2
重厚な床は、コンクリートの装飾タイルで
綺麗にお掃除されていた。
アルバイト、って言うと
お掃除もするのかな、と思っていたけれど
ここは、公立図書館なので
きちんと、分業になっている。
おそうじは、青い制服を着た人が
担当していて。
きっちりしているなぁ、と
ハイスクールのわたしは、思ったりした。
第一図書室の入り口は、また、自動ドア。
IDタグの検出装置があって、本に貼ってあるIDタグを読み取って
貸し出しになっていないと、赤ランプが点くようになっている。
自動ドアが開き、空港のゲートみたいな
センサーが両側に、アンテナを広げている
通路を通ろうとしたら。
ぴんぽーん。
チャイムが鳴って、赤ランプがついた。
「本借りてないのに。」と、わたし。
「世界が違うしねぇ。」と、バッグの中のルーフィ(笑)。
黒いエプロンをした、司書さんが、とことことこ、と
正面のカウンターから出てきた。
エプロンに、ひらがなで としょかん と刺繍してあって
なんだかかわいい(にこにこ)。
その子はめぐ、だった。
「あらー?いらっしゃい。」って、めぐは
さっき、学校の図書館でした話を忘れてるみたい(2w)。
「本、借りたんですか?」と、めぐが言うので
「ううん、だって、さっきこの世界に来たばかりだし...。」と、わたしが言うと
「そうですよねっ。なにか、時々そういうこと、あるんです。
ICカード定期とか、そういうのが。」と、めぐは
仕事慣れしてるのか、そんな話をした。
「じゃ、だいじょうぶだ。すいません、どうぞ。」と、めぐは
ととととーっ、と駆けていって、カウンターに戻っていった。
「おもしろい子だねぇ。僕のことも忘れてるし。」と、ルーフィ。
天井の高い、広々としたこの図書館は、今、わたしたちの住んでいる
「あちら」の世界でも、同じように建っている。
わたしも、ハイスクールの頃、そういえば
司書のアルバイトをしたっけ。
本の好きな人だけが来る、そういう図書館とは
ちょっと違う雰囲気の、この町の図書館は
結構、いろんな人が来て。
ちょっと困ったこともあった。
「どうして?来週から海外出張に行くのに、借りて行こうと予約しておいたのに。
本が無いって、どういう事だ。」
中年の男のひと、怒っている。
海外出張のお供に、ガイドブックを借りて行こうとしたら
まだ返却されていなくて、出張に間に合わない。
そう言っている(2w)。
「買っていけばいいじゃないねぇ。」と、わたしはルーフィにつぶやく。
「まあ、ああいう人は、元々怒りたくて、そうしてるのさ」と、ルーフィは
鋭い指摘。
わたしたちは、その男の人の頭上に、こわーい悪魔が漂っているのが見えた。
「どーいう事なの?ねえ、ルーフィ。」と、わたしはちょっとふるえながら。
「....うーん。ここは、違う世界だから。悪い心が、僕らには見えるのかもしれないね。」
と、ルーフィは、魔法使いらしく。
めぐには、それが見えないらしい。
司書主任さんらしい、穏やかそうなまんまるのおじさんも
事情を説明していた。
そのうち、その悪魔憑きの中年は「じゃあ、買っていくから、図書館で
費用を持って欲しい」と、訳の分からない事を。
めぐも、主任おじさんも、これには困った。
アジア人っぽい顔立ちの、その悪魔憑きは
このあたりでは見かけない顔立ち、だった。
「ルーフィ....?」と、わたしは彼に期待した。
なにか、してくれそうな気がして。
すっ、と
わたしの背後から現れたのは
イギリス紳士に変装した、ルーフィだった。
山高帽子にステッキ。燕尾服。
ちょっと、時代がズレている(w)。
「あの、もし?」と、ルーフィは静かに声を掛けた。
めぐには、その声の感じで、それがルーフィ、だと
わかったようだ。
悪魔憑きの男は、怒った表情のままだったが
背後の悪魔は、ルーフィが魔法使いだ、と悟ったようで
ゆらゆらと揺れながら、男の背後から逃走しよう、とした。
ルーフィは、カウンターを向きながら
後ろ手で、茶色の硝子瓶、それのコルク栓を外す。
そのまま、指でなにか、サインのような形を作ると
悪魔憑きの男、から怒気が薄れ、悪魔は
小瓶に吸い込まれた。
微笑みながら、ルーフィはコルク栓を閉じて
コートのポケットに入れる。
そのまま、悪魔憑きから離れた男は、柔和な表情になり....。
「あ、あれ?わたしは何をしていたのだろう....。」と、
周囲を見回しながら、図書館から出て行った。
「それでは」と、ルーフィは
にっこり。微笑んで
山高帽を右手で取って、ご挨拶。
呆気に取られた司書のおじさん、と
めぐも
ご挨拶(2w)
ルーフィは、楽しげにステッキを振りまわして
ゲートを通ろうとしたら、また
ぴんぽーん。(4w)
「どうして、引っかかっちゃうのかなぁ」と
ルーフィは、苦笑い。
どうやら、さっき、入ってきた時に
反応したのは、ルーフィのなにかに
このアンテナが反応したらしい。
山高帽をとって、やれやれ、と言う
表情のルーフィに、めぐは
「ステキでした。どうなっちゃったんですかー執事さんっ」と
にこにこしながら。
「いや、あの、執事じゃなくって...まあ、いっか。」と
ルーフィは、彼女に本当のことを言う訳にも行かないので(w)
「結構、ね。疲れてる人も多いから。」と、言った。
「そーなんですね。癒しも必要だし。」と、
めぐは、分かったような、分からないような(2w)
返答をして、カウンターに戻った。
図書館、公共の仕事って言うのも大変ね。
ルーフィは変装を解いて、さっきの
ブルー・ジーンズスタイルに戻った。
けど、それも変装だし(3w)。
そういえば、わたしも変装、って言うか
ハイスクールに通ってた頃のスタイルだった。
図書館のエントランスを、制服を着た学生たちが
歩いていくのを見て
ちょっとだけ、着てみたかったなぁ、なんて思いながら
アルバイトをしていた、んだっけ。
「なんで、制服の無い学校だったの?」と、ルーフィ。
「うん、このあたりだと、制服が無い学校の方が多いの。
制服があるのは、ミッション系のところとか、私立のところとか。
お金持ちの行く学校、だったのかな」と、なーんとなくペーソスな、わたし(2w)
「ふーん、でもさ、別に制服だからって、ステキに見えるって事もないし。」と、ルーフィ。
イギリスだと、制服の学校って、そんなにないらしい。
それはまあ、大学とかもそうだし。
でも、女の子としては、なーんとなく、着てみたかった、って
ルーフィに言うと、彼は、ふわり、と
両手を揺らして。
また、金の粉が空から、ひらひら。
わたしは、ハイスクールの女の子みたいに
タータンのスカートにジャケット、のスタイルになった。
でも、ちょっとスカートが短くて、恥ずかしい(2w)。
「これって、ルーフィの趣味なの?」と、聞くと
彼は「いやぁ、そこの本に載ってたから、と、図書館の雑誌を指差した。
「でも、こんなとこで魔法使って大丈夫?」と、心配すると
「うん、今のは、君と僕のところだけ、時空が違ってるから。
ほら、さっきの悪魔くんみたいに、こっちの人には見えないんだ」と、ルーフィ。
彼は、すぅ、と、右手で空中に円を描いて、魔方陣のようなものを呼び出して。
さっきの茶色の小瓶の封印を解くと、悪魔くんは、その円に吸い込まれていった。
「さよならー。」と、にこやかにルーフィは手を振ると、円を閉じた。
「どうしたの?」
「うん、悪魔くんの時空に戻ってもらったんだ。時空が歪んでるって事で
知らずにこっちに出てきてしまってるみたいだね。それで、食べ物が無いから
人にくっついた。」と、ルーフィ。
「怖いわ」と、わたしも背後を見る。
ルーフィはにっこり、として「大丈夫。悪意をもつと、悪魔が憑いたりするのさ。
優しい気持ちで居る人には、そんなことは起こらない。」
そういえば.....わたしは、ゴミ捨て場のぬいぐるみがかわいそうで
お風呂に入れてあげて、可愛がっていたら
ルーフィに出会えたんだったわ...。と
彼との出会いを思い出していた。
ルーフィも同じ気持ちみたいで「そうそう、あの時、お風呂に入れてくれたんだっけ。
ステキだったっけ。MegのNUDE」と、にやにや。
わたしは、恥ずかしくなった。「こら!そんなこと忘れろ!悪い気持ちだと
悪魔が憑いちゃうよ。」と。
ほっぺが赤くなった(10w)。
ルーフィは、にっこり「大丈夫、愛があればね、それは罪じゃないのさ」と
そんなこと言うから
わたしは、もっと頬が熱くなった....。
めたもる
「あ、そういえば。めぐは、わたしの本当の姿を
見てないんだわ。」と、気付く。
「そうだね、でも、別にいいんじゃない?」と
ルーフィは、魔法使いにしてはアバウトだ。
お話で読んだ魔法使いって、なんとなく
しきたりに厳しかったりするんだけど。
「それは、お話の世界。現実とは違うのさ。」って
ルーフィは、楽しそう。
まあ、もとに戻してもいいけど、って
ハミングしながら、すう、と指を上下に振ると
わたしは、ハイスクールの制服姿から
普段のわたしに戻った。
カウンターの向こうにいためぐ、は
たまたま、お客さんがいなかったので
わたしのメタモルフォーゼ(2w)を見て
「かぁーっこいい!どうやったの?」と。
「うん、これはね、変身の術なの。」って、ちょっと
ユーモラスにそう言うと、めぐは
「あたしもなりたいなー、そんなふうに。メタモルフォーゼしたーい。」って(3w)。
かわいいっぽいけど、ほんとにハイスクールの子かなぁ(4w)
なんて、思ったけど。
わたしも、ひょっとするとこんなだったかもしれないって
思い返した。
毎日、学校へ行って、家に戻って。
時々バイトして。
本ばっかり読んでて、未来を夢見てたっけ。
女子校だったから、ロマンスもなくって。
....あ。....。だからかなぁ、わたしと出逢っためぐが
愛おしい、なんて思ったの。
恋したい、って気持ちを持ってる
めぐ、が
可愛らしいと思ったのって
自分に似てるから、なんだわ....。
「あ、でも。」わたしはふと思った。
