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駅の改札を過ぎたあたりに、カフェがあって
ケーキセット、とか
魅力的なおさそい(笑)。
だけど、もう夕方なので
「きょうは、ありがと」と言う、リサのお言葉に従って(w)
みんな、名残惜しいけど、きょうは解散。
「さよなら」って、Naomiは
颯爽と。
ほんとにモデルみたいに、さっさっ、と
歩いていったかと思うと
モーター・プールから
シルヴァーのオートバイ、YAMAHA TR1で
片手を上げて駆け抜けていった。
おじいちゃんの愛車だと言う、そのクラシックなオートバイは
柔らかな、猫の足のようなサスペンションを一杯に伸ばして
前輪を路面に捉えていた。
深い、軽い排気音。
V型72度バンク、4ストロークエンジンは軽快だ。
長い鍍金マフラーが、時代を感じさせる。
長四角のバックミラーに、彼女の視線が写っていた。
「ありがと、ほんとに」と
と、リサは
路面電車の停留所へ行って。
黄色と緑の、金属塊。路面電車に乗り込んだ。
デッキのところで手を振って。
一番後ろの、車掌室のところに立っていた。
そのうち、ドアが閉じ
路面電車は、海岸通りに向かって坂を下っていく。
「あー、行っちゃった。」めぐは、あれに乗れば良かったかな(笑)と。
思ったけど。
まあ、歩いていけばいいか。と
「あー、行っちゃった。」と、同じ顔してるれーみぃと(笑)。
「次の、すぐ来るね。」土曜の夕方だから、普段よりは少し
間隔は空いているけど。
6分くらいか。
れーみぃは、にこにこ。
「もう、卒業なんだなー、って
リサを見てて、思っちゃった。
なんか、淋しいから。
学園祭で、なんかしよう!、ね?」と、れーみぃは
にこにこ。
夕方の陽射は、もうオレンジ・ヴァーミリオン。
そろそろ、ブルーに暮れようとしている。
「なんか....? 屋台でも?」と、めぐは
食べ物主体(笑)。
「それもいいけどぉ。 そだ、バンドとか?どぉ?」
れーみぃは面白い事を言う。
「4人でバンド?ビートルズとか、ストーンズみたいに?」と、めぐは
海の向こうのイギリスの、ロック、それもクラシックなそれを言った。
「ビートルズかぁ...うん。いいね、女の子でやると、かっこいいかも。
リサは、ジョージ・ハリソン。
Naomiはマッカートニー。
あたしは、レノン?かな。」と、かわいく笑うれーみぃ。
「レッド・ツェッぺリンとか、ヴァン・ヘイレンとかは?」と、めぐが言うと
うわーハードぉ、と、れーみぃは笑う。
「かわいいのもいいねっ。ロネッツとか、クリスタルズとか。」と、れーみぃ。
「Da-do-ron-ron♪」とか?と、めぐは最初のフレーズを口ずさむ。
「そうそう。それそれ!コーラス合わせたらステキよ、きっと!」と、れーみぃは
楽しそう。
夢が広がって。こんなお話してると
本当に楽しいとめぐは思った。
楽器ができるか、は別にして(笑)。
「それじゃ、ヴォーカルはめぐかな。」とれーみぃは
にこにこ。
「あたしはダメよ、華がないもん。やっぱ、れーみぃだよ。
なんたって、かわいいもん。」と、めぐは
いつもあんまりおしゃれじゃない、短い髪に
簡素な服が好きな自分と
長い髪をきれいに整えて、ベレー帽かぶってたりして
おしゃれでかわいい、上品なれーみぃの方が
ステージに華がある、そんなふうに思った。
「歌....は、自信ないの(笑)、声が軽いし。」と、れーみぃ
そういえば、可愛らしい高い声だけど。
「それもいいんじゃない?男の子が来るでしょ。学園祭だから。」と
めぐは言う。
ふと、思い出すのは....。
向こうの世界でマジックを披露して、有名になった怖さ(笑)だった。
プライバシーなし!(笑怖)。
.....やっぱ、やめようかな、バンド(w)。なんて、めぐは一瞬思った。
「あ、ママ!」と、れーみぃは白い、ちいさなセダンが近づいてくるのに
手を振った。
白くて低い、ファストバックのセダンは
ペイントも美しく、深みがある。
メタルのフロントグリルは気品があって。
ヴァンデン・プラ・プリンセスだった。
イギリスの古参である。
ドライバーは、れーみぃによく似ている女性で
お姉さん、と見間違うような、お母さん(笑)が
ナトーのハンドルを軽く、回していた。
