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第23話『最後の抵抗、静かなる無効化』

十六夜の夜が来た。


俺は、ルークとの脱出計画の準備を整え、万全を期した。

ルークは侯爵邸の裏庭で、リナを待っている。

あとは、俺が変身しなければ、リナはルークと共に街を出る。


―――そして、俺自身が動かないことが、リナを救うための絶対条件だった。


俺は、薬屋から手に入れた最強の睡眠薬を、水で一気に飲み干した。

眠りに落ちた俺は、操り人形になることはできない。


(勝てる。これは、システムが予測できなかった、俺の知恵だ)


意識が薄れていく。

俺は、希望の安堵と共に、深い眠りへと落ちていった。




侯爵邸の裏庭。


ルークは、「透明化」のギフトを発動させ、身を潜めていた。


(アベル、信じてるぞ。お前の睡眠薬は効いているはずだ)


侯爵の暗殺計画は、公爵を眠らせることから始まっている。

その混乱に乗じて、リナが通用門から抜け出してくる手筈だ。


刻限になった。裏手の通用門が、僅かに開く。


青白い顔のリナが、侯爵邸の闇から抜け出してきた。


「リナ! こっちだ!」


ルークは、リナの腕を掴んだ。


「大丈夫だ! 侯爵の計画も、あの怪物も、お前には届かない。俺が道を作るから、走れ!」


ルークは透明な姿のまま、リナの数歩前を走り、衛兵の死角を突いて陽動を開始した。



その瞬間、ルークの体が、不自然に揺らいだ。


「なっ……!?」


ルークは、体から酒気が抜ける異常な速さに気づいた。

彼は昼間から酒を飲み続けていたが、緊張とは違う、何らかの力が、強制的に酔いを醒まそうとしているかのように。


ルークの「逃亡」という知略も、システムの無言の干渉によって、すでに失敗の兆候を見せ始めていた。



意識の深い底。

アベルは、安堵の中で眠っていた。


ゴーン……ゴーン……。


0時を告げる鐘の音。

それは、強制的な「執行開始」の合図だ。


眠りの中の俺の意識は、冷たい糸に掴まれるように引き上げられた。


(効いている……! 俺は、動かない!)


だが、俺の体は、意思とは無関係に、寝返りを打った。


(違う! 動くな! 薬は……!)


体の内側から、急に眠気が蒸発していくような感覚。


―――体内に残っていた睡眠薬の成分が、まるで分解されるように、一瞬で無効化された。


俺の瞳は、完全に覚醒した。


「それ」は、冷たい無感情な目で鏡の俺を見つめる。


俺の最後の抵抗も、システムという絶対的な存在の前では、無力だった。


幼女暗殺者へと変身を始める俺の脳裏には、侯爵邸から逃げようとするリナの姿が、鮮明に浮かび上がっていた。


―――俺の道具と化した肉体が、今、リナを殺しに向かおうとしている。

【毎日20:10更新予定】


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