21
それで、ごはんたべながら
めぐは、リサの事を
話した。
「眠れないって、そんなに辛いのかな」と。
Naomiは、うんうん、と唸って
「そりゃそうよ。だって、電車だもん。
レールの上走るんだし。
自動車と違って、ぶつかって来ても
避けられないし。
」と
Naomiは、あたりまえだけど
確実な事を言った。
「郵便局だってね、バイクぶつけたり
自動車壊したりってあるけど。
電車は大きいし。」
神経を使うから、寝られないのかな?
なんて。
そんなにまでして、なぜ
リサは路面電車に乗りたいのだろう?
めぐは、Naomiに聞く。
と、「んー、なんか、おじいちゃんが
電車の運転手さんだったんだって。
路面電車じゃなくて、国鉄の。
それで、ちっちゃい頃に。
おじいちゃんは、リサを
国鉄に入れ、大きくなったら。
なんて言ったらしいのね。
リサん家は、男の子いないから。
でも、リサは反抗期だったのかなー。
嫌だって言ったらしいのね。(笑)。
おじいちゃんは、とっても悲しい顔をして、
定年になったら、すぐ死んじゃったんだって。
」Naomiは、真面目な顔で
そんな事を言った。
「じゃあ、リサは、おじいちゃんへの
謝罪の気持ちで.....。」と
めぐが言うと、Naomiは
[シャザイってなーに、あ、難しい事言うーぅ。
文学少女!」って
おもしろい事を言うから、めぐも吹き出して。
真面目な話してたのに、明るくなった雰囲気。
なので
友達は楽しい。
ひとりで考えてたら、落ち込むかもしれないもの。
なんて、めぐは思った。
「でも、そういうのって贖罪、って言うのかな」なんて
Naomiも言うと、めぐは
「食材?」なんて返したので
どーしたの、文学少女。と
Naomiは笑い「でも、そういうのって
思い出でも、パワーになるのね。
使命感って言うか。」と
真面目な顔をするので、めぐも一瞬真面目になって、でも「氏名館かしら」なんて
ネームランドみたいな事を連想して
ひとりでくすくす。
でも、Naomiには、訳わからないけど
なんとなく、彼女も釣られて笑った。
笑いながら、めぐは思う。
その、おじいちゃんの気持ちを。
たぶん、悲しい気持ちで
天国に行ったんじゃないと思う。
その気持ちを、リサに伝えてあげられたら。
リサが、思い詰めて
電車に打ち込む、その
肩の力がすこし抜けるんじゃないか、って。
そんな風に、めぐは思った。
hotspring in postoffice
そっか。
めぐは閃いた。
あたしの魔法でも、役にたつことってあるんだ。
夢におじゃまして、気持ちの
エステ(笑)をしてあげれば。
などと。
医学的にもそれはおそらく正しいだろう事は
これまで述べた通り。
ジグムント・フロイドなどは
夢で、心が読めると
言ったくらいで(まあ、異論も多いが)。
「あ、めぐ、お風呂入ってく?」とNaomiはにこにこ。
ここのお風呂、温泉なの。とNaomiは
楽しそうに言った。
「温泉かー、いいなぁ。」と
めぐも、おばあちゃんと一緒に入った
おうちの温泉とか、幼い頃の事を
思い出したり。
シャボン玉作って
遊んだり。
おばあちゃんの背中を流したり。
三つくらいだったかな。
お風呂、楽しい。
「Naomiも入る?」と、めぐは言うけど
「まさか、仕事だもん。終わったらね。」と
夕べ、お風呂に入れなかっためぐを、気遣かった。
それで、郵便局カフェ(笑)から
郵便局温泉を、めぐに案内した。
屋上に露天風呂、地下に大浴場、とか
リゾートみたいなんだけど(笑)。のどかなこの国らしい。
郵便貯金クラブ、と言う
おもしろいクラブに入ると
ここが使えるらしい。
古ーいエレベーターは、ギアの音がして。
ベルの音も、本当に鐘が鳴るのだけれども
そういう、古めかしい感じを
どこか、めぐは
好ましく思っていた。
おじいちゃんみたい、そんなイメージもあって。
「そっか。リサにとっての電車って
おじいちゃんなんだ。」とめぐは思う。
リサが、おじいちゃんを悲しませたと
思ってしまっているので
その、電車、は
