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sent from W-ZERO3




別れの予感



だんだん、世の中が平和になってくると

そろそろ、わたしたちの旅も終わるのかなー


なんて、わたしは思う。


少し、淋しいような気もするけれど(笑)



たぶん、わたしをここに呼んだのは

おばあちゃん、なのかな。



めぐを助けたいを思う、お祈りが

わたしとルーフィに、なんとなく通じたんだわ。


今思うと、そんな感じ。


この世界の、歪んだ時空がもとに戻れば

私たちは、たぶん

自分たちの世界に戻れる。


でも、めぐ、とはお別れになるのね。



そうすれば、めぐ、の

ルーフィへの気持ちも、叶う事もない、んだけれども。





神様との契約通り

ルーフィが、この歪んだ時空を元に戻して

魔界との扉を閉じれば


めぐは、死を免れるから


天使さんも、たぶん、めぐから離れ

天に戻るだろう。



そうすれば、すべて、元通りの世界に戻るはず....








そんなわたしの空想とは別に

日常は流れていった。




いつものように。




めぐは、学校へ行き


図書館に行き



そして、一日が過ぎる。



ルーフィと、魔王との仕事(笑)も

終わりに近づいて



魔界への扉を、ルーフィは閉じる事に決めた。



もう、欲を増長させた変な政治家や、財界人は

いなくなった。


この国の中だけで安定して、潤沢な資産が

得られれば


欲の為に、争う事はなくなる。




だから、悪魔くんに食べて貰うほど

人の攻撃心は生まれなくなって


それは、開拓心や、闘争心のような

高級な心に転換していって。



魔界や、動物界に墜ちる人も減った。


その代わり、天界へ上るひとが増えたので


今度は、神様が住宅事情に困る(笑)ほど、になって


ひとの寿命も長くなっていった。





そんな時、ちょっとした異変が起きた。





いつものように、めぐはハイスクールに行って

帰りに、図書館に行った。


特別、変わった事も無いけれど

でも、めぐ自身にも

ルーフィたちのしている事は伝わっているから.....。


いつかは来る、と分かっていた別れの日が近づいていて

めぐは、なんとなく憂鬱だった。



その日は、図書カウンターの仕事が手すきだったので

その、めぐの憂鬱な表情を気にした、主任さんは

「3階に行っておいで。音楽でも聴いてくれば」と、言ってくれた。


いつもなら、そういう気遣いを嬉しく思っても、仕事中に音楽を聴くなどは

性分としてできない子、めぐ。


でも、この時は、なぜか「はい、言ってきます」と言って

3階に上がった。



それだけ、辛い別れが待っているのが、嫌だったのだろう。






吹き抜けの階段で昇った3階は、がらん、と空虚な感じ。


平日昼間の図書館は、たいていそんな感じなんだけれども

めぐには、その空間の感じが

自分のこころのように感じられてしまう。




「ルーフィさん......。」と、言葉に出して名を呼ぶと

涙っぽくなってしまう。


どうして?と思っても、わからない。


ルーフィと、一緒に暮らしていると

ふつうの女の子でいられるのに

離れていると、わけわからなくて

淋しくなってしまう。



そんな気持は、はじめて体験しためぐだった。





壁面のラックから、CDを手にとって

めぐは、ひとり用カプセルで音楽を聴く事にした。


音楽は何でも良かったのだけれども

ポリー二の弾く、ショパン名曲集だった。


きらびやかなピアノのタッチが刺激的で、普段はあまり

聞くことのないディスクだったけれど

弾けるようなスタインウェイの音が、気持を変えてくれそうな

そんな気がして。



カプセルに入ると、CDをプレーヤーに掛けて、スイッチを入れた。

ボリュームをかなり大きくして、音を浴びるように聴いた。


カプセルは、みみもとスピーカーと、椅子に低音スピーカーがついていて。

ちょっとは、音が周囲に聞こえる。




音楽の中に浸る事で、やがて来る別れを忘却したかった。



これも、目前の3次元時間軸にある空間、未来のそれを

予測して、イメージが一杯になってしまって。



つまりは、イメージの中の4次元空間に拘束されて、憂鬱になるのを

3次元の音楽、規則的な時間軸に沿う音葎で

現実に戻そう、と言う試みなのだろう。







途中で曲が、練習曲10-3、「別れの曲」になった。


別れ、と言うイメージはあまり感じられない

むしろ、暖かく感じる曲で



....そんなお別れ、できたらいいな....。と、めぐは

ちょっと思ったりもした。







ポリー二の硬質な音は、きらびやかで

クラシック、と言う感じがしないところも

結構、こういうときはいいものね、と


すこし、めぐは気持が軽くなった。




音楽っていい。



そんな風にも、思って。








残留者



そんな、めぐの気持ちに

天使さんも、気が付いていて


言葉を交わすことが、できたら

いいのだけれど、と


思ったけれど。


めぐ、は

天使さんと、お話のできる事に

まだ、気付いていなかったから

天使さんは、静かなる隣人のまま

見守るだけでした。



「それで、いいのでしょうけど」と

天使さんは、空を仰ぐだけ.....



その時、天使さんは気配を感じた。



「あなた、は、たしか.....」


そう、見える訳ではないけれど。



いつか、図書館で

イライラおじさんに憑依していた悪魔くん、だった。




「魔界に帰らなかったのですか?」と

天使さんは思ったけれど

悪魔くんは、黙して語らず。


ただ、悪魔くんにしては

バイタリティーが感じられず、静かで

好戦的でないところも、不思議な雰囲気だった。

静かに微笑んでいるような、感じだった。





人間界で悪魔と呼んでいるから、と言って

悪者な訳では、もちろん、無い。



例えば、人間界でも


知らない国の人を想像で、怖い、と思ったりするのは

よくあることだ。



アジアでは、ヨーロッパ人を白い悪魔と言ったり


ミドル・イーストではアメリカ人を悪魔と言った。



それは、自分たちと違う人から身を守るように

動物さんだった頃に覚えた知恵で


知らない者は、まず警戒する方が

危険はないから、で



そのうち、知ってる人になれば

仲良くなれるのだけれども。



そういう訳で、悪魔くん、と言う日本語の書き方も

イメージが良くないのだけど(笑)


例えば英語ででいもん、とかくと

そんなに悪い感じはしなかったりする。



この、悪魔くんはそんな感じで

ふつうだった。


ただ、魔界に帰らずに

人間界に居ると


もう、帰れなくなったりするかもしれなかった。



「なぜ、わたしたちに...?」天使さんは

悪魔くんに告げたが


何も語らない。


言葉が通じないのかもしれなかった。



それでも、なぜか

かかわり合いを持ちたいのか

こうして、人間界に戻ってきて

めぐのそばに、戻ってきた。



理由は、わからない.....






