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エピローグ『呪いの終焉と、世界の継続』

港町での暮らしも一年が経った。


温かいパンの匂い。

リナの優しい笑顔。

俺たちは、システムが支配する世界の片隅で、ささやかな幸せを手に入れた。

侯爵邸の事件は、やがて歴史の暗い一ページに埋もれていった。


ある十六夜の夜だった。


俺は、閉店作業を終え、リナを抱きしめて眠りにつこうとしていた。

リナの規則正しい寝息が、俺の耳元で聞こえる。


その時、数ヶ月前の冷たい感覚が、突然、俺の意識を呼び起こした。


眠りの中で、俺は確かに聞いた。


―――遠くの空を、何か小さなものが、異常な速度で飛び去っていく、空気の摩擦音を。


俺は、反射的に体を起こし、窓の外を見た。


港町の屋根の上を、金髪の幼女の姿が、夜の闇に溶け込みながら、音もなく跳躍していく。


その幼女の瞳は、以前の俺と同じように無感情で、その手には白銀のナイフが握られていた。


俺の心臓は、激しく脈打ったが、それはもう、「呪い」による制御不能な鼓動ではなかった。

「人間」として、純粋な恐怖と、諦めによる動揺だった。


―――システムは、続いていく。



「今、誰かのギフトが、発現したんだろうな」


俺は、リナの温かい体温を感じながら、その真実を誰にも話さなかった。


俺の呪いは、確かに終わった。

愛する者を殺す道具から、俺は解放された。


だが、この世界では、今日この瞬間も、どこかの「凡人」が、「神の道具」へと強制的に作り替えられ続けているのだ。


俺たちが幸せであるという事実は、誰かの新たな絶望の上に成り立っている。


俺は、リナを抱きしめる腕に、そっと力を込めた。


俺たちが手に入れたこのささやかなパンの温かさが、この冷たい世界で、誰の執行も受けずに、いつまでも続きますように。


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