今のメタモルフォーゼ(w)で、もとの姿に戻ったのに
めぐは、なんにも気づいていないみたい。
カウンターに行って、聞いてみた。
「あ、ほとんどいっしょですよぉー。」と、めぐは
かわいらしく笑顔で。
そっか。
ハイスクールの頃と、今のわたしって
そんなに変わらないんだ....。
「うん、だって、2年くらいだと
そんなにかわらないよね。」と、ルーフィはにこにこ。
わたし自身が思っているほど、老化(4w)は
周りのひとには分からないらしい。
「でも、めぐはあんなに元気で。あれって、ハイスクールの頃のわたし、でしょ?ねぇ、ルーフィ。」
「うん、それはホラ、ここは次元がずれているから。
彼女はそのまま、君の過去の姿じゃないもの。」と、ルーフィ。
そういえば、なんとなく性格も違うような...(2w)。
カウンターで、図書の貸し出しをしているめぐ、を
遠くから見ていると
それが、わたし....なのかな、と
そう思えば、そう見えるかもしれない。
少し、感じは違うけど。
めぐは、一生懸命だ。
重い本、事典のようなそんな返却本を
カートに乗せて。
分別して、もとの本棚に返す。
学校の図書室だったら、借りた人が返しておくのに。
わたしは、そんな風にちょっと思った。
公共の図書館でも、図書カードを返却したら
本は、借りた人が元に戻す、そういう図書館の方が多い。
この町の図書館は、サービスがいい、のかな....。
そんな風にも思ったり。
でも、そんな事を思いもしないで、ハイスクールの頃は
本に触れている仕事、それを楽しみに
アルバイトに通っていたっけ。
それが慣れ、なのかなー。
「うん。あたりまえ、って幸せだよね。もっと楽ならいいのに、とか
あたりまえを不しあわせ、って思う心に、悪魔が憑くんじゃない?」と
ルーフィは、あたまの上で手のひらを、ひらひら(笑)。
思わず、天を仰いだけど。
悪魔くんはいなかった(w)。
「ま、そんなものかもしれないけど。ふつう、誰だって不平って感じるもの。
そのくらいじゃあ悪魔くんは来ない、かな?」って
ルーフィは、にっこり、Wink。
そうしてる間にも、重たい本をぎっしり詰めたカートを押して
めぐ、は
図書返却の仕事に回った。
あっちこっちの書架を回ってるので、時間が掛かる。
そう、思い出した。
最初に、書架の順番に整理しておけば、早く終わるんだった。
図書館の本って、番号順になっているから。
ひんやり
それを、彼女に伝えようとして
わたしは、ひんやりとしている図書館の空気を
頬に感じながら
まるい柱で吊られている、天井と
壁の間の書架、その隙間にある通路を
歩いていった。
ルーフィの魔法が解けていたせいか、
すこし、歩きやすいような
そんな気もする。
コンクリートのに、直接フローリングが
貼られている床、歩くと
リアルに固い感触があって、それで
ここの図書館だと、わたしは
古い記憶を呼び覚ましながら。
カートの行方を追った。
工学のコーナーに、めぐ、は居て
慣れない、理科系の本を
書架に戻そうとしていた。
それも、分類コードを覚えれば
簡単なのだけど
まだ、はじめてからそんなに
日が経っていない、らしい。
.....わたしは、誰に習ったのだろう?
そう、回送したけれど
ぜんぜん記憶が無い。
...もしかすると.....。
こんなふうに、どこかから来た
もうひとりのわたし、に
習ったのかしら?
だったら、楽しいかな。
カートに追いついて、めぐ、に
分類コード順に並べておくと、楽なこと、とか
返却する時も便利、だとか
いろいろ。
「ありがとうございます、たすかります。」
そんなふうに、素直なめぐ、は
とってもかわいい(にこにこ)。
女の子なのに、なんだか愛しちゃいそう(w)。
静かな、静かな図書館。
音がとても響いてしまうので
ここの図書館は、天井の一部が吹き抜けになっていて
2階から、3階までの空間が一緒。
それで、2階・3階が絨毯敷きになっていて
音を吸う仕組みになっている、と
わたしも、教わった覚えがある。
だから、小さな子が
少しくらい騒いでも平気なように、と
考えられている、らしい。
...そういう事を、司書さんに聞いた記憶が
あるんだけど。
あの司書さんは、どこに行ったの?
それとも、時空が違うから、いないのかな?
魔界・次元の歪み
そんな、わたしたちは
しあわせに生きているのかな...なんて
ほのぼのとしていた。
そうしている間にも、書架の整理をしているめぐ、に
本のある場所を尋ねる、急ぎ足のひとが居たりして。
めぐ、も一生懸命に探すのだけれども
一冊の本を、蔵書の中から探し出すのは
結構大変だ。
急ぎ足の人、は
勤めの帰りに来ているのかな、時間が無いのかな....。
わたしは、思わず「その本でしたら、2階の資料コーナーのはずです」と
お節介をしてしまって。
その、急ぎ足の人の頭上に、悪魔くんが憑く機会を狙っているような(w)
そんな気がして。
その人は、しかし「君は?」と、訝しげな表情。
わたしも、ちょっと失敗だったかな、と思いながら
「ここで働いていた者です、すいません、この子、まだ慣れていないので。」
と言うと、不満げな表情で、その人は踵を返し、二階へ。
後姿に、悪魔くんの笑顔が見えた気がした(w)
「ありがとうございます......。ここで、働いていたのですか?」めぐは
安堵の表情で。
「うん....わたし...ほら....もうひとりのあなた、だから....。」わたしは
ちょっともどかしく。
めぐ、は
にっこり笑って、さらさらの前髪を右手で撫でて
「そっか。そうでした。....ああいう時って、いちばんニガテ」と。
そう、わたしもああいう、イライラしてるひとってニガテだ。
それは、いまでもかわらない。
いまは、ちょっとふてぶてしくなったから(3w)
勝手にイライラしてて、しらないわ、わたし。
なんて思うんだけど。
ああいう人たちに、悪魔くんが憑いてるって思うと
ちょっと怖い。けど。
次元の歪みだったら、この世界だけじゃなくて
わたしたちの住んでいる「もうひとつの」世界にも
悪魔くんは来てるのかも.....!?
「時間のある時に来てほしいわ」と、わたしが言うと、めぐは
「はい....いろんな方がいらっしゃいますね。」と、にっこり。
わたしは、彼女に天使が宿っている、そんな気がした(w)。
ハイスクールの頃のわたしって、あんなだったのかなぁ.....。
もう、戻る事って出来ない、んだけど。
めぐ、みたいに
かわいくなりたい....な。
そう、心の中でつぶやきながら、わたしは
めぐの仕事がスムーズに進むように、遠くで見守っていた。
ルーフィも、いつのまにかわたしの近くに来ていて「いい子だね、あの子」
「うん....。なんたって、わたしだもん」と、わたしが返事すると
ルーフィは、にっこりして「そういう君って、とってもかわいい。」
そんな事いわれると、うれしくなっちゃうな。
「でも、どうして悪魔くん、ってこの世界から戻らないのかしら」
「戻り方が分からないのかもしれないね。」と、ルーフィ。
「彼らだって、魔界にいれば、あれがふつうなんだよきっと。」とも。
そっか....。
あの、イライラしてる人や、さっきのアジア人っぽい人も
あの人たちの世界が、あるのかもしれない。
それが、ひょっとしたら魔界と、人間界の中間にあるのかしら...。
そんな風に想像した。
「魔界が好きな人、っているのかしら」と、ルーフィに尋ねると
「いるかもしれないね。好戦的なひと、とか。
そういう人って、言ってみれば魔界との間にある[次元の歪み]が
自分自身だって気づいていないんだよ。」と、ルーフィ。
魔法で、なんとかならないのかしら......。?
魔法と医学
「ねえ、ルーフィ、魔法で、次元の歪みを
変えられないの?」と、わたしはちょっと無理な事を言った。
ルーフィは少し考え、「できない事はないだろうけれど...
そんな魔法は考えた事もないな。相当、能力もいるだろうし。
僕のご主人様くらいの人だったら、できるかもしれない...。」
ルーフィのご主人様は、未来を悲観して、眠ってしまったんだっけ。
それで、ルーフィが、ご主人様の望まれるような未来に
変えられるなら、お目覚めになるだろ...う、って
それじゃ、自己矛盾じゃない!(3w)。
ご主人様を起こすのに、ご主人様くらいの魔力が無いとできない、なんて。
「そんな事ないさ」と、ルーフィは涼しい声で言う。
「?」わたしは、言葉の意味がわからない。
「僕と、君、それと、あの子、3人分くらいの魔力があれば....。」と、
ルーフィはとんでもない事を思いつく。
「わたし....って魔法使いじゃない!、し、めぐはなーんにも知らないわ!」と
わたしはびっくりマーク!になった(7w)。
「うん、想像だけど、あの子、も君と同じような生まれ育ちだったら....
素質はあるかもしれない。図書館で、君の素性をしっても
素直に受け取ったところを見ると、それまでも魔法に
触れてたかもしれない....。」と、少しシーリアスな顔をしたルーフィは
結構かっこいい(2w)。
そっか。
あの子は、もうひとりのわたし。
だったら、似てるって事もある....わ。
「それで、3人の力で、悪魔くんを魔界から、こっちに迷い出ない
ようにする魔法って...あるの?」
と、わたしは興味を持って、ルーフィに聞いた。
「わからない....けど、手がかりはあるさ。悪魔くんたちが
来るのは、悪のエネルギーを感じるからなんだ。
人間界で言うところの、脳内分泌物質ノル・アドレナリンの量とか
攻撃的思考をするときの脳波、シータ波の電磁波を感じ取れる、とか。
そういう事で、悪意を感じ取って、その人に憑くのさ。」
と、ルーフィは人間界の言葉でそう言った。
つまり、悪魔くんたちは人間の悪意を感じ取るらしい。
「いつも、悪意を持ってるわけじゃない人は?」と、わたしが聞くと
「うん。これも人間界の言葉で言うと、いつも悪意を持ってる人、って
攻撃性障害、とか反抗性障害、って言われてるでしょう?