ルーフィとMeg、つまりわたしは

図書館のめぐを訪ねていった。


なんとなく、日課になってしまっていて。

5階のパーラーで、レモネードなどを頂いて

くつろぐのが楽しみだったりもした。



今日は、1階の図書カウンターに

めぐがいないので

階段を昇って、2階の資料室、それから

3階の視聴覚室に昇ると


ルーフィが、彼、悪魔くんに気付いた



「あれ?なぜ今、こんなところに....」

ルーフィの感覚だと

悪魔くんは、みんな魔界か動物界に

散ってしまったはずで


そろそろ、魔界への扉を閉じる事になっていたのだ。



遠くからの気配だと、それはやはり

魔界の者だ。



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sent from W-ZERO3




ことば



ルーフィは、魔法使いなので

魔界の言葉を知っている。



「ごきげんよう」と

語りかけてみたけれど


彼は、黙して語らないので



「魔界に戻れなくなっちゃうよ?」と

次元の扉が閉じてしまう事を、ルーフィは

伝えた。

人間界で、食べ物を探して生き延びる事は困難だ。

それに、魔王が

それを認めるかどうか....。


以前は、追放と言っていたくらいだったから。



人間界に悪魔くんが残る事を

単階の盟主、神がそれをどう思うか?


人間界が正常になったと

認めてくれるだろうか?



わからない。



認めて貰えなければ....契約は....?


めぐの命は...?