おじいちゃん、いなくなってしまったおじいちゃんの
イメージなんだ。
それで。試験に落ちたくないって
思うんだ。
めぐは、なんとなく思ったりした。
そういう気持ちって、わかる。
「じゃ、後でね」と
Naomiは、仕事に向かう。
屋上露天風呂の入口で、めぐと別れて。
メールする、って言ってたけど
「3年後のあたしに届くだけね(笑)」と
めぐは、時間旅行してる事をすこし忘れてた。
3年後のあたしが、同じメールアドレスだったら
変だけど。
屋上露天風呂は、なーんとなく管製と
言う感じの
無骨なイメージだけれども。
そこがかえって、好ましいと
めぐは思う。
脱衣所に、コインランドリーがあったりして
「郵便局に住めるね」と、めぐは思ったり。
お風呂と、食堂。
あとは寝るところか(笑)。
めぐは、着てるものを全部脱いで、洗濯機に入れて。
その間、露天風呂に入っている事にした。
屋上露天風呂、と言っても
リゾートじゃないから、周りはビルだらけ。
なので、囲いしてあって
景色は良く見えない。
でも、空は見えるから
地下よりはいいかも。
Naomiの話だと、郵便局で働く人は
結構、汚れ仕事なので
お風呂に入れるようにしてあった、と
言う話だ。
それを、お客様にも
使って頂いて、と言う
そういう話らしい。
「優雅ね」と
めぐは思う。
簡素な、ふつうの露天風呂だけど
安心できる雰囲気があったりして。
岩風呂とかって、けっこう
足が痛かったりする事があって。
ふつうのお風呂の方がいい、って
めぐは思ったりした事もあったりして。
「いいなぁ、なんとなく。」めぐは安堵した。
露天風呂には誰もいない。
のーんびり、ゆったり。
accident
夕べ、よく寝てなかっためぐは
不覚、お風呂で眠ってしまったので
(笑)
気がつくと、どやどやと
お風呂に入ってくる、女の子たちの声。
壁の時計を見ると、まだ10時くらい。
「そういえば、郵便局って24時間営業だったんだっけ。」早番かなにかかな、と
別に気にとめずに、めぐは、お風呂から出ようとして......。
めまいがして、立てなかった。
露天風呂で眠って、のぼせたらしい.......。
次に目が覚めると、めぐの目前には
白い天井が。
「お気づきですか?」と
優しい言葉を掛けられて、どうやら、めぐは
薬品の臭いがする空間、ベッドに寝ていると分かった。
下着を付けずに、シーツに包まっているのは変な感じ。
なんとなく、落ちつかない。
「ここは、どこですか?」めぐは、そんな言葉を空間に放つと
さっきの声の主は「郵便局の医務室です」と
答えた。
郵便局って
、お医者さんもあるのね(笑)。
本当に住めるね、と
めぐは微笑んで、起き上がろうとしたけれど
ちょっと、ふらふら。
「まだ、眠っていてください」と言った
その言葉の主は、
白衣、短い髪、そっけない服装、でも
清潔感のある雰囲気、で
ああ、女医さんかな、と
めぐは思う。
男の先生でなくてよかった、と
めぐは、お風呂から運ばれる間に
オールヌードを見られちゃったのかしら(笑)と
恥ずかしくなった。
でも、まあ、思ってもしかたないけど。
コインランドリーに服を入れといて、
洗ってる間、お風呂に入ってて。
そう、思って
気づくと
めぐの服は「郵便局の年金保険」なんて書かれた紙袋に入って。
枕元にあった。
下着も(笑)。
男の人が取ったのかしら......(笑)
なんて、
それを思うと、また、めぐは恥ずかしくなって。
女医さんに、「あの、あたしの服....。」と
言うと、女医さんは
「ああ、女子バレー部がね、お風呂で倒れたあなたをバスタオルでくるんで、担いで来てくれて。
その時に、あなたの服を
持ってきてくれたの。
女子バレー。
めぐは、朧げな記憶を紐解くと
そういえば、お風呂にいっぱい女の子たちが
来たような気がする。
あの子たちが運んでくれたの。
なんだか、申し訳ないような
気がしてしまった。
でも、考えて見ると
女湯だから、男の人が来る訳もない(笑)
friends
しばらく、ベッドで眠らせてもらって....