そこにある本、にも書いてあるように」と、ルーフィは
医学書の書架にある、アメリカの精神科医師が使う分析マニュアル
DSM-4TRを指差した。
そう、それは法廷で引用されるような、広く利用されている精神分析の
マニュアルだ。
ルーフィは、続ける。「継続して7日以上、そういう気持ちが続く人を
分類してるね。つまり、そういう人は、悪魔くんの好きなエネルギーを
出している、って事さ」
なーるほど.....。魔法って医学でもあるのね....。と、わたしはちょっとびっくり。
「だから、そういう人の気持ちが穏やかになるようにしてもいいし、
エネルギーが悪魔くんに伝わらないような、工夫をしてもいい...と、思う。」
と、ルーフィはちょっと頼りない(2w)
「悪魔くん、他の食べ物は知らないのかしら?」
と、わたしは自然にそう思った。
「それは考えた事もなかったな。Meg、君は天災マジシャンかも。」と
ルーフィ。
「天才じゃない?」と、わたし。
あ、そっかそっか...。と、ルーフィは笑い「そういうユーモアを楽しむ
ゆとりも無い人、もいるんだね。悪魔くんが憑くような人って。」
たしかに...そうかもしれない。
さっきの本を探してイライラしてた人って、なんだかイライラしたくて
してるようにも見えたし。
カウンターでお金を要求したアジア人っぽい人もそうだった。
わたしだってイライラする事はあるけれど、でも、まわりの人に
当たらなければならないほど、の、気持ちにはならないもの。
悪魔の心・理論物理学
「いらいらする、って
結局は、自分のイメージと、目の前の現実を比較してるからさ。」
と、ルーフィは言う。
「それも、今ふうに言えば、って事?」と、わたしは聞いてみた。
「そう。[認知]なんて言うね。医学だと。認知症、なんて言うね。」と、
ルーフィは、物知りだ。魔法使いさんって、そうなのね。
「アタマの中に浮かんだ、イメージ、それは時間も空間も無いから
4次元、だね。思い出のイメージに、一瞬で飛べるように。」
と、ルーフィは言う。
うんうん。そうだっけ。出会った頃の彼とか、ずっと前の事、とか。
さっきも、ハイスクールの頃のわたしを思い出してた。
そのイメージは、なーんとなく、ってだけで
まして、時間を追って記憶が呼ばれる事もない。
「だから、いらいらする人、例えばさっきの本を探してる人は
本を見つけて、図書館から帰る時間、そこまで予定してるんだよ。
でもそれは、自分の頭の中だけにある4次元的イメージで
目の前にある時間は3次元だから、地球の自転に沿って動いているだけさ。
それに、いらいらする、ってのは.....。ちょっと、認知に問題がある。」
なーるほど。そう、客観的に自分を観察すれば
いらいら、なんて出来ないわ。恥ずかしくなって。
「悪魔くんたちも4次元の世界だから、その、イメージ空間に近いんだね。
それで、憑きやすい。」と、ルーフィは言う。
「でも、ふんわりしあわせ、な気持ちも、時間が止まってるみたい。」と
わたしは思った。
「そうだね。止まってる時間のままで居たい、ってのは時間軸がなくなってるから
4次元ではない...かな?。それに、悪意が無いから、悪魔くんたちの
食べ物は無い、から、来ない。」
なーるほど。
でも、悪意を持つ人って、人種が違うのかしら?と
わたしは思った。
「うん、結局、いろんな説があるけどね。癖、なんじゃないかな。」
と、ルーフィは意外な事を言う。
「癖?」突飛な言葉に、ちょっとわたしはびっくりした。
「そう。もともと動物は、他の生き物を食べて生きてきたから
狩りをして、食べるのが好きなように出来ているけど
それは、周りから見ると侵略者だし、攻撃さ。
人間の社会だと、狩りをする機会がそんなになくて
その機能が暇だから、周りの人間を攻撃したりする[癖]に
なってしまっている人も居る、って事だろう。
僕らは、魔法で時間を旅したり、新しい知識を得たり、
文章を書いたりする。それが、狩りの代わり。
そういう事を知らない人が、偶々、悪い癖をもっちゃった。
そんなところだ...って、本に書いてあったよ、そのあたりの。」
と、ルーフィは、動物行動学や、生物社会学のある
自然科学の書架を指差した。
「....暇...。」と、なんとなくわたしは、複雑な気持ち。
暇だからって、女の子に当たるのは良くないな。
弱い者いじめじゃない。
ルーフィは、それに明快に答えた。
「なので、本当に弱いかどうか?を
悪魔くんは試してるのかもしれないね。
弱い者いじめをするような人の心を。
実際に、悪い事をすれば、警察に捕まって
本当は、強くなかったって事を思い知るだけさ、そういう人は。
強い、って思い込んでるだけなんだよ。」
そっかぁ.....。悪魔くんは、淘汰を助けてるって事、か。
と、わたしはつぶやいた。
「うん...人は、たぶん増えすぎちゃったんだね。この世界に。
だから、数を減らそうって思ってるかもね。」と、ルーフィ。
「それだと、めぐ、みたいな子って....。悪魔憑きみたいな人にも
平然として、微笑んでいるような子が、生き残るのかなぁ。」と、わたしは
なんとなくそう思った。
「それは、わからないけど....。あの子には、ほんとうに
天使が宿っているのかも、ね」と、ルーフィは、にこにこした。
書架で、カートの中の返却図書を整理している、めぐ。
ようやく終わりそうで、笑顔をみせた。
わたしとおなじ、筈の彼女に
こちらの世界で出会って、なんとなく、良かったな。
わたしは、そう思った。
図書館の閉館は、17時。
ほんの2時間ほどだったのに、とっても長く感じたのは
なんでかなぁ。
いろんなこと、あったし。
おつかれさまでしたー、って
にこにこして、図書館のアルバイトを終えて帰ってきた、めぐ。
「すみませんでしたー、ずっと、お付き合いしていただいて。
....そうだ!、Megさんも、ルーフィさんも、どこか、住むところは
こちらにあるのですか?」
....そういえば(2w)わたしは、そこまで考えていなかった。
なんとなく、過去に旅するような気持ちで、違う世界に
旅してきてしまって。
帰る方法も、まだ、わかっていないのだった。
....こっちの世界の「家」には、当然、めぐ、が
住んでいるのだし。
こっちの世界にルーフィが居ないのは、不思議だけど(笑)。
「はい、どこかのB&Bにでも泊まろうかしら。」と、思いつきで言ったわたし。
B&B、って。この地方によくある
個人のお家を改装して、朝食とベッドを提供する、お宿。
ときどき、取材でいきあたりで使ったりしてたので、つい、そんな感じで。
「そうだ!、うち、に、いらしてください。ね、ね?いいでしょ?」と
めぐ、は
にこにこするので、迷惑じゃないかなー、と思ったけど
なーんとなく、こっちの両親にも興味あったりして(笑)
ルーフィも「うん、もしかして、ほんとにもうひとり僕がいたら、面白いけど」
なんて言って。
照明が落ちた図書館のエントランスで、話してるうちに
そういうお話になって。
歩きながら、図書館通りの路面電車の停留所、まで。
不思議に、レイアウトも、石畳のあいだのレールも。
芝生の生えた軌道も、おんなじだった。
出版社のあるビルに行ったら、わたしたちが居るかもしれない、
なんて思うくらいに、そっくり。
だけど、たぶん3年前くらいの時間軸。似てるけど、違う次元。
どこで、わたしたちの世界につながっているんだろう?
それが見つかれば、帰れるんだけど。
路面電車は、沢山走っている時間だから
電停に行くと、緑と黄色の旧式電車が
すぐにやってきた。
ふたりとひとり
からんからん、と
鐘が鳴りながら、ゆっくり走る
路面電車は、のんびりしてて
なんとなく、わたしは好き。
ふだんは、ルーフィは
かばんの中なので
一緒に乗れるのも、うれしい、ひとつ。
きょうは、もうひとりのわたし、めぐ、もいっしょで
ちょっと、不思議だけど。
ふたり並んで、ケータイで写真とってみたけど
あたりまえだけど、よく似てる。(2w)。
姉妹みたい。双子かしら。
こんなふうに、姉妹が居たら楽しかったな、なんて
わたしは思った。
路面電車のステップを上がって
ながーい、緑の座席は
ほとんど、誰かが座ってて。
なので、わたしたちは
後ろの方で、流れていく景色を見ながら
吊革につかまった。
鐘が鳴り、電車は走り出す。
床の下から、油の染み込んだ木、の床を通して
モーターの唸りが、歯車を通して響いてくる。
ぐーーーーん、って。
町が、少しずつ遠ざかっていく。
いろんな匂いを乗せて。
ふと、このまま元の世界に戻れないのかな?なんて
ちょっと怖くなったりしたけど
それなら、それで
ここで生きてもいけそうな気、も
してきたり(3w)。
「何、考えてるの?」ルーフィは、わたしが何か、気にしてると思ったのかなー。
「ううん、なんでもないの。旅情ね、旅情」と、わたしは
気にしていないふり(笑)。
「おふたりは、仲がとってもいいんですねー。いいなぁ、そういうの。」と
めぐ、はにこにこ。
ちょっと、わたしは恥ずかしくなった(4w)。
そういえば、いつもはルーフィと、こんなふうに並んで歩くって
できないし。
そうなってみないと、こんな気持ちにはならないのかもしれないわ。
かばんの中のぬいぐるみルーフィ、と一緒でも
なんか、ぬいぐるみふぇち(笑)みたいだもの。
でも。
もし、わたしとおんなじだったら。
めぐ、にも
もうひとりのルーフィ、が
現れるのかしら....?。
「そうかもしれないし、そうでないかもしれないね。
全く同じ世界じゃなさそうだし。」と、ルーフィは感想を述べた。
路面電車は、次の電停に着く。
お客さんが、前の扉から降りて、後ろから乗ってくる。
学生さん、お勤めのひと、おじいちゃん、おばあちゃん....。
それぞれに、それぞれの思いを抱えているみたいだけど
悪魔くんが憑いているような人は、あんまりいないみたい。
それに、ちょっと安心したわたし。
わたしたちのいた、世界にも
悪魔くんは、いたのかな?