不安に思い、ルーフィは

更に呼びかけた。



「なぜそこにいるの?」



彼は、言葉を発しない。


けれど、めぐ、ではなくて


めぐに宿っている、天使さんを

じっと見ている。



見ている、というより

感じている、と言うのだろうか。





わたしは、なんとなく思った。



「もしかして、悪魔くん、天使さんの事を...」



ルーフィは、わたしに振り向いて

「キミの発想はハッピーだね。でも、そうかもしれないね」と

にこやかに悪魔くんに呼びかけた。



「もし、僕らの想像通りなら、天使さんに恋しちゃったのかな?それは、僕らは止めはしない。好きにすれば」と。



「そんな事言っちゃっていいの?」と、わたしは

びっくりした。



ルーフィーは笑顔で「いけない、って言ったって

どうしようもないよ、それは。

天使さんがなんて思うかなぁ」





それは、そうよね。

好きって気持ち、どうしようもないもの。



悪魔くんは、好きで魔界に生まれた訳じゃないし。

天使さんに、出逢う事なんて

魔界じゃ、ないもん。



偶然、人間界に天使さんが降りてきて。

魔界から、悪魔くんが来て。


出逢ってしまったのも、どうしようもない。



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sent from W-ZERO3




世界の果て



誰も気づいていないけれど

めぐの、ルーフィへの思いも

やっぱり、住む世界の違う人への思いだった。

めぐは、この、似てるけど違う世界の人だし

ルーフィは、ふつうの世界、3次元空間に住む

しかし、魔法使いと言う4次元の世界に行き来する人だったから...。


めぐ本人は、宿っている天使さんの事に気づいていないみたいだし

その、天使さんに恋した悪魔くんの事も、知らずに


ふつーに図書館で司書のアルバイトをして、そのまま、いつか

ハイスクールを卒業して、カレッヂに進むと

そんな風に未来があると思っているんだろう。



でも...。


おばあちゃんの話だと、赤ちゃんの頃に

めぐの命は尽きる筈だった。


それは、天使さんが魔物から庇い切れなくて

自ら命を失い掛けながら、守ってくれた結果だった。


なので、今この異世界で、めぐと天使さんはふたりでひとり。



もし、天使さんが天に戻る時ーーー。神様がめぐに、授け物として

命を与えてくれなければ、めぐの人生はそこで終わり。



めぐを、天使さんを救おうとしてルーフィは、神と契約をした。

魔法使いがする契約としては、大それたもので


この世界の時空の歪み、つまり人の心に潜む悪意を無くして

悪魔くんたちが、それを求めて人間界に来る事をなくし


この、異世界がふつうの人間界に戻れるようにする事。




それは、神経内分泌学・生理学的解析手法で上手く行った。


魔界からの訪問者はいなくなったので

往来ができないようになる、筈だった.....。







「帰らんと申すか!」魔王は激怒した。

魔界から、魔王は

ただひとり人間界に残った悪魔くん、あの、天使さんに恋した彼と

通信をしていた。



悪魔くんは無言....。




「宜しい。ならばお前は魔界追放だ。永遠に異界を彷徨うが良い。

命尽きるまで異界に居れ。」と、冷静に魔王は、そう告げた。











ふつう、違う世界に行くときは

命が尽きて転生する時だけだ。

人間界、天界、魔界、動物界....。

人間界だけが3次元で、あとは4次元。


地球の重力を理論物理学的に計算すると、3次元空間にしては

少し重いのは、人間界以外の多次元空間が存在しているからだ、と言われるように

人間には見えないが、異世界がいくつもあるのだ。






今、人間界に似ているこの異世界は、3次元空間だけではなく

4次元が重なり合ってしまっているので


例えば、人間が空想するとき、そのイメージに

魔界のイメージが重なってしまっている。


その魔、とは

無意味に人を攻撃したり、悪意をもったりするというイメージ。


そのせいで、ひとの心は乱れ


平和であっていい筈の人間界が、争いに満ちた魔界に近くなってしまっていた。




それを直す契約を、天界の盟主、神と

ルーフィは行った。


報酬として、めぐの命を救う、と言う事で。








幾つかの想い



ほとんど、人間界は正されたように見えた。


ただの流行であった、差別や攻撃などは

実は、人心を動物界レベルに落とす画策で

魔界の一部が企んだ事だったが



別に、人間の行動力そのものは

対象は何でも良く、ただ、脳の中で

新しい神経回路が接続し、連携し、創造する事が


快楽である事で、それに依存していただけだったから


暴力的行為は、痙攣的な刺激を

脳にもたらし、それはノル・アドレナリンの作用と

ドパミンの主な作用である。


動物として、狩りをする事を好み、食物を

得るように、学習された結果の遺伝的記憶である。



人間は、天敵が居なくなった生物なので

同じ種の中で争う事が増えた、高等類人猿から

派生した、と言われる

ダーウィニズム的進化生物学によると


そのように類推される。


しかし、人間は知恵のある生物なので

文化を創造し、社会を構築し、建設する事で

その、暴力的行動に代わる快感を見出した。



例えば、スポーツなどで競い合う事や

学術などで研究する事、それらにより

得られる名誉が快感、であったりした。


行為が楽しいので、争う目的になった途端

動物レベルに墜ちる。


その時、その脳のイメージは

動物界に支配されてしまっているのである。



それを誘うのが魔界の者であると

されていた。




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sent from W-ZERO3




愛と争い



形は違えども

恋愛もまた、類似なもので

現実、3次元空間にある恋愛対象の中にある、心。

ーそれは4次元の存在だー



それを、自らのイメージにある理想

ーそれも4次元の存在ー


に、合わせようとするのが恋、である。



人間の場合である。



天使さんや悪魔くんは、元々4次元の存在なのだが

例えば、悪魔くんの恋するイメージが

天使さんに存在するかは不明。

だいたい、天使も悪魔も性別がない(笑)。

あくまでイメージである。



それが恋なら


愛は、その3次元的な存在、つまり

人間そのものを慈しむ行為である。



相互に愛し合う事は美しい。




例えば人間の恋愛は、ひとりにするもので

根拠は進化生物学・比較進化論である。



生物が単為生殖として、生命進化を始めた後に

有性生殖と言って、ふたつの種が

遺伝子を選択しあう事で、環境適応が

進むようになった。


その時、生きている環境に合った種が残る。



その為に相手を選択するのであるが

高度に知的な生物である場合は

それに、文化的選択が加わるので


好みの形、好みの心。

そんなものを選択するのは、パターン認識で

ー過去に快かった記憶ー


を、選択している。



ふつう、出生してから最初の記憶の影響が大きいので

お母さん、お父さんのイメージが強かったりする

事が多い(笑反対もある。)





ただ、天使さんや悪魔くんは

生物ではないので、たぶん、心だけ、で

選択するのだろうけれど。


楽しい心。

嬉しい心。

愛おしい、心。



そこだけは、人間も同じだ。




好きな人への想いが叶わないとき

争いや憎しみを感じたりするのは

主に、動物的な部分である。



生殖は排他的で、ひとりとしか

一度に恋愛できない、のは

動物行動学的に正しい。


ひとり、子供を生むのに1年近く掛かるし

育てるのに数年掛かるから、である。


それなので、他の人間に排他、である。

そうできない時、憎しみや争いを感じるのは

致し方ない。




心の愛、例えば天使さんや悪魔くんには

その機能がないので

自由に恋愛ができる。

でも、そうはならないのは

わたしたち人間の感覚で、彼らを見てるから、だろう。



人間も、いつかそれから解放されると

いいのだけれど。




ルーフィの研究によって、この国は平和になって

争いは少なくなった。



恋愛の争いは、あるだろうけれども

それも、恋しい相手が幸せになる事を願えば

争う事はなくなる。


自分が欲しい、のではなく

相手が願う恋、それの成就を願う。



そんな人の心は、美しい。

欲を克己し、愛に満ちた心になれるのだろう。







悪魔くんの想いを、天使さんは

なんとなく理解した。


しかし、互いに4次元の別世界の者である。

天界と魔界に交流は無かった。





魔王が、魔界の扉を閉じたので

人間界に、悪魔くんはひとり。


人が争わなくなった事で

攻撃的エネルギーを食べている悪魔くんに

居場所はなく


やがて、死が訪れたら

魔界追放の身、ではあっても

再び、魔界審判を受けて


おそらく、地獄か....