「よかったぁ。めぐ、乗ってって?」と、れーみぃが言うので
路面電車には乗らずに。
家まで送ってもらう事にした。
ドアは重厚で、静かにかちゃり、と開き
シートは、柔らかくて腰のあるレザー。
室内のあちこちに、ローズ・ウッドが使われていて
その、自然な香りが不思議な安堵感を醸していて
作った職人さんの心が感じられた。
いい車なんだな、と
車にあまり関心のないめぐにも、それは分かる。
ヴァンデン・プラは
さすがにロールスロイスのミニチュアと
言われるだけの
乗り心地で
すっ、と走り出し
揺れる事もない。
格別、変わった機械を使ってはいないのだけれども
その道の職人が作ると、機械もそうなる。
そんな見本だった。
路面電車のレールが光る、下り坂を
3人を乗せ、ヴァンデン・プラは
静々と走って行く。
マニュアル・ギアボックスなので
もちろん、れーみぃの母の
運転技能もあるのだろうけれど。
「いい車ですね」と、めぐは、本当の感想を述べる。
「ううん、古いばっかでね。
オイルも漏るの」と
母は、そういう。
声は、ややれーみぃよりも低いけれど
ほとんど、れーみぃに似ている。
そういうところ、遺伝なのだろうけれど
面白いもの。
めぐは「あたしも、お母さんに似ているのかな?」なんて、思いながら。
自分だと、十分違ってる、と思うんだけど(笑)。
「めぐさん?れーみぃはね、お巡りさんになるって言うのね。
そんな、危ない仕事は、女の子は
しなくていい、って
お母さんは思うんだけど。
なんとか言ってあげて?(笑)」と
母は、本当に心配している、そういう感じだった。
それはそうだろう。
警察官、と言うと
悪い人も来るはずだし。
.....とはいえ、この世界は
神様のお蔭様で
そんなに、悪い人はいなかった。
過剰な欲望を、起こらないようにしよう、と言う
脳の生理学的な構造を
人間、と言うより
生物的に適正なレベルまで戻した、と
言う、それだけの事なのだけど。
つまり、人間の欲望のうちほとんどの欲は
生きて行くのに必要のない欲望なので
そのために争ったり、攻撃的になるのは
論理的に不条理、なので
それを、人々が認識すれば
欲望は起こらない。
それを、言葉ではなく
生理的メカニズムで、行うのが
彼らの改革であった。
そのせいで、そんなに悪い人は
この国に
いなくなった。
そんな訳で、お巡りさんを
女の子がする事にも
そんなに抵抗はなくなったような
......でも、その構造を
みんなが理解してるとも言えず
やっぱり、母親的な不安は
過剰なものであったりもする。
「ママ、あたしは司法警察官になるの。
泥棒を捕まえたりはしないわ」と
お母さんに、言葉で説明するれーみぃ。
でも、不安と言うのは理屈ではない。
不定な状況に、あらゆる可能性を想定し
不利益が起こらないように、と考えるのが不安である。
だから、推理ドラマや
サスペンスが好きな人々は
そういう不安も多いだろう(笑)。
空想の事を、可能性と誤認してしまうから。
.....後々、れーみぃが白バイ警官になって
ハイウェイパトロールになる、なんて
言う事は、この時は
想像できないだろう(笑)。
し、めぐも
その、3年後の出来事は
忘れているのであるし。
ひょっとして、変わるかもしれない。
未来は、そういうものである。
下り坂。
つまり、反対側は上り坂だけれども
その真ん中に、路面電車のレールが2本。
もう暮れ始めた夕方に、銀色に光っている。
めぐたちは、その下り坂を
ゆっくり下っている。
「ママ、危ない事なんてないわ。お巡りさんだからって。
司法警察官って、内務だし」と、
れーみぃは言う。
ママは「でも、警察にテロリストが入って
拳銃もってどかーん!とか、テレビで見るわ」と
れーみぃのママは、ドラマか映画を見て
そう思ってるらしい(笑)。
れーみぃが天真爛漫なのは、お母さんに似てるのだろう(笑)。
「ママ、それはドラマよ」と
れーみぃが言いかけた時
対向車線を昇ってきた若者のスクーターが
路面電車のレールを横切る。
斜めにレールを渡ろうとしたので
タイヤが滑って。
スクーターは、ころん、と倒れた。
でも、坂を下り始めていた路面電車。
本当なら、めぐたちが乗っているはずの
電車だった。
坂を上りながら転んだ若者は、
スクーターと一緒に
その、路面電車の前に吸い込まれそうになった。
危ない!