気づかなかったけど。
「そう、気がつかないで済むなら、その方が幸せって事もあるね。
僕らが、こっちの世界に居る悪魔くんたちを、みんな
魔界に帰ってもらう、なんて
ちょっと大それた気持ち、かもしれないし。」と、ルーフィは
現実を、言葉にした。
心の中でイメージするのは簡単だけど、実現させるのは
難しい。
でも、イメージも4次元、で
悪魔くんの世界も4次元。だったら、上手くいくかも....。なんて
ちょっとイージーなのは、わたし。
悪魔くんだって、好きでこっちに来てるんじゃないかもしれないし。
いくつかの停留所を過ぎて、わたしたちの(?)家のあるあたりに来た。
路面電車は、ゆっくりと止まる。
わたしたち3人は、前のドアから降りた。
通貨は同じコインだったから、めぐ、は定期で
わたし、はコインで電車賃を払った。
未来の時間が書いてある定期、じゃ
無賃乗車になりそうだし。
ルーフィも、一緒に。
からんからん、と
鐘を鳴らして
路面電車は、ゆっくりと港の終点まで行くのかしら。
「終点にね、温泉があるの」と、ルーフィに言うと
「へぇ、温泉。いいねぇ。混浴?」なんて、ルーフィ。
「そんなわけないでしょ、もう!。」と笑うと
「ほら、ヨーロッパの方って水着で入るじゃない。」って、ルーフィ。
「そういうのもあるみたいですね、ジャグジーとか」って、めぐは言う。
「でも、一緒はやっぱり恥ずかしいな」と、すこし頬赤らめて。
そうよね(w2)。水着だってねぇ。
「なーるほど。お風呂ってひとりで入るもんだしね。イギリスだと。」
と、ルーフィ。
そのくらい、同じ人類でも習慣は違う。
まして、悪魔くんと人間、それと、魔法使いさんじゃ...。
風習は違ってて、ふつー、よね。
違う世界で、それぞれに生きるのがいいのかしら....。
魔界・魔法使い
路面電車の通う通りは
少し広いんだけど、軌道敷が真ん中で
両脇に、くるまが通れる道になってる。
そのくらいの広さで、電車がゆっくりゆっくり通ると
みんながよけていく。
そんなふうに、人間と、悪魔くんも
それぞれの世界で生きていけばいいな。
悪魔くんから見れば、人間の方が厄介者かもしれないし。
...まあ、人間は魔界には行きたがらないだろうけど。
特殊な人を別にして。
...そういえば、ルーフィも、そのご主人様も魔法使い、って
ことは....。
魔界の人なのかしら....。?
家に向かう細い路地は、ちょっと薄暮れで
レンガの壁、白壁、塀の上で
にゃんこがお散歩。
普遍的な風景を見ながら、ここが異世界だなんて
言われても、ぜんぜん実感できないわたしは
ルーフィの出自、を思った。
「ねぇ、ルーフィって、悪魔くんの世界の人なの?」と言うと
彼は、楽しそうに吹き出した(8w)。
「ぼくは、ふつうの人だよ、君と同じさ。ご主人様がね、僕を
見つけてくれて、魔法を使う力を育ててくれたのさ。」と
夕暮れの風に、さらりとした短い髪を遊ばせながら、ルーフィは
一番星を仰ぎながら、さりげなく言った。
....。それだと、わたしと同じ...。なのかしら?、あ、それで....。
めぐ、もおんなじだって。そう思ったのね、ルーフィ...。
「魔法使い、っていろんな人がいるけど、僕らは
もともと、魔界とは関係ないひとたち。
もっている能力を、引き出せる人なの。
ほら、芸術家とか、技術者みたいな。
昔は、お医者さんのかわりだったりしたんだよ。」
と、ルーフィ。
そうなんだ....あ、そういえば。魔女さんが
薬を作ったりした、ってお話を読んだ事あるわ....。
「その他に、魔界とね、契約して
魔法を貰う代わりに、悪魔に魂を売る人もいるし....。
さっきみたいに、魔法の存在もしらずに
悪魔くんのおやつになってしまう人、もいる。いろいろだね。」
と、ルーフィは、その、魔界と人間界の境が曖昧だ、って事を
伝えた。
at home
めぐ、は
悩みなんてない、そんな感じに楽しそう。
坂道を、っとっとここ、と歩いて
お家へ向かう。
あたりの雰囲気も、まったくおんなじ感じなので
ここが異世界だ、って
わたしは感じ取れない。
「はぁい。ここがあたしの家ですー。」って
招待されたおうちは、まったく
わたしの世界の、わたしの家と変わらない。
3年前は、こんなだったかな。そういう感じ。
おばあちゃんのトマト畑も、三角のお屋根も。
なんにもかわらない。
「正直...驚いたなぁ」と、ルーフィは魔法使いなのに(2w)
おもしろいことを言っている。
「うん...。」と、わたしも同感。
これで、おとうさん、おかあさんも
たぶん、おんなじなんだろうけれど....。
でも。
わたしの事を、なんて言えばいいのかしら。
「ありのまま、おっしゃって下さって、大丈夫だと思います。」と、めぐ、は
言う。
「どうして?」とルーフィは尋ねる。
「このところ、不思議な事が多いので。未来から、わたしのお姉さんが
来てくれた、と言っても
父も母も、不思議には思わないと思います。
それに、魔法使いさん、なら....。
この町でなく、ほかの町には住んでいるとも聞きましたし。」と、めぐ、は
当然に、変わった事を言うので、わたしは驚いた。
「....。」ルーフィは、何も語らなかった。
この世界が、そういう時空なのは
たぶん、悪魔くんが出てきているあたりから、そんな予感はしていたけど。
魔法使い、って、ひょっとすると魔界の使徒?
だとすると、魔界からの侵略、って事かしら....。
いろいろ、空想していたけれど、でも、めぐ、は
ふんわりと
「さあ、どうぞ.....。」と、にこにこと玄関に、わたしたちを
招き入れてくれた。
ドアーがちょっと、渋い感じのところも。
玄関の明かりが、ぼんやりとしているのも。
ぜんぶ、わたしの家と同じ。
なのに、こっちの世界には、悪魔くんが忍び寄っている。
それに気づかなくって、住んでいるひとたちは
世の中が住み難くなった、怒りっぽい人が増えた、
そんな風に思ってるとしたら.....。!?
守ってあげないといけないわ....。
そう、わたしは思った。
でも、別の世界のこと、と言っても
過去を変えてしまったら、時間旅行者としては
困った事にならないかしら.....?。
今の自分があるのは、過去の自分があるから。
異世界の過去の自分.....。うーん、わかんないよぉ(3w)。
「ねぇ、ルーフィ?」と、先生に聞いてみる事にした(笑)。
「異世界だったら、変えても平気だと思うけど。3年後の君は
こことは別の世界の君、だもの」と、正解が、ルーフィ先生から(2w)。
なーるほど。
「お気になさらなくても大丈夫です」と、めぐ、は
時々、丁寧な言葉になる。
不思議だなー、と、学校の図書室であった時の
台風みたいな印象とは、ぜんぜんちがってて。
ルーフィも、それに気づいて。
「もしかすると....この子、ほんとに天使さんが宿っているのかも。
それで、時々言葉遣いが変わったり....おてんばになったり。」
まさか....。
でも、それだと、悪魔くんが、この子を狙って
いじわるをしてる、って事...かしら。
「その推理が正しければ、この世界には、魔界の者と
天界?の者も居る、って事になるね。」と、ルーフィは冷静に。
「ふつうは、住むことなんて出来ないんだけど」と、付け加えて。
めぐ、に
紹介された、おとうさん、それと
おかあさん、は
わたしの両親にそっくりだった。当たり前だけど。
でも、なんとなく......。めぐ、と同じ雰囲気がしていて。
わたしの両親のように、人間的な、Earthyな感じは
あまりしなかった。
「ひょっとすると、ファミリーみんな、天のお使いなのかな」と
ルーフィは、おもしろい観察をした。
「それで、ルーフィやわたしを訝しく思わないのかしら」と、わたしは
感想を言うと
「そうかもしれないね。Megの世界には、僕、魔法使いが降臨した。
代わりに、この世界では、天の使いが、めぐ、君のもうひとりの家族のところに
降臨した。」と、ルーフィは、話をつなげて考えた。
「どっちも、なんか理由があるのかしら」
「それは、わからないけど....。なんか、前世、と言うか
家系の先祖に、理由があるのかもしれないね。
Megが、魔法を修行しなくても時間旅行ができた、のは
そんな感じかも。」と、ルーフィはそう言った。
めぐ、の
