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13

littie one and the world



その、ゆらゆらするヘッドライトの

黄色い光を楽しんでいるめぐの行方から

新しい型の自動車が、眩い青白い光のヘッド・ライトで

近づいてくる。


それは、スマートで

音も無く過ぎ去った。


電気自動車。


VVVFインヴァータのノイズが、音楽的に響く。



「あたし、こっちの方が好きだな、ああいうのより」と

めぐは、モペッド、オイルとガソリンの匂いのする

旧い二輪車を称えた。



「うん、そうだね。」と、ルーフィ。



形・音・匂い。


そういう、機能と関係ないところに

人間は愛着を感じる。


なぜかと言うと、それは

記憶の中に、快かった日々の思い出があるから。


恋愛もそうかもしれない。






「でも、このモペッドだってああいう光は出せるんだけどね」と、ルーフィ。



それはそうで、このモペッドが作られた頃には

電子発光ディバイスは無かった。


真空中に不活性ガスを充填し、そこにタングステンのコイルを巻き

白熱させる事で光を得ていた。



現在は、ダイオード発光が主流である。

それは、簡単に言うと電子が、シリコンの壁を昇る時に

勢い余って空気を振動させてしまうから。


電波も、音波も波である。光も、量子も。



小さなその光を、たくさん集めて大きな力にしているのだ。




それは、素晴らしい技術だけれども


愛でて楽しむ部類のものでもない。



「でも、このモペッドには、このライト。」と、めぐは

にこにこしながらそう言った。



「そうだね」と、ルーフィ。



ゆらゆらしない灯りにする事も簡単なのだけれど、

それは現在の電子技術あっての事。



このモペッドが作られた時代には、まだ真空管しか無かったのだから。



今では、高温超伝導までが実用になる時代であるから

隔世の感がある。



E=IRの、Rが無くなってしまうのだから。


つまり、永久に電流が流れ続ける。



詳しい理由は分かっていないから、現代の魔法であるとも言える。



いずれ、解明されるだろう。




ルーフィの持っている魔法と、現象だけ見ると似ているが。




そちらは、解析される事が無いのは

使われる人が少ないから、だ。



町が近づいて、楽しいドライブも終わり。



「ガソリン入れていかないと」と、ルーフィは言い


ガソリンスタンドに寄った。



クラッチを握って、エンジンと車輪の接続を離す。


エンジンは、ぽんぽんぽん、と

軽やかな音を立てながら回っているけれど


こうすると、自転車のように走る事もできる。



面白い仕掛けだ。



二人乗りのまま、スタンドに入る。


自分で給油するタイプのお店なので、ルーフィは飛び降りて

めぐは、ペダルを漕いでアレイに停めた。



エンジンを停めると、耳の奥がしーん、と鳴っているような気がすると

めぐが言う。



ルーフィは「楽しかったね」と、にこにこしながら。



めぐも、うん、と言って。




自転車のようなスタンドを下ろし、後輪を浮かせると

足元にある小さなガソリンタンクの蓋を開け、燃料ノズルから

ガソリンを注ぐ。



ガソリンが揮発して、臭いがする。





「ストーブみたい」と、めぐは言う。



「うん、似てるよね。これって、遠い昔の動物だったんだよ。

生まれ変わる時に、この世界に残った体が

こうしてまた、役に立っているんだ。」と、ルーフィ。




「・・・・役に。」と、めぐはなんとなく

果てしない気持になった。



死んでしまうのは悲しいことかもしれないけれど

でも、心は生まれ変わる。


残された体の方も、こうして役に立って。


もともと、植物を食べて動物は生きる。



空気中のCO2を、植物は炭酸同化作用でエネルギーにする。

豆科植物などは、N2を窒素固定でエネルギーにして。


それらを動物は食べ、からだを作る。それは、CH基であったり、NH基であったりして。



それらがまた、燃料になって。


また空気に戻っていく。



それをまた、植物がエネルギーにする。





それを、果てしないとめぐは思う。



「みんな、一緒なんですね。あたしも、世界の一部。」



「そうだね」と、ルーフィも微笑む。














魔法と工学



「さあ、図書館に戻って

絵本を返して置かないと」とルーフィ。


「楽しかったな、なんだか。」と

めぐは、これまでの旅(笑)を

振り返ったり。


ちょっとした気持ち。


その想いのせいで、絵本の2次元世界へ飛び込んでしまった。

ルーフィですら、思いつかないような

それは、不思議な魔法だった。



この、3次元時空間のところどころから

4次元の時空間に飛び込んで、そこで時間や空間を伸縮させる。


それが、ルーフィたちの時間旅行だけど

2次元や1次元、0次元にも行けるのは

理論的には証明されていても、実行している人は居なかったから

めぐは、先駆者だ。


無鉄砲なその行為を、咎めるでもなくルーフィは


自分が守ってあげなくては、と


めぐの事を、大切に

思うのだった。




こんどは、ルーフィがハンドルを握って、図書館に戻る。


スタンドを立てたまま、ペダルを漕いで

クラッチをつなぐ。



エンジンを掛けて、すぐ、クラッチを

切る。



エンジンは、ぽんぽんぽん、と

可愛らしい音を立てて回っている。




「面白い乗り方」と

めぐは喜ぶ。


拍手(笑)。




ルーフィは、ちょっと照れ(笑)。


めぐが、とても可愛らしくて

ちょっと、どきどきしたのもある(笑)。



魔法使いとは言っても、人間だ。



めぐは「機械の事、もっと教えて。」と

素朴に言うので、ルーフィは

もっと、嬉しくなった。



プログラムが作れるめぐなら

魔法も作れるだろうし

機械も、理解できるだろう。


そんなふうに、魔法使いは

昔から、世の中の役に立っていて。



しばらく、科学技術が代理をしていたけれど



また、めぐの世代で

魔法使いが、頑張れば



ルーフィのご主人様も、前途を

悲観せずに


200年の眠りから覚めるのではないかな、なんて

楽観的なルーフィでもあった。




「機械ね、いいよ」と、ルーフィ。






超伝導と魔法



そして、こんどは

めぐが後ろに乗る事になって。

自転車っぽいスタンドを上げ

なぜか、一人乗りなのに

後ろにもクッションがついている(笑)


