第22話『最終通告と、裏切りの設計図』
ルークの熱い受諾から、俺たちの行動は一変した。
あの夜以来、俺は無気力なパン焼き機械ではなくなった。
俺の知恵は、リナを救うための道具として、猛烈に働き始めた。
「侯爵邸の構造図は、俺が召使いだった頃の記憶を辿れば完璧に再現できる。
問題は、衛兵の巡回ルートと、リナを連れ出すタイミングだ」
俺は、パン屋の埃っぽい作業台の上に、小麦粉を撒いて侯爵邸の簡略な間取りを描いた。
「次は、お前の出番だ、ルーク。お前の『透明化』で、侯爵邸の『壁』を調べろ」
ルークは、その夜から、「怪物がリナを殺しに来る」というアベルの狂気の言葉を信じ、侯爵邸への潜入を開始した。
昼は、侯爵邸の裏門から裏庭にかけてを、透明な体で巡回した。
夜は、俺の描いた図を手に、衛兵たちの巡回時間と、監視の死角を秒単位で計測した。
「衛兵は五分間隔で入れ替わる。その際、裏手の通用門の監視が十二秒途切れる瞬間がある」
「十二秒……それだけあれば、間に合う。脱出ルートは、裏の調理場の通用門。リナは自力でそこまで到達しなければならない。合流する場所は?」
俺たちは、街から最も離れた、誰も使わなくなった「廃墟の製粉所」を合流地点とした。
そこまで辿り着ければ、街の『怪物の視界』からは完全に逃れられる。
計画の成否は、ルークのギフトの正確な運用と、リナが衛兵に見つからずに指定の場所に到達できるかどうか、ただそれだけにかかっていた。
その頃、侯爵邸では、侯爵様が私に最終通告を行っていた。
「次の十六夜の夜だ、リナ。すべてが終わる」
侯爵様は、デュカス公爵の邸宅の見取り図を広げ、私に冷たい視線を向けた。
「公爵のギフトは『起きている間、全ての攻撃を無効化する』という、絶対的な防御だ。
だが、貴様が透視した唯一の弱点―――奴が『眠っている時』であれば、無防備となる」
侯爵様の瞳は、興奮と憎悪でギラついていた。
私の役割は、公爵を確実に眠らせ、侯爵の実行部隊が公爵に接触する機会を与えること。
それは、侯爵の恥と命を守るための、血まみれの共犯者となることだった。
「もし、お前が少しでも逡巡すれば、公爵の警備網が動き、計画は失敗する。そうなれば―――」
侯爵様は、声を潜めたが、その言葉は鋼のように重かった。
「失敗すれば、貴様は『幼女の怪物』に殺される。いいや、私が、先に貴様を殺す。
そして、公爵の暗殺を、『貴様が単独で企てた悪事』として処理する」
侯爵様は、私の命を、自分の命とプライドの盾にした。
私の全身は震えた。逃げ場はどこにもない。
(アベル……どうか、無事でいて)
私の絶望的な願いは、アベルの狂気の愛とルークの友情による、最後の脱出計画と、音もなく交差しようとしていた。
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