どこか、遠くにオルゴールが聞こえた。
その曲は、ショパン。
練習曲10-3、別れの曲、と
映画につかわれて有名になった曲だった。
ポーランド生まれのフレデリック・ショパン。
病弱だった彼が、祖国への別れを描いた曲、なんて.....。
音楽の授業で習ったっけ。
めぐは、眠りながら、なんとなく聞いていた。
ショパンは、魂をポーランドに帰してほしいと言ったんだっけ。
その、どこかノスタルジックなメロディは、めぐを空想に誘う。
魔法使いの魂。帰るところはどこにあるんだろ.......。
ふと、気づくと
めぐのベッドのそばに、Naomi。
緑の制服と、インクの匂い。
郵便屋さんの匂いだ...。と、めぐは
なんとなく、家に配達に来る郵便屋さんの事を
憧れて見ていた幼い頃、を
思い出したり。
なんとなく、いいね。
世のため、人のため。
そういう、使命感に浸って働くって。
正義の味方、みたいだもん。(w)。
「めぐ」と、Naomiは微笑みながら。
めぐは、なんとなく幸せに目覚めた。「あー、おはよ、Naomi。」
「お風呂でのぼせたの?大丈夫?」と、Naomiは笑ってて。
優しい友達の有難さを思う、めぐだった。
「仕事いいの?」と返すと
Naomiは「もう終わり」と。
よく見ると、窓の外は
もう、お日さまが傾いていて。
「夕方かー。」と、めぐは、のんびり言う。
全然変わってない、と、Naomiは言うけれど
めぐは、3年前そのままが来てるから当然(笑)。
タイムスリップ、なんて言っても
Naomiが実感できる訳もない。
「じゃ、起きて、めぐ。リサんとこ行こうよ。」と、Naomiは
やっぱり友達思いのいい子。
ふつう、ハイスクール卒業して3年も経てば
ボーイフレンドとかできちゃって。
友達同士の付き合いって、一時希薄になったりするけど.....。
と、めぐは思ったりする。
technology and biology
でも、あたしたちは違う。
と、めぐは信じている。
ぞれぞれに、恋人ができたって
ずっと、友達だもん。
男の子との付き合いとは違って
一生、分かち合える幸せ、
そんな、気持ちでめぐはいた。
だから、リサの事も気になる。
Naomiは、気丈なようだけれども
本当は、困ってるんじゃないかな?
なんて、めぐは気遣かったりもする。
お風呂でのぼせるめぐだけど(笑)
でも、友達を思う気持ちは、強い。
それも、小さな社会。
世のため人のため。
実際、女の子同士のコミュニティーは
男の子のそれとは違ってる。
比較進化論的な観点では
それは、進化の過程で得てきた性質
(獲得形質、と言う)。
故に、人間の隣人、例えば
霊長類ヒト科のハヌマンラングールで言えば
雌個体がグループを作り、共同体で子供を育てる。
そんな特質を持っているし
ゲラダヒヒなどは、女系で
雌グループが主導権を持っており、
群れ同士の戦闘を、雄にけしかけるとの(笑)行動形態を持っているが
それは、雌同士は子供を育むと言う特質、他の動物より育児期間が長い為に
必然的にそうなった、と
例えば、生物社会学の論者などはそう
主張している。
めぐたちは、意識しなくても
そういう、長い歴史の記憶から
行動をプログラムされている。
そういう、既存のパターンに
触れる時、めぐのように、安心する。
そういう生き方をしなさい、と言う
行動のプログラムが
そこに報酬、つまり
安心する気持ちを
与える
ように作られている。
構造的に言うと、安心、を
意味する
神経内分泌化学物質、例えばオキシトシンを
そのプログラムが、脳内分泌させ
安心感を得る。
他にも、ドパミン、エンドルフィンなどの
複合した作用があるのだ、と
考えられているが
つまり、メカニズムがあると
言う訳で
人間も、実は
進化してきた機械のような側面がある、と言う事であって
めぐたちは、その中で生きている。
ただ、めぐが違ってる事は
めぐは、魔法使いなので
そのパターンにない事が
たまに発生する(たとえば、多重次元の恋人とか)
と言うあたりが悩ましいところ
なのだけど。(笑)。
YAMAHA TR1