モペッドの後ろに、めぐは乗っかった。

でも、スカートなので

横座りして(笑)。



「ま、恥ずかしいもんね」と

ルーフィは微笑んで。



エンジンの音が良く聞こえて

楽しい、とめぐは喜ぶ。



「でも、磁石と電線でどうして電気が起こるんですか?」と

めぐは、基本、でも

あまり、本にも乗っていない事を

聞く(笑)。




「まあ、電気って言うけど

金属の中を、電子が押されるって事。


その、押す力を電圧って言うの。



磁石って、鉄がくっつくのは

知ってるでしょ?」と、ルーフィ。



うんうん、と、めぐ。





ペダルを漕ぎながら、ルーフィはクラッチをつないだ。


モペッドは、ゆっくりと加速を始めた。





「磁石から、鉄に力、磁力が働くんだね。電線みたいに細いとそれが

流れとして使える、って訳。」




めぐは、ふーん、って

なんとなく「不思議です、触ってないのに力が働くって」って

エンジンみたいにガス爆発、だと

見てわかるし、音もするし。



そんな事を言った。




まあ、ガス爆発も

触ってる訳でもない(笑)。



CH+O2=CO2+H2O

酸化反応なので熱が発生するので


PV=nRTより

Tが大きくなり、nRは同じだから

PVが増えるだけ。


それで、ピストンが下がる。



「偉い人が考えたんですね。」と、めぐ。



「そうだね、とっても賢い人だね。

いつか、会いに行ってみたいね。」と

ルーフィ。




「磁石はね、触ってないけど

磁力、って力があるんだね。

風が吹くと、僕らの髪が靡くみたいに。


たまたま、金属の中を通ると

電子が動くんだね。


それを使って、いま、ヘッドライトが光ってる。ゆーらゆら」と、ルーフィは言いながら


アクセルを開いた。


スピードが上がって、ギアが変わった。



「もう、暗くなって来たから

飛んで行っちゃおうか?」と

ルーフィは悪戯っぽく。



「え?」とめぐはちょっと驚いた。


町中だもん(笑)。




「それは冗談だけど(笑)。もうそこだし」と、ルーフィ。



でも、気づかない程度の魔法は掛けられる。



 F=ma

運動の総力Fは、質量mと加速度の積なので

もし、魔法でmを小さくできれば

同じ加速度を得るのに、力は小さくて済む。



めぐが使ったように、2次元モデルになってもいいし


いつも、ルーフィたちが使っているように0次元モデルになってしまえば


質量はゼロだ。


その減少分だけ、加速度が大きくなる。



「二人乗りでも、一人乗りみたいになるんですね。」と、めぐ。






「それは魔法だけど、例えば

電気って0次元エネルギーだから

瞬間移動もできる。


今、この時代で実用になっている

高温超電導なんかもそうだね。


エネルギーが減らずに、ずっと電流が流れつづける。



電気抵抗がゼロだから。



一昔前は、魔法だと思われてた。

実際に、10年前はアメリカでも

信じられて居なかったんだ。





と、ルーフィが話す。



「魔法も、それに似ていますね。

あたしも、最初は信じられなかった。けど、絵本の中に入ったりしてみて。


そういうことあるんだな、って」






R.H.Miller



そう、超伝導も

18世紀には、魔法で作り出せた。


E=IR、即ちR=0とするのが

超伝導。


R=抵抗だから、電子が、隣り合った分子を渡る時の

衝撃だ。


つまり、それを超次元的に無、にしてしまえばいいのである。


例えば、ルーフィたちが時間旅行をする時

こちら側にあるのは、0次元モデルであるから

無。


代わりに、無限に近いエネルギーが起こる。


それは、言ってみれば


今、合金導体を冷却する高温超伝導で

R=0にして、E=IRより 

E/I=無限大になるのと同じ事だ。



それは、魔法でも可能なのだけれど・・・・。




「分子の構造って、3次元の宇宙そっくりだから。電子が僕ら、だとすると

超次元の魔法って、超伝導のお話とよく似ているね」と、ルーフィ。



「そう言われると、なんとなく魔法、って分かるような気もします」と、めぐ。



18世紀には、医学でもあったし科学でもあった魔法。



それらを、近代の科学はひとつひとつ、実現しようとしているのだ。




限られた者だけに許された技術である魔法、それを

あまねく全ての者に与える科学技術。


いい事なのか、悪いことなのか・・・?






モペッドは、風を切って図書館に真っ直ぐ進む。


ぱたぱたぱた・・・・と、エンジンの中で燃料が爆発して

都度、前に進む。



めぐは、思う。


「どうして、アクセルを開くと力が出るんでしょう?」




ルーフィは、楽しい。


素朴な、その問いは

自らが少年の頃思ったのと同じだから。




「はい。シリンダーの中に入るガスは、爆発した後

全部出て行く訳でもなくて。


外の空気が入ってこないと、出られない分もある。


その、外の空気を、アクセルにつながっている

スロットル・バルブ、まあ、シャッターみたいなものだね。

その塞ぎ具合で加減するのさ。


いっぱい開いても、まあ、100%入れ替わりはしないんだけど。


それを、理論充填効率って言って、まあ、66%くらい。ふつうは。」


と、ルーフィは、なるべく優しく話した。



めぐは、大体理解したようだ。

「34%はどうなるんですか?」




ルーフィは、明快に「それを内部循環、I-EGRって言うね。

内側で循環しながら序々に出て行くわけ。」



ふーん、と、めぐはうなづいて「それだと、ふつうのエンジンは66%しか

使われていないんですか?」と、いいところに気づく。



それだけじゃなくて、と、ルーフィは言い

「その66%のエネルギーの、更に30%くらいしか

車輪を回す力になっていないんだね。

0.66×0.3=0.19かな。つまり、2割くらい。残りの8割は使えない。」




「どこに行ってしまうんですか?」と、めぐは

そろそろ、橋を渡って図書館に近づいたモペッドの後ろで。



お巡りさんが、交番でのんびりしているのが見えるが

旧いモペッドを見ても、別に気にも止めていない。




「うん、それは熱になったり、空気の中に出て行った排気の勢いに消えたり。

ちょっと、もったいないね。ピストンを押し下げる距離が短いとね。

爆発エネルギーが残っているうちに、排気されてしまうから。」と、ルーフィ。



「もったいないですね。」と、めぐは思う。

無駄を好まない、賢明な子だ(笑)。




「そう、それなので・・・・分母を小さくすればいい訳。

最初から少ないガスを、目一杯膨張してから出せば

その30%が、60%くらいになれば倍でしょう。

理論的には効率40%になる。」




「賢い人が考えたんですね。でも、どうして普及しないんですか?」と、めぐ。




ルーフィは、ちょっとシニカルに笑って「それはマヤカシの奇術だって

みんなが信用しなかったのさ。大昔に魔法使いが迫害されたり

魔女狩りが起きたみたいに。


でも、今になって、見直されて。

使われ始めてるね。



彼は、1世紀も前の人だけど。当時は魔法使いだったんじゃないかな。


僕らも2世紀後に、そう言われてるかもしれないけど(笑)。」



と、ルーフィは楽しい空想をした。





魔法と政治



モペッドが、ゆっくりと

地面を蹴って

楽しかったトリップも、終わり。


「魔法使いが迫害されない世の中で良かった」と、めぐは言う。


「そうだね」と、ルーフィは言う。


けれども、ルーフィには少し

心配があった。


人間の欲望は限りない。

一度、神が粛正したとしても


原基なき関係性の経済、相場師たちが

いつまで政府の言う事を聞いているか、は・・疑問だった。



外国の相場師たちが、この国の平穏と安定を妬む。


そんな事が、起こり得ないとも

限りなかった。




それに、ルーフィの掛けた魔法で

この国の政府高官たちが

善良になってしまったので(笑)



