第25話『愛と意志の勝利、呪いの破損』
幼女の小さな手は、白銀のナイフを振りかぶり、リナの心臓めがけて、寸分の狂いもなく振り下ろされた。
アサシンの肉体の中に囚われた俺の意識は、絶叫し、抵抗し、必死にもがいた。
(やめろ!俺の命を懸けて、システムに逆らう!)
だが、俺の意志は、システムの冷たい制御糸に絡め取られ、一ミリも肉体を動かせない。
―――愛する者を殺す瞬間を、強制的に傍観する。これ以上の地獄が、あるだろうか。
その時だった。
リナは、ナイフが迫りくる恐怖の中で、目を閉じ、全身の力を振り絞った。
「アベ―――ル!!」
叫びが、夜の侯爵邸に木霊した。
それは、呪いによる喉の灼熱を、全身の激痛を、無視して放たれた、リナの魂の叫びだった。
リナのギフトの呪いは、「世界の秘密」を口外することを許さなかった。
だが、その呪いは、「愛する者の名前」を呼ぶことを、想定していなかった。
「愛」という純粋な感情が、システムの論理を、打ち破った瞬間だった。
リナの魂の叫びは、幼女の肉体の内部にいる俺の意識を、文字通り打ち抜いた。
「リナ……!」
俺の「リナを救いたいという意志」は、リナの叫びによって火薬に引火したように爆発した。
―――俺の「意志」が、システムの制御を、一瞬、上回った。
幼女の肉体が、「ギリギリギリ……!」と、異音を立てて軋み始めた。
それは、鉄格子がねじ曲げられた時よりも、けたたましい音だった。
システムが、制御不能な「個人の意志」という想定外の負荷に耐えきれず、激しくエラーを起こしているのだ。
幼女の肉体は、リナの顔の数センチ手前で、唐突に停止した。
次の瞬間、幼女の体から、熱と光が、一瞬で蒸発するように失われた。
ドクン!
ギフトの破損の反動で、俺の心臓は、異常なほど強く一発拍動した。
それは、ギフトの根幹である「呪いのシステム」が、物理的に崩壊した証拠だった。
幼女の肉体は、そのまま、冷たい石畳の上に倒れ込んだ。
そこにいたのは、大量の汗をかいて、ぼんやりと天を見つめる、元の姿に戻ったアベルだった。
俺は、愛する者を殺す道具ではなくなくなった。
意志は、システムに勝利した。
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