Naomiは、ロッカールームで着替えて、シャワー代わりに
地下の温泉に入ってくると言う。
「めぐも来る?」と
誘われたけど
「あたしはいいわ」と
のぼせためぐは、断る。
「そうよね」と
Naomiは笑い、ちょっと待ってて、と
小走りに、駆けてゆく。
その、後ろ姿は
学生の頃と、何も変わらない。
めぐの方は、まるっきり学生のまんま
なんだけど。
Naomiは、さっぱりといた顔で
5分くらいで戻ってきた。
「早い!」とめぐは驚く。
Naomiはにっこり笑う。
「めぐはのんびりさんだから」と
その笑顔には、若干疲れが見える。
「疲れてんじゃない?」と
めぐが言うと
おばさんみたいに言わないでよ、と
Naomiは笑って、郵便局の地下駐車場に向かって、階段を下りる。
めぐも、付いていくと
重厚な石段の果て、なーんとなく埃っぽいのは
手紙や小包が、一杯出入りするからだろうか。
それと、インクの匂い。
みんなのために、働く人達の
人間の息吹を感じるような、そんな地下の突き当たりにロッカールーム。
左手に、大浴場。
まだ、3時半くらいだから
配達員は帰って来ない。
「夜にはね、男湯も一杯よ、覗く?」と
Naomiは、いたずらっぽく笑う。
コツコツと、靴音がびびきそうな地下パーキングには
いっぱいの自転車、配達のバイク。
それと、小さなトラック。
壁極には、長靴、
それと、小部屋があって
そこには、レインコートが沢山吊されていて。
乾燥機。
配達って、雨の日もあるからなんだろう。
それで、お風呂もあるんだな。
そういう人々の苦労があって
手紙が運ばれる。
気にしなければ、気にならない。
そんなものだけど、いろんな人々の
おかげで
世の中が動いていると
実感できるひとこま。
電車もそうだけど。
と、めぐは、リサの事を思い出した。
電車を運転するのは
おじいちゃんへの贖罪の思い?
そんな、リサは
でも、世の中のために。
早起きしたり、夜遅くまで働いたり。
素敵だなぁ、と
感心しているめぐの前を歩くNaomiは
一台のオートバイの前で歩みを止めた。
銀色に輝くオートバイ。
それは、Vの形にエンジンがそびえ
まっすぐの排気管は、メタリック。
「かっこいー」と、めぐは手をはたいた。
そのオートバイは、銀色のガソリンタンクが
鈍く光る、シックなスタイル。
黒いシート、大きなヘッドライトは丸く。
Naomiは、エンジンを掛ける。
低い音が、地下のパーキング全体を揺するように響く。
「リサんとこ、いこ?」Naomiは、にっこり。
白いヘルメット、普段着の可愛らしい服なので
かえってそれが、個性的に見える。
めぐは、オートバイのエンブレムを見た。
金色に光るそれは、YAMAHA、と読め
シートの下にあるサイドカバーにはTR1.と書かれていた。
「鳥?」とめぐは読んだので
エンジンの響きに混じり、Naomiは笑う。
「あはは!ティーアールワン、よ。」と。
Naomiは、オートバイの左に立って、センタースタンドを外す。
柔らかいサスペンションは、ふんわり、と
猫の足のようにオートバイを沈ませた。
「乗って」と、Naomiが言うので
めぐは、オートバイの後ろに乗る。
エンジンの排気音は断続的に、低い太鼓のようだ。
Naomiの背中につかまる。
ライダー、ナオミは
クラッチレバーを握り、ギアを1速に入れた。
そのままクラッチレバーを離し、アクセルを捻る。
滑り易くてつるつるの地下駐車場のコンクリートの上で、TR1は
後輪を回転させた。
前には進んでいないので、斜めに後輪が流れながら。
アクセルを少し戻し、ライダー・ナオミは
カウンター・ハンドルを切りながら
前に進んだ。
朝、見かけた郵便配達の青年たちが、日焼けの顔で
口笛を鳴らす。
TR1は、斜めに滑りながら
地上へのスロープを昇る。
暗い地下から地上へ昇ると、目映くて
天に昇るってこんな気持かな、なんて
めぐは思った。
風・夢・オートバイ
地下駐車場から、YAMAHA TR1は
ふたりを乗せて、飛び出る。
軽快な車体と、エンジンの力強い回転力は
オートバイの前輪を、軽く持ち上げるように