両親に促されて
本当に暖かいおもてなしを受けた。
「いつまでも、いらしてくださっていいんです」と、めぐ、のお母さんは
そう言ってくれた。
わたしの母とそっくりなので、なんとなく妙だけど(3w)。
お父さんは、お蕎麦を手打ちしてくれて。そんなところまで
わたしの父と同じだった。
ディナーを終えて、とても楽しくて寛げたのだけど。
だから、めぐ、の一家が
天のお使いに。
なっているんだったら、やっぱり、お手伝いをしなくっちゃ。
そう、思ってしまうんだった。
たぶん、天使さんだったら
悪魔くんたちと戦う、って事じゃあなくって
悪魔くんたちが、自然に
魔界に帰ってくれる、そう願うんだろう。
だって、天のお使い、って
神様のお使いって事だもの。
わたしは、そんなふうに思った。
2階の、めぐ、のお部屋に行ってみたけど
そこは、わたしがハイスクールに行ってた頃
そのまま、だった。
ルーフィに見られると恥ずかしい、って
めぐが言うので(w)
ルーフィは、あの、屋根裏部屋に
ホームステイする事にした、らしい。
魔法使いだから、魔法で
好きに使うんだろうけど。
わたしの家に居るより、ほんとの姿で居られるから
かえって楽だ、って言ってたり(w)
お気楽魔法使いルーフィめ。(3w)。
それから、わたしたち3人で
裏山にある、温泉に行く事にした。
歩いてすこし、の距離にあるそこは
わたしの世界にある、それと同じ。
ルーフィは、魔法使いなのに
温泉も好き、なんて
ヘンなイギリス人(笑)。
「混浴かなぁ。」なんて、ヘンな事言うんで
めぐ、は、首筋まで真っ赤になって恥ずかしがって。
「ヘンな事言わないの!若い娘が居るんだから!」と、わたしがはたくと
ごめんごめん、ってルーフィが腕でよけたふり。
めぐは「ごめんなさい、でも、仲よしでほんとに、羨ましい。
そんなカレシ、ほしーなぁ。」って。
それは、天使さんの気持ち、それと、めぐ自身の気持ちが
両方混じってるみたいな、そんな言葉の雰囲気だった。
それに、ルーフィも気づいて
「宿ってる天使さんは、とっても愛らしい感じの
まだ、天使さんになったばかりの子、みたいだね」と。
めぐ、自身は
それに気づいているのかどうか、わからないけれど。
こんなに愛らしい子だもの。カレシなんてすぐできるわ。
そう、わたしは思った。
ルーフィは「うん、でも、もし、すこしでも邪悪な心を持ってたら
天使さんが寄せ付けないだろうけど。」とも言った。
おなじような、天使さんが宿ってる男の子が
ボーイ・フレンドになるだろうね、とも。
そういう異世界なら、わたしも住んでみたいわー(3w)。
温泉は、素朴な山里の中にあるわりに
きれいで、モダーンな建築。
レンガ色の装飾タイルに、ブロンズのようなオーナメント。
古代を模した、近代デザインで
最近人気のあるタイプだった。
国営の施設なので、気楽に使えて
わたしも、よく来ていた。
もちろん、わたしの世界での、話。
混浴でなくて残念そうなルーフィ(笑)と
入り口で分かれて。
殿方湯、は右手の岩風呂。
婦人湯、は左手のジャグジーつき。
と、曜日で代わるようになっていて
このあたりは、東洋ふうの凝った演出で
これも人気があった。
平日なので、空いている温泉の
縄のれんをくぐると、ちょっと変わった
お湯の香り。
それも、慣れた感じ。
床には、籐の敷物。ロッカーは、木造で
まだ、真新しい感じ。
脱衣籠も竹製で、なんとなく、アジアに迷い込んだような
不思議な感覚が、わたしは気に入っていた。
女同士なので、何も気にする事はないけれど
髪を巻き上げて、お湯に当たらないようにして
ひょいひょい、とオールヌード(笑)になって。
めぐ、と一緒に、お風呂場に入った。
「ほんとに、なれてるんですね」と、タオルを前にした
めぐ、は
わたしより、すこしだけ起伏の少ないボディー(w)だけど
透き通るように白い肌で、ほんとに天使さんみたい。
ひざにある、幼い頃の傷あとまで同じで
それを、めぐ、は見つけて「ほんとにいっしょだー」と
笑うので、とってもかわいくて
抱きしめたくなっちゃった(w)。
めぐ、の3年あとが
わたしみたいにならないで、天使さんみたいに
かわいいままでいてほしいなー。
そんなふうにもおもったけれど。
「Megさん、ってステキですぅー。ルーフィーさんみたいな
カレシもゲットして、レディーだし。」って、めぐ、は言う。でも
レディー、なんて程遠くて。
だんだん、時間が過ぎていってしまうのを
ちょっと怖く思ってたら、いきなりタイムスリップ(2w)して
こっちに来てしまったんだもん。
過ぎてしまったわたしの時間は、めぐ、みたいに
輝いていたのかしら.....。
美と心
「背中、流しっこしよっか。」 「はい。」
って、わたしたちは姉妹みたいに。
こういうのって、女の子同士の楽しさ。
男の子には、わかんないわね(2w)
難しい、美術論の講義で習ったりしたし
ルーフィが得意な、理系の本を見たりすると
女の子って、愛の象徴で、それで、venus、って言われたり
生きる希望、って意味でeros、なんて言う。
なので、女の子同士って、こんなふうに触れ合ってるのは
楽しいの、(3w)。
めぐ、の背中を流してあげてる、って
生きてる、かわいらしいお人形さんを可愛がってるみたいで
とっても、いい気持ち。
とってもきれいで、生き生きとしているボディを
見ていると、なんとなく、わたしも
こんなだったのかなー、なんて
うれしくなっちゃうし。
ちょっと、ぽよぽよなところも、すらっとしてるとこも。
全部、ステキだな...。そんな風に思う。
今のわたしは、こんなふうじゃないけど。
めぐ、みたいな子が
しあわせになれるように。そう思う。
それは、たぶん、男の子だって同じだと思うから
女の子がかわいくなって、男の子となかよくなれば
悪魔くんが近づくような、そんな気持ちには...ならないかな。
図書館で怒ってた、おじさんたちも。
そんな、愛がそばにあれば。
怒ったりしたくなくなる、って思うの。
めぐのボディは、神々しいくらいに美しかったので
わたしは、イマジネーション。そんな事を思った。
「きゃ」
「ごめんっ」
わたしは、ちょっと、シャボンで手が滑ったふりをして
めぐのバスとを触ってみたくなった(2w)
そういうのってerosのせい。かな。
わたしの、あの頃と似てる感触だった。
凛、としていて。
いまのわたしは、こんなじゃないけど...。って
過ぎた時を思った。
過去に旅するって、おもしろいこともある...な。
「はい、できあがりー。」って、シャワーでお湯を掛けてあげて。
「ありがとうございますー。じゃ、あたしの番ね。」と、めぐは
にこにこしながら、わたしの背中にまわった。
ちょっとこそばいけど(笑)。
でも、めぐ、にやさしくしてもらってると、いい気持ちだわ....。
なんたって、わたしの「もうひとり」だもん。
可愛い手で、背中や肩に触れてもらってるだけでも、いい感じ。
その手で、抱きしめてー(2w)なんて。
「えい!」と、めぐ、は、いたずらして
わたしの胸にさわった。
赤ちゃんが、お母さんのおっぱいにさわるみたいに。
「おっきいですねー。ステキ。」と、めぐは言う(3w)。
わたしは、そんなにおっきい方ではなくって(4w)。
めぐ、は、自分自身と比べたのかな。
「めぐちゃんの、とってもステキよ。かわいくって。
きゅ、って抱きしめたくなっちゃうもん。」ってわたしが言うと
めぐは、恥ずかしそうに笑った。
真っ白なボディは、うすももいろに色づいて。
ほんとに、かわいいわ....。
わたしは、わたし自身の記憶と、ちょっと違う事を回想して。
天使さんが、宿ってるから、なのかしら....。なんて思ったりもした。
それなら、ずっと、天使さんと一緒でいるといいね。
そう、思い出すと
ルーフィは「天使は、地上には住めない」って言ってたっけ。
どうしてなんだろ.....。?
背中流しっこ、して。
それで、温泉につかろー、って。
めぐ、の立ち姿は
清らかで、感動するくらいの美しさだった。
「めぐちゃん、かわいい。」って、わたしは思わず。
春、まだ早い山の
雪割り草のように、清々しかった。
「....ありがとうございます...Megさん、ステキ!」って。
めぐ、は言ってくれた。
そう、愛する心があれば...
