
おばあちゃんは、いつもにこにこして
にゃごに、ごはんをあげている。
ごはんを作って、食べさせる。
食べているのを見てるのも、なんとなく、嬉しい。
生き物と一緒に暮らすって、それがとても
楽しかったりする。
おばあちゃんになって。
まだ、めぐ、が
ひ孫を産むまでは、しばらくあるだろうから(笑)。
にゃごに、ご飯をあげて
おいしそうに食べているのを見るのが、なんとなく楽しかったり。
それが、言ってみれば家族。
他の個体と、関わりを持つ事で
生きている実感を感じて、生き物としての
自分の在り処を感じる。
それが、今、地に足を付けて生きるって事だけど
例えば、子供も孫もいなくて
ひとり暮らしていたら....。
そういう実感が無くなる。
自分の記憶の中と、テレビやラジオ、せいぜいインターネットくらい。
それは、全部現実じゃないから。
ふつう、目で見て手で触れて。耳で聞いて。
そういうものは、全部、自然に目の前にあるものだった。
けれど、ここ数十年は、自然にないものを
頭の中で空想して、イメージを作る、そういう世界が発達したので....。
本当のこと、そうでない事。
自分の意思で動かせるもの、そうでないもの。
それが、よく分からなくなってくると.....。
例えば、ひとり暮らしている人が認知障害、なんていわれたりする。
インターネットとせいぜいテレビくらいに明け暮れていると
全部、自分の意思に従うものばかりだから
表に出て、電車やバスに乗ったりすると
他人、自分の意思ではない動きをするものが邪魔に思えたりする。
それも、言って見れば現実の世界が認識できないので
認知障害に似ている。
それらは、不自然な社会に
人間が適応できていないから、そうなっているのだろうと
考えられている。
めぐのように、お父さん、お母さんのほかに
おじいちゃん、おばあちゃんが居る子は
例えば、お父さん、お母さんが
めぐを支配しようとしても、
おじいちゃん、おばあちゃんが
助けてくれたりするので
そういう、怖い事にはならずに済む。
なので、客観性、社会性のある子に育つ。
ひとつの考えを妄信しないから、である。
つまり、人間に家族が大切なのは
そんなことにも現れている。
そういう記憶、それは
いろんな出来事の積み重ねだから
過ぎてきた、一瞬が
とても大切だったり。
「にゃご」
おばあちゃんは、ごはんをたべているにゃご、を
にこにこしながら呼んでみた。
いっぱい食べてね。
猫に言葉は分からないけれども、そんな気持で。
猫は、すくすくと育つから。
魔法の限界
ルーフィの魔法で、政治家たちの
いま、は
変えることはできた。
それでも、過去までは
変えることはできないから
過去に、いろいろな事があって
たとえば、
傷ついたひとの心を変える事までは、できなかったりする。
それで、彼は神経回路を抑える、
そんな手段を使った。
とりあえず、神が
めぐの命を救ってくれるまで。
それは、半ば成功した。
でも、天使さんに悪魔くんが恋してしまって
解決が長引いてしまった。
それに、神はめぐの人生を
はじめからやり直させようとしている。
いつまで、ルーフィの魔法が持つか?
それに、この国の政治家の異変を見て
外国、たとえばアメリカのギャンブラーたちが
政治家を通して、妙な圧力を
かけてこないとも限らなかった。
「そうなる前に、なんとかしないと」
と、ルーフィは思った。
アメリカンの、ルーフィのご主人様が
こちらの世界でも、同じところにいる
保障はないから
支援を求める事も、できない。
「いきなり行ってみる、てのもね」
少し、ルーフィは考えていた。
いい方法はないかな......