それを、アメリカの悪者(笑)たちが

不審に思わない訳も、なかったから



「ま、魔法使い迫害が起こる前に逃げるかな」と、ルーフィは、ひとりごと(笑)。




もともと、めぐと天使さんの命を助ける為のルーフィの仕事だったから。


ルーフィにはそれ以降の、この国の政治に関わるつもりは無かった。


それは、この国の人々が決める事だ。






魔女狩り



ぽんぽんぽん、と、

2ストローク・エンジンの軽やかな音を立てて

モペッドは、海岸通りから

図書館の横のパーキングに、右折しようとした。


既に、閉館時刻を過ぎて

巡回バスも戻ってきている。



まだ、図書館に灯りは点っているけれど

それは・・・・図書整理かしら?と

めぐは思った。





右折して、モペッドのエンジンを切り

クラッチを切って。


グライダーが滑空するように、静かに

図書館横のバイク置き場に

モペッドを置く。



隣にあったのは、凄いレーシング・バイクだった。


メイド・イン・ジャパンの2ストローク、スクエアV4シリンダー。

500ccレーサー。


鮮やかな白と赤、青のラインは

フランスの旗のようだ。



「すごいオートバイだなぁ」と、ルーフィはモペッドを降りて

そのバイクを眺めた。


流れるようなデザインのガソリン・タンク、シート。

リア・カウリング。


飛行機のようでもあるし、エロティックな曲線にも見えるが

それは、今で言えばオーガニック、と表現されるのだろう。




見惚れてしまうようなデザイン、それはやっぱり

自然の中にある曲線美なのだろう、と

ルーフィは思ったりする。



誰の心の中にもある郷愁をそそるような曲線。

それは、生まれて初めて見た母の微笑みや

滑らかなカーブを描く乳であるのかもしれない。



そのオートバイは、それをイメージして

小池岩太郎がデザインしたものだった。




「さ、本返して来よう」と、ルーフィは

モペッドのキーを抜いて、ガードマンのおじさんの居る

通用口から、めぐと一緒に

クリスタさんの待つ、図書館に入ろうとした。




ガードマンのおじさんは、緊張の表情。



「こんばんは、モペッドありがとうございました。」と

ルーフィが言い、キーを返そうと手を出した。


硬直した表情のおじさんに「ガソリンは入れときましたからー。」と

ルーフィはにこにこ「2リットルしか入らなかったけど」と言って

顔を上げると・・・・。




ガードマンのおじさんの警備詰め所の、ドアの無い

図書館の廊下から人影、数人。


制服警官・私服警官。



鋭い視線「ルーフィさんですね」




その時、ルーフィとめぐの心の中に、男っぽい声が語りかけた。


「逃げろ。そいつらは国家公安委員会だ。捕まったら面倒だ。

魔女狩りだ。」



僕は魔女じゃないけどね、とルーフィは軽妙にジョークを

心の中の彼に感謝しながら返答すると、その声は


「オレは、表のオートバイの魂だ。『にゃご』に頼まれた。すぐ乗れ、逃げろ。」



理由は分からないが、ルーフィは心で頷いた。




にこやかに微笑みながら、警官に「いいえ、わたしはそんな者では・・・。」と

言いながら魔法で・・・・・。


その3人の警官の時間を、数分、止めた(笑)。


S=Vit+1/2at2。


彼らの戻ってくる座標へ。


F=ma。


その連立解に見合うmを得る為に、彼らの身体を0次元モデルにした。

残った3-0=3次元エネルギーで、tを逆転させるだけの速度V1を設定。



一瞬で、警官たちはびゅん、と

数秒前の世界に戻る。


もちろん、そんな事を誰が信じるだろう(笑)


彼らは身柄確保失敗、として

上司に怒鳴られるだけだろう(笑)。



クリスタさんにわたしてください、と

ガードマンのおじさんに「ゆきのひとひら」を渡して


ルーフィは、外のオートバイに飛び乗った。




時間が無いので、イグニッションを入れると


グリーンの、ニュートラルランプが点いたのを確認し


2歩ほど、車体を押して走る。



横すわりにシートに座り、ギアを入れる。クラッチをつなぐ。



低い吸気音が、猛獣の唸りのように聞こえ、エンジンは生き帰る。


猫の泣き声のような排気音、ギアのノイズはたしかに、にゃご、の仲間のようだ(笑)。


官能的な響きである。





危ない!



クラッチをつないだまま、ルーフィは

オートバイに跨って、スロットルを全開にした。


軽々と前輪を持ち上げて、2ストロークV4ユニットは

軽快な、猫撫で声を上げている。だが

エンジン回転計は、針が見えない速度で駆け上がる。

ので、音で判断してルーフィはシフトを上げた。


一瞬、宙に浮いていた前輪は下がりかけるが

クラッチがつながるとまた、前輪を持ち上げた。


そのままフローティング・ターンして

左手を上げて、戻ってきた警官たちに「ごくろうさーん」と

にこやかに挨拶(笑)。



すると、隠れていたらしい警官が発砲!




「発砲とは、恐れ入るな」と、ルーフィは車体を少し右に傾けて。

自分は左に傾いた。


ハング・オフである。



拳銃はリボルバーらしく、連続発砲の速度は遅い。


次の弾が飛んで来る前には、逃げられる。


そう思い、ルーフィは車体を真っ直ぐに立て直して

スロットルを全開にした。






めぐは、置いていかれたガードマン詰め所で

それを見ていて。



戻ってきた警官が援護射撃をしようとし

ショート・ライフルガンを取り出すのを見た。


「止めて!」




ライフルガンを発砲しようとした警官の前に立ち塞がって、両手を広げた。



「危ない!」

警官も驚いた。まさかライフルの前に人が出てくるとは思わなかったのだろう。



めぐ自身も驚いているほど、咄嗟の行動だった。



しかし、引き金を止めるほど、人間の神経は都合よく出来ていない。




BANG!


弾は放たれた。が・・・・。




警官も驚く速度で、銃口をずらされた。


駆け寄ってきた人影が、銃口を動かした。

その人は、自ら銃弾を受けて、倒れる。




人影は、クリスタさんだった。












その光景を見ためぐは「いやーっ!」と、叫んだ。



瞬間、起こった事は・・・見ている者には理解できない事だった。





被弾したはずのクリスタさんには血も流れず、出て行った筈の銃弾は


消えて無くなっていた。




「あ、あれ?」と警官も驚いて


ライフル弾の行方を目で追っていた。






クリスタさんは、なんとなく理解していた。


「めぐちゃん・・・・ありがとう。」




めぐが、集中して「ひとつのこと」を願ったので


魔法の封印が解かれ、銃弾はおそらく


異次元空間へ飛ばされたのだろう。



座標を0次元に送るなら、速度は無限大に出来るのは

これまで述べた通りだ。



(v2)2-(v1)2=2as

F=ma


その連立解である。


mはもちろん、0次元ならゼロだから

a=無限大に出来る。


物凄い速度で加速させ、光速をv2が越えれば

時間は逆転するのは、アルバート・アインシュタインの提唱する

相対性理論の通りだ。




v2=v1+atだ。





後で、発砲した銃弾の行方を追わされて


警官は上司に怒鳴られて(笑)


銃弾探しを(見つかるまで)させられる事だろうけれど。




それは自業自得(笑)