めぐ、と一緒にいると
そんな気持ちになる。
わたし、ひとりで
いると、けっこう
争ったり、怒ったり。
そういう事をしていたり、するんだけど。
温泉は、黒いお湯で
それは、遠い、昔むかしに
ここが海底だったので
その頃の海水、が
いま、温泉になっている、そう
めぐはガイドさん(w)してくれた。
「物知りなのね。」と、わたしが言うと
「お風呂の入り口に書いてあったの」って、めぐはにこにこ。
わたしも、時々(自分の世界の)この温泉に来ていたけど
温泉の効能、とか
見てなかった(笑)。トラベルライター、だと言うのに。
ふだん、何か違うことを考えていたり
時間に追われていたりとかで
自然な気持ちを忘れてたりしたのかな、って。
そういう心に、悪魔くんが忍び寄る(w)かも。
温泉のお風呂は、広くて。
岩風呂じゃないほうの、こちらは
ふつうの、平らな石のお風呂だけど
わたしは、つるつるしてるので
こっちの方が好みだった。
岩風呂って、背中とかに当たると痛いもん(3w)。
「図書館の仕事、好き?」って、めぐに聞く。
「はい。本が好きだもん。本と一緒に仕事できたらいいな、って。」と
めぐは、わたしがハイスクールの頃、思ってたような事を言った。
「Megさんは、どんなお仕事をされてるんですか?」と、めぐに聞かれたので
「わたしも、図書館で働こうかなー、って思ってるうちに
文章を書くほうの仕事がまわってきてて。それで
今はトラベルライター。フリーだから、まあ、アルバイトかしら」と、言うと
「ステキです。書くのって、あたし好き。それがお仕事になったら
いいなー、って思ったの。」と、めぐは楽しそう。
物語とか、詩とか。
そういうものでも、リフレッシュしてもらえるなら
それも、いい事かしら...って。わたしは
そんなふうに思った。
気分が良くなれば、悪魔くんが憑かないし(w)。
めぐ、がおはなしを書いて
やさしい気持ちになってくれる人、がふえたら....。
それもいいことね。
ゆっくり、お風呂につかってたので
ちょっと、のぼせちゃった。
「でましょか」 「はい」
って、温泉から出て。
さっきのロッカールームへ。
おおきな扇風機が回ってて。
クーラーも利いてるけど。
「それ!」 だーれもいないので
扇風機の前で、風に当たって。
もーちろん、おーるぬーど(*^.^*)
めぐは、さすがに恥ずかしいのか
そんな、おじさんみたいな事はしなかった(笑)。
「のんびりだったね。」と、お風呂あがりの
リラックス・ルーム。
ひろい、学校の教室くらいの空間に
畳敷きの部屋。
座卓に、座布団。座椅子。
和風、最近流行のオリエンタル・スタイル。
西洋人には目新しくて、靴を脱いで上がる
リラックス・ルームは流行中。
ルーフィは、そこで冷たいお茶を飲んでいた。
フリー・ドリンク。
それも、和風なのか
焙じ茶、と言って
グリーン・ティを炒って
香りが強くなったものを、煎じる。それから冷やす。
手間の掛かる飲み物。繊細な感じ。
「うん、お話してたし。」と、わたしが言って。
おそくなってすみません、ってめぐ。
「そう、ゆっくり楽しめてよかった。」と、ルーフィはにこにこ。
湯上りの彼も、かっこいい。
「お話...か。聞いてもいい話?それともー。」と
いたずらっぽく聞くルーフィに、わたしは
「女の子だけの、おはなし。」と、そうでもないのに(笑)。
「気になるなー、ま、いっか。」と、ルーフィはにこにこ。
わたしたちも、そこでお茶を頂きながら。
「それでね、わたし思ったんだけど。
優しい気持ちになれるような、そういう仕事も
悪魔くんに憑かれないために、いいって思うの。」と
さっきの思いつきを話した。
ルーフィは「うん、ひょっとしたら
隣町に居る、魔法使いさんも
そういう事をしてるかもしれないね。」と。
魔法で、おくすりを作ったり。
コスメしたり。
そういう魔法使いって、いるかもしれないもの。
大昔は、お医者さんだったりしたんだし。
のんびり夕涼み
すっかり、夜の雰囲気になった
坂道を、3人でのんびり下っていく。
「ちょっと、ひとりだと暗くて怖いんです。
きょうは、3人だし、ルーフィさんがいるから。星空をのんびり
眺めていられて、楽しいな」と、めぐは、にこにこ。
「浴衣で夕涼み、みたいな...。」とわたしが言うと
「ユカタ?」と、めぐ、は言う。この地方では、馴染みがない。
それはそうね。きもの、ってアジアンテーストだし。
「こんなんだよ」と、ルーフィは、右手で空中に、いつもみたいに
輪を描いて。
その、スクリーンには
花火、浴衣、夕涼み...みたいな映像が映った。
「すごーいぃ!。どうやったんですか、それ!」と、めぐは
びっくり。
それはそうね、はじめて見た時、わたしもびっくりしたもの。
「ああ、僕はマジシャンだから。」と、ルーフィはさらっと(笑)。
「それ、あたしにもできるかなぁ」と、めぐは、魔法に興味を、
ちょっと違う興味を持ったみたい。
「うん、できると思う。でも、今だったらインターネットが
あるから、同じ事は魔法でなくてもできるね」と、ルーフィ。
「あ、そっか」と、めぐは、楽しそうに笑った。
「大昔、魔法じゃないとできなかった事は
科学が普通に、誰にも出来る事、にしてきたね。
だから昔は、魔法使いって科学者みたいだったりして」と、ルーフィ。
「そっか....。でも、時間旅行なんて、今でもできないね。」と、わたし。
それは、そうかも。
時間と空間を乗り越えるなんてのも、いつか、科学で
できるようになるかもしれない。
それも夢、かなー。
いつのまにか、浴衣の話を忘れてた(2w)。
「そうそう、浴衣ってね、さっきの映像みたいな
涼しそうな格好のこと。
下駄履いて、のーんびりして。」と、わたしが言うと
「あ、いいですね、それ。おばあちゃんに作ってもらおうかなー。」
なんて、めぐ、は楽しそう。
「花火、見たりしてね。」と、ルーフィは言って
さっきの映像にあった、打ち上げ花火のイメージだけを
わたしたちの頭上で、展開した。
「びっくりです」
「わぁ」
わたしとめぐは、突然なのでほんとにびっくりした。
「きれいでしたね」と、めぐは、感想して
ほんとの花火って、みてみたいなー。
そんなふうに思った言葉を、そのまま言った。
このあたりの花火って、昼間、ぽん、って打ち上げるの、とか
夜でも、光るだけで
さっきの映像みたいに、色が変わったりしないし。
「それは、日本に旅行に行ったら、見れるね。今でもあると思うよ」と
ルーフィは、現実的な事を言う、めぐは
「魔法で、できるかなー。」なんて。かわいい事を言っていた。
マジシャンって言うと、そういえば手品師の事も、そう言うもん(4w)。
そんなきっかけでも、覚えられるといいかもね....。
にこにこ、たのしそうなめぐと一緒に、めぐの(わたしの、でもあるけれど)
おうちに着いて。
わたしとめぐは、わたしたちのお部屋で。
ルーフィは、結局、向うの世界と一緒で
屋根裏部屋に行く事に。
ゲスト・ルームを使えば、と
薦められたのだけど。
でも、ルーフィは、お屋根が好きだから(だからRoof+yだ、と
名前の説明までしていた)。そこがいい、と言って。
屋根裏部屋に収まった。
わたしの(めぐのでもあるけど)部屋は、そんなに広くないけど
ふたりで眠るくらいのスペースは、ある。
ソファーベッドを広げて、めぐのベッドにくっつけて。
ダブルにして(笑)
寝よう、って
灯りを消して。
「あたし、お姉さんがほしかったの。」って、めぐがささやくように
そう言うので、わたしも、そんな気持ちになったっけ、と
ハイスクールの頃を思い出した。
優しいお姉さんが、居たら良いのにな、そんな風に思ったこともあったっけ。
もしかすると、めぐの願いが叶ったのかしら。
わたしは、めぐのほうに手をのばして。
かわいい、かわいい、って撫でてあげたくなって。
「おちつきます、とっても....ひとりでね、寝てると
とっても淋しい時もあって。誰か、来てー、って
思った事もあって。
おおきなぬいぐるみさんを、ぎゅ、ってしたりして。」
めぐがそんな事を言う。
.....そういえば、ルーフィを
最初に見かけたのは、おおきなぬいぐるみの姿で
雨に打たれて、ごみ捨て場で捨てられてたのが
かわいそうで。
お風呂に入れて、あげてたら
ルーフィが、ぬいぐるみに宿ってた。
そんな事だった。
わたしも、そういえば。
淋しかったのかな......。
めぐ、と一緒だ。
めぐのことを、愛しくなって。
ぎゅっ、として。
なでなで、してから
わたしたちは、眠った。
そう、明日もウィークディ、だもん。
めぐは学校もあるし。
明くる朝
ぱた、ぱた、ぱた....。
なんの音かしら?って
ああ、お屋根に来た小鳥さんの足音ね、と
わたしのお部屋(と同じ)なので、見当がついた。
山の手のこのあたりは、緑深いので
野鳥がたくさん、飛んできて。
朝は、お屋根で、ちょこちょこ歩くので
その足音が、ぱたぱたぱた、って。
かわいい目覚ましさん。って
わたしは思っていた。
レースのカーテンの窓に見える景色も、わたしのお部屋と一緒。
なのに、ここが異世界だなんて、まだ信じられない。
めぐは、まだ寝てるみたい。
窓のほうに、横向きになって
少し、まーるくなって。ダウンのブランケットをかわいい手で持って。
赤ちゃんみたいに、かわいい。
むかーし美術館で見た、天使の西洋画、ルノワールだったかしら?