人間界で善行をすれば(笑悪魔くんだが)。

動物界に行けるかもしれなかった。









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sent from W-ZERO3




悪魔くん、モノ・ローグ



悪魔くんは、これまでの人生を思い出していた。

よくある事だけれども、知らない世界でひとりぼっちに

なってしまうと

話し相手もないので、自分の記憶を思い出すと

宇宙旅行に最初に出発した飛行士などは

そう言っている。


宇宙船のカプセルの中で、暗い宇宙を見ている

孤独感。


それは、異世界でひとりになって、もう戻る事もない

悪魔くんも似ているのかもしれない。


人間の場合、脳細胞は常に死滅しながら

神経細胞を繋ぎ変えて記憶を保っている。


その結合が、記憶を保つのである。



不要な記憶を消しながら、必要な記憶は強化され

その記憶の整理が「夢」だと言われている。


なので、音楽家は音楽の夢を見るし、作家は文学の夢を見る。

料理人は料理の夢を見るのだろう。



それが現実でない、と認識する事を認知と呼ぶが

認知ができなくなる状態になると、夢、と現実がわからなくなる。


宇宙で、現実感のない空間に漂っていると

類似の状態になって、白昼夢を見ると言われ

宇宙飛行の訓練では、それに耐える為に

無音、漆黒の部屋に閉じ込めるそうだ。


情報のない場所で、記憶と戦う訓練である。





このときの悪魔くんも、外界と遮断された

孤独な人間界にひとりだけ。

言葉が通じる相手もいない。


唯一ルーフィだけが、理解してくれているようだが。





そのせいで、悪魔くんは夢とも現ともつかない意識で

過去を回想していた。





魔界に堕ちる前は人間だった。

母親らしき者は、俺の存在を疎ましく思っていたらしく

生れ落ちてしばらくは、玩具のように可愛がっていたらしい。

らしい、ってのは記憶になかったからだ。


他に身寄りもなく、俺は

その女に縋るしかなかったが

腹が減ってばかりいたし、泣くと叩かれたりした。


そうしているうちに、その女は俺を捨てて

どこかの男と居なくなってしまった。


俺は、捨てられたらしいと気づいた時は

誰も助けてはくれない状況だった。


食べるものもなく、寝る場所もない。

その女を恨むと言うか、むしろ解放されてほっとした。


食べ物が無いので、盗んで食った。

他に方法が無かった。


そのうち警察に捕まった。

警官は、まだ幼かった俺を、邪険にはしなかった分

あの女よりはマシだった。



女なんて大嫌いだし、母親なんて者はそんなもんだと

俺は思ってた。


救護院で、シスターたちが優しくしてくれたが

俺は、なんとなく怖かった。


女ってものは、気分次第で凶暴になると思っていたんだ。



だから、心を許した途端、また傷つけられる。それが怖かった。



心のどこかで、誰かに甘えたいと思っていたのかもしれない。




思春期になっても、だから恋人、なんて無理だった。

同じ年頃の女の子を見ても、愛らしいとは思わなかった。

生き物として、あの女と同じ匂いがすると、忌避したくなった。


心が砂のように乾き、疲弊していく。


ただ、なぜか動物的に、暴力的になっていった。


それで、事件を幾つも起こした。


どうしようもなかった、俺にも抑えが利かなかった。


救護院のシスターが、嘆き悲しむのを見て、俺は

生きていても仕方ない、そう思ってしまって....。



シスターのような人の子供に生まれたかった。


そう思いながら、俺は盗んだバイクで飛ばした。


どこかに逃げたかった。



夜更けのハイウェイを飛ばしていると、悪魔が誘っているような

そんな気がした。



赤いランプを回転させた、ハイウェイ・パトロールのGT-Rが

すぐに追いついてきた。


スピーカーで何か、ポリスが怒鳴っている。


俺は、スロットルを目一杯開いた。

盗んだオートバイはメイド・イン・ジャパン、2ストロークスクエア・フォアの

レーシング・バイクだ。



誰も、俺には追いつけないぜ。


前輪を軽々と持ち上げ、金切り声を上げるように

エンジンは回転する。

レヴ・カウンターは10000を超え、なお回る。

白煙を上げて4本のマフラーから、排気が抜ける。

ポリスのGT-Rも、これには敵わない。


だが、ハイウェイの悪魔は俺より上手だったのか

最後のコーナーを320km/hで回ろうとした俺が

無茶だったのか。


フロント・タイアが破裂した。


そのまま、アルミニウムのマシーンはカーブから転落、大破し

俺も、悪魔に誘われた。



地獄に堕ちても、俺の心は救われなかった。

周りも似たような奴らばかりだったから

それだけは良かった。


そのうち、俺自身が悪魔になっていると気づいたが

俺のせいじゃない。


あの女のせいだ。


俺は、普通に愛されたかっただけだ。

ほんの少しでいい、誰かに思いやられたかった。




そんな時、仲間に誘われて魔界を逃げ出した。

次元の扉が開いていた、からだ。


歪んだ時空から、人間界に出て

人間たちの悪意を食った。


車に乗る奴らに憑依して、事故をおこさせたり

前の車を煽ったり。

スピードを出させたりした。


みんな、それらは愚かな人間どもの願いを

俺たちが煽っただけだ。



俺のせいじゃない。そいつらは

元々、俺みたいな連中だったんだ。


悪いのは親さ。





そんな風に思って、父親くらいの男に憑依して

図書館に行った。



父親なんてみんな死んでしまえと思った。

事件を起こさせて、警察に逮捕させよう。


そんな風に思っていた時、あの天使に出会ったんだ。







俺が求めていた気持は、これだったのか。

安らぎを覚えた。



あの女とはまるで違う。

俺が悪さをしているのに....。怒りもせずに。


柔らかな感じだ。



心が、凍り付いていたものが溶け

乾いていた砂のような気分に、潤いとして流れ込むような

そんな気持だった。



生まれ付いてから、ずっと。



求めていた、それ。



愛、と呼ばれるのかもしれない。




その人が天使だと、すぐに分かったが

どうして地上に降りているのか、分からなかったが


この天使のためなら、俺はどんなことでもする。

何か、役に立ちたい。助けたい。

幸せにしてやりたい。


そんな気持がどこから湧くのか分からないが


これが、愛ってものだろうか。



だから、俺は

ひとりだろうが、なんだろうが。



構いはしない。


この天使が、望む事だったら何でもする。


そう思ったから、魔界には戻らなかった、んだ。





裁定



深い想いを秘めた悪魔くんは

しかし、寡黙なので


その想いは、誰にも理解されはしないが

しかし、尊い愛を秘めていたのだろう。



別に、代償を求める事もなく

天使さんの幸せを願っていた。





ーーそんな時。


魔界との扉が閉ざされたので


神様は、裁定を下そうと


ルーフィたちの世界を訪れた。




が。



神様が感じ取ったのは

魔界の者の雰囲気だった。



次元が、少し歪んでいる事が

明確に、感じ取られた。



めぐ、に宿っている天使さんに

恋してしまった悪魔くんの持つ雰囲気である。



「これでは....裁定を下すには。」

時期早尚である、時空の乱れを正すべきだと

神は、ルーフィに伝えた。



草そよぐ、風おだやかな満月の夜

爽やかに神は、重い言葉を残す。




「そう言ったってなぁ」と、ルーフィは考える。



「いくら、神様だってさ」と、わたしも思う。

悪魔くんが人間界に居たって、何も

悪いことをしている訳じゃない。




それを理由に、めぐへの授け物を出さない、と

言うのは,,,,,。


暗に、悪魔くんに出て行けと言っているようなものだ。

それが、神のする事かしら(笑)。




でも。


悪魔くんにしてみれば、このままで居ても

自分も疲弊するだけで

異なる世界に旅立ってしまえば、もう

天使さんには永遠に会えなくなる。



もちろん、めぐ、も

天使さんも、この事は知らない。







悪魔くんは、天使さんやめぐの幸せを考えた。



異なる世界に旅立てば.....それで、上手くいく。







次の、満月の晩....。

悪魔くんは、人知れず

人間界を去った。





















それから、ふたまわりした

満月の晩。




神は、ルーフィたちに裁定を下した。


いや、待ってくれたと歓迎すべきだろう。

本来なら、それを断られている筈だったのだ。






「では」と、神は、めぐに契約通り、授け物をした。

遡って出生時、命を元通りにする、と言うのである。

時間を逆転させ、めぐは新たに生まれる。



つまり、時空の歪みが

生まれてから18年の、異なる世界を作っていた。






それが、元に戻る。



同時に、天使さんも天に戻る。





「それでは、術を」と、神は

平然と、儀式を始めると.....



草原はゆらぎ、夜闇に陽炎のような

空間が析出した。



時空の捻れだ。




天使は、めぐから離脱し

半透明の翼、金色の粉が浮遊し

きらきらと、閃光は神々しく。


柔和な微笑みは、やはり天の調べ...




