表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【欠損奴隷を治して高値で売り付けよう!】破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します  作者: みんと
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/43

第18話 オットーの矢★


 僕、オットーは、相変わらず冒険者を続けていた。

 もちろん、アカネとドミンゴも一緒だ。

 魔王は倒れた、けど世の中にはモンスターがまだまだいっぱいいて、冒険者の仕事が尽きることはない。

 エルド様にとっても、冒険者稼業は安定して稼げる収入源だ。

 僕たちは相変わらず、エルド様のために日々仕事をしている。


 僕の村――ムラノセ村は、数年前に奴隷狩りによって滅びた。

 僕もそのときに怪我をしてつかまり、そしてエルド様に拾われたのだ。

 ある意味、奴隷狩りのおかげで、エルド様に拾ってもらえたんだけど、でも……それでも、故郷の村を焼かれた怒りは、残っていた。

 もちろん、エルド様に対しては感謝の気持ちしかない。

 ただ、僕が恨んでいるのは、あのとき僕らの村に火を放った、あの奴隷狩りたちだ。


 奴隷狩りは、基本は違法に行われている。

 奴隷の取引は合法だし、貴族が合法的に奴隷狩りを行うという制度もある。

 けど、僕らの村を焼いたのは、ただ金儲けがしたいだけの、下っ端奴隷狩りたちだ。

 彼らのやったことは、問答無用で違法行為。

 ただ、奴隷狩りで安く奴隷を仕入れられるからと、ある程度国から黙認されているだけのこと。


 僕はいつかこの手で、あのときの奴隷狩りたちを、逆に狩ってやろうと思っていた。

 冒険者ギルドにやってきて、いつも確認するのは、クエストボードだ。

 クエストボードにはたまに、盗賊団の討伐依頼が貼られていることがある。

 奴隷狩りなんてのを違法にやるのは、だいたいが盗賊団の副業だ。

 だから、盗賊団の討伐クエストをこなしていれば、いつかはあいつらと戦えるかもしれないと、そう思っていたのだ。


 今日も、僕はやつらを探して、クエストボードを眺める。


「あった……!」


 盗賊団の討伐依頼が貼られていた。

 僕は迷わず、それを手にとる。

 ドミンゴが言った。


「オットー、また盗賊団の討伐依頼か……? お前、盗賊潰すの好きだなぁ」

「ちょっと、個人的に恨みがあってね」

「復讐か……。復讐はなにも産まねぇぜ?」

「わかってる……。けど、どうしても……自分の腕を試したいんだ」

「なるほどな、わかった。付き合うぜ」

「ありがとう」


 あのとき、もっと僕に力があれば、村を守れていたかもしれない。

 家族を失わずに済んだかもしれない。

 僕にもっと弓の腕があれば……。

 けど、今の僕には、その力がある。

 エルド様が与えてくれた力が……。

 待っていろよ、盗賊団……。

 僕がハントしてやる……。



 ◆

 


 盗賊団のアジトは、東の森の奥地――《黒茨の谷》にあるという情報だった。

 名前の通り、そこはトゲのある黒い蔓が絡み合い、獣すら寄り付かないと言われる危険地帯だ。


 だけど、僕たちは迷わなかった。

 アカネが魔法でルートを照らし、ドミンゴが罠を解除しながら前進してくれる。


「さすが盗賊の根城だな。地雷原かってくらい罠だらけだぜ」


 ドミンゴが苦笑する。


「でもこれって逆に言えば、やましいことをしてるって証拠よね」


 アカネが冷静に言う。

 僕は、言葉少なにただ前を見ていた。

 あのときの火の手。

 逃げ惑う村人。

 焼け焦げた実家の柱……。

 そして、何もできなかった自分。


 今の僕は、違う。


「……あった。あれが、アジトだ」


 森を抜けた先、崖の中腹に木造の砦が築かれていた。

 野営地というよりは、ちゃんと整備された拠点だ。

 それだけ奴らが、長く活動していた証拠だろう。


 見張りの盗賊が二人。

 あのシルエット――間違いない。

 ようやく見つけたぞ……!