そんな感じの絵画を思い出した。
斜めの朝の光が、レースのカーテン越しに
やわらかくって。
天使を、覚醒に、ゆっくり誘ってる....。
「.....。あ、おはようごじゃいますー。」
って、めぐは、ちょっと寝ぼけてる(笑)。
髪も、もしゃもしゃで。
ねぼけてるめぐも、かわいい。
それからわたしたちは、ルーフィと一緒に
ブレックファースト。
ミルクティー、カフェ・オ・レ。
焼きたてクロワッサン、クロック・ムッシュウ。
ビアンケッティ、トマトのサラダ。
のんびり、頂いて。
「いってきまーす。」って、わたしたちは
いいのだろうか(笑)のびのび居候。
めぐと一緒に、お家を出る。
「めぐが、学校に行っている間、わたしたちは
隣町の魔法使いさんのところへ、行ってみるわ」と
めぐに伝える。
「それなら、路面電車で駅前から、隣町への坂道を
ケーブルカーで登って、頂上の向うの町みたいです。」と
めぐは、よい旅行作家にもなれそう。(2w)。
あとでまた、図書館に行く、そう言って
路面電車の停留所で、スクールバスに乗るめぐ、と別れた。
赤いお屋根のスクールバス。
ボンネットが長くて、大きなヘッドライトがふたつ。
大きなお馬さんみたいね、って
めぐ、は
かわいらしい事を言って、わたしたちを和ませてくれる。
自然に、そう思うんでしょうね。
お花みたいな子...。
昨日は、無賃乗車(笑)で、危なかったけど
きょうは、ハイスクールの生徒の変装はしてないので
昨日のわたし、と見られる事も、ない。
めぐ、に似てるとは思われるだろうけど。
車窓の生徒たちは、わたしに気づいてはいなかった。
中折れの扉から、めぐがバスに乗って。
手を振りながら別れていくと、なーんとなく淋しかったりもした。
わたしたちは、路面電車に乗った。
「ねえ、魔法の絨毯とかで行けないのー。」と、わたしが言うと
ルーフィは「昼間っからそんな事したら、おまわりさんに捕まっちゃうよ」と。
こっちの世界は、どうかわからないけど(笑)それは確かに面倒かしら。
電車は、昨日のとは違って、最新型の2両連結のものだった。
床がとっても低くて、地面からほんのステップひとつ、そんな感じ。
モータの音も静かで、するすると走る。
「魔法の絨毯並みだね」と、ルーフィ。
「ほんと...。」と、わたし。
そんな風に、魔法の絨毯みたいな乗り心地は
科学が実現するのかも....。
「でも、魔法ならお金かかんないわ」と、言うと
「女の子だねぇ、ほんと」と、ルーフィは
やれやれ、と言う顔をして笑った。
2両つながってる路面電車は、カーブのたびに
つなぎ目が動いて、生き物みたいにうねうね。
電車の中で見てると、向うの車両と
空間がつながってるので、揺れ動いて
見てると楽しい。
「同じところに向かってるのにねぇ、右、左って
空間がねじれて」って、わたしが言うと
「そう、縦・横・高さ、って形があって
その容積は同じなのに、変形しながら進んでいくって
時刻の経過で進んでるので。つなぎめのところで見ると
空間が歪んで見えるね」と、ルーフィは難しい事を言った。
わたしにはわかんない(笑)。
駅に着いて、ケーブルカー乗り場を探すと
みんな、気忙しく歩いていて
それが、川の流れのようで。
なかなか、大変そう。
「....こういう気分だと、なかなか、思いやりを持って、とか言いにくいかもね」と
ルーフィ。
「ほんと。なんでこんなにセカセカするのかしら」と、わたしも思ったけど
それは、勤め人をした事がないわたしには
実感として分からない。
学校も、スクールバスだったし。
大学も、のんびり単位取ってたし。
その後は、トラベルライターになっちゃったし。
何かに追われて暮らしてると、イライラして、誰かに
当たりたくなるのかも...と、思ったりもした。
「そういう時、悪魔くんが憑くんだね。」と、ルーフィは怖い予想をした。
悪魔くんのエネルギー源になるような、悪い気持ちが増えるように
悪魔くんが、誘うのかな....。
「でも、追われるのが嫌だったら追われない暮らしをすればいいのさ。
悪い気持ち、って言うけど、僕らだったら、追われたって
人に当たったりできないもの。
そういう気持ちって、やっぱり、僕らと違うんだよ、どこか」と、ルーフィ。
ケーブルカー乗り場は、駅のすぐそばだった。
ケーブルカー、って言葉の響きから、山登りに行くときの
ゴンドラがケーブルに、ぶらーん、っを
想像してたから(2w)。
ここにあるのは、路面電車みたいなタイプで
坂道を登るのに、線路の間でケーブルを引っ張ってて。
見た目には電車。でも、電線がない。
「サンフランシスコのケーブルカーみたい」って、わたしが言うと
「ほんとだね.....。」と、ルーフィは言う。
あ、そっか。
昨日ルーフィが言った4次元、ってこういう事なのね。
目の前にあるケーブルカーは、縦、横、高さもある3次元のもの。
それを、記憶の中のどこかにあるサンフランシスコのケーブルカーと
比較するのは、アタマの中のどこか(笑)。
その時、目の前のケーブルカーは、なーんとなく大きさも適当に比較されてて。
伸び縮みするから、4次元なのね。時間の感覚もないし....。
「サンフランシスコー....って、行った事あったっけ?」と、ルーフィ。
「...どうだったかしら....いろんなとこ行ってるから」と、わたし。
「認知、だめだねー。」と、ルーフィは笑う。
....あ、そっか。行った事あるか、どうかを忘れちゃって。
なーんとなく覚えてるサンフランシスコのケーブルカー、ってイメージだけを
覚えてて。
ほんとかどうか、は、忘れてる。
これって事実認知ね...。って、昨日ルーフィが言ってた事を思い出して。
なので、いろんな情報を知ってると、ややこしくなるのかな....。
ちっちゃい頃、おばあちゃんが
いろんなこと、心配するんで
っちょっと、煩わしく思った事あったりしたけど...。
あれに、ちょっと似てるかしら。
それで、昨日の図書館で会ったおじさんも、イライラしてたのかな...。
ケーブルカーに乗って、わたしたちは
丘の上をめざした。
ケーブルが、どうやって線路の間に収まっているのか、が
ルーフィは気になるみたいで、つなぎ目を見たがっていた。
男の子ねぇ(2w)。
丘の上にあるケーブルカーに、お客さんが一杯乗ると
丘の下にある、こちらがスタート。
乗る人が足りないと、走り出さないって
とってものどかな乗り物なので
忙しいひとは、タクシーとかで登ってしまうみたいで
乗客は少なかった。
「そんなに急いだって、いくらもかわらないよ」と、わたし。
「まあ、その人なりの理由があるんじゃない」と、ルーフィ。
東洋気術
丘へ登る途中で、大抵人が降りるから
重さが足りなくなって、登れないって事には
ならないらしい。
そういう、のどかな乗り物だから
ゆっくり、ゆっくりと
レールを踏みしめるように登っていく。
ルーフィが気にしていたケーブルは
レールの間にあるので、自動車が踏んでも
ケーブルには触れない、そういう仕組みになっているらしい。
男の子って、そういうところを気にするのね。
面白いな、って。
わたしは思う。
魔法を作り出したり、科学的に解析したり。
そういうのも、男の子の気持ちが
そうさせるのかしら.....。
頂上で、ケーブルカーはゆっくりと止まった。
ブレーキは、運転手さんがレールにブレーキの
鉄片を、ネジ式のハンドルを回して押して、停めていた。
どのみち、頂上まで行けば人が降りるので止まるんだけど。
そんな感じなので、飛び乗って、飛び降りて。
そういう人は、料金はいらないらしい。
「のんびりできたねー。」と、ルーフィ。
「わたしたちの町にも、ケーブルカー、ってあったかなぁ?」と
わたしは、重要なことに気づいた。
長く住んでいるけれど、ケーブルカーに乗った事って無かった。
もっとも、隣町に行く事ってあんまりなくって。
遠くに取材にいっちゃうし(笑)。
「まあ、ここは君の過去に似てて、非なる空間なんだね、たぶん」と、ルーフィ。
わたしたちの探す、魔法使いさんの居るお店が
ありそうな、そういう雰囲気の場所はなかった。
なーんとなく、イメージだと
昼間でも暗いような、林の中で。
ふるーい小屋か何かで、黒猫が住んでて...。みたいな。
「それは、マンガっぽいけど。でも、なんとなく....。」ルーフィにも、気配が
感じられない、って。
魔法使い同士、気配で分かるらしい。
交番があったので、おまわりさんに聞いてみると
次の角の、スーパーマーケットの入っているビルの2階で
ドラッグストアと、コスメとか、カラコンとかを売ってるらしい(3w)
「へぇ。それはまた、お仕事熱心な...。」と、ルーフィ。
坂を少し下ったところにある、そのスーパーマーケットは
明るくて、賑やかで。
魔法、なんていう
ちょっとダークなイメージには程遠い。
「こんなところに居るのかなぁ」と、わたしは思いながら
100円ショップの中にあるエスカレータを登り、ルーフィと一緒に
その、ドラッグストアに入った。
そこも賑やかで、スーパーと同じ音楽が掛かっている。
ちょっと、2階にしては暗い感じもしたけれど。
若い女の子向きなコスメや、カラコンとか、小物。
お菓子や薬。
そんなものがいっぱい、ジャングルみたいに並んでいるので
暗く感じたみたいだけど、窓が小さいわけでもなかった。
ただ、それら全てが
手作りで作られているようで、これはかなり
大変な仕事、って思えた。
「全部、手作りなら.......。」と、わたしがつぶやくと、
「たぶん、魔法.....かな。」と、ルーフィもつぶやいた。
どんな人が作ってるのかしら?と、わたしたちは
それに興味を持って、薬品の硝子ケースがある
ドラッグストアーに居る、店員さんらしい、若い女性に
尋ねてみた。
すると......。
その若い女性は、東洋人っぽい顔立ちだけども
すらりと背が高く、さっぱりとした表情のひと。
白衣を羽織っていて。ニットのざっくりとしたサマーセーターに
短めのスカート。
ローヒール。
活動的な人だな、と思った。
「ぜんぶ、私が作っています。店員はいません。」と。
その人はそう言った。
愛想を使うような人ではないけれど、素朴な温かみが感じられる
表情だった。
「そうですか...。ありがとう。」と、ルーフィは礼を述べて
それだけでエスカレータを降りた。
「どうしたの...ルーフィ?」と、呆気なく
帰路に付こうとするルーフィが気がかりで。
「うん、あの人は...魔法使いじゃないみたいだね。気配が感じられない。
東洋の人みたいだから、アジアに古くから伝わる...気術のひとかもしれない。」
と、ルーフィは言い「でも、魔界の人とも関わりは無さそうだ、悪魔くんの気配が
しなかった。」とも。
ルーフィの話では、西洋の天界には神様が居て、魔界があって。
東洋には、それとは違う世界があって。
仏様が天界に居て、魔界には閻魔様が居て。
気術の人は、天界に近い存在であるらしい、との事。
「へーぇ」わたしは(1へぇw)
「でもそれは、東洋からの見方、西洋の見方、って言う違いだけで
同じ世界を見ている、って言われてたりもするんだけど。
言葉の違いだけで、世界感は同じだし。でも、本物を見たのは
僕もはじめてさ」と、ルーフィ。
じゃあ、あのひとは.....。
「ひょっとすると、君の想像みたいに。
女の子を可愛く彩ったり、病気の人を薬で癒したり。
そんなことで、悪魔くんが憑かないようにしてるの、かもね。」
と、ルーフィは、にっこりとして。
こっちの町で、いい人に会えてよかったわ...。そんな風に、わたしは思った。
夢・現実
「でも」ルーフィは言葉を断ち、ふたたび語った。
「薬で治らないような、苦しみもあるさ。そういうのは
魔法でもどうしようもないから、悪魔くんに憑かれると....。
最後は、魔界に落ちるしかない。」と、厳しい現実を語った。
「どうしようもないの...?。」
「そうだね...。その人が生まれる前に遡って、苦しみの原因を
断ち切れれば別だけど.....。あ、そうか!僕らはタイム・トラベラーだから。
原因を調べれば、運命は変えられるかもしれない。」と、ルーフィは
名案に、心を躍らせた。
「何か、理由があるんだ。それを直せば。」と、追記するように
言葉をつないだ。
「過去を変えてはいけないってのは、もちろん
タイム・トラベルの原則だけど、それは、同じ時間軸に
存在している場合。
僕らは別の時間軸から来ているから、大丈夫さ。」
「悪魔くんたちは、魔界の仲間が増えるのを
喜んでるのかしら。」と、わたしは、なんとなく。
「そうでもないと思うよ、人間界に出てくるってのは
魔界が狭くて、住み難いからだと思うし。」と、ルーフィは
近年魔界住宅事情(2w)について語った。
魔界のエンゲル係数も、高いのね。
人間界とあんまり変わらないわ.....。
そろそろ、お昼も過ぎたので
何か、ステキなレストランで...と、思って
町をお散歩。
何か、「デートみたいね。」と、なんとなくつぶやくと
ルーフィは、ちょっとテレて
「そういえば、ふつうにデート、ってしたことなかったね。」
それはそうよ。だって、わたしたちの世界では
ルーフィは、姿を見られちゃいけないんだもの。
ここは異世界だから、それがかえって
わたしにとっては嬉しい。
もとの世界に戻ったら、また、ルーフィは
ぬいぐるみの姿でないと、外には出られない。
それに、めぐもかわいいしー。
こっちの世界で生きていくのも、いいかも。
そんなことを思ってると、ほんとに戻れなくなりそうなので(2w)
考えないようにした。
また、ケーブルカーに乗って坂を下る。でも
こんどは、無賃乗車(w)の、ルールが分かったから
走り出したケーブルカーの、デッキに飛び乗った。
「それっ!」 「きゃ!」
「スリルあって楽しい。サンフランシスコに行ったら
また、同じことしてみたいわ」なーんて、わたしは
のんきな事を言った。
戻れるかどうかも、わからないのに....。
駅の少し前、かわいいカフェがあったので
ちょっと、飛び降りてみた。
停留所でもないのに、自由に乗り降りできるって
けっこう便利ね。
カフェは、明るい色使いの内装で
昼下がりのお店は、空いていた。
「かるーく、いきましょか」と、わたし。
「いっつも軽いじゃん」と、ルーフィもアメリカン・ボーイみたいに
軽快。
ケーブルカーから飛び降りるくらいで、かるーくなれるのも
不思議。
ちょっと暑いくらいだったから、インディア・アイス・ティーを頼んだりして。
それで、フランスパンのホット・ドッグ。
パリに行くと、いつも頂くけど
ここにもあったので、頼んでみる。
ふつうのバゲットに切れ目を入れて、オーブンで焼いて。
大きなフランクフルト・ソーセージを鉄板で焼いて。
挟んで食べるだけ、のお料理だけど
お肉の美味しさを楽しむ、シンプルだから
それがいちばん。
冬向きのメニュゥだけど、夏でもなかなか....。
ルーフィは、魔法使いなのに
熱々のホット・ドッグを喜んでいて
おいしそうに食べている姿を見るだけでも、なんか、しあわせ。
ほんとは、毎日、まいにち、まーいにち。
美味しいものを作って、あげたいんだけどなー。
そんな事を空想していると、ちょっと気になった。
ここは、フランスでもないのに。
なんで、サンジェルマンのホット・ドックがあるのだろう?