天使さんと神様
天使さんは、ルーフィのつぶやきを聞いて
思う。
神様が、めぐさんの人生を
最初からやりなおしてもらいたい
と思うには、たぶん、わけがあるから。
恐ろしい魔物の記憶が、心の
どこかに残っていると
健やかになれない。
それに、めぐさんの記憶に
異なる世界の事が残っていると
そこに、次元の歪みの記憶があって。
ゆくゆく、後の世代に受け継がれて
いくと、
いつか、それが
異なる世界につながる事になったり。
そういう事を心配して、の事。
そうなのかしら。
もし、そうなら。
天使さんは、その夜
めぐや、ルーフィたちが
眠りについてから、神様にお伺いを立てた。
静かな草原、めぐの家の西側に広がっている
なだらかな斜面。
月明かりが照らし、緑の細い草を
つややかに輝かせていて。
時折、群雲がながれ
蒼い影を作る空間に
透明な翼で、飛翔い。
神は、寡黙にして。しかし、天使さんの
告げたい事を理解しているようだった。
「その娘は、能力を持つ、と言う訳か。」
天使さんは、微笑みながらうなづいた。
そうなると、結局魔界に関わりを持つ事になるから
次元の歪みについて隠す事は
なくなる。
時間旅行をすると言う事は、
自ら異なる世界に向かう事だから。
「しかし、そうなれば
お前の宿れる相手にはなれまい。」
と、神は憂慮した。
魔法、つまり魔なる世界の法典に
基づく能力を持つ者と
天界の者が共存できない、それは
当然だった。
そうすると、元悪魔くんの願いは
途中であったとしても
成就を見届ける事なく、天使は
天に戻る事になってしまう。
あくまで、めぐの
人間としての幸せを思って
神は、裁定を猶予したのだから。
「役目を終えたら、戻るのが定めであろう、天使よ」と
神様は、荘厳に。
「いえ、わたしは天使ですが
天には戻らないで、ここで
めぐさんと、にゃごさんと
共に暮らして行きたいと思います」
と、天使さんは、凛々しく、しかし柔和な表情でそう言った。
「なんと」神は絶句した。
天使としての永遠を捨てても
めぐ、とにゃご、の幸せのために
限りある生命を選ぶ、と言う
天使の思いは、神様にも
ちょっと不可解な言葉。
でも、ひとのしあわせを願うのが
本来、天使の勤めなのだ。
摂理である。
裁定
「まってくださいますか」と
涼やかな声がする。
風に吹かれて、丘に佇んでいるのは....
めぐの意識であろうか。
眠っているはずの
めぐの、能力者としての意識が
天使さんに、ついてきたのだろうか。
もちろん、めぐ自身は眠っているから
不思議な夢を見てる、けど
たぶん、めざめると
覚えていない・・・・
そんな感じだろう。
「お話しは、伺いました。神様、それでは裁定をお願い致します。」
めぐの、能力者としての意識は
潔く、凛々しく言い切る。
神は、また驚愕した。
「なんと・・・お前は、能力者としての自分を封殺するとな」
いま、裁定を要求するのは
つまり、目覚め掛けている
能力を停める、そういうことだ。
能力が泣ければ、神の意思に沿い
零歳から人生をやりなおす。
それで、この世界が元通り、平和な
世の中になって。
でも、これまであった事は
全部、霧散してしまう。
ひょっとしたら、17年後に
であうかもしれないけれど。
天使さんは、穏やかに微笑みながら
「それで、いいの?ルーフィさんと・・・。」
めぐは、頷き「はい。元通りの世界になれば、いつか、わたしとルーフィさんは出逢うかもしれません。
そうならないかもしれないけれど。
でも、それはもう、いいんです。
ルーフィさんには、決まった方がいらっしゃるのだし。
天使さんに、しあわせになってもらいたいし。
いままで、18年もお世話になっていたのですから。
あたしも、お返しをしたいんです」
そう言って、めぐの、能力者としての意識は
神に裁定を迫った。
別離
「よいのだな。」神は、確かめるように
最後通告をした。
めぐは、無言で頷いた。
「待ってくれ」と、丘に
昇ってきたのは、ルーフィだった。
屋根裏の、ルーフィの部屋から
飛び出して来たのだろう、
スマートな彼にしては、裸足のまま。
「めぐちゃん・・・」ルーフィは
そこまで言って。
でも、めぐの決意が
読み取れたのか
そこまで言って、黙った。
めぐは、俯いたまま、静か。
でも、ルーフィの姿を見て
透明な涙滴、さらり。
神様を見る。
神様は、意思を感じ取り
左の指で、天を差した。
満月の夜だった。
けれど、一瞬、月明かりは陰り・・・
その場の空気が揺らいだ。
眠っていためぐの意識は
一瞬にして18年戻り・・・
そして、一瞬で18年を経験した。
ただ、魔物と異なる次元の記憶を