舞い上げる。
大きなタイヤは、少し空を切る。
細身で清々しいホイール。
タイヤは、MADE IN FRENCH MICHELIN A48 90/90 - 19と
黄色い文字で浮き出し彫刻がなされていて。
からから、と空回りすると
アルミニウム・ダイキャストのホイール、切削加工されている端面が
光を浴びて、きらきらと虹色に彩りを添えて。
オートバイは美しい。
機能的なものは、どんなものでも美しいが
それは、フラクタル・ジオメトリ理論と言う幾何学上の概念で
証明できている。
地上にある全てのものは、このジオメトリで証明できるのだ。
音響工学で言えば、i/fゆらぎ理論がそれに当たるが
それも、幾何学で言うとフラクタルである。
オートバイは、宙に飛び出るように
地上で跳ねる。
後ろのタイヤは、やわらかい
猫の足のようなサスペンションのせいで
十分に地面に接地している。
でも、ばねの伸び代を越えて、一瞬
宙に舞うリア・タイヤ。
エンジンが空転しないよう、ライダー・ナオミは
アクセルを少し戻す。
リアタイヤは、着地する瞬間に
その回転差で、路面との間で摩擦し
飛行機が着陸するときのような音を放つ。
後ろに乗っているめぐは
エンジンの力強い鼓動を、体全体で感じて。
「オートバイって楽しい」そう思う。
それで、あの、岬までの旅をした
モペッド、リトル・ホンダの事を思い出し
同時に、ルーフィのことも思い出してしまう。
楽しい思い出、だったけど....。
あたしひとりを愛してほしい。
そんな希みを、叶えられそうにないから
あきらめた人。
お気に入りのバンダナに、ついた染みのように
バンダナがある限り、その染みも残る。
それは、記憶。
でも、めぐは魔法使いだから
染みを消す事だってできる。
記憶を組み替えるのは、夢。
夢を見ることで、記憶は生まれ変わる。
例えば、精神医学で言うところの
麻酔面接に似たような理論で。
めぐは、魔法使いだから
夢を自由に見る技術も持っている。
そう、その魔法で
今、親友リサを助けに行くのだ。
オートバイ、YAMAHA TR1と
もうひとりの親友、Naomiと。
夢の世界へ、いざ!
free ride!
Naomiは、見た目は派手に見えるけれど
慎重なライディング、でもスピードを好む。
レーシングライダーのような走りをする。
乱暴な運転は、レーサーには向かない。
限られた条件の中で、繊細に制御をする者、それがレーサーだ。
生き方にも、それは現れる。
Naomiは堅実だけれども、しかし、能力を最大限に発揮するタイプだから
そういうところが、郵便局のような仕事に向いているのかもしれない。
何を目指しているのかは、未だ分からない。
リサの、路面電車車庫へ向けて。
ふたりは、TR1でスピードに乗って。
エンジンの力が強いので、低い速度でも後輪を滑らせる事が
例えば、Naomiのような繊細なライダーには可能だ。
安全、かつ確実に。
郵便局を出て、最初の交差点に差し掛かる。
フロント・ブレーキ・レバーを握り、リア・ブレーキ・ペダルを軽く踏む。
クラッチ・レバーを握り、トランスミッションを2速に落とす。
クラッチ・レバーを離す時に、リア・ブレーキ・ペダルを離し、後輪を遊ばせる。
と、同時に車体をひらり、と傾ける。
その時、僅かに体を内側にオフセットする。
スロットルを開くと、エンジンの強い力が、リア・タイヤを押し出そうとするので
シートに体を預けると、タイヤがコーナーの外側に逃げ始めるので
エンジンの力と、シートへの荷重を加減して
リア・タイヤを外に送る量を調節して、カーブを切る。
繊細な作業で、ひょっとすると女の子の方が向いているのかもしれない。
めぐは、リアシートで
その神業(w)を眺めていたけれど、ちっとも怖いとは思わなかったのは
安定して、同じ加速度でスライドしているので
「お空を飛んでいる時みたい」と
思っていた。
魔法で空を飛ぶ時も、カーブは内側に傾くのだけれど
足もとは空気なので、ふんわりと外側にスライドする。
ふつうのオートバイだと、足もとは路面にしっかりと掴まれているので
