第20話 エピローグ「前世」★
「君の前世での大事な人なら、君のすぐそばにいるよ……?」
「え………………?」
魔神デッカーの言葉に、俺は絶句した。
俺が救えなかったあの人が、俺のすぐそばにいる……?
いったい、どういうことなのだろう。
「さっき君の記憶を見せてもらっただろう? そのときに、気づいたんだよ。君はまだ気づいていないようだけどね……。いや、本当はもう気づいているんじゃないのか……? 今まで、気づかないふりをしていただけなんじゃ……?」
「な、なにを言っているんだ……」
「ほら、ようく思い出してごらんよ……」
前世の記憶なんて、俺からすればもう20年以上も前のことだ。
それに、俺はその記憶に重たい蓋をしていた。
だって、あれは俺にとっては、とても辛い記憶だから……。
だけど、あの人のことだけはどうしても忘れることができなかった。
そう、俺の好きだった相手――。
俺は自分の眠っていた記憶を思い出す。
◆
俺の名前は九条朔夜。
日本で暮らす、普通の16歳……高校生だ。
俺には好きな人がいる。
彼女の名前は水瀬凛音。
別に、俺たちは付き合っているわけではない。
お互いに、おそらく相手を好きなのだろうという思いはあった。
けど、それを口にして確かめることはしなかった。
この関係が崩れてしまうのが怖かったのだろう。
お互いに身寄りがなく、高校生だというのに一人暮らしをしていた。
そんな境遇が似ているのもあってか、俺たちはとても仲良くなったのだ。
俺たちはいつも、学校が終わると、街の外れにある古びたゲーセンに集まった。
客も店員もいなく、廃墟と化したゲーセンには、一台だけ電気のついた筐体があった。
どこから電気が来ていて、誰が管理しているのかもわからないそれで、俺たちはいつも二人だけで遊んでいたのだ。
ためしにキスだけしてみたことがあった。
けど、お互いになんだかくすぐったいねと笑いあって、それだけだった。
そのときの話は、お互いに恥ずかしくて二度としていない。
俺たちはそんな関係だった。
けどある日を境に、凛音は学校にも、ゲーセンにも来なくなった。
俺は特に理由を考えもしなかった。
今思えば先生に尋ねるという方法もあったのだろうが、俺も学校にはもともとあまり行っていなかったし、先生との仲も悪かった。
それに、尋ねたところで先生が素直に答えてくれたとも思えない。
学校で俺は特に凛音と仲のいいそぶりを見せてこなかったし、先生も個人情報的なことは話さなかっただろう。
凛音とは仲がよかったが、家までは知らなかった。
ただ、彼女は身寄りがなく、マンションで一人暮らしだということだけ知っていた。
次に彼女と会えたのは、その1年後。
彼女は変わり果てた姿で俺の前に現れた。
頭髪が無くなっており、脚は切断され、車椅子姿だった。
そう、彼女は若くして白血病だったのだ。
先生がようやくクラスのみんなにそのことを公表したのは、彼女が死ぬことになる1か月前。
もう助かる見込みがないというのがわかったから、みんなに最後の別れをとでも思ったのだろう。
まさか凛音がみんなに伝えてくれなどとは言わないだろうと思う。
俺は……知るのが遅すぎた。
いや、知っていたからといって、どうする?
俺になにが出来た……?
金もない、身分もない。ただの高校生の俺に。
そもそも、俺は恋人でもなんでもなかっただろう……?
俺は、彼女に踏み入ることができなかったんだ。
そんな俺が、なにいっちょまえに後悔してんだよ……。
俺は、どうするべきだったのか今でもわからない。
先生から事の真相を告げられて、俺はすぐに病院に向かったのだ。
凛音とふたり、病院の外の芝生で、会話をした。
俺は車椅子を押していた。
「なんで……言わなかったんだよ…………」
「言えないよ……。だって、私、こんなになっちゃったんだよ? あんなに可愛かったのに……」
「知るか……。お前は今も可愛いって……」
「こんななのに……?」
「関係ねーよ。馬鹿」
「ふふ……ほんと、あんたって私のこと好きだね」
「ああ、ずっと好きだった……」
「うん、知ってた……」
なんだ、知ってたのか。
「私も……ずっと好きだったよ。今も好き」
「うん、知ってた」
「なんだ、知ってたのか」
「俺たち……いうのが遅すぎたよな……」
「うん、なにもかも……」
俺は、凛音が亡くなるまで毎日病院に通った。
けど、彼女はよくなるどころか、日に日に悪くなる一方だった。
俺たちは何度も愛を伝えあった。
それだけが、生きる頼りだった。
「ねぇ、結婚してくれる……?」
「もちろんだ。俺が18になったらすぐにしてやる」
「あーでも、そのころには私、生きてないかもね。先生、桜はもう見れないって言ってたよ?」
「バカ、そんなこと言うな。俺が地球温暖化を進めてでも見せてやるよ」
「ふふ、じゃあ間に合わなかったら来世で結婚しようね?」
「うるさい。今すぐする」
その夢は、叶わなかった。
桜を見るのを待たずして、凛音は死んだ。
俺は泣いた。
地球上の水がすべて枯れてしまうんじゃないかというほど、泣いた。
けど、彼女は……時間は帰ってこなかった。
彼女が眠るその横で、俺も睡眠薬を飲んで、そのまま自殺した――。
「私が死んだらさ……一緒に死んでくれる……?」
そう言った彼女の手は、声は、震えていた。
死ぬ間際に彼女が言った言葉だ。
「ごめん、やっぱ今のなし。あんたは死ぬほど長生きして。それからこっちに来て。絶対だよ? そして、生まれ変わったら、絶対に私を見つけて――」
今思えば、それは彼女の初めて見せた弱さで、つよがりだったのだと思う。
俺はその約束を守れなかった。
彼女がいない世界を、これ以上見ていたくなかったのだ。
◆
――だから、俺はそんな辛い記憶に、蓋をしていたのだ。
生まれ変わった直後は、思い出すことすらなかった。
今、魔神ダッカーに言われて、すべてを思い出した。
そうだ……凛音!
俺は凛音に会わなければいけない。
俺は、凛音に会うために、もう一度生まれ変わったのだから……!
「アーデ……! アーデ――凛音……! 凛音……!」
俺はアーデの元へ走っていた。
「凛音……! お前、凛音なんだろう……? 俺だよ、俺……! 朔夜だよ……!」
俺がいきなりそう言うと、アーデは――凛音はすべてを察したようで、
「朔夜……くん…………?」
「ああ、そうだ……! 凛音……!」
「朔夜くん……! 朔夜くん……!」
俺たちは涙を流して、抱き合った。
その日は、この地球上の水がすべて枯れてしまうんじゃないかというほど、二人で泣いたのだった。
俺は……俺たちは、最初から気づいていたのかもしれない。
素直になるのが、遅すぎたのかもしれない。
俺たちは、いつもそうだった。
過ぎ去った時間は、戻ってこない。
前世に戻ることはできない。
けど……これからの未来を二人で作っていくことなら、できる。
俺の救いたかった女の子は、アーデだった。
今度は、ちゃんと救えたのだろうか…………?
リメイク版という私の勝手にお付き合いいただき
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