身柄確保に発砲は、この世界でも許される事ではない。



警官自身の攻撃心が、行き過ぎた行動を招いたのである。










Man and Iron



「なぜ、にゃごから?」

ルーフィは、オートバイで走りながら


オートバイの魂と話す。



魂は「うん、にゃごは

君たちを心配していて

猫の情報ネットワークに

君達の事を話した。

それで、危機を嗅ぎ付けて。

俺に頼んだって訳さ。

俺は、もともとオートバイ。

にゃご、の前々生、人間だった頃

最期を果たした時のオートバイ、

メイド・イン・ジャパンの

レーシングバイク、RGB500のライバルさ」


ルーフィは「ありがとう。それは、クリスタさんが伝えたの?」




魂は「ああ、にゃごはクリスタさんと

心でつながっているから。

感じ取れたんだろう。それで

俺に、奴のパートナーだった

RGBが協力を求めてきた。

俺は、この世界に居たからね。」

彼、燃料タンクにはYAMAHAとあるからYZR500だろうか

とルーフィは推測した。



名を尋ねたが、彼は「名乗るほどの事はしてねぇよ。俺たちは仲間さ。

困ってる時は助けるもんだ」と

男らしく笑った。



誇らしげに、トップ・ブリッヂにある

音叉のマークを、ルーフィは見る。


職人が、魂を込めたもの。



機械にだって、魂はあるさ。

どんなものだって、心で通じ合えば

答えてくれる。


そういうものさ。




もう、追いついて来ないだろう

警官の銃弾を、ちら、と

振り返り


ギアを3速に上げた。


すでに速度は100を遠く超えている。

前輪が着地した。









「お嬢さん方、あの魔法使いと

どういうご関係ですか?」



と、警官のひとり、私服の男は

柔らかく尋ねた。


さっきの、詰め所。


警官たちは、ルーフィ逮捕に失敗(笑)したので


上司への言い訳に、めぐとクリスタさんを連れ帰るつもりらしい。



司書主任さんも、銃声に

駆け付けてきた。



だが、同じく公務員同士なので

あまり、抗議もできない。


しかし「この子たちは、うちの臨時職員です。もう、長らくアルバイトをしてくれている司書で。身元も確かです。

関係もなにも・・・。」と

やんわりと、逮捕は遺憾と抗議(笑)。」




そうですか、と私服警官は言い

「魔法使いルーフィとの関係は?」

と、尋ねる。めぐは


「うちの来客です。B&Bですから」と、民宿のお客様だと言う事にした。




「あの方が、何をなさったのですか?」とクリスタさんは


意図的に、あの方、と言った。



もちろん、警官に関係を疑われない為に。




「詳しくは言えないが、魔法使いが

政治介入した疑いがあって。

魔法使いを調べている途中だ」と

制服警官のひとりは言った。














オートバイは、白い煙を吐いて

快調に走る。



「このまま、ドライブして帰りたいなぁ。」ルーフィは楽天的だ。




「おいおい、逃亡者だぜ。早いところ自分の世界に戻った方がいいんじゃないか?」と、YZR500は言った。




「どうして僕を追ってる?」と

ルーフィは尋ねた。




首相が、たまたま健康診断を受けて

核磁気共鳴診断を受けた。


その時、ルーフィの仕掛けた魔法の磁気・神経回路操作装置が見つかって。



こんなものを仕掛けたのは、魔法使いに違いない、って



国内中の魔法使いが調べられて。

たまたま、お前のところに来た。




そう、YZRは答えた。




「なんだ、別件逮捕か。嫌疑不十分で釈放だな。」と、ルーフィはわらった。



仕掛けた装置が、誰のものか?


そんなのは、魔法使いじゃないと

わかりっこない。



それなら、捕まっておけば良かった。




そう楽観的にルーフィは思ってると



「そうでもないぜ。後ろ見ろ」と、YZRは促す。




GTーRのパトロールカーだった。





「面倒になるな。捕まると。だいたい、不法入国って言われるだろう。」




YZR500は、飛ばせ、と言った。。


「あんなのは振り切れるさ、俺は、レーシングバイクなんだ」







飛ばせ!



飛ばせって言われると、血が騒ぐ。


ルーフィだって、男だ。

「よし、行くぞ!」って

シフトペダルを踏んだ。



モペッドとは違う、マニュアルミッションだから

シフト・セレクターはドラムが押す。


そのドラムを、ペダルが回すのだ。


そうして、エンジンの回転を高くし

スロットルを開くと

前輪は、またも持ち上がる。



「いいぜ、ルーフィ。どんどん行け!」



YZR500は、悪魔(笑)の囁き。


そーれ!


F=maの、Fを大きく取る。


もちろん、加速度を大きく取るのだ。




mが軽いので、Fは少なくて済む。


だいたい、GTーRの10分の1くらい。


それで、パワーはGTーRの半分くらいだから



理論的には、GTーRがこのYZR500に追いつくはずはない(笑)。





全開加速する必要はないんだけど(笑)



そこは、やっぱり血の問題(笑)。




山の方へ向かう、ワインディングロードを昇る頃には

GTーRのヘッドライトは、見えなくなった。



「ざまーみやがれ」と、YZR500は

嬉しそうだ。


「どうしてそんなに嬉しいの?」と

ルーフィは、カーブを楽しみながら尋ねる。



左・ターン。


カーブする前に、左に腰を落として、ブレーキ。

アクセルを戻し、ひょい、と傾ける。


重心がずれ、そこからの遠心力がタイヤに横方向の力を掛ける。


タイヤは、右にずれながらカーブに向かう。

そこで、タイヤを駆動すると

直線的にカーブを駆け抜ける。


斜めに、前輪を持ち上げながら。





「そりゃ、RGBの仇だからさ、GTーRは。


あいつが追わなければ、RGBは

まだこの世に居たんだ。」




と、YZR500は、友の事を悼んだ。



ルーフィは、思う。



それで、悪魔くんにそのライダーくんが

ならなければ。


クリスタさんにも会うことなく。

にゃご、も

生まれなかった。




ルーフィが、YZR500に助けられる

事もなかった訳だ。



そう思うと、やや複雑。


カーブを深く、オートバイを傾けるながらルーフィは思った(笑)。



人生は複雑だ。



「その、GTーRをやっつけたいって思う?」と



ルーフィは青年らしく、そう言った。



YZRも、悪戯っぽく



「ああ、そりゃ。なんたって。

その警官が、むやみやたらに追わなければ

あいつが死ぬ事はなかったのさ」






コンピュータの意志



「GTーRに魂は、入ってないの?」とルーフィは、YZRに尋ねてみると、彼は


「ああ、あいつに限らないが、コンピュータ、って意志がいくつもあるのさ。そいつらが、幾つも住んでやがる。

ヤマタノオロチみたいな、化け物さ、あれは。

クルマの格好してても、あれは化け物さ。言葉も通じない。だから、ドライバーと心が通わないんで、飛ばすしか能がないのさ」と、YZRは言った。



あんなクルマがあるから、警官だって調子に乗って飛ばすのさ、とも。







それは真理である。機械を武器のように思ってひとが争うとき、ひとは

調子に乗ってしまう。



警官がRGBを追いかけた時は、まだ神がひとの攻撃性を抑止する前だった。


だから、RGBは死んでしまった。




そして、今も

ライフルを持った警官は、正義の為、と思い

ルーフィを止めようと発砲を試みた。



警官から見ると、ルーフィは侵略者にしか見えないだろうから


悪の手先から、町を守る正義の銃弾、そんなふうに、思ったのだろう。。



正義は難しい。だから、発砲はいけないのだ。














図書館の、さっきのガードマン詰め所。



警官は、発砲した事を後悔したのか




「ここで見た事は、口外なさらぬように」とだけ伝えて、戻って行った。





「いやいや、たいへんだったね、クリスタさん、ご苦労様。」と、主任さんは汗を拭きながら。



鉄砲に当たったかと思った、とも(笑)。





めぐは、本当に驚いていた。

天使をお辞めになったのに、まだ

護って下さっている。




その事を当然のように、身を呈して

めぐを守った。



クリスタさんって、すごい。




ありがとう、って言葉くらいしか

思いつかないけど、って


めぐは、クリスタさんに感謝した。








激突!



「それで、GTーRをやっつけたいの?」と、ルーフィはYZRに尋ねた。



「ああ、RGBの仇打ちさ」とだけ、YZRは述べた。



因果なものだな、とルーフィは思った。



ひと、それが動物から進化して

知性を持った。



その結果、貯蓄を考え、経済が生まれた。



それが、欲望を増やし


そのために、ひとは争うようになった。



神は、それに気づき

創造主として、粛正を行ったけれど

それ以前の事が、まだ、影響を持っているとは・・・・。




ルーフィの仕掛けた神経回路制御機(笑)が


今更発見されたとしても、その作用が

ここの国のひとにわかるはずもない。



そこにあるのは、小さな磁界だけなのだから。




その装置が外されても、もう、人々の心が欲望に傾くことのないように

神は、神経回路の設計図、つまり

遺伝情報を書き換えてしまったので


政治家たちが、もう欲望に狂う事もない。



その時点で、あの装置を外しておけば良かった。



そうルーフィは思ったが、もう遅かった(笑)。




時間旅行者でも、そんな事もある。。





「よーし。わかった。GTーRが

追いついて来たら。

やっつけてやろう。」と

ルーフィは、楽しそうに言った。



もちろん、追い掛けて来たら

魔法掛けてやろう、と思ったりしたし(笑)。



本当に魂が無いのか、それとも

オートバイと自動車では

言葉が通じないのか。



そんなところにも興味があったのもある。





しかし。




しばらく待ったが、GTーRのパトカーは


ルーフィたちを追って来なかった。




「どうしたんだろう?」



「さあな。じゃ、戻ってみるか。」




ルーフィとYZRは、今度はゆっくりと


ドライブするように。

図書館の方向へと走った。





途中、交番の前を通って、ふと思う。



そういえば、公安委員会が動いている割に


さっき、モペッドで交番の前を通っても

何もなかった。




お巡りさんも、暇そうだった。




ちょっと不思議だな?(笑)