カーブを曲がる時も、内側に傾くだけ。
でも、Naomiのようなスライドをすると
足もとがすぅ、と外に回ってカーブするので
「魔法みたい」とめぐは、面白がっていた。
もちろんそれは、Naomiのライディングがとても上手だから。
「怖い?」と、Naomiはめぐに言うけれど
「面白いよ。Naomiってスキーも得意だよね。」とめぐ。
「うん、どして?と、Naomi。」
Naomiはスキー・レーサーのような滑りをする事を
ハイスクールの頃、ウィンター・スクールで
ウェンゲンに行った時に知った。
なんとなく、バイクの乗り方がスキーの滑り方にそっくりだと
めぐは連想して、そんな事を言った。
「バイクが、スキーみたいだね。」と。
「そっか、はは!」と、Naomiは楽しい。
スキーを外に振り出してスライドさせる感覚は、そういえば
バイクをスライドさせる時と似ている。
空を飛ぶ事が出来るめぐは、鳥のようなその感覚と
それらが似ていて、快い事、を
思い出す。
ひとは、昔鳥だったのかもしれない、なんて思って。
(実際の進化生物学では、空中感覚、3次元的なそれは
水中感覚からの類推だ、と言われている。
つまり、水生からの進化が仮説されているのであるが)。
重力場の中で進化してきた証拠でもある。
それは、3次元的な感覚。
夢は、4次元である。ふつう、重力場のある空間であるが
それは記憶された空間が3次元だから、である。
重力場からの解放を思わせるような飛翔感覚、それが楽しいのは
例えば抑制からの解放が楽しい、それに似ている。
自由はステキなの。
めぐは、そんなふうに思った。
Guzzi
自由が、たとえば社会などで抑制される時
解放されたいと、知性のある人間は思うので
創造的な事をしたり、音楽や映画、文学に
触れたり。
つまり、目前にある変えられない現実ではなくて
別の空間に、心を遊ばせるから
そういうものは、ひとを魅了する。
Naomiが、オートバイを飛ばすのも
どこかに抑圧があるのだろう。
スピードは、そういうものを解放する。
でも、めぐは
光速を超える速度を手に入れ、無限の自由を
手に入れた。
その魔法を使って、親友リサの心の抑圧を
解放するために、走っている。
燻し銀のオートバイ、YAMAHA TR1と共に。
「なんで日本製なの?」と、
駆け抜ける気流の中、めぐはNaomiに尋ねる。
長いストレートを、5速ギアで流しながら
馬がギャロップするような
エンジンの鼓動を楽しみつつ、Naomiは「おじいちゃんの形見なの」と。
「そっか。」めぐもおじいちゃん好きだったから。
その気持ちはよくわかる。
リサもそうだったから、おじいちゃんの気持ちを
傷つけたと思っていて。
それで、電車の免許を取らなくちゃ、って
思い込んでいる。
夜も眠れないくらい。
真面目だもん、リサは。
めぐは、そんなふうに思う。
町外れの電車車庫への道は遠い。
広い、2レーンの道路の向かい側に
ポリスのバイクが、白く輝いていた。
細身のSilhouette。ガール・ライダー。
バイクはイタリアン、Vのエンジン。
斜めに、シリンダがタンクの下からはみ出ている。
その形に合わせたガソリンタンクには
MOTO GUZZIと、書かれている。
「TR1に似てるね」と、めぐは、Naomiに言う。
肩越しに。
「うん、あっちはイタリアンだから、この国で買うならあれの方がいいんだけど。
安いし。でも、TR1は形見だもん。」そんな事を
Naomiは言った。
形見だけど、乗らないと
オートバイってダメになっちゃうから。
そんな事を言いながら。
馬は、走らないと
こころのストレスで病気になってしまうように
オートバイも、走らないとダメなんだ。
めぐは、そんな事を思っていて、ふと
対向車線のMotoGuzzi 1000Policeを見る。
エンジンを掛け、鮮やかにUターンして
めぐたちのTR1を追って来た。
「なんだろう?スピード違反はしてないし」と
Naomiは思う。
警官はマイクで「ナオミー、めぐーぅ」(笑)
聞き覚えのある声で(笑)。
Reimy




