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第1話 おっさんは復讐鬼

 ダンジョン最下層のボス部屋。俺の目の前で巨大なドラゴンが朽ちて塵になっていく。


「くくく、ははは!たとえわしを倒しても魔女の騎士団は終わらぬ!我らが悲願は必ずや果たされ魔女の王はこの世に帰還し人民に豊穣を齎すであろう!」


「あ、そう。それが聞けて良かったよ。魔女はまだ生きてる。それだけ知れれば十分だ」


 俺はそのままドラゴンに背を向けてダンジョンから出るために歩き出す。


「魔女を討つことなど只人には叶わない!お前のような人の子が現人神になど敵うものか!受け入れろ!魔女の寵愛を!貴様も魔女に寿がれたものであるならば!!」


 カチンときた俺は振り向き、剣を振るう。放たれた魔法の刃がドラゴンの口を消し飛ばす。


「寿がれたんじゃない。呪われたんだ。だから俺は必ずあいつを殺す。魔女を殺す」


 ドラゴンは塵になり消え去った。もうここに用はない。早々にダンジョンは崩壊する。俺は振り向くことなくその場を去った。













 あの頃をいつだって夢に見る。愛する妻と愛おしい娘。父や母、兄弟たち、領民。俺を取り巻く人々はみな笑顔だった。




 魔女が来たあの日までは……。











 俺は帝都の繁華街の雑居ビルに入っているとある娼館のバーカウンターで人を待っていた。


「待たせたな。ヴァンデルレイ」


「いや。いつも急ですまない、エヴェラウド」


「良いさ、別に構わない。俺たちは戦友だろ?」


 かけつけたエヴェラウドはマスターにウイスキーのロックを頼む。俺たちは乾杯をする。


「こんどからは場所を変えてくれないか?」


「なんでだ?」


「結婚した。もう女遊びは卒業だ」


「……そうか。それはおめでとう」


「ああ。相手は中級貴族の次女だ。プライドは高いが健気でよく尽くしてくれる」


 同期が結婚したことに嬉しさを覚える反面俺は過去のことを思い出す。かつては俺にも妻がいた。娘も。


「だからお前の気持ちもよくわかるようになったよ。復讐したいって気持ちはな」


 俺のことをエヴェラウドは心配げに見詰めている。


「それでもやっぱり復讐なんてやめろ。もう魔女はいない。勇者が魔女を討った。そうして戦争は終わっただろう」


「いや魔女はまだ生きている。あいつの騎士団もいまだにあちらこちらで暗躍してるんだ。いつかあいつは再び姿を現す」


「それは願望じゃないのか?そうであって欲しいっていうお前の願いだろう」


 エヴェラウドが言っていることは正しい。この間倒したダンジョンのボスだって死に際で張ったりかましただけかもしれない。だが確信は消えない。あいつの存在の気配はこの世界に残り続けている。


「なあ軍に戻って来いよ。魔女戦争は終わったが、紛争はあちらこちらで続いている。軍は優秀な人材を求めているんだ。国を守るためにな」


「建前は止せよ。無職のおっさんの俺への同情もあるんだろうけど、それ以上にクーデターのためだろ」


「ああ。それは否定しない。現在の大君家は酒と女に溺れ堕落した。執権は腐敗貴族たちと専横政治を行い帝国の富を吸っている。天后陛下をお救いし政治を正さねばならない」


 俺がもし復讐に囚われていなかったらこの誘いに乗ったかもしれない。だけど今の俺には政治なんてものには興味がない。


「いつも通り情報だけくれ。俺は世間に興味はないよ」


「そうか?そのわりにはいつも野良猫を拾っては育てていただろうに」


「ただの気まぐれだよ」


「そうかねぇ。お前の野良猫の一人、エリザンジェラが軍に入ったぞ」


「は?軍に?なんだと……そんな……」


 俺は少し動揺してしまった。かつて拾った少女が軍に入ってしまった。


「お前は危険から遠ざけるために育てて自立させたつもりだろうけどな。アフターケアもしないで捨てるからそうなるんだよ。きっとお前の影を追いかけてる」


「大佐まで昇進したんだろ。すぐにエリザンジェラを首にしろ」


「だめだ。彼女は優秀だ。だってお前が育てたんだからな」


「他に仕事はいくらでもある」


「エリザンジェラはそう考えてない。お前のことしか知らないから、お前の歩んだ道を選んでしまった。お前は世間に興味はなくても、世間はお前を放っておいてはくれないんだよ」


 そう言ってエヴェラウドはファイルをカウンターにおいて立つ。


「情報はいつも通り渡す。だが今後は少し身の振り方を考えろ。自分の幸せってやつをな」


 エヴェラウドは帰ってしまった。俺はファイルをバックに仕舞って、マスターに酒を頼む。


「わかってるさ。でも幸せだったから、他の幸せを選べないんだよ……」


 俺は酒を飲みほした後、娼婦を連れて部屋にしけこむ。女の肌の暖かさに触れても、寂しさは消えなかった。


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