第0話『ハズレギフト、決意の贈り物。』
それは、数ヶ月前――俺がまだ二十歳を迎えていない、遠い日のことだ。
ルークは、やけになって酒を呷っていた。
店の奥の席で、大ジョッキを片手に、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「……あいつら、俺を笑いやがった!」
ルークは、この街で名高い狩人の名家の一員だ。
一族のギフトは代々、獲物に気づかれぬよう「集中すると、気配を弱くすることができる」というものだった。
ルークも、一族の期待を一身に背負っていた。
そして今日、二十歳の誕生日を迎えた。
朝、親や兄と狩りに出た。
思い当たる発動条件は全て試した。
集中するだけではなく、手を合わせたり、息を止めたり...
しかし、何も起こらなかった。
彼は「凡人」の烙印を押され、今に至っている。
「もう、消えてしまいたい……」
グラスを握りしめ、ルークは心の底からそう念じた。
その瞬間だった。
ルークの体が、周囲の光を乱反射したように揺らぎ、姿が消えた。
―――『酒気を帯びると、姿を消すことができる』
彼が授かったギフトは、「気配を弱くする」という一族のギフトの、まさに最上級の能力だった。
翌日の酒場には、ルークの隣にはアベルの姿があった。
「姿が消えるって、すげえじゃねえか!」
最初に俺が言った時、ルークは泥酔したまま叫んだ。
「すげえだと? 冗談じゃねえ!最上級のギフトなのに、条件が最悪だ! 狩りの最中に酒を飲むハンターがどこにいる!?」
姿が消えるという最上級の能力でありながら、条件が致命的すぎた。
一族は彼を「不適合者」だと嘲笑した。
「……なぁ、アベル」
ルークは、テーブルに顔を伏せる。
「お前も笑えよ。笑ってくれ。酒を飲まなきゃ隠れられねえ狩人なんて、ただのコメディアンだ!」
カウンターの店主が、それを聞いてニヤニヤと笑う。
「おいルーク! 消えても金は払って帰れよな!」
俺は、ルークの肩にそっと手を置いた。
「俺は笑わないよ、ルーク」
「なんでだ?」
「お前のギフトが、どれだけ凄い力か、俺には分かるからさ」
俺は、ジョッキに残ったエールを一気に飲み干した。
「……狩りには使えなくても、どこか別の場所で、お前のその『透明化』の力が必要とされる日が、きっと来るさ」
「お、おい! 嬉しいこと言うなよ、消えちまうだろ!」
ルークは赤くなりながら怒鳴った。
「ルーク、きっと俺はただの凡人さ。」
「二十歳になっても、両親も凡人の俺は何も授からない、しがないパン屋見習いだよ。」
「だから、ギフトを持つお前が羨ましいんだ」
その言葉は、純粋な励ましだった。
俺が、その数ヶ月後に「凡人」ではなくなり、そのルークの「ハズレ」ギフトに命運を託す日が来ることなど、知る由もなかった。
そして、あの時の俺の励ましの言葉が、ルークにとって「命を張って親友を救う」ほどの、決意の贈り物になったことも知らずに。
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