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第2話 どうせ決闘なんでしょ?知ってるー

 エヴェラウドから貰った情報に帝都の南に新たに現れたダンジョンについての情報があった。現在は軍の管理下にあるが入構許可証も発行してくれていた。本当にあいつには世話をかけていると思う。車を飛ばしてやってきたダンジョンエリアには検問が張ってあった。俺は車から出て歩哨たちに許可証を見せる。


「なんだこれ?漢字だらけで読めない、お前読めるか?」


「俺、ひらがなしか読めない。将校呼んでくるか?」


「そうだな。ちょっと待ってろ!」


 魔女戦争の頃に少年時代を過ごしたであろう若き兵士たちはロクな教育を受けられなかった。義務教育も破綻してた。帝国の識字率は大きく低下している。それでも他国よりはましな方なのが嘆かわしいところでもある。世界は魔女の爪痕にいまだに振り回されている。そしてしばらく待っていると将校らしき青年がやってきた。


「ふむ。冒険者のヴァンデルレイ・エアネスね?あのエヴェラウド・テイシェラ大佐の推薦か。わかった。入構を許可する。だがここは軍の管轄下だ!勝手な行動は慎むように!」


 やってきた将校は俺を通してくれた。だけど歓迎はされてないのがわかる。軍人はプライドと縦割り意識の強い連中だ。エヴェラウドの推薦でも横割り喰らって機嫌はよくないのだろう。俺は車に戻りゲートを通過して駐車場に止める。渡されたビジターカードを胸から下げてダンジョンの入り口に向かう。


「これがここのダンジョンか?」


 俺はダンジョンの入り口である空間の歪みの近くで白衣を着て仕事をしていた科学者たちに声をかけた。


「ええそうです。前大君家であるシウヴァ家の時代に作られた神殿ですね。地元民はせっかくの観光資源がダンジョン化して困ってます」


「じゃあ早めに退治した方がいいな」


 ダンジョンの存在は社会問題になっている。魔女戦争以降現れたこの異空間は魔物を外に吐き出してくる。もちろん中に潜ると有用な鉱物資源やレア魔物の素材を得ることもできるので±でいうとなかなか悩ましいものだ。


「ただここの遺跡は魔女の物と思われる力の波動が他所よりも濃いんです。もしかすると魔女の遺産が……」


 魔女遺産。ダンジョンの奥底には魔女の使っていたアーティファクトが眠っているという。実際にボスたちは魔女に忠誠を誓っている連中ばかりだ。ダンジョンは魔女がこの世に残していった呪いだとする説が有力だった。


「それ以上は部外者に喋るな!」


 さっきの将校の青年が俺たちに近づいて着て怒鳴り散らす。きっと俺を睨みつけている。


「あのテイシェラ大佐がねじ込んできたから入れただけだ。機密にまでアクセスすることは許してない」


「魔女の遺産の話は常識だろう。それくらいで目くじら立てるなよ」


「ふん。現場の権限でいつでも追い出せるんだぞ」


 俺は肩を竦めてその場を離れる。下手に言い争うことはない。将校っていう生き物はプライドが高い。権限も高いから何をしでかしてくるのかわからない。放っておくに限る。俺は食堂のテントで飲料水を買ってからダンジョン近くの木にもたれて、装備の点検を行うことにした。プレートキャリアの金具やライフル内部の清掃。刀と十手の確認等々を行った。


「早く突入しましょう!今もまさにダンジョンは成長を続けています!早く刈り取らないと!」


「だが深さもまだわかっていないんだ。兵を送るわけにはいかない」


「どうせ外からでは深さなんてわからないんです!調べるだけ無駄です!我々への任務はこのダンジョンの処理です!ここでぼーっとし続けるなんて無駄ですよソウザ大尉!」


 あの青年将校と誰かが言い争っていた。相手は声からすると女らしい。青年は詰襟の制服を着ているが、対照的に女はヘルメットをかぶり迷彩のBDUを身にまとっていた。後ろにはすでに兵士たちが控えている。というかこの声聞き覚えがあるような?


「カルネイロ少尉。熱心さは君の美徳だが、ことは慎重に運ぶべきだ」


「そうやってチャンスを逃すんですね?この間もそうだったでしょう?!もう忘れたんですか!?」


「あれは予測班の観測が悪かっただけだ。それに結果的には上手くいった」


「兵士を三名犠牲にしてね!それとも兵卒は貴重な人的リソースには入らないと?!」


 すごくヒートアップしてる。困ったなぁ。誰かが止めないと。俺は立ち上がり彼らに近づく。


「そこまでにしろ大尉、少尉」


 俺は二人の間に立つ。


「お前はあの民間人!何の権限で我らの会議を邪魔する!」


「あんなの会議じゃねぇよ。とにかくお互いに静かにしろ。お前もだ少尉」


 俺は女の方に目を向ける。女はゴーグルをかけていたから顔がよくわからなかった。だけどどこか放心したような感じに見えた。


「聞いてる?」


「……おじさまですか?」


「え?……おまえ、まさか」


 女はヘルメットとゴーグルを脱いで改めて俺に顔を向ける。美しい顔立ちは幼いころの面影があった。淡い桃色の髪の毛に紫色の瞳。今にも泣きそうな笑みを浮かべている。


「エリザンジェラ?」


「はい!おじさま!エリザンジェラです!ああ!ずっとずっと会いたかった!」


 エリザンジェラは俺に抱き着いてくる。昔と違って世は伸びてぐっと女らしくなっていたから少しドギマギしてしまう。ていうかエヴェラウド。あいつわかっててここに俺を送ったな。