めぐは、それを見て
無意識に魔法を解放する。
若者とスクーターを
ほんの一瞬だけ、重力から解放する。
0次元モデルにすればいい。
すると、F=mghより
重力は無くなるが
それまでの慣性、F=ma,v2=vi+atより
わずかに空を飛ぶので、それで
衝突は避けられる。
スクーターごと、路面電車の前のスカートを掠め
めぐたちの乗った、ヴァンデンプラの前を横切り、舗道の敷石に当たって、止まった。
少年は、呆気に取られている(笑)。
もう、ぶつかると思って、目を閉じていたのだろう。
れーみぃのママは、スクーターの前、舗道に車を寄せた。
れーみぃは
「大丈夫?」と言うと
ミシェルくらいの年代の少年は、はい、と
恥ずかしそうに
答えた。
肘を擦りむいたくらいで、大した怪我もないらしい。
スクーターを起こして、エンジンを掛けて
また走り去る。
「驚いたわ」と、れーみぃのママは
電車に轢かれと思った、と。
それを、めぐは
とっさに魔法で回避したのだけれど(笑)。
でも、めぐは自問していた。
なんで、咄嗟に動けたのだろう?(笑)。
友達でもないのに。
そうは思っても、やっぱり、助けてしまう。
助ける能力があれば。
そんなものだろう。
魔法を使える、って事は
それだけ、できる事が多いのだから。
自然に、魔法使いしてしまっている自分に、めぐは、なんとなく驚く。
そのめぐに、れーみぃのつぶやきが聞こえる。
「道路交通法違反だわ。路面電車のレールを横切る時は、路面電車の通行を妨げてはいけないのだし、そもそもスクーターって横断禁止なのに」と
(笑)
そんな言葉を少年に言わないれーみぃは、やっぱり
思いやりのある少女。
「よく覚えているね」と
めぐは、笑う。
れーみぃは「法律って、上手く出来てるの。
知ると、そう思う。
文学みたい。」と(笑)。
それはそうかもしれない。
解釈は推理もあるし。
壮大な物語。
れーみぃが、おとなしやかなのに
法律、なんて硬いものを理解しているとは
めぐには意外だった(笑)
「もっと、女の子らしい嗜みを覚えてほしいんだけど」と
れーみぃのママは、苦笑い。
でも、法曹を目指す、なんて姿勢は
母親としては頼もしいのだろう。
でも「なんで、弁護士さんや、裁判官じゃないの?」と
めぐも思う。
「それは、難しいから(笑)」と案外現実的な
れーみぃ。
「なるほど.....。」と、めぐは納得。
司法警察官なら、給料を貰いながら勉強も出来るし
なんたって公務員だし。
「それに、いろんな人に力になりたいの。
弁護士さんとか、裁判官って
あんまり気楽なお友達って訳にもいかないし。」と、れーみぃ。
いろいろ考えてるんだなぁ。と、めぐは
なーんとなく、なりゆきで図書館にいて
そのまま司書になりたい、なんていう自分が
ちょっと、恥ずかしかったり(笑)。
「法律って、上手くできてるの。物語みたいに。
今の事故だって、スクーターの子が、ちゃんと規則を知ってれば
危険な事にならずに済んだもの。」
「そうだよね。」と、めぐは言い
確かに、あたしが魔法を咄嗟に使ってしまわなければ
あの子は電車にぶつかってたかもしれない、と
たまたま、そこに居合わせた幸運で、彼は助かったと
言う事を思う。
本当に、規則通りに、レールを斜めに横断しないでいれば
確かに、転ぶことはなかっただろう。
その規則を、知っているかどうか、も
別問題だけど(笑)。
「道路交通法だけじゃなくって、いろんな法律の事を
よく知っていれば、住みやすくなると思うの、いろいろ。」と
れーみぃ。
どんな事が、良くなるのかは
めぐには分からなかったりするけど(笑)。
でも、かわいい女の子って、割と、困ることも多いだろうな、と
れーみぃのルックスから、めぐはそんな風に思う。
割と、素っ気無い格好をめぐが好むのは
そういう、妙なところで思わぬひと目を引かない、なんて
実用的な理由もあるので(笑)。
「こんな調子なの。」と、れーみぃのお母さんは笑いながら。
でも、希望を持って将来を考えるれーみぃを
喜ばしく思っても居るのだろう。
白い、ヴァンデン・プラは
ゆっくりとエンジンを掛けた。
旧いOHVのエンジンで、ルーカスのスターターは
電動ねじ回しのような、面白い音を立ててモーターを回すけれど
それは、旧式の飛び込みギヤのせいで、モーターがゆっくり回るから。
エンジンものんびりと回転を始める。
「..........うむ。」
天上では、その魔法の気配を
神様はひとり、偶然感じ取っていた。
「あれは、確かあの、クリスタと一緒にいる娘だったな。
めぐ、とか言う....。魔法を使うようになった。」
神様は、めぐの命を助けて、それで
魔物に襲われた怖い記憶まで、消してあげた。
でも....?
「なぜ、魔法を使って自分の世界の時空間を乱すのだろう。」と
神様は思う。
3年後の未来や、さっきのように
スクーターの少年の運命を変えてしまったり。
もし、あの少年が怪我でもして
病院に入ったら。
そこのナースと恋をするかもしれない(笑)。
そんな、運命を魔法で変えてしまうのは
つまり、未来を変えてしまう事になるのだから(アリエナイ理由で。)。