「あ....」



草原に、子猫が。



天使を見上げ、黙って見つめていた。





天使は、その雰囲気を察した。




それは、転生した、あの悪魔くんだった。






人間界を去り、彼は悪魔としての生命を自失し

再び魔界の裁定を受けた。



いきさつを理解した魔王は、「それは、善行である」と

動物に転生し、人間界に戻るように命じた。



「最後の別れになるであろうが。せめてもの情けである」




愛する心は、魔王にも理解できるのだろう。








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sent from W-ZERO3




それぞれの記憶



「でも、ルーフィ?」と、わたしは呼びかけた。


彼は、わたしを見て、微笑んだ。「なに?」



「めぐちゃんの、いままでの記憶ってどうなるの?

それって、淋しくない?せっかく、思い出を

重ねて生きてきたのに」と。



ルーフィは、少し考えて

「これまでの18年の人生に、魔物や天使さんの

記憶は、めぐちゃんにない筈だから。

時間旅行させて元に戻さなくても...いいのにね。」と

ルーフィは、思ったけれど

神様には、お考えあっての事だろうと思って。


黙っていた。

折角、命を助けてくれるのだから、と

そんな思いもあった。




でも、一応聞いてみる(笑)。


「あの、神様?めぐちゃんは、何も知らないのです。

今までの思い出を、残してあげては貰えませんか?」



お友達ができたり。

学校へ行ったり。

図書館へ行ったり。

いろんな記憶は、もう、戻らない時の

大切な、すてきな瞬間の積み重ねなんでしょう。




神様は、少し考えて「その娘には、能力がある筈だ。

天使が宿っていた事も、気付いているかもしれない。」


と、事も無げにそう言った。



「まさか....。」と、わたしは絶句した。



神は、その言葉を裏付けるかのように

「その娘は、もうひとりの君だ。ならば当然だ。図書館で

何度か、時間を逆転させている。」



そうか。


そういえば、ベランダから転落した坊やを助けた時。

屋上から墜ちそうになった人を助けた時。


必死になった時に、能力が現れたのね....。



それは、天使さんの力じゃなかったんだわ....。




その時、天使さんは

飛翔するのを止め、地上に舞い降りた。



神は、驚愕し「何をする。天に戻れなくなるぞ。」



天使さんは、子猫の姿の元、悪魔くんのそばに舞い降りて


優しく、猫の背中を撫で、胸に抱き留めた....。




涼やかな声で「わたしは、この子と共に...地上で生きます。

次に転生した時、人間になって。

そして、いつか、天に昇れるようになるまで。

一緒に生きたいと思うのです。」



天使さんは、生命が長いので

それは十分可能だ。




神は、無言で、厳しい表情をしていた。




天使さんは、穏やかな慈愛に満ちた表情で

「この方が、こうなってしまったのも、また

私の力足らずだと思うのです。どうか、

わがままをお許し下さい。その時が来るまで

裁定をお待ち頂けないでしょうか。

めぐさんが、きちんと能力を使えるまで

わたしが、お守りしたいと思うのです」



天使さんは、静かに、爽やかな夏の朝の風のように

答えて。


美しいメロディに聞こえる。





「きれいな声ね」と、わたしは感嘆。



「うん。それは至上の音楽だもの」と、ルーフィ。



ヨハン・セバスティアン・バッハのバロック音楽、「主よ、ひとの望みの喜びよ」を、ちいさな頃初めて聞いた時みたいな感動を、わたしに、その声はもたらす。




神様も、その声に感銘を受けたのか

「よろしい。思うがままにするがいい。

ただし、それまで天には戻れぬぞ。よいな?」



天使さんは、静かに子猫を抱いたまま飛翔し

めぐの元に戻る。


子猫は、めぐに寄り添った。







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sent from W-ZERO3




休息



天使さんは、思う。



...めぐさんの、ルーフィさんへの気持ちは

まだ、そのままですもの。






めぐが、0歳に戻るなら

当然だけど、ルーフィの思い出も

消えてしまうから。


せめて、しばらくの間

思い出を、そのままにしてあげたいと

天使さんは思ったのだった。





「にゃご」




めぐの足下で、子猫がすりすり。



「あ、かわいいー」めぐは、にこにこ。



それは、悪魔くんが転生した子猫だけれども

前世の悪魔だった記憶を、たぶん、忘れている。

転生とはそういうもの。




それでも、その子猫が

いつか転生して、人間になって。

人間から、転生して

天界に行ければ。



天使さんと、一緒になれるかも、しれない。




猫の記憶のどこかに、前世の記憶が残っていれば、の

事だけれど。







めぐ自身は、ただ、猫をかわいがっている。



ゆびさきで、ふわふわの猫を撫でて。


猫は、ゆびにじゃれている。「にゃご」




「そう、あなたのお名前は、にゃご、さんね」と、めぐは

にこにこ。




「にゃご」猫は、返事をしたみたいに。




「ミルク、あったかなー」めぐは、子猫を抱いて、にこにこ。







「これでよかったのかなぁ」と、わたし。



「わからないけど、でも、とりあえずは...」と、ルーフィ。





天使さんのしあわせ、ってなんだろうなぁと

わたしは思った。


結局、ひとりきりでまだ、人間界に残ってる。


誰か、のために.....



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天使さんのしあわせ



天使さんは、それでじゅうぶん

しあわせ、だった。



どなたかが、それで

しあわせになってくださるのなら...



言うまでもなく天使なので(笑)

自身の欲などはない。


生物ではないので、自明の理である。

ほとんどの欲は、生命維持に起因する。

ただ、人間の場合は


心の中に4次元の空想が出来るので

際限なく、時間・空間の広がった欲ができてしまう。



それを、現実の、目前の3次元空間に

妥当に適合させる事が、認知であるが


たまたま、他の人と利害が衝突すると

争いになる。



言葉にすると単純で、そんな事で争う人間は

愚かと思ってしまうが



それは、天の視点である。




生命体として、争う事もあるのが

人間だ。それでいいのだ。




でも、天使さんにはそれがないので

猫に転生した悪魔くんが、しあわせに

なってくれる事を願い


お手伝いをしている、と

そういう事らしい。





いまは、無垢な存在になったにゃご、が

これから、どんな経験をして

やがて、転生していくのか?