失って・・・。
時間旅行は、夢
4次元の旅だから、時間旅行は
一瞬に過ぎる。
夢を見ているのと、ほとんど同じような感じだから、夢だと思うひとも多い。
その中に、時間旅行の体験があたとしても何の不思議もなくて
いわゆる既視感、も
その一部はこんな感じだったり。
めぐは、赤ちゃんの時に
魔物にさらわれて。
それで、天使さんが助けてくれたのだけれども
そういう、魔物とか、異なる次元の記憶とかは勿論、経験しない。
次元の歪みはなかったことにされたから、である。
つまり、同時に
魔物のせいでこの世界のひとが
無用に争いを好むようになった時代、それらについても
同様に、無かったことになるわけである。
世界中のあちこちで、この一晩で
歴史が変わっていた。
この国では、国会が銀行を保護し続け
国内企業の負債に関しては国家が監督したから
大手の会社同士の合併なども、国家主導で行われたりしたので
経営者は、国の意見を尊重したし
労働者は、国、社会を大切にした。
隣人はみな、友人になり
争う事もなくなった。
ルーフィのしたような、薬学的対処療法と効果は似ているが
神様にしかできない、大規模な治療である。
そう言う事で、世界中に平和を喜ぶ気風があふれ
生活は楽しいものに変わった。
その環境で、めぐは
健やかに育って。
魔物が争いを人間界に齎せていた頃は、どこか臆病なところもあったのだけれども
無用に闇を恐れるところのない少女に育った。
その17年間を、一瞬に経験して
「おはよー、おばあちゃん」
「はい、おはよ、めぐ」
何事も無かったように、明くる朝が来る。
ひとつだけ、気がかりなのは
ルーフィへの気持ちは、どうなってしまうのか、と言う事だ・・・けれど。
神様の計らい
「おはよ、めぐちゃん」と、ルーフィは
にこにこ。
すべてを知っている、ルーフィにしてみれば
ちょっと、その涙を知る者として
はずかしかったりするけれど。w
もちろん、いまのめぐは、それを知らない。
夕べ、落涙したのは、能力者としてたの意識、だから
めぐ本人は、のんびりお休み中だったし。
ただの夜が、一晩すぎただけ。
もともと、魔法を使える事など
めぐ自身の望んだ事ではないし
むしろ、爽やかな事であるかもしれない。
幼い頃、魔物に襲われたせいで
少しだけ、臆病なところもあっためぐ、は
その経験がなくなったぶん、より
健やかで元気な女の子になった、みたい。
「おはようございます!」
真っすぐに微笑むめぐは、ちょっと
ルーフィから見ても、眩しいくらいの
女の子になったりして。
「どうしたの?」と、Megが
ルーフィの様子を見て。
なんでもないさ、、と笑って。
いつものような、ふつうの朝が
始まる。
ルーフィは、でも思う。
・・・・元気になると、ほんとに
ふたりはそっくりだなあ。(笑)
「にゃご」
にゃごも、何も知らないかのように
のんびりとあくびをしながら。
昨夜は、でてこなかったので
自身が、めぐに救われたと言う事が
解っているのかどうか?は不明(笑)
神様は、計らってくれていたようで何となく、めぐは
ルーフィへの思いを、覚えているかのようだし
なぜか、ルーフィもそのまま
この世界に留まっている。
もし、この世界の粛清が目的であるならば
それはもう、終わったはずだし
神様が自身でするならば、何も
ルーフィに頼み、代償として
めぐの命を授ける、などと
ややこしい事をしなくても良かったはずなのに。
そして、記憶をリセットするなどと
言った割には、何も変わらなかったり(笑)。
この世界の神様は、ずいぶんと
ユーモアとウィットを理解するんだな、と
ルーフィは、微笑んだ。
とにかく、良かった。
そう思うルーフィだった、
ちょっと気がかりなのは、
めぐ自身が封印してしまった能力と
その理由の、にゃごの転生と
それを見守る天使さんの関係、だった。
天使さんは、あれから
飛翔しないようになったところを見ると
ずっと、めぐと一緒にいるのだろう。
めぐは人間だから、天使さんよりは
寿命が短い。
その一生を終える前に、天使さんの目的が果たせるといいのだけど。
ルーフィ自身としては、めぐの能力を封印したままなのは
残念、なんだけれども。
経験と記憶
神様は、のんびりさんなのでしょうね、と
わたしは思った。
ルーフィは、「僕はなにもしなても良かったんじゃないかな」って
言ってるけど。
でも、そのルーフィのがんばりで
めぐは、命を取り戻したんだし。
「ね、ルーフィ」とわたしは聞いてみた。
赤ちゃんだっためぐに、どうして
魔物が寄ってきたのか?
その後も、図書館で
悪魔くんが、つぎつぎに訪れたのか?