 あの日、僕の村を焼いた奴の一人――

 片目に黒い眼帯をつけた、斧使いの男。

 僕の腕を切り落とし、奴隷商に売り飛ばしたやつ……。

 名は……たしか、【ザム】。


 僕は静かに、弓を構えた。


「アカネ。魔力視で、砦内部の人数を確認して」

「了解。……合計十三人。ほとんどが中級クラスだけど、一人だけ魔力が突出してるわ。多分、ボス」


 ボスがいるのか――

 じゃあ、そいつも……あのときの火付け役かもしれない。


「ドミンゴ、突破口を頼める?」

「合図くれよ。お前が撃った瞬間に、派手に暴れてやる」

「……よし」


 僕は、深呼吸した。

 風を読み、重力を感じ、弓に魔力を込める。

 静かに、しかし強く――


 ――弓を放った。


「――っ!? がっ……!」


 ザムの頭部に、音もなく矢が突き刺さった。

 即死だ。音すら届かない速さで、彼は崩れ落ちた。


「いっけぇぇぇえええええ!!!!」


 ドミンゴが咆哮し、前衛として突撃する。

 僕は次々と矢を放つ。

 すべての矢が、確実に急所を射抜いた。


 盗賊たちはパニックに陥った。

 仲間が一瞬で五人、六人と倒れていく。


「や、やべえ! あいつら、冒険者か!?」 「逃げ――ぐあっ!!」


 逃がさない。

 僕の弓は、逃げる背中を許さない。


「アカネ、援護魔法! ドミンゴをサポートして!」

「了解。加速魔法(フロスト・ブースト)展開!」


 ドミンゴが倍速で動き、残った盗賊をなぎ倒す。


「おい、ボスを呼べ! こいつら、ただの冒険者じゃねえ!!」


 そのとき、砦の奥から、重々しい足音が響いた。


 現れたのは、仮面をかぶった男。

 筋骨隆々の体格で、手には黒い大斧を持っている。


「お前が……ボスか」

「ふん、名乗るまでもないがな。俺は【赤焔のヴァリク】。この黒茨の谷を仕切ってる。貴様らが誰の差し金かは知らんが――」

「僕の村を焼いた盗賊団の一人だな?」


 僕が言うと、仮面の男は静かに笑った。


「へぇ、なるほど……復讐か……。おもしろい。ただなぁ、村なんて一生のうちで数え切れんほど焼いたからなぁ……。どの村のこといってっかわかんねぇなぁ」

「下衆野郎が……!」


 僕は弓を引いた。

 心の底から、力が湧いてくる。


「お前を『狩』る……!」


 ヴァリクは大斧を構えるが、僕はそのわずかな隙を見逃さなかった。


鷹の目の雨(ホークアイ・レイン)――!」


 無数の光矢が空に浮かび、雨のように降り注ぐ。

 そのすべてが、ヴァリクの四肢と急所に突き刺さった。


「が、あああああっ……ぐっ、馬鹿な……!」


 ヴァリクの膝が折れ、前のめりに崩れる。


「復讐なんて、なにも生まないって言われたよ。けど……」


 僕は、歩いて近づき、最後の矢を放った。


「僕の中では、これが『始まり』なんだ……!」


 矢は、迷いなく、ヴァリクの心臓を射抜いた。


 

 ◆

 


 砦は、無事に冒険者ギルドに報告され、取り潰しとなった。

 僕たちは大きな報酬を受け取り、静かに帰路につく。


「やれやれ……オットー、お前マジで怖かったぜ」


 ドミンゴが笑って言う。


「……ありがと。二人がいてくれて、助かった」


 僕は、空を見上げた。


 ――ようやく、過去に決着をつけられた気がした。


 けど、これで終わりじゃない。

 僕の矢は、まだまだたくさんの人を救える。

 それを教えてくれたのは、エルド様で――


 そして、仲間たちだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