猫のまま、なのか。



それは、今はわからない。






「向こうじゃあ、わたしたちを気にしてるかなぁ」と、わたし。



「だいじょうぶ。いつかみたいに、ほんの一瞬なんだよ、向こうでは」と、ルーフィ。



4次元は、時間が伸縮するので

向こうの、ふつうの3次元世界で一瞬、の間に

わたしたちは、長い旅ができる。



「そうすると、わたしたちの寿命って、どうなるのかしら」と、わたし。



「寿命って?」と、ルーフィは不思議な顔をする。




いつのまにか夜が明けて、朝のとばりが

訪れる。




「記憶とか、いっぱいあるし、時間が経つと

年取っちゃう」と、わたしはちょっとお肌の衰えを気に(笑)




ルーフィは、楽しそうに「それは、だから。

あっちに戻ったら記憶のひとこま、だもの。

思い出って、いつでもどこでも思い出せるでしょ、それは

4次元だから。いま、僕らはそんな時にいるわけ。

だから時間旅行なの。ここは空間も歪んでたけど。

いまは、空間歪みは無くなってきた」と、ルーフィ。






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真夏のにゃご



この町にも、夏がやってきて。

にゃごは、ほとんど

おばあちゃんの猫、みたいに(笑)


めぐが、学校行ってる間とか

おばあちゃんが、畑に行くと


とことこ。見に来たり。



にゃごは、あんまり見かけない

キジトラ柄の、茶色猫。



細身で、しっぽの長い

かわいいにゃんこ。


畑歩くときとか、つま先で優雅に歩くのは

土がちょっとニガテらしい。





でも、きょうは


畑に来ない。



「あついからねぇ」と、おばあちゃんは

早起きして、畑に出たら



お日様が出る頃、農作業小屋に戻って


すこし、おやすみ。




「にゃごはどこいったのかねぇ」麦藁帽子を取って。




「にゃごー、ごはんよー」と、おばあちゃん



かすかに、にゃごの声が

お風呂のほうから。




おばあちゃんは、とっとこと、と

あるいて。



お風呂の小屋に行くと




「にゃご」





にゃごは、お風呂場のタイルに


お魚の干物みたいに、伸びてた。




「暑いからねぇ」おばあちゃんは、風通しの良い

タイルに伸びている、毛皮のにゃごをみて

にこにこ。




「シャワー嫌いよね」と、おばあちゃんは

お水を掛けて冷やしてあげようかと(笑)



でもふつう、にゃんこは嫌いかしら....。




前に飼ってたにゃんこは、お風呂で洗ってあげたっけ。





「あとで、めぐに聞いてみようか」






のんびりと時間が流れる、夏の午後。


夏休みも、もうすぐ。





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夏の日



「ただいまーぁ、おばあちゃん。」めぐは、快活だ。

夏、爽やかな季節なので

気分も最高。



「ああ、おかえりめぐ、あのね、にゃごのね」と

おばあちゃんは、農機具小屋で

クワスを飲みながら、のんびり。


にゃごを、おふろに入れていいかしら、と

めぐに聞こうと思って。



でも、きょうのめぐは、ちょっとお元気過ぎて


「あー、暑いな、シャワーするね」と、おばあちゃんの

前を通って、お風呂の小屋へ。


ドアが渋いので、思いっきり開いて。

閉じて。



かばんを置いて。



だーれも見てないから。


ひょいひょい、と

夏服を脱いで。


ちょっと、おてんばさん(笑)





お風呂場のガラス扉、片板硝子の

重厚なそれだけれども。



いまでも、ルーフィが

お風呂に入ってきた(笑)事を思い出すと

頬が紅潮するめぐ、だった。


結局見られてはいないものの(笑)そんなものだ。




からから、と

意外と軽快な音を立てて扉は開く。




「にゃご」




さっきのまま、にゃごは

でろーん、と

お風呂場のタイルにノビている(笑)




「そっか、暑いもんね」と、めぐは

にゃごにお水がかからないように。



バスタブ、と言うより

大きな風呂桶なのだけれど、そこで

シャワーする事にした。



それも、ほんとは

しちゃいけないんだけど。



きょうは、仕方ない。


「にゃご、お風呂好きかな。」



そんな事をひとりで言いながら。



めぐは、おーるぬーど(笑)で


お風呂場に入った。





にゃごは、まだノビている(笑)




冷たいお水の栓を捻って、シャワー。


「きゃぁ」めぐ、思ったより冷たいお水にびっくり。



髪から肩から、冷たい刺激が心地よい。



夏の楽しみ、かしら。



そんな事をめぐは思いながら。

右手で、アイヴォリーのシャワーヘッド。

左手で、お水に触れて。


透明な刺激、スパークリング。



シャボンを立てて、海綿でふわふわ。


柔らかくて、ふにゃふにゃ。

ちょっと、気持ちいい。


お水がにゃごにはねたのかしら....



にゃごが、ちょっと濡れてるみたい。



「にゃご、シャワーしよっか?」と、めぐは

しゃぼんをにゃごにつけようとすると



物憂げに、にゃごは

のそのそと、お風呂場の硝子を

ひっかいて。

開こうとした。



「だーめよ、爪立てちゃ」と、めぐは

シャボンだらけのまま、にゃごを抱いて。(笑)



それっ。



瞬く間に、にゃごはシャボンだらけ(笑)




でも、ちゃーんとおミミに掛からないように。



しゃごしゃご、って

洗ってあげると結構、にゃごも

気持ちよさそう。




「.....図書館に来る、にゃんこさんやわんこさんが

居るところがあるといいかも」




そういえば、ペットは入れないので

車の中とか、外の並木にお散歩ひもを

留めてあったり。


ちょっと淋しそうだったっけ。



お風呂、はムリにしても


お庭の裏の、噴水のとこで

水浴びとか、涼しそうでいいかなー。


めぐの、夢はふくらんで


シャボン玉みたい。



シャワーといっしょに、ふーわふわ。



「ちっちゃい頃、おじいちゃんが作ってくれたっけ、

おっきなシャボン玉」



なんとなく、思い出して

おじいちゃんがいなくなっちゃったので

ちょっと、淋しくもなったりもした。



「ずっと、長生きしてくれたら良かったのに。」




ちょっと、おじいちゃんに逢いたくなっちゃったな....