それも、フランスパンで作るのって、わたしの空想を
形にしたみたい.....。
そういえば。
めぐ、は、お姉さんが欲しかった、って言ってて
わたしに出会ったり。
コスメを作ってる魔法使いの話を空想してたら
隣町に(気術使いさんだけど)そんな人がいたり....。
「偶然にしては、不思議ね。」と、わたしは思った。
ルーフィは、ちょっと考えて「異世界、だから、ここは。
思ったイメージって、別次元だね、僕らにとっては。
形を変えて、歪んだ時空が時折現れるのかもしれない。」
サンフランシスコのケーブルカーみたいなのが、走っていたり。
...もし、そうだとしたら。
この町の空間そのものが、わたしの空想とつながっているのかもしれない.....。
ちょっと、推理としては大胆。
だけど、それなら....。
帰ることも、できるかもしれない。
でも、今は。
めぐ、と
この世界を、なんとかしてあげなくっちゃ。
もし、わたしたちが。
みんなで、悪魔くんが来ない世界、をイメージできれば。
ひょっとすると、この世界にそれが実現できるかもしれない....。
そんなことを思った。
どうやってイメージを共有するのかはわからないけど。
「そのお話は、案外当たってるかもしれないね。イメージの中と
現実が同じじゃない、って事に怒るひと、ってのは
イメージの中にいるって自分が思い込んでいる。
ほら、図書館で本が見つからないって、怒ってた人とか。
本がスムーズに見つかって、帰るってもうイメージの中に生きてしまって
現実が見えてないんだもの。
僕らは、ここに居るけれど、願ったイメージが
なぜか、時々出てきてしまっている...。反対だね。彼と。」
「どうして、反対になってしまうのかしら....。」と、素朴に疑問(2w)
「たぶん、あの、図書館で本を探してた人で言えばさ...。
見つかる、ってイメージを願ってなくて、ただ、セカセカしてたから
じゃないかなぁ。なので、この世界でもイメージになってないものは
実現しない。」と、ルーフィはおもしろい想像をした。
なるほど....。心に、浮かんでいれば。
それが現れるかもしれない世界。
もし、そうだとすると、わたしは
めぐ、の願いでこの世界に呼ばれたのかしら....。
「そうかもしれないね。でも、元の世界から『過去に戻ってみたい』って
なんとなく思ったのは君だから。たまたま、ここに来たから
歪んだ時空同士がつながった、んじゃないかな」と、ルーフィは
のんびりとした偶然、だと考えた。
それも、帰るための手がかりになりそうね....。
わたしは、ホットドッグを食べ終わると
インディア・アイス・ティーを楽しんで。
そろそろ、めぐが
学校から帰って来て。
また、図書館に行く頃かしら.....。
喫茶
駅前まで、また
ケーブルカーに飛び乗って(3w)
駅から、路面電車(新しいのはLRT,というそう)
に、乗って。
図書館に着いたのは3時半くらいだった。
「めぐちゃん、来てるかなー。」
「そろそろじゃない?」
ひろーい、エントランスから
第一図書室のカウンターを見たけど、めぐの姿は無かった。
「遅刻かな....。」
昨日、お会いしていた
司書主任さん、優しそうなおじさんなので
聞いてみたら....。
「ああ、きょうは、なんだか5階で忙しいらしくて。
手伝いますっ、って行っちゃいました。司書のアルバイトだから
そっちは手伝わなくてもいい、って言ったんだけど。
1階はきょうは暇なもんで。」と、おじさんは
にこにこ。
「自分から忙しいとこを手伝うなんて、なかなかできないねー。」と
わたし。
「キミだったら逃げる?」と、ルーフィはどっきりする事を言う(w)。
逃げはしないけど.....「積極的には行かないかなぁ。」
「それが、自然なんだと思うけど。やっぱり、めぐちゃんは天使さんかなー。」と
ルーフィは、めぐを褒めるので、わたし、ちょっとジェラシー(9w)。
わたしの顔をみて、ルーフィは「あ、でも、ふつうは、Megみたいなので
いいと思うよ、年が違うし。」と、余計な事を(99w)。
「わたしは年寄りだって言いたいの」と、わたし、ちょっと怒ったふり。
ルーフィの優しさはよく分かるけど、ちょっとジェラシーーーー。(88w)
「いや、ごめんごめん、そうじゃなくって。3年前のキミだもん。
比べるのはアンフェアでしょ」と、スマートに言うルーフィ。
「いいわ、許したげる。5階って、喫茶だっけ?」と、わたし。
「喫茶って、『おかえりなさい、ごしゅじんさまぁ』っていうのだっけ」と、ルーフィは
ヘンな事ばっかり覚える(2w)
「違うわよ!そんな喫茶が図書館にあるわけないでしょ。いこ。」と
わたしは、第一図書室を出て、エレベータのボタンを押した。
スカイレストラン、と言う
なつかしいような。
デパートの一番上の階は、家族連れで
賑わっていたっけ。
屋上はだいたい遊園地で。
図書館って公共施設なので
そういう、思い出の中にあるような施設が
そのまま残っているのは、うれしかったり。
今は、デパートそのものをあまり町で見かけないし
家族連れでおでかけ、お買い物。
そういう風景もあまりみなくなって、淋しいような気もするけど
でも、この図書館の5階は、そんな
なつかしい雰囲気で賑わっていた。
ウェイトレスのアルバイトさんだけでは足りないのか
めぐ、は司書のアルバイトなのに
お手伝いにきている、らしい。
「どこにいるのかしら」 「パントリーかなぁ」
と、硝子のショーケースにあるサンプルとか、なつかしい雰囲気の入り口から
わたしたちは、中の様子を伺った。
「あ、いらっしゃいませー。」と、めぐは、いつもとおなじ
[としょかん]と、書いてある黒いエプロン姿で
ちょっと、ルーフィはがっかりかしら(2w)。
もっとも、他のウェイトレスさんも、そんな感じだけど。
公共施設なので、そんな感じらしい。
「なんか、学園祭の模擬店みたい」と、ルーフィが言ったけど
素朴さが楽しいと、わたしは思った。
5階からの展望もあって、けっこう人で賑わっていて。
家族連れ、と言うよりは
お母さんとちいさな子供、みたいな感じの人が多い。
大きなガラス窓の向うは、町並みと、その向うに海。
大きな川が、美しき青きドナウ、そんな曲を思い出すように
流れていて。
川向こうに市役所、小さな山、それと港。
風光明媚な観光地に近いこの場所は、のどかなところ。
「きょうは、たいへんね」と、わたしが言うと
「はい!にぎわってますー」と、めぐは
アルミ二ウムのまるいお盆を持って、食器をかたづけたり。
珈琲やジュースを運んだり。
厨房が結構本格的なのは、図書館で働く人が、お昼をココで
食べたりするため、だろうか。
白いお帽子のシェフが、大きなお腹をして、にこにこと
おなべを煮込んでいた。
お客さんはいっぱい。
平日なのに、なんでかなー、と
思っていたら
きょうは、たまたま
童話を読む会、と言うイベントがあって
こども連れのお母さんが、いっぱい来た。
そんなところらしい。
こどもは、こどもの感覚で動くから
ふつうの時間予定に合わせるのは、むずかしい。
それなので、お母さんの中には
むずがる子供を連れて歩くのに、疲れてしまう人もいたりして。