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第9話 大量注文


「これはひどいな……」


 今回俺が買ってきた奴隷は、顔全体がひどく焼けただれていた。

 もはや元の顔がどんなだったか、まったくわからないほどだ。

 皮膚は黒く焦げ、ところどころただれが浮き出ていた。

 片目は腫れ、歪んだ傷跡が口元にかかっている。

 

 それから、足もやられていた。

 これじゃあ、売り物にならないな。ということで、またしても20Gほどで手に入れてきた。


「お前、名前は?」

「フレイヤ……。フレイヤ・アーデミック」

「フレイヤか……どこかできいたことがあるような……?」


 俺はなぜだかその名前の響きに既視感を覚えた。

 とりあえず、フレイヤの足を治してやり、顔も治してやる。


「うわぁ……すごいですご主人様……! ありがとうございます……! まるで奇跡みたい……! こんなこと、本当にあるなんて……」


 フレイヤの顔を治すと、驚いたことに、俺はその顔に見覚えがあった。

 以前奴隷として伯爵に売った、あのハレルヤという奴隷にそっくりだったのだ。

 フレイヤはちょうどハレルヤと歳の近い女の子で、名前も顔も似ている。

 これは赤の他人とは思えないほどだな。


「な、なあフレイヤ。お前に兄弟はいるか?」

「ええ、妹がいます……。ですが、こうして奴隷の身となった今はもう離れ離れで……。もう二度と会うことはないでしょう……」


 フレイヤは悲しそうに顔をうつむけて、そう言った。

 これは……つまりハレルヤはフレイヤの妹なのだろうか……?


「フレイヤ、妹の名前は?」

「ハレルヤといいます」

「やっぱりな……」

「やっぱり……?」

「ちょっと待ってろ、俺はその名前に心当たりがある」

「え……?」

「すぐに会わせてやるからな」

「ほ、本当にハレルヤに会えるんですか……?」

「ああ、任せておけ」


 俺は急いでセモンド伯爵に手紙を出した。

 ぜひまたうちの商館にきてほしいと、割引もすると添えて。

 するとすぐにセモンド伯爵はハレルヤを連れて、商館にやってきた。


「これはエルド様、ご招待いただきありがとうございます。それで、見せたい奴隷というのは……?」

「ああ、これだ」


 俺はセモンド伯爵にフレイヤを紹介した。


「これは……うちのハレルヤにそっくりではありませんか」

「そうなんだ。二人は姉妹だ。その……もしよければなんだが……」

「もちろんです。ハレルヤも喜ぶでしょう。こちらのフレイヤをもらいましょう」

「それはよかった……。一応確認するが、彼女を粗雑に扱うつもりはないな?」

「それはもちろん。ハレルヤと一緒に、うちで大切に預からせていただきますよ」

「よし、それは助かる。ありがとう」


 俺はセモンド伯爵にフレイヤを5000Gで売却した。



 ◆



「フレイヤ……!」

「ハレルヤ……!」


 二人を引き合わせると、二人とも涙して抱き合った。

 そして俺の方を見て、同じ声色でこう言う。


「エルド様……本当に、なんて言ったらいいか……。私たち姉妹を引き合わせてくださり、本当にありがとうございました!」

「もう二度と会えないものと思っていました……。それが、同じお屋敷で働けるだなんて、夢見たいです」


 まあ、少し安く売ってしまったが、これでいいだろう。

 姉妹は同じ場所にいるほうがいい。

 こればかりは、俺のほんの同情……いや、きまぐれだ。


「一応確認しておくが、お前たちに他にもう生き別れた兄弟とかはいないよな?」

「あはは……いませんよ」


 ということで、一件落着。

 ハレルヤとフレイヤは、仲良くセモンド伯爵に引き取られていった。





 それからも俺は奴隷を売りまくった。

 シャンディの父、エドモンド侯爵から大量の注文を頂いたのだった。

 エドモンド侯爵は、シャンディの一件で俺に大変な恩義を感じており、俺の店を必ず使ってくれると約束をしてくれた。

 今回、没落貴族だったところから復活したエドモンド侯爵家では、大量の奴隷が必要だったそうだ。

 新しく家を立て直すのに、一から奴隷を集めなければいけないわけだな。

 それで、信用できる俺のところから、10数人奴隷を買いたいとのことだった。


 俺は急いで市場にいき、適当な欠損奴隷を13人購入した。


「問題はこれを一気に治すとなると……かなり大変だぞ……」


 俺は死を覚悟しながらも、とにかく回復魔法をかけまくった。


「はぁ……はぁ……」


 だがここで侯爵にさらに恩を売っておくと、いざというときに助けてもらえるかもしれない。

 俺はなんとしても、奴隷たちを治療すべく、本気で集中した。

 そんな俺の様子をみて奴隷たちは、勝手な噂をする。


「みろよご主人様のあの真剣な顔つき……」

「本当だ、あそこまでして俺たちのけがを治そうとしてくださっているなんて……」

「ご主人様はなんていうお方だ……。まるで天使のようだ」

「いや、ご主人様は神の御使いかもしれん……!」

「まさか聖人!?」

「おい、祭壇を作れ!」


 くそ……勝手なことを言いやがって。

 俺は自分が助かるために、恩を売るためにやってるだけなのに……!


「はぁ……はぁ……やっと終わった……」


 それから三日三晩かけて、俺は全員の治療を終えた。

 正直、死にかけたが、これもいい訓練になった。

 いざというとき、体力がなくて治療ができないのでは意味がないからな。

 俺が多少けがをしていても、自分で自分を治すには、このくらいできなければな。


 奴隷を全部納品すると、エドモンド侯爵は大変よろこんでくれた。

 なんでも、どの奴隷も俺への感謝でいっぱいで、忠義心がすごいらしい。


「エルド様、ありがとうございました! エルド様の顔に泥を塗らないように、エドモンド侯爵家で精一杯働いてきます……!」

「おう、頼んだ……」


 奴隷はみんなこんな感じだった。


「いやぁ、エルド様の奴隷の調教手腕はすばらしいですな。みな、扱いやすい奴隷ばかりです」


 エドモンド侯爵はそう言って俺を称えた。


「いや、俺はただ治療しただけですよ」

「はは、そういうところも素晴らしいですな。また買いに来ますよ」

「ええ、ぜひ」


 今回奴隷の購入に使った金は1690G。

 エドモンド侯爵から受けった金が126690G。

 俺は今回の取引で、125000Gも儲けた。


「あれ、計算間違えてないか?」


 今回は、思わずそう思ってしまうほどに、異常なまでに儲かった。

 俺もかなり、奴隷商人が板についてきたな。


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シャンディの家は男爵家だったような…?
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