プロローグ
オレの名前は、青田守。警備畑の仕事を始めて23年、当年とって54歳のバリバリ警備士だ。
今のオレは、大学病院の防災センターに勤める副隊長だが、これまで工事現場や駅での交通警備や有名イベント会場での雑踏警備から商業施設の施設警備、さらには某政治家の身辺警備まで、それこそあらゆる警備の仕事を経験してきた。
俗に警備の仕事は、どちらかというと苦労ばかりで退屈な裏方仕事と思われがちだが、実はそんなことはなく結構オレは気に入っている。
時には見えないところで役得もあったり、変化に富んだドラマに遭遇したり、毎日飽きない生活を楽しんでいるのだ。
今の職場を紹介しよう
オレが勤めているのは、某有名大学の附属病院だ。病院内には、ほとんどの診療科を備えた診察病棟と入院病棟があり、さらには救命救急センターも設置されている。
それだけに、毎日生死に関わる事案が発生し、救急車が出入りする病院の表口とは別に、その裏口には霊柩車の専用口も設けられ、人命救助のスペシャリストの救急隊員とは打って変わった、故人と遺族をサポートする黒服の葬儀社職員が出入りしている。
正確な数字は非公開なので掴めていないが、オレの感覚では1日の救急車受け入れは15〜20件で、霊柩車の受け入れは2〜3件。死亡者の中には入院患者の死亡事案も含まれるので、全てが救急車で運ばれた救急患者とは言えないが、毎日2〜3人はここから天国へと召されている勘定になる。
病院にはそのほか研究病棟があり、同じ敷地内の別棟研究所も含めると300近くの部屋があり、日々の巡回は1時間を超える時もある。
ちなみに、担当業務に違いはあるが、巡回の多い担当の場合は、一日で2万歩近い歩数を記録することもあり、オレは階段の上下移動も含めて月平均30万歩を歩くという健康的な生活を送っている。