そう思った瞬間、めぐは

体が揺らいだような気がして。




めまいかしら、と

思ったけれど

気持ちははっきり。



「病気じゃなさそう...地震かしら?」




めぐ自身、気付いていないけれど


図書館で、時間を逆転させたのは

強く願ったから。



今は、なんとなく思っただけ。


こんどは、めぐ自身が

おじいちゃんの所へ飛びそうになった、みたい。















異質な想い



天使さんは、めぐの能力の変化を

感じ取っていた。


もちろん、それは喜ばしい変化なのだろう。

パフォーマンスとして持っていたものが顕在するのは。


でも。



それは、天使さんの持つ天界の者の雰囲気とは

やや異質な。


ルーフィの魔法、に近いような

魔界に近い異質なエネルギーを呼び寄せている、そういう感じだった。



いま、天使さんはめぐに宿っているけれど

その、魔法をめぐが使う事で


異質なエネルギーの雰囲気に、ちょっと困っていた。


音楽で喩えるとすれば、天界の雰囲気が

バロック音楽のような、理論的に美しい響きを

数学的に割り切れる、キレイな波....。

バッハの「バディネリ」のように収斂するものだとすれば


めぐの使った能力は、もっとエモーショナルな、ロック・ミュージックのように

ビートを含む波、だった。


それは激しさをも内包する、まさに魔法と呼べるような。

やや淋しさをも含む、例えばLed Zeppelinの「Stairway to heaven」の

ような、荒々しさを持つものだった。


快活な、今のめぐの気分でそうなるのだろうけれど

そうした違和感は、宿っている天使さんとしては

ちょっと気になるところ、だった。



不協和なエネルギーがこのまま目覚めると、共生するのは

難しくなる。




人間でもそうだけど、一緒に居続けるのは

相性がないと難しい。



気になるところがあると、無駄なエネルギーを費やすからだ。


にゃご



「にゃごー、だいじょーぶ?」

めぐは、それでもちょっとぐったりしてみえる

にゃご、を気にした。


毛皮ふわふわなのが、水に濡れて

ちょっと疲れてるみたい。


にゃんこは、だいたいそうらしい。



でも、夏場になると

にゃんこだって暑いでしょって

人間はそう思うので(笑)



毛皮はちょっと暑く見えるし。




おふろでさっぱり。



大きなバスタオルでふんわり。

にゃごを拭いてあげると、いつもの感じに

ちょっと戻ったかも。




ドライヤーは嫌がるので(笑)。


そのままにした。



扇風機は好きみたいだけど。





お風呂にある、お父さんが置いた扇風機に

にゃご、をあてて。



風で、ふわふわ。

毛皮が、すこしづつ。



いつものにゃご、に戻ってくると


やっぱり暑いのか、のそのそ、ぐったり。



夏のにゃんこは、もの憂げだ。






にゃごは、もともと悪魔くんの転生だけど

どうやら、過去の記憶は覚えていないようだ。


もっとも、覚えていたとしても

動物さんと言葉を交わすことは、めぐ、にはできないし


めぐも、悪魔くんの事は知らないので

お話できる事もない。




「そういえば、前、にゃんこ、いたんだっけ。」



めぐは、遠い記憶を思い出す。

キジトラにゃんこで、おばあちゃんが貰ってきた子猫。

ミー子、だった。


雄なのに、なぜか「ミー子」なの(笑)は

おばあちゃんが、めぐ、位の頃に

飼ってたにゃんこの名前なので。



でも、みーこ、って呼ぶと返事したので

それで、みーこ、ってみんなで呼んでた。




結構長生きのにゃんこだったけど

ある朝、いなくなってしまって。


おばあちゃんは、「猫は、死ぬ所を見せないものなの」って

ちょっと淋しそうな事を言った。



それっきり、ミー子は姿を見せなかった。




そんなことを、ふと、めぐは

思い出した。


悲しかったけど。でも、いつか、楽しかった思い出だけが

残った。


死んじゃったところを見なかったから、かも

知れなかった。




「いつか....。」



にゃご、にも

そんな日が来るのか、って思うと

ちょっと怖くなる。



それは、めぐ自身も生きているから。



別れる事はとっても淋しい....。




「ずーっと、生きていけたらいいのに。」








めぐは、ほんとにそう思った。



「転生」の事を知らないから、もある。

天使さんは、とても寿命が長いし

悪魔くんも、もともとそうだった。



けれども、悪魔くんは転生したから

いつか、猫からまた転生するかもしれないし

そのまま猫、だったりするかもしれない。


そんな、途方も無い時間を

天使さんは、過ごそうとしている。






時間と生命



ずっと、生きられたらいいのに、と

めぐは、なんとなく思うのは


おじいちゃんの事を思い出したりしたから、かな?



おじいちゃんは、優しかった。

大きくて、物静かで。

にこにこしてて。


おじいちゃんに、喜んでほしい、

そんな風に思ったし


いつか、優しいおじいちゃんの

真似をしてたような、そんな気もする。



おばあちゃんも、そんな感じかしら。


おばあちゃんは、のんびりさんで

しっかりしてて。


いつも、いろんな事を

教えてくれる。




お父さん、お母さんも


そうだけど、ちょっと口に出すのは

恥ずかしいから(笑)


言わない。




いつか、年を取ったら

お話をしたいな、と思ってる。



頑張って、わたしを

育ててくれたんだもの。



めぐは、優しい子。


猫を飼ったり、犬を飼ったりしてたから

世話が大変、ってことも分かったし

お金かかる事も(笑)