「カルネイロ少尉!何をしている!その男は怪しい部外者だぞ!」


「怪しくなんてありません!おじさまは私を育ててくださった方です!それに帝国軍の退役少佐でもあります!」


「退役少佐?こんなみすぼらしい男が?!」


 みすぼらしくて悪かったな。まあヒゲはぼさぼさだし髪の毛は伸ばしっぱなしで後ろで縛ってるだけだし、風貌は怪しかろう。自覚がないわけではない。


「とにかく離れろエリザンジェラ」


 俺は引き剥がそうとするが、エリザンジェラはすごい力でぎゅっとひっついたままだ。


「離れろ」


「いやです。またどこかへ行ってしまうんでしょう?!」


「今はここに用がある。だから何処にも行かない」


 俺がそう言うと涙目で唸りながら、渋々といった様子で離れてくれた。


「話が散らかってしまった」


「おじさま!ひさしぶりにおしょくじなどどうですか?」


「お前さっきまでダンジョンに飛び込む飛び込む言ってたやんけ」


 まあこういう時に女の子の気持ちにツッコミを入れるのは野暮だろう。どうせどうこうできない。


「氷のように冷たいカルネイロ少尉が、まさか、そんな」


 ソウザ大尉はなにか動揺のようなものを見せている。


「貴様、カルネイロ少尉に何をした?洗脳でもしたのか?!」


「そんなことしてない。はぁ。また話がとっ散らかった」


 俺はため息を吐く。やってられねぇ。話を先に進めたい。


「とりあえずさぁ。俺もエリザンジェラと一緒に潜るからダンジョン退治の許可出してくれないか?安心しろ兵士たちとエリザンジェラはちゃんと無事に返すからさ」


「何を言ってるんだ貴様は!まるで自分がダンジョンの危険をものともしない強者のように!」


「ぶっちゃけこれでも強いんでね。生まれたてのダンジョンならすぐにつぶせるよ。俺一人でも十分だ」


 むしろパーティーなんていらないくらいだ。


「そうです!おじさまの言う通りです!」


「カルネイロ少尉?!……じゃあお前のレベルは?!強いというからには相当のレベルなのだろう?」


 レベル。ようはステータスを聞いているのね。馬鹿らしい。ステータスシステム。それは人類に与えられた力。ダンジョン出現と同時に全人類はこれが使えることに気がついた。だからわかるこれはおそらくは魔女の呪いの一つなのだと。


「俺はステータスシステムを使わない。レベルはそうだな。1とでも思ってくれ」


 この得体のしれないステータスシステムを人々は重宝している。なにせ魔物を倒した経験値を積むことで自分自身の身体能力だけでなく、様々な魔法や剣術、武術などのスキル。鑑定やアイテムボックスなどを使えるのだから。だけどそんなのご都合主義だ。魔女の罠だと俺は疑っている。


「ふ!くははは!レベル1!そこらの子供だってもっと高いだろうに!そんな奴がダンジョンなので活躍できるものか!」


「そんなことありません!おじさまは最強です!ダンジョンどころか大尉のことだって一瞬で倒してみせますよ!」


 何言ってんのかなエリザンジェラは?余計な挑発するなよ。マジでやめてくれ。


「貴様!この私を侮辱したのか!」


「俺は何も言ってない」


「今更見苦しいぞ!決闘だ!貴様も元は軍人であるならば剣を抜け!」


 あーあー!こうなっちゃった!周りは声を上げて囃し立てている。断れる空気じゃないよ。俺とソウザ大尉を中心にみんなが円形に広がる。そして声援を浴びせてくる。ソウザ大尉は剣を抜いて俺にその切っ先を向けてくる。


「剣を抜かないのか?」


「いらない。抜いたら殺しちゃうからな」


「まだいうか!スキル!竜天下し!!」


 ソウザ大尉はすごい速さで俺の懐に飛び込んでくる。そして振り上げたスキルの光で輝く剣を俺の額に降ってくる。だけど。


「甘い」


「あっ」


 俺は剣の腹を人差し指で弾く。するとソウザ大尉の切っ先は俺の身体をそれて地面に振り下ろされる。切れ味のいい剣はそのまま地面にめり込んでしまう。


「いいことを教えてやる。ステータスシステムの提供するスキルは必ずタメが生じる。そこは絶対的な隙として現れる」


 俺は地面にめり込んだ剣を抜こうと必死なソウザ大尉の手と腰のベルトを掴んで、足を引っかけて投げ飛ばす。昔からあるただの武術である。ソウザ大尉は剣から手を放して地面を転がる。そして仰向けに倒れたソウザ大尉の首に、俺は足を置く。


「このまま踏みつぶしてもいいけど、やる?」


 ソウザ大尉の目は見開かれていた。何のスキルも魔法もなしに圧倒した俺を恐怖の目で見ている。


「すごいですおじさま!」


 エリザンジェラが俺の首に飛んで抱き着いてくる。女特有の甘い匂いが鼻をくすぐってくる。昔はそんな匂いをさせていなかったのに。俺はエリザンジェラの成長にどうしても戸惑っていた。




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