偶然にしては、ちょっと重なり過ぎるような気も。
「そうだね・・・もしかすると、めぐちゃんが、魔法使いの素質がある、って事を感じ取っていたのかも
しれないね。
それに、天使さんが宿っていたから
物珍しい、ってのもあるかな」
そんなことなの(笑)?って
わたしはちょっと笑ってしまった。
魔物とか、って
もうちょっと怖いものかと思ってたり。
「それは、ほとんど物語の世界だね。
いつも恐ろしかったら、魔物くんだって疲れちゃうでしょ」と、ルーフィ。
この世界は、どことなくのんびりしてるなー(笑)
それはそれでいいけど。
「さぁ、今日もがんばらなきゃ!」と
めぐは、元気になって。
にこにこ。
昨夜のいきさつをしらないわたしは
ルーフィから、その事を聞き
ちょっと、びっくり。
「ほんの一瞬で・・・・神様って
すごいのね。」
と、思って。でも、めぐが
能力を封印した、ってあたりは
やっぱり彼女らしいなあ、って。
「にゃごが、転生に成功するといいんだけどね」と、ルーフィ。
そっか。
失敗する事もあるんだ・・・・。
にゃごは、いまは動物界の住人。
のんびりと、育っている。
キャットイヤーだから、すくすく育って。
おばあちゃんは、健康に育っていく
にゃごを、とっても喜んで見ている。
人間には、家族があって。
だいたい、小さな子がいたりして。
かわいい子供を育てる事が、ひとを優しくさせている。
ルーフィが治療につかった、オキシトシンもそのひとつで
人間の心を、優しくするケミカルで
子供を育てる時、ひとの心で作用するもの。
かわりに、猫を飼ったりしても
かわいがる事で、ひとは、優しくなれるから
にゃごたち、猫族は
それで、人間の役にたっている。
もちろん、にゃごみたいに
レスキューして大活躍するにゃんこも
いるけれど。(笑)
それは特別な話。
普通にいきていても、転生はできるんだろうと思う。
いろんな経験して、それが性格を作っていく。
それは、人間も同じだから
のんびりにゃんこは、のんびりした
性格だし
活発にゃんこは、凛々しい性格になったり。
超能力にゃごは、どんなにゃんこになるのかな?
ふだんは、でろーん、って
のびてるけど(笑)
時間旅行と記憶
日々の積み重ねが、記憶。
それが、、やがて性格とか
人柄とか、言われているけれど
ずっと、同じ人柄であるわけでないことは
古くから、精神分析学が述べている通りだけれども
記憶の中でも、幼い時の記憶は
覚えていない事が多いし、初めて
体験する事ばかりなので、結構
印象が大きい。
それで、性格に影響が大きい、とか
言われている。
なので、神様がめぐの人生を
最初からやりなおす、と言ったのには
それなりに、意味があったのだ。
めぐだけでなく、この、めぐが住んでいる時空間に、魔物が入り込んで
エネルギー源である、ひとの悪意、敵意を煽ったせいで
この世界が、すみにくくなった。
それを、最初から直すのは
神様としての使命感であるのだろう。
もちろん、この事を知っているのは
ルーフィと神様、それと天使さんくらいだろう。
魔王も知っているかもしれないが。
もちろん、めぐの父母、祖父母ですら
このことは知らされていない。
一晩で、一気に時間を逆転させて
また、元通りにする、そんな事が
できるのは神様くらいだ。
変わった夢を見た、くらいの
認識で
記憶違いの出来事があったり。
そんな事が誰にでもあるし、
正夢、なんて言葉もあるけれど
それらの時々は、時間旅行かもしれない。
そういう記憶が積み重なって人柄ができるなら
自由に時空間を旅行できるひとは
自由な人柄、になるのだろう。
覚えている事が、
4次元で並んでいるので、発想も自由自在である。
ただ、恋愛となると別かもしれない。
好悪の感情は、複雑だ。
善良な人柄、即ち恋愛対象とも
限らない。
一見大人しそうな女の子が、ロックミュージックを好み
攻撃的な男の子に恋する事だってある。
その場合は、恐らく
周囲への配慮でおとなしく振る舞っているけれど
本当は、攻撃的になりたい、と
心が叫んでいるのだろう。
めぐの、魔物体験が心からなくなった事で、
奇妙に臆病なところ、生への諦観のような
年齢の割におとなしいところ、などが消え失せる。
そうすると、それを好ましいと
恋心を抱いていた人などは、そう思わなくなったりする。
誤解が誤解を呼んでいて、うまくいっていた友好的関係などは
ダメになったりする(笑)。
そういう事も、一晩のうちに起きたはずなので
いろいろ、ルーフィたちには
異変に見える事もあったりも、する。。。
新しい朝
いろいろあった土曜日。
だけど、過去が変わったから
この、土曜日の出来事も
もちろん、変わっていたりもする。
日曜日の朝を、爽やかに迎えためぐを