死んじゃったら悲しい事も。




そういう人生の記憶を持って、人は生きている。




天使さんは、そんなめぐ、を傍観していて

少し、羨ましいって思ったりした。


天使には、家族は無かったりするし

それなので、恋、って感覚も

ちょっと、人間とは違う、そんな気もした。



それなので、ルーフィにめぐが

恋してる、その感覚は分かるけど


天使さんの感じかたとは違うのかな、と

思ったりもした。






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天使さんの恋



例えば、恋したとしても

天使さんは、競ったり

争ったりする事は無い。


もともと、それは

家族を作る為の、人間の行為なので

子供を生まない天使には、そういうものは

必要ない。


ただ、恋した人の幸せを願い、お手伝いをする。


それが、天使さんの愛である。


憎んだり、怒ったりする事もない。



争いがなければ、起きない事である。




なので、悪魔くんの感覚は、天使さんには

分からないから


いつか、天界に昇る必要があるのだけれど。



そのために。いま

にゃごになっている。



ずっと、良い事をして

次は人間に転生しなくては、ならないけれど

それは、果てしない旅になりそうだ。





「それでね、図書館のお庭のお池を、プールにして

わんこさんに泳いで貰ったら、いいと思うの」と

めぐは、アイデアを楽しそうに話した。


図書館の裏手には、ちょっとした池があって

普段は水が入っていない。

大雨の時とかに、水を貯めるように出来ているので

栓をしておけば、自然にお水が貯まる。



「いいわね」と、わたし。



「いいんじゃない」と、ルーフィ。


夏向きで、楽しそうなイベントだ、と思う。


大人の視点だと、いろいろ、心配はあるけれど

でも、今は夢、だもの。



楽しくすごそうね。


と、わたしはめぐに、心の中でつぶやいた。



「主任さんに聞いてみよっよ」めぐは、楽しそう。




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お誘い



それで、図書館はお休みだったけど

司書主任さん、ふくよかなおじさんだけど

とっても優しくて、いい人。


電話番号は、連絡網で知っている(笑)ので

お休みだけど、たぶん、図書館にいるだろうと思って

電話してみた、めぐ。


ちょっと、ご迷惑かな....。と

思ったりもしたけれど、でも、優しい主任さんだったら。

許してくれると思う、女の子のわがまま(笑)。


でもまあ、許されるうちが花である(笑)。



許されるうちに控えないと、そのうち自然に許されなくなる(笑)

それも、人間としての自然な心である。


わがままが許されるのは、見た目が愛らしいからではなく

慈しみの心を持って扱ってくれるから、で


そうでない男は、危険な存在である(笑)と、おばあちゃんは

教えてくれる。



もっとも、めぐの場合図書館しか行かないので

危険な男など、知り合える筈もないのだが(笑)女子校だし。




「あー....ああ、君か。なに?」

と、のどかな声で、主任さんは答えた。



めぐは、アイデアを伝える。



「うん、お水を張っておくだけなら大丈夫だと思うな。」と、

主任さんは言ったので、めぐは嬉しくなった。



図書館の前で、暑い夏の日に

わんこさんが待ってたり。


ちょっと、かわいそうに思ってたから....。



涼しい日陰の、お池のそばなら、わんこさんも

うれしいんじゃないかしら。




めぐは、うきうきしてたけど、主任さんの言葉に

ちょっと、どっきり。


「あのね...その...言い難いんだけど。

うちの甥がね...今度の、試写会に...その...。

いかがですか...。と」

主任さんは、まるで自分がデートに誘っているくらいに

緊張して、たどたどしく言葉を選んだ。




めぐは、返事をどう、していいかわからなかった。



そういう誘いを、受けたことがなかったから。



男の子に、会ったことなんてなかったし...。



試写会と言うのは、図書館の3階ホールで

個人映画作家の作品を時々上映している催し、の事。




司書主任さんの甥御さんは、映画作家を目指している方、と

伺った事がある、と

めぐは思った。




どんな方か分からないけど....。でも、主任さんの甥御さんなら...。




そうは思ったけど、めぐの心には、ルーフィが居て。

はっきりはしないけれど。





どうしようかな.....。


デート、かなぁ



「はい、わかりました。でも、その日はアルバイトがある

日だと思います」と、めぐ。



断るのも悪いし、主任さんの甥御さんなら

悪い人じゃないだろうし。



映画を図書館で見るって変なデートかしら(笑)


でも、安全でいいかな。





そんなふうに、めぐは

いろいろ考えた。



オトメゴコロはフクザツだ(笑)。



ルーフィさんが好きです。



その気持ちは、変わらない。



一度に、複数の人を愛せないのも

人間としての限界、である。


生物としての機能で、赤ちゃんを育てるのは

大変なので(笑)


数年間は、それが仕事になってしまう。



なので、一度にたくさん赤ちゃんを産めないように

なっている。


わんこさんやにゃんこさんは、すぐに

赤ちゃんが歩けるので


一度に、5匹も6匹も産めて

かわいいのだけど。



でも、人間は確かに大変そうだ。




そういう訳で、誠実なダンナさんがひとり。

そういう家族が、理想らしい。



そんな事は、教わる事もないけれど

自然に、そうなっていくものだし。



ダンナさんとて、あちこちに奥さんがいて

赤ちゃんがいたら、忙しくて大変だ(笑)

お金もかかるし。




なので、合理的に出来ているのが

人間の家族、である。




天使さんや悪魔くんのように、機能がなくて

心だけで恋する、のも

自由でいいけれど。



人間としては、物足りないような気もしないでも、ない。


真剣に、ひとりの人を思ったり、思われたり。


ひとりの人を思いあったり。


そういう思い出も、あってもいいものだ。



失った恋も、美しい思い出になったり。








次の日、学校が終わるのを待ちきれなかったので

主任さんに、お池の栓をしておいてもらった。



お水がたまるまで、しばらくの辛抱(笑)



雨、降るかなー......。










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自然と人間



人間の文化は、生活の中で培われたものなので

だから、ハイティーンのめぐが

すぐさま結婚して、赤ちゃんを生む訳ではないが(笑)


長い人類の歴史の中で受け継がれたものが

自然に、記憶されているのである。



記憶の一例を挙げれば、お腹が空けば

ごはんが食べたくなる。



それは、単純に体の中にある、エネルギー、例えば

糖分が減ると、それを関知して

食べたくなる、と言う仕掛けが、目覚まし時計のような

シンプルな仕掛けで動いている。



それで、お腹が空くと怒りっぽくなる、のは

狩りをしてきた頃の仕掛けが残っていて


そうして、活動して。獲物を取らせようと

仕掛けがついているのである。



お肉を食べて、おいしいと思うのも

それと同じで


お肉に含まれる化学物質を、狩りの結果

お肉と共に得たので


そう感じるだけ、である。




なので、めぐの

この時の気持ちも、自然に生まれたもの、つまり

生き物の摂理に裏付けられているもの、で

あったりもするが


もちろん、本人の知る由もない。





もちろん、男の子にも

そうした背景はある。



かわいい、と思う女の子を

大切にしたい、幸せにしてあげたいと思う心を

齎すものが


ルーフィが魔法で、政治家に投与した

オキシトシンである。



その、女の子を守るために

外的から守る訳だし


時には、恋人を奪おうとする男と

戦う事も、あったりもする。



それは攻撃だけれども、必然なので

次元が歪む事はない。



目の前にある事象、3次元だから。


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