帰る道すがら、ルーフィはYZRに話した。


「にゃご、って。その時のRGBのライダーだったんだけど、そのせいで地獄に堕ちて、魔物になった。

そのあと、クリスタさんに出逢って。

猫に生まれ変わってまで、クリスタさんと幸せになる事を望んでるんだって。」と、YZRに。



彼は、ふーん、と言って

「俺たち機械には、恋、なんて気持ちはないな。でも、その話は分かる。

そういう奴だから、RGBも俺に助けを求めたんだろう。俺も、奴だから

答えた。なあ、ルーフィ?」



「なに?」



「RGBは、にゃごみたいに生まれ変われるのか?」





ルーフィは、少し考え「たぶん、戻って来れるだろう。いつかきっと」



YZRは、無言だった。そして


「同士、ルーフィ。お前と俺たちは仲間だ。同じ時代を戦う仲間さ。

いつでも呼んでくれ、俺の事をさ。」



YZRは、そう言った。


機械にも、魂はある。



その事に、ルーフィは頼もしさを覚える。



それで、同士に聞いてみる。



「この国はジャパンじゃないのに、どうして君達、メイド・イン・ジャパンの機械が多いの?」



YZRは、さあな、と言って


「ラテンの機械はいい加減だし、ドイツのは壊れるし。イギリスのは

手間が掛かるし。


そこの職人が乗り移ってんだよ。」



そういうとそうだな、とルーフィが笑うと



YZRは「お前もイギリスだろう」と言って笑った。




違いない、そう言って

ルーフィも笑った。


イギリスのクルマは、油は漏るし

壊れるし。


ろくでなしだけれども、愛すべき機械たちだ。



イギリスの人々に似ているかもしれない(笑)。




繁栄と安定



この、公安委員会の動きを

首相が知り、その捜査について

「必要ないでしょう」と

彼は、穏やかに述べていたのだとか。



そのために、この捜査自体が

打ち切りになった。(笑)。



魔法が無くなっても、いま、この国の人々は


見せ掛けの繁栄に惑う事なく

安定と、平穏を選んだのだった。


ひと時、ギャンブルに走り

相場師が闊歩していた金融市場。

それによる、一時の繁栄も

相場の動向に左右される不安定な暮らしが


結局、不幸を呼ぶと言う事に

人々は気づいたのだった。



そのせいで、不幸な子供達は減ったから


オートバイで、にゃごの前々生みたいに暴走するような子供も

居なくなった。




いい事だーーー。



それはトモカク「もう、大丈夫みたい」



と、ルーフィは、安堵して

図書館に戻ると



まだ、クリスタさんもめぐも

主任さんも、図書館に居た。



ルーフィの帰りを待っていたのだった。




「ご無事でしたか」と、主任さん。


「よかったー。」と、めぐ。



「大丈夫だったんですね。」とは


クリスタさん。



「うん、めぐちゃん達も大丈夫?お巡りさんが連れて行ったかと、僕は思ったよ」と、ルーフィ。



「オートバイ、乗りたかったな」と、めぐ。



一人乗りだもの、と、ルーフィが言う。




「そう!逃げろ、って。

あたしにも声聞こえたけど。

だから、一緒に行こうと思ったのにー。。」


めぐは、楽しそう。




「うん、あれはね、オートバイの魂さ。

表にある。YZRくんだね。


にゃご、のお友達のオートバイに頼まれたんだって。


めぐも魔法使いで、警察が追っているって思ったんじゃないかな。」





そっか、と、めぐは笑って



「魔法使いって、追われる事も

あるんですね。」と


面白い感想を述べた。





「ふつう、そんな事ないんだけど」と

ルーフィは笑って。



「今回は特別さ」と


めぐと、クリスタさんの命を救う為に

仕事をした事は、伏せた。



それで、ふたりが気にしないように。




そんなふうに、ルーフィは

優しい気持ちで。




「でも」めぐは

にこにこと。



「オートバイで行くより、魔法で

飛んで行った方が早いんじゃないかしら」と。



「そうだね。」と、今にして

ルーフィは行動を振り返った。



でもまあ、折角迎えに来てくれたのに(笑)。


魔法で逃げますとも言えない(笑)。




オートバイだって、走りたかったのだろう。




オートバイは、走る為の機械。


たぶん、お馬さんが

走らないと病気になってしまうように

オートバイも、走らないとダメなのだろう。




そして、人が乗って走る機械だから

心の通う人に、乗ってほしい。



そんな感じなのだろう。



「どこから来たのだろう?」と


ふとルーフィが気づくと


すでに、彼の姿は、見えなかった。







天使さんの感覚



「でも、びっくりしちゃいました。

突然、クリスタさんが。

めぐは、驚いて。


クリスタさんにお礼、と言うか

半分驚いて(笑)。



「わたしは、めぐちゃんが

銃口の前に飛び出したので。

とっさに。動いちゃったの。」



天使のままで居れば、銃弾など

恐るるに足らない。



死ぬ事もない。



でも、今は・・・・。にゃごと、めぐの為を思って。


天使でもなく、人間でもない存在になっているから



力は何もなく、さりとて人間のように

恋、のような


喜びがある訳でもなかった。


そこまでして、なぜ、この世界に

いるのかと言えば


それは、にゃごが天使さんを

必要としてるから。



めぐを守る事は、おばあちゃんとの約束だから。




めぐを、いつか護ってくれる人が

現れるまで。




「でも、めぐちゃんの力で

わたしは、生きてます、こうして。」


クリスタさんがそういうと



ルーフィが、その訳を尋ねる。



めぐは「よくわからないの。

危ない!って思ったら

銃弾が消えたの。」と言うと


ルーフィは、「集中力だね。

何か、いつもそれが出来れば


普通に魔法使えるだろうけど。」と。




「そうなの!わぁ、そうなんだー。

そうできたら、どんなにいいだろ。」と

めぐは、にこにこした。


一晩中、絵本に閉じ込められてた

とは思えないほど、元気(笑)。





ルーフィも、にこにこ。



「その為にね、僕らは魔法陣書いたりするけれど。集中力があれば

そんなのは無くても出来るんだね。


僕らのような魔法使いよりも、めぐちゃんの方が才能があるんだね、きっと。」







魔法使いの感覚



「さあ、じゃあ帰ろうか」と、ルーフィは当然のように言ったけれど

昨日、旅立ったままだったので


帰るところは無かった(笑)。



「とりあえず、今夜は家に・・・あ、でも。」と、めぐは言って

昨日の夜は、戻っていない事に気づく。




クリスタさんは「だいじょうぶ。お家のことは。おばあちゃんが

お話しておいてくれたから。」と、にっこり。ふんわり。



「おばあちゃんがお話して、分かってくれるんですか?」と、ルーフィは

不思議に思う。



18歳の娘が居なくなって、それを心配しない家....。?




クリスタさんは「たぶん・・・・ですけれど。

おばあちゃんも魔法が使えるんじゃないかしら。

だから、お母さんも。少女の頃、どこかへ飛んでいってしまった思い出がある・・・

の、かしら。」





そうか。



ルーフィはなんとなく合点した。


それで、異世界から来たと言うルーフィと、Meg。

娘と同じ名前で、見た目、よく似てる(笑)みっつ年上の子を

不思議がらずにホームステイさせた、とか。




そういえば、魔物に襲われためぐを、おばあちゃんが祈祷して

天使さんに来てもらった、なんて事も、ちょっと不思議だ。





おばあちゃんも、時間旅行者?




