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普段はパン屋見習いの俺、十六夜だけ神の操り人形で幼女暗殺者になる  作者: 夜久 リナ
第二章 『知略、運命への反逆』
16/23

第14話『牢獄の執行、砕け散る冷たい知恵。』

この話には出血を想起させる描写があります。

苦手な方はご注意ください。

衛兵ザックが投獄された翌朝。


俺は、最高の気分でパン生地をこねていた。

ザックは衛兵本部の地下牢だ。

神の道具であるアサシンといえど、人間に作られた堅牢な法の壁を、越えることはできない。


(俺の知恵が勝った。俺はもう、誰かを殺す道具じゃない)


その朝、店にリナがやってきた。


「アベル」

リナの顔は、昨日の無気力な俺と同じように青白く、憔悴しきっていた。


「……ザック衛兵が、逮捕されたって、本当なの?」

リナは、街で広がるその噂を知っていた。そして、その情報から、ある確信を得ていた。


(十六夜の前日に投獄され、屋敷での噂で証拠も匿名だと聞いた。タイミングが良すぎる。)

(ザックは、次の十六夜の標的なのではないだろうか。)


その問いに、俺は初めて、心からの明るい笑みを浮かべた。

「ああ、そうだ。公爵がやった。もう安心しろ。何も起こらない」


(この歓喜の笑み……やっぱり…)


彼女は、俺の歓喜に満ちた言葉に対し、こう答えた。

「アベル。ザック衛兵は、本当に衛兵本部で安全なの?」

「 彼の仲間が、強引に奪還に来るなんて、ないわよね? 鉄格子が破られたりしない?」


その言葉は、リナが導き出した、精一杯の「無言の警告」だった。


だが、俺には届かない。


俺は、彼女の必死な様子を、ただの「重罪人の脱獄を恐れる、凡人の心配」として処理し、冷たく突き放した。


「ザックの仲間なんて、この街にいない。衛兵本部だぞ。鉄格子が破られるわけないだろ。」


絶望に濡れたリナの瞳は、俺の「勝利の確信」を前に、何もできず、店を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーー


その夜。十六夜。


0時の鐘が鳴り響く。


俺は、安らかな眠りから、冷たい糸に意識を掴み上げられた。


(無意味だ。ザックは裁かれた。執行は起こらない)


俺の体は、意思に反して縮み、幼女暗殺者へと変身を始める。


「それ*は、寝間着の裾を引き裂くと、音もなく窓から飛び出した。


向かう先は、衛兵本部。


(無意味だ、無意味だ、無意味だ……!)



衛兵本部の壁。

アサシンは、小さな掌に月光を集め、白銀のナイフを生成した。


ナイフは、分厚い石壁の継ぎ目を、バターを切り裂くように容易く抉る。


ギーー、ガリ、ガリ……。


石が削られ、乾いた土と石灰の粉が、視界を汚す。

規則的な音を立てて、壁の一部が「ただの瓦礫」へと変わり、地下へと向かう侵入経路が確保された。


人間の知恵が積み上げた「法の壁」は、神のシステムの前では、単なる道標でしかなかった。


地下の空間は、カビと鉄の匂いが充満していた。

「それ」は、一切迷うことなく、最も奥にある牢屋へと向かって歩を進めた。

まるで、目的地を最初から知っているかのように。


そして、ある牢屋の前で立ち止まった。


牢屋の中。

首席衛兵ザックは、悪事を悟られ投獄された絶望の中で、眠ろうと必死に目を閉じている状態だった。


キィイイイイン!


鉄格子が、その強靭な構造に耐えきれずにきしむ、けたたましい金属音が響き渡った。


幼女アサシンが、小さなてのひらで掴んだ鉄格子は、「グニャリ」とねじ曲げられ、幼女の侵入経路が開く。


「ダ、誰だ!?」


悪夢のような光景に、ザックは飛び起きた。


鉄格子は、幼女の力で、まるで熱された鉛のように、内側に湾曲している。ザックは恐怖に支配され、後ずさりもできない。


アサシンは、一切の躊躇いなく、ザックへと近づく。


俺は、この数ヶ月で初めて、「怒り」の感情を覚えた。


(止めろ! 俺の知恵が勝ったはずだ! 俺は、もう道具じゃない!)

喉の奥で、叫びが泡となって消える。


ザックは、恐怖で腰を抜かし、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、

「許してくれ! 殺さないでくれ!」と醜く命乞いを始めた。


アサシンの視線は、その卑屈な姿を一切映していない。

ただ、冷徹に執行までの「距離」と「角度」を測っているだけだった。


白銀のナイフが、月光を反射し、ザックの胸元に突き立てられた。


ドフッ!


その瞬間、俺の意識を灼いたのは、ナイフが肉を裂き、肋骨の硬い感触を突き破って臓腑に達する、生々しい感覚だった。


熱い血潮が、ナイフを握る小さな手首を伝い、身体に飛び散る。

その血の、湿った鉄の匂い。


(やめろ…やめろ!俺はこいつを許したわけじゃない!俺の体で、殺すな!)


俺の最後の希望は、「システムの絶対的な優先順位」という冷酷な現実に、無残に打ち砕かれた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


翌朝。


血と泥に汚れた寝間着を着た俺は、テーブルに突っ伏し、動けなくなっていた。


「人間の法で裁かれようと、システムが執行を完了していなければ、悪人は悪人。」

「裁きは終わっていない。」


冷たい、論理的な結論だけが、俺の頭に残った。


俺の知恵は、システムに勝ったのではなく、利用されただけだった。


ヴァレリウス伯爵の執行で「倫理」を失い、今回のザックの執行で「知恵と論理」という最後の砦を失った。


無気力という名の絶望が、再び俺の心を完全に支配した。


〜 第二章 終 〜


だが、その時、アベルは知らなかった。

その無気力な青年を、さらなる絶望の淵に引きずり込む、

―――「リナ」の命に関わる、新たな巨悪の影が、すぐ傍の侯爵邸で暗躍し始めていることを。

最終章『呪いの破損』

第二章完結となります。


アベルの絶望、リナの恐怖は続く...


【毎日20:10更新予定】


【作者よりお願い】

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引き続き、物語の絶望の先に進みます。よろしくお願いします。

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