ちょっと心配っぽく見守っている
ルーフぃと、Megだった。
お父さん、お母さんも
何事も無かったように
朝を迎え、朝餉を送る。
おばあちゃんから、ごはんをもらって
おいしそうに食べてるにゃごを、にこにこしながら
眺めて。
めぐは、図書館に向かった。
日曜日は、ホントは
図書館に来なくてもいい、って
司書主任さんは、お気遣い。
でも、元気なめぐは、さらに元気になって(笑)。
張り切って仕事。
「おはようございます!」と、だーれもいない事務室で
主任さんにご挨拶。
「やあ、おはよう。今日も元気だね」と、主任さんはにこにこ。
事務所の壁面にある、黒板を見ると
昨日あった筈の、映画鑑賞会に、司書主任さんの甥御さんの名前が、入っていなかったりする。
たぶん、めぐ、以前のめぐに恋心を抱いていて。
それで、ラブレターのように個人映画を撮影して
めぐに、見せたかった。
そういう、ロマンチストだったらしい。
でも、それは、彼のファンタジーだったようで
魔物に襲われた経験のない、今のめぐは
臆病なところのない、明るい元気な少女である。
それが、彼にとって幻想を呼ばない存在になった、と言う事のようだ。
多くの恋は、誤解である。
過去の経験の中で好ましいと思った記憶、そこに存在したイメージを満たせる人を好むのである。
大抵はよく知らないうちに好きになるのであるから
多くの場合、誤解である(笑)
だが、その差異を
認め、その人を愛おしむ時、それは愛と呼ばれる。
彼は、まだ若いので
自らの好みだけで、女の子を求めていたのであろう。
もう少し、成熟すれば
良い男になるかもしれないが。
いずれにせよ、めぐにとって
それは良い事だったが
その事を、めぐ自身は
覚えていないかのようだ(笑)。
それは、もちろんいい事だと思う(笑)。
めぐ自身が、もともと
興味を覚えていない理由に
そんな、男の子の身勝手な感じ、もあったのだろうから。
優しいお兄ちゃんのような、ルーフぃへの気持ちを
さて、めぐは覚えているのだろうか...
貨幣と恋愛
そんな、人の見た目とホントの性格、は
「思ってること」
と
「すること」
の違いなので
そのあたりに、変化があるのはアタリマエ(笑)なんだけど。
その、「すること」を見て、「思ってること」を推測して
好きになる、ってのは至難の技であるから
大抵、誤解なのであるけれど。
でも、ひとの思ってる事なんて、大したことはない。
なので、縁あって好きになった人の
嫌いなところが多少あったとしても
それで、愛する事ができないのは
わがまま、だろう。
めぐが、ルーフィに抱いた気持は
そうではなくて、確りとした生き方の人、なので
原基として安心、だと言う事だから
そのあたり、めぐは審美眼がある、のだろう。
もちろん、神様が人々の世から過大な欲望と
争いを抑制したせいで
女の子たちも、安心して生活できる世の中になった。
男どもが欲に駆られると、ろくなことはない。
元々、争って淘汰されるべき性なのである。それが
淘汰されなくなったので、性能の悪い種が生き延びてしまった。
そういう連中が、性能の良い種の利益を搾取しようとしていたのが
この国の戦後復興後であった。
つまり、品質の悪い種が増えてしまった。
進化生物学的に言って、これほどおかしな事はないが
そのせいで、「悪い人の方が利益を得る」おかしな社会になってしまったが
全て過大な欲のせい、である。
もともと、動物として獲物を得て、生きていたが
農耕をして貯蓄をする事を考え、エネルギーが安定したので
発情期がなくなった。
貯蓄を、農作物ではなく
農作物の引き換え証で代用するようになる。
貨幣の起こりである。
そのうちに、貨幣をより得ようと考える。
欲である。
貨幣は、食物の引き換え証であったものを
一度に引き換えに来ないので、貨幣だけを増やしても
大丈夫だ、と悪い考えを起こして(笑)儲けた者が居た。
欲の起こりである。
いつか、その貨幣の価値は低いと
信用がなくなるので
沢山の貨幣を持っていても、得られる食物は減る。
そういう中で生きていると、男も女も
不安である。
無意識に競争するから、こころの豊かさは失われる。
それが幸せなのだろうか、と
神は考えるのだろう。
必要にして十分な富があれば良いのである。
欠乏を恐れるのは、社会制度が信用できないからである。
今は、ふたたび安定が訪れたので
ひとは皆、穏やかに暮らす事が出来たし、自由と平和を謳歌する
世の中になった。
社会が安定して、信頼できれば
貯蓄も程ほどで良いし、むしろ経済は豊かに巡るのである。
不思議なことに、めぐに好意を持っていた映画作家くんは
めぐの上辺だけを見て判断していたのだろうか?
本質も良い子、なのだけれど。