どこかから来て、仮に、そこにいる。。。。例えばルーフィがそうであるように。





と、ルーフィは想像した。



でも今は、想像だけだ(笑)




「とりあえず、それじゃお家行こう。」と、ルーフィが言い


図書館の時計を見ると、不思議な事に7時だった。



「すごい長い時間だったような気がしたけどなぁ。」と、ルーフィ。







それは、感覚時間である。

ひとが考え、行動している時の時間は、感覚なので

つぎつぎ先を推測する。


その時の推測した情景は、物理的な、地球の自転に沿った速度ではないから

感覚時間は3次元ではない。


4次元なのだ。




現在ーーーーー10分後ーーーーーー20分後

規則正しく、3次元の時間、物理時間は進む。


しかし、想像する時は、一瞬だ。

現在・10分後・20分後



なので、その座標の違いで、長く感じたり短く感じたりする。


長く感じるのは、様々な事を一度に推測するからで

それを経験してはいないのだけれども、シミュレーションするので

経験するように疲れてしまうのだ。



現在・10分後・20分後(Aケース)

現在・10分後・20分後(Bケース)

現在・10分後・20分後(Cケース)



のように(笑)。



これが堂々巡りになってしまうと、神経が参ってしまう。




そういう病気もあるくらいだ。



解決法は、認知、と言って

現実、目の前の事だけを認識する事であったりもする。



想像と言うのは、いっぺんに連想する事なので

物を沢山覚えている人ほど、想像は深い、複雑だ。



ルーフィたちのように、次元を超えて旅をする人々なら、尚更である。



普通の人なら、3次元的な時系列を想像すればいいが

魔法使いは、それを越えた次元をも想像できるのだから。










魔法使いの記憶



つまり、普通の人々の記憶が4次元的、だけれど

その記憶事象を、ふつう

3次元的な時系列モデルを持っている。


時々曖昧になるけど、幼い頃の記憶と、近年の記憶は区別される。



でも、ルーフィたちは時系列や、次元を超えた体験が出来るから




その記憶を、時系列では並べらない。


濃密だ、とも言えるし

分散的でもある。



旅行者は、そもそも

そういう者だけれど・・・・。





「じゃ、今日はこれで」と、主任さんが言う。



無事でなによりでした、と

また言いながら。



やさしい、おばさんみたいな主任さんは

とてもいいひとなんだ、



そんなふうに、めぐは思った。



みんなが、優しい。


めぐの事を、大切にしてくれている。



ルーフィも、それで

戻って来てくれた。




その事だけでも、めぐは

とっても嬉しく思った。




「どうも、お世話様でした」と

ルーフィは、イギリス流の挨拶をした。



そういうあたりに、彼の住んでいた時代を彷彿とさせる。



「じゃ、帰りましょ?」と


めぐは言い、表通りの

路面電車のレールが光ってる通りへと歩いた。



路面電車は、道路の真ん中にある。


レールのあたりは、古い石積みの

ままなので

とても、趣深い通りに見える。




3輪の自動車が、ぱたぱた、と

のどかなエンジン音を立てて


街道を走り去った。




「あれ、かわいい」と、めぐは

その、ベージュの3輪自動車の行方を視線で追った。


オリーブグリーンの幌が掛かってる

あたりを見ると、働く自動車なのかもしれない。




「かわいいですね。」と、クリスタさんもにこにこ。




「ああ、そういえば。

いつか、自動車でお店やってみたい、なんて言ってたっけね。」と


ルーフィは、ずっと前の事を

思い出した。




それは、めぐの前の人生(笑)の

事だったけど



それは、覚えているんだろう、覚えていなくてもいいけど。



そんなふうに、ルーフィの記憶では

いくつもの世界が重なっていたりする。




「はい!サンジェルマンの、サンドイッテみたいに。銀色のシトロエンで。お店してみたいな。なんて。」



と、めぐは楽しそうに言った。





「してみたい事が一杯だね。」と

ルーフィは、にこにこ。



これから、一杯。

いろんな事をしてみようね。



そう、心で囁きながら。



路面電車が来るのを待った。



電車の停留所は、人影も少なくて


風が、少し涼しいくらいだった。



空はよく晴れて、秋のように

星がよく、見えていた。




「あの、お星様はとっても遠いのですね。」と

クリスタさんは、遠い瞳でそう言った。







星・・・・・か。



ルーフィは、クリスタさんが

天使さんだった頃を知っているから


星に、手が届くような


天使さんの世界を、なんとなくイメージできる。




「帰りたくなったんですか?」と

ルーフィは、クリスタさんに尋ねてみたかった。



でも、それを聞いても。


もう、戻る事はできないのだし。



聞かない方がいいかな(笑)なんて

それを聞くのは止めた。



「でも、天使さんになる前は

どんな人だったのだろう?」とか


思ったりもした。






天使さんの幸せ



「ま、いつか会えるかもね」と

ルーフィは、軽快に。



「なんのこと?」と、めぐが不思議そうに。


「うん、こっちの話し。」と、ルーフィはにこにこ。



気になるなぁ、と言うめぐの行方から

路面電車が走って来た。


古いタイプの、オレンジ色と緑色の


鋼鉄の、重々しいサウンドが

レールの継ぎ目を叩いて。



「重厚ですね」と、クリスタさん。


「うん、モーターが軸に乗ってるから」

と、ルーフィ。





「どういう事?」と、めぐは

興味を持って尋ねる。




「うん、電車だからモーターで動くでしょう?歯車で、車軸に力を伝えるの。


さっきのモペッドみたいに。



なので、歯車同士は動けないから、

車軸にモーターを乗っけちゃったの。」と、ルーフィ。



電車が到着し、自動ドアが開く。

空気の抜ける音が、ため息みたいに思えてめぐは「お疲れさま」と

ひとりごとみたいに言うと



電車は、空気圧縮機を動かし、ぽこぽこぽこ・・・・・。


それが、電車のお返事みたいに

思えて、めぐは楽しくなった。



電車にも、魂はあるのかしら・・・・。


古い機械には、宿っているらしい魂。



丁寧に、お手入れされて

長生きしている電車は、なんとなく

おじいちゃんみたい。



そんなふうに、

めぐは思って。ふと、天国に行ってしまったおじいちゃんの事を思い出して。



なんだか寂しくもなった。



その気持ちを振り切るように


「車軸にモーターが乗ってると、どうして重い音がするの?」と

現実的な事に、気持ちを集中した。



思い出に耽ってたら、泣いちゃうかもしれなかったから。



そういう事はあんまりない、めぐだったけど


このところ、少しおセンチになってる。



そんなふうに、めぐ自身思ってた。





それは、たぶん・・・・恋の行方が

気になるせい、かもしれなかった。



ルーフィは、ふつうの感じで


「うん、モーターは重たいから。

それが、歯車を動かす響きが

直接レールに、響いちゃうんだね。


」と、ふつうに話しながらも

ちょっぴりだけ、寂しそうな顔になった

めぐの事を、ちょっと気にした。





ま、いつかはお別れするんだろうけれど・・・。と、ルーフィは思うけど



気持ちって、そんなに簡単に

切り替わらないもんなぁ。





せめて、夏休みの間だけでも

一緒にいてあげたいな。



そう、ルーフィは思ったり。



電車は、ドアを閉じて。



夕暮れのお客さんを、いっぱい載せて。



モーターの響きを上げて、めぐの

お家の方へと走り出した。







やさしい気持



路面電車は、ちょっと混んでいて。

ながーい緑のモケット・ソファはいっぱい。


ルーフィと、めぐ、そしてクリスタさんは

電車の、すこし中ほどくらいまで進んで

そこで、立って過ごした。



ちょっと、なつかしいような木の窓枠とか、真鍮の窓ハンドル。


床は木、地のままで

油が塗りこまれていて、独特の匂いがある。


吊革がついている金属管も、真鍮の鈍い、金色の輝き。



運転手さんが、紐を引くと

天井についている真鍮のベルが、かんかん、と鳴った。



運転手さんは、白い手袋で指を差して。


ブレーキハンドルを回して、そしてマスター・コントローラ、

