世間話のはずが……
私はメアリー・ホフティンズ、公爵家の娘です。
父はこの国の宰相で忙しい時は城に泊まる事もしばしば、その代わり母が我が家の大黒柱となり公爵家を盛り立てています。
2つ年上の兄のリチャードがいますが基本的に接点は無く挨拶ぐらいしかしません。
別に仲が悪い訳ではありませんが、兄は王太子様の側近候補であり将来の宰相、父の補佐もやりつつ学園にも通っているので今年入学した私とはスケジュール的に合わないのです。
だから、基本的に家族全員で食事をするという事は少ない。
大抵は私と母、私と母と兄のどちらかなんですが今日は珍しく父が帰宅して久しぶりに家族全員が揃いました。
当然ですが話も盛り上がります。
「メアリー、学園の方はどうだ? 友達は出来たか?」
「はい、楽しく通っています」
「そうか、小さいと思っていたメアリーが学園に通う年になったんだなぁ……」
そう言うと父はちょっと涙ぐんでいます。
「旦那様、何も涙ぐまなくても」
「いや、可愛い盛りを一緒に過ごせなかった、と思うと……」
「父上は仕事を頼まれすぎなんですよ、国王様も小さい事でも父上に頼んでくるから」
「仕事に小さいも大きいも無いぞ、今だって王太子様の件で国王様から相談を受けているんだ」
「王太子様が何かやらかしたんですか?」
「うむ、最近様子がおかしい、と国王様が言われてな。 何を話しても上の空というか話を聞いていないそうだ、異変を感じてないか?」
「いや、王太子様は生徒会長としても仕事をしてますが……」
「あれ? そういえばここ最近王太子様が聖女様と一緒にいる所を見ましたよ」
「聖女様と? どんな感じだった?」
「どんな感じだった、と言われると……、楽しそうでしたね。あっ、偶にお兄様や他の方も聖女様と一緒におられましたね」
私がそう言うとお兄様はビクッとなった。
「リチャード、お前聖女様と一緒にいる事があるのか?」
「あっ、いえ……、聖女様が学院の暮らしにまだ慣れてないので殿下と共にお手伝いをしているだけで」
「でも婚約者以外の異性といるのは余り良くないわね、周りからどういう風に見られているかを考えて行動しなさい」
「は、はい……、肝に銘じます」
「そういえば婚約者のレイノール嬢とはちゃんとコミュニケーションを取っているのか?」
父からの質問にお兄様は顔面がサーッと青褪めました。
「さ、最近はお互い忙しくて……」
「あ、私レイノール様と今日一緒になったんですよ。『最近お兄様が冷たいのだけど何か不満でもあるのかしら?』て言ってましたよ」
私の発言にお兄様は汗がダラダラと出ています。
「……リチャード、後で書斎に来るように」
「は、はい……」
あれ? もしかして私余計な事言っちゃったかしら?
食事の後、どんな話があったかはわからない。
ただ翌朝にはお兄様の姿は屋敷には無かった。
「あれ? お兄様は?」
「リチャードは急遽入院する事になったわ」
えっ!? 入院っ!?
「お兄様、何か病気なんですか!?」
「えぇ、とても悪い病気が見つかってね……、もしかしたら戻ってこれないかもしれないわ」
母は気の毒そうな顔をしていた。
「それとメアリー、しばらく学院は休校になるから」
「えっ!? なんでですか?」
「ちょっと学院でトラブルが発生したみたいだから落ち着くまで自宅待機になるから」
いきなりの事で私の理解は追いついていない。
全てがわかったのは1か月後の事だった。
結論から言うと聖女様は魅了持ちだった。
学院内の男性生徒に魅了をかけていた。
当然だけどお兄様も餌食になっていた。
父はお兄様の様子がおかしい事に気づき書斎に呼んだ。
そこでお兄様の目が普段の黒色から紫になっている事を見つけた。
父はすぐに魔道士長に連絡を取り翌朝にはお兄様は魔法の治療施設に強制入院する事になった。
そして学院には魔道士団の強制捜査が入り元凶が聖女様である事が判明。
聖女様は魔道士団に捕縛され魅了封印の魔道具をつけられ監禁状態になっている。
魅了にかかった生徒達は治療施設行きとなった。
王太子様も勿論かかっていて更に婚約者に冤罪を被せて婚約破棄しようとしていた事も発覚して王太子の座を剥奪されて幽閉処分となった。
我が家も含めて殆どの家で跡取りを交代せざるをえない事態になり貴族社会は混乱した。
「まさか、あの話がここまでの騒動に発展するなんて思わなかったわ……」
学院再開後、私は友人と再会し今回の件について話していた。
「でも、宰相様はメアリー様やお兄様の反応で異変に気づいたんでしょう、やはり優秀ですわね」
「メアリー様の観察眼も素晴らしいですわ」
「私としてはただの世間話だったんだけど……」
私は嫁入りに行くはずが婿取りをしなければならなくなりお相手探しに頑張っている。