長い筒の上についている、銀のハンドルをゆっくりと動かす。



床下で、モータが唸り始めると

歯車の音がして


電車は、力強く動き始めた。



レールの継ぎ目を越えると、がたん、がたん、と重々しい音を立てて。



それら全てが、温かみのあるイメージに

めぐには思えた。




なつかしい、大きな・・・・山みたい。




電車に話しかけたら、答えてくれるかしら?なんて


ルーフィが、オートバイの魂、ソウル、ニルヴァーナに

話しかけたみたいに(笑)。



そんなことがあったら、楽しいけど。





クリスタさんは、例によって質量がない(笑)ので

ゆーらゆら、と軽く立っているけど


なんだか、お花が揺れているみたい。



軽くていいなぁ(笑)と、めぐは思ったりもする。







電車の、歯車の音が高くなっていくと

スピードも上がる。



そこで、運転手さんは

マスター・コントローラーを最初の位置に戻すと


計器板のメーターが、ひとつ、ふっ、と左に戻った。



「電流を切ったんだね」と、ルーフィはつぶやく。



「ギアは変わらないんですか?」と、めぐは

となりにいるルーフィの温もりが感じられる事に、夏なのに

嬉しい、と思った。



いつも一緒にいても、ちかくでぴったりくっついてる(笑)なんて

ないもの。



・・・・・やっぱり、おおきくて。おじいちゃんみたいにやさしくて。





ルーフィは、若い男の子や、あの、クリスタさんをデートに誘った青年とは

違ってて。


安心して、そばにずっといたいような、そんな雰囲気があった。





お兄ちゃんがいない、めぐにとって


まだ知らない、お兄ちゃんの感じ、かな?








そんなめぐの気持を、知ってか知らずか(笑)



ルーフィは「ギアは1対かなー。モーターって、力があるから。」と

武骨に。





ルーフィ自身も、かわいいめぐが寄り添ってくれると

愛おしい、と思ったり。


でも、どう扱っていいかルーフィも分からない(笑)。



自分の恋人の3年前とそっくりだけど、似て非なるめぐ(笑)。


妹、って割り切れればいいんだけど。




そんな感じ方だった。





お互いに、そんな感情には触れないように、機械の話に

集中していた(笑)。





「モーターって、力強いんですね。エンジンより?」と、めぐが言うと



「うん、回り始めに力があるんだね。それで、回転が多くなると

力は減ってくる。まあ、引っ張る力だから、磁石同士の。

どうしてもそうなるね。」と、ルーフィ。




「エンジンはそうじゃないんですか?」と、めぐ。




「うん、エンジンはほら、ガス爆発だから。たくさん回ると

同じ時間のうちにたくさん爆発するでしょ?」と、ルーフィは

優しい言葉を選んで。



電車は、次の停留所までモーターの音が聞こえずに。

ゆっくり、すこしづつ速度が落ちてゆく。


F=μmgと言う、摩擦・重力・質量の関係式に従って。

レールと車輪は鉄同士、ころ、なので、摩擦は僅かなものだ。


それなので、電車は静かに走り続けられる。次の停留所まで。



そんな風に、しあわせはずっと続くといいのだけど。


マイナスの等加速度運動、ゆったりとしたそれは

ほとんど、等速運動みたいに感じられるほど。


でも、つぎの停留所で停める為に、運転手さんは

マスター・コントローラを回し、そして戻すと

歯車がまた唸り、速度が落ちた。


計器盤の針がひとつ、右に触れた。




「どうなったんですか?」

めぐは、電車の揺れに任せて

ルーフィにくっついたり(笑)しながら。




ルーフィは、そんなめぐを支えてあげながら

「モーターを発電機にして、ブレーキのかわりをさせてるんだね。」と

努めて簡単に答えた。




心の物理



「モーターがブレーキになるんですか?」と

めぐは、ちょっと不思議そう


その、半疑問の表情は

なんとなく、子犬のように愛らしいと

ルーフィは思ったりするけど


でも、そんな事言うと怒るかな(笑)なんて。



微妙なお年頃。



「うん、ほら、磁石をふたつ、向かい合わせにすると押し合うでしょう?

小学校の理科の時間に実験したみたいに。



と、ルーフィ。



「うん。それで・・電気が起こるんですか?」と、めぐはまだ、半疑問。




「そう、それでね。この電車のモーターは電磁石だから。回らない方の磁石も電気で磁力が変えられる。



磁石同士が反発するように、電気磁石同士が向き合うなら、電線には電気が起きているって訳。




モペッドのヘッドライトの電気と、原理は一緒。



その電気をね、どこかで使うと・・・

抵抗になって、電気が流れにくくなるから


モーターの軸が周り難くなる。それを

ブレーキにしているのね。」と、

ルーフィは簡単に言った。」




「面白いですね。触ってないのに

力が伝わる、ブレーキになるって。」とめぐは感想を述べた。




「見えないからね。でも、力は伝わる。地球の重力もそうだし、この宇宙の空間が成立してるのも、そんな重力場のせいだし」と、ルーフィは

楽しく、物理の話をした。



元々、魔法は物理学的な側面があるのだ。


「モーターには、小さな宇宙があるんですね。」と、めぐは空想的に。



「うん、僕らの体を作っているのは、タンパク質だけど、炭素と水素だね。



その炭素にしても、原子核、それと電子が、太陽と惑星みたいな

宇宙そっくりの形で動いている。


その、電子が流れるので、電気が起こるんだね。



その、タンパク質を使って、体のあちこちが出来ていて。


神経ができて、脳が出来て。


覚えたり、考えたり。



それはもう、ひとつの宇宙だね。

重合宇宙。宇宙の中に宇宙がある。


僕らが時間旅行する、この超次元時空間によく似ているね。」



と、ルーフィも、少し空想的に

話をつないだ。




「それだと、電車さんにも心があるかもしれませんね。」と、めぐは

さっきから気になっていた、電車の心の事を尋ねて見た。





電車の運転手さんは、マスター・コントローラーを元に戻す。


計器のひとつ、針が、すっ、と左に戻った。


ブレーキハンドルを、静かに回すと

もうひとつの計器で、ふたつある針のひとつが、すっ、と左に振れた。



車輪から、軋み音がして。


「空気ブレーキだね。」と、ルーフィが言う。

ブレーキのマイナス加速度に従って、体が慣性に沿って揺れる。


その力も、触ってはいないけれど

確かに、力だとめぐは思う。




v2=v1+atである。

加速度はマイナスなので、速度が減っていく時の減速度、なのだけど。



その力に沿っていると、ルーフィ、となりに立っている愛しい存在に、めぐは、ぴったりしてしまう(笑)。


触れないのに、力が掛かってる。

触れたいって思う(笑)。



それも、変な物理学かな?って

めぐは、ちょっと恥ずかしいような

嬉しいような。



不思議な気持ちになった。






電車さん



「オートバイさんとお話ができたのに、モペッドさんと、お話できなくて。

ちょっと残念ですね。」と、めぐ。



ルーフィは「偶然だったけどね。

オートバイさんは、必要があったから

話掛けてくれた。

そんな事が無かったら、黙っていただろうね。にゃごみたいに。」



めぐは、すこし考えるみたいに

吊り革が、ゆらゆらゆれるのを

眺めながら「にゃごも、お話できるんですね、にゃんこの間では。」と


楽しそうに、微笑んだ。




もちろん、ひとの言葉は通じないけれど


心の言葉で、通じるかもしれないね。




そんなふうに、ルーフィも思ったりした。



電車は、停留所での

お客さんの乗り降りが済んで。



ドアを閉じる。


空気が抜ける音がすると


運転手さんの前にある、計器のひとつ、針が少し動いた。





「本当に生きてるみたい」と、めぐは

計器の動きを眺めながら。



運転手さんがブレーキハンドルを緩めると、針が二本ある計器の

針のうち一本が、す、と上がる。



「どうなってるのかしら?」とめぐは

考えたり(笑)。



「ああ、あれはね。

元々、空気の圧力でブレーキを緩めるようになっていて。



いつも、一杯の力とバネの仕掛けでね、ブレーキが掛かった状態で止まってるの。



それを、走る時だけね。

空気をね、反対側に掛けて

ブレーキを緩めてるんだね。





と、ルーフィはさらりと言う。



でも、めぐにはちょっと複雑。




「んー、わかんない。」((笑))




ルーフィは楽しそうに「運動会の綱引き、みたいな感じかなー。

両方から力が掛かって、真ん中は

動かない。



それが、ブレーキが効いてる状態。


緩める方向に動かすには、かたっぽの力を抜くか、もう片方に力を足すか。」




「ふつう、力を足す方向で考えますね。」と、めぐは言う。




「そう、でも電車は重たいし、空気圧力を瞬間に上げるのは大変だけど、下げるのは楽。



もともと、エネルギーが高まってる状態から、下げるには楽だね。


自転車のタイアがパンクする時みたいに。


でも、空気入れるのは大変でしょう?」




なるほど、と

めぐは、なんとなく分かったような気がした。




「空気が抜けると、ブレーキが押されるんじゃなくて、走る時に

引いておくんですね。」と。



ルーフィは「そうそう。重いもの、電車は。


急に止まるには、それだけの準備がね。いるのさ。」と。



電車は、また

歯車の音を響かせて、モーターが唸りを上げた。


重いよ、って

電車さんが言っているみたいな

そんな気になった(笑)めぐだった。



「重くてごめんなさい」と


めぐは、ちょっと恥ずかしそうに(笑)。



クリスタさんは軽そうなので

いいなぁ、とおもったり。(笑)




「お嬢ちゃんは重くないよ」と

めぐに、誰かが語りかけたような気がして


めぐは振り向く。


低い、だけれども優しげな声だ。



ルーフィは、めぐが振り向いたので

すこし、驚いたけど


なんとなく、雰囲気で分かった。


めぐが、心で電車さんの心と

お話してみたい。


そう思ったから、電車さんが

答えてくれたのだろう。





「あなたは・・・・電車さんなの?」と

めぐは、心でつぶやいた。




その声は、静かに頷いて。



「そう。わしはお嬢ちゃんの乗っている電車さ。ずっと、この町を走ってるんだよ。もう・・・仲間も減ってきたけれど。」と、電車さんは

孫とお話するおじいちゃんのように

静かに、優しく語った。






時の流れ



めぐは、なんとなく安堵を覚えた。

やすらぎ、と言うのだろうか。


こころの言葉だけで、そう感じるのは

思うと不思議だけれど


そう、感じた。




電車のモーターは、唸りを上げて。


運転手さんは、電流を切る。



かたんかたん、と

レールの継ぎ目を軽快に乗り越えながら、音がする。




「いろんなことがあったんでしょう?」と、めぐは

ラジオのインタビュアーみたいな聞き方をした。


電車は「ああ。わしらがこのレールを走り始めた頃は

まだ、戦争が始まる前、だったな。

男は、国を守った。人を守った。

それで、電車を動かす男はみんな、戦地に向かっていたから

女の子、そうだな。お嬢ちゃんくらいの子が運転してたりしたな。」


と、懐かしい事を思い出して、語っている電車。



また、停留所が近付いた。こんどは、降りる所だ。



「あたしくらいの・・・?」と、めぐは驚く。

自動車も運転した事ないの。と、ひとり言みたいに言うと、電車は


笑いながら「高校生くらいの子は、運転してたな。戦時中だった。

みんな立派だった。もう、みんなおばあちゃんだろう。

電車が好きなら、運転してみないか?」と

電車は、中吊り広告にある『乗務員募集』のカードを示した。」



「あたしが・・・・運転?」めぐは、夢想した。

紺色の制服で、白い手袋。

颯爽と電車を駆っていく自分。


・・・なんか、想像できないけど(笑)。





めぐの家の坂下の、停留所が近付いて。


電車は、モーターをブレーキにして減速した。



「ごめんなさい、もう、降りるの。」と、めぐは言うと


電車は、微笑むように「またおいで。」と言った。




「ありがとう、電車さん。また乗る。長生きしてね!。」と

めぐはにこにこして。



それは、声に出ちゃったので(笑)


ルーフィも、にこにこ。



ついでに、運転手さんも、にこにこ。


電車が好きな子の、ファンタジーだと思ったのだろうか。



でも、時々は本当に、心が通じる事だってある。






ステップを降りると、もう町並みは夜の様相で


ガス灯みたいなデザインの、鋳物っぽい灯りが点る。


実は、新しい技術で中空鋳造された軽金属の、レプリカで

電子発光の灯りなのだけれど、見たところは昔のガス灯みたい。



そんなふうに、時代は巡っていくのだけれども・・・・。



この灯りが、本物のガス灯だった頃から、あの電車さんは

走ってたのかしら・・・・。


そう、心でつぶやくと


それは電車に伝わり「そんなに年寄りじゃないよ(笑)。それは100年くらい前さ。」

と、豪快に笑って彼は、ドアを閉じた。



運転手さんがブレーキを緩め、ゆっくり、重々しく歯車が回りだして

モータは唸る。




赤いテールライトを見守って。



なんとなく、いい夜。



「時の流れって、すてきですね、時を重ねてゆけるって。」と

めぐは思った。



ずっと、すてきに時を重ねて生きたい。


けれども、ルーフィさんは・・・・・。同じ時を重ねて生きてはいけないのね。


その事をふと、思い出してしまって。

急にさびしくなっちゃう

めぐ、だった。





コンピューターの心



古い電車さんが、去っていった港の方面から


新しい電車さんが、真っ白な光を

放つ

ヘッドライトを輝かせて

停留所に入ってきた。


軽そうな車体、スマートな流線型のデザイン。

ブレーキの音もなく、静かに減速。

微かに、PWMインバーターの高周波が

音楽のように聞こえる。



ドアは、空気の音もなく

すっ、とリニアモーターで開く。


低い床は、レールすれすれくらい。



「すごい。」と、めぐはその

未来的な乗り物の雰囲気を称賛した。



でも・・・新しい電車のせいか、魂が

感じられない。



電車や、古いオートバイに感じたような、ソウル。ニルバーナ。


そういう有機的な感じがしない。




「機械、て感じ。」と、当たり前の感想をひとりごとみたいに言うと



「そうだねー。コンピューターって、ひとつの意思だから。


それがあると、全体の意思って

あんまりないのかな。

古くなるとわからなけど。。」


と、ルーフィは言った。



コンピューターが入っている機械は

コンピューターが、いろいろ判断をする。



この電車で言えば、自動的に

モーターの電力を加減する仕組み、インバーターが付いているので


古い電車のように、機械仕掛けで

職人さんが苦労して、作ったり

整備する仕組みはない。

変わりに、インバーターが

自動的に判断して、電流を

短い周期で断続、その時に

あの、高周波音がするのだ。




「コンピューターの中に魂はあるんだろうけどね。」と、ルーフィ。



プログラムのことばがわからないと

コンピューターの気持ちはわからない。


それに掛ける魔法も作れないだろうね、と

ルーフィは言った。




魔法ができた18世紀に、それは

なかったものだから。



「いま、めぐちゃんはコンピューター・プログラムもわかるから



コンピューターに掛ける魔法も作れるんじゃないかな?」



なんて、ルーフィは冗談混じりに言う。



21世紀のコンピューター・まじっく。



めぐは、学校で習った

コンピューターの授業を思い出し、話す。



「どんなコンピューターも、0と1、しかないから。それは、電気を流すか、切る、ってことだけで。


それで、プログラムって

人間のことばで文章にしているけど



それを、0、1、で置き換えて。


呪文みたいなことばにしてるだけ、なの。


その、翻訳さんが

コンパイラ、で




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