第17話 幽霊屋敷の首吊り少女★
ある日のこと、いつもと違う奴隷市場に行くために……隣街を歩いていると、焼けただれた屋敷の前を通りがかった。
屋敷は真っ黒に焼けこげていて、廃墟と化している。
とても不気味な雰囲気で、肝試しなんかしたら怖そうな感じだ。
いったいここで、なにがあったのだろうか……?
俺が立ち止まり、その屋敷を見ていると、通りがかった老人が、口を開いた。
「あんた、この屋敷が気になるかい?」
「まあな……。なんだか不気味で……不思議な感じのする屋敷だ」
「ここではな、悲しい事件があったんじゃよ……」
「悲しい事件……?」
俺は気になったので、老人に詳しく話をきくことにした。
「数年前のことじゃ……。ここはとある貴族の屋敷じゃったのだが……。ある日のこと、その貴族の娘さんが、首吊り自殺をしたのじゃ」
「それは……気の毒な話だな……。だがなぜ、首吊り自殺で屋敷がこんなことになる……? まるで焼身自殺でもしたかのような感じの廃墟だが……」
俺の疑問に、老人は皮肉な笑みをこぼす。
「ふふ、それがな……。焼身自殺もあったんじゃよ」
「な、なんだって……!?」
「貴族の娘は二人おったんじゃ。まず、妹が首吊り自殺をした。そのことでひどく悲しんだ姉も、死ぬことを選んだのじゃよ。最愛の妹と過ごしたこの屋敷ごと、火をつけたのじゃ」
「とんでもない話だな……」
「ああ、それで、もちろん、親である貴族の旦那は、それはもう酷く悲しみに暮れた……。一時は自分も死のうかと思うほどにな……。じゃが、結局その男は死ねなかったそうじゃ。それで、屋敷を直す気にもなれずに、そのまま放置されておるわけじゃ……」
「そりゃあまあ……そんなことがあったんじゃ、無理もないな……」
「男は今は、街の小さな家でひっそりと、死んだように暮らしておるそうじゃ……」
「なんだか……怖い話というか、気の毒な話というか……。救われないな……でも、話てくれてありがとう」
「なぁに、歳をとるとこういう話をするくらいしか楽しみがなくてな。こちらこそ、きいてくれてありがとうの」
老人の不思議な話を聞いた俺は、なんだか心が浮ついて、地に足のつかない感覚を覚えた。
そして、奴隷市場へやってきた俺は、いつものように奴隷を買った。
俺が買った奴隷の一人は、首に酷い痣があって、もう一人は、全身に酷いやけどを負っていた。
しかも、二人は姉妹なのだそうだ。
さっきあんな話があったから、同情して姉妹を買ったってわけじゃないが……。
なんだか、症状もさっきの話の姉妹と似ているような……?
まさかな……そんなはずはないよな……。
だって、あの話の姉妹は確かに死んだはずだから……。
俺は家に帰って、奴隷の姉妹を治してやった。
姉妹は、オレンジとアザレアという名前らしい。
二人は元気になると、俺に頭をさげて感謝した。
「治していただいて、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
そして、一週間ほど、二人はよく働いてくれた。
事件は、その後起こった。
ある日のこと、俺が目を覚ますと、なにかがおかしいと感じた。
そして、しばらく過ごしていると、ある異変に気付いたのだ。
あの姉妹がいない。
オレンジとアザレアが、屋敷のどこにもいないのだ。
俺は屋敷の中をくまなく探したが、彼女たちは見当たらなかった。
まさか、逃げたとか……?
いや、そんなはずはない。
奴隷が勝手に逃げたら、奴隷紋でわかるはずだ。
いったいどういうことなんだ……?
俺は、アーデにきいてみた。
「なあ、今朝からオレンジとアザレアを見ないんだが……。どこに行ったか知らないか?」
俺が、アーデに尋ねると、アーデはまさかの答えを言った。
「オレンジ……? アザレア……? それって、誰のことですか……?」
「え……? は…………?」
「旦那様、夢でも見ていたんじゃないですか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……! この一週間、この屋敷で働いていたじゃないか……! オレンジとアザレアだよ……! おまえも話をしていた……! ていうか、奴隷市場にも一緒に買いにいったじゃないか!」
「ちょっと……記憶にないですけど……。もしかして、キツネにでもつままれましたか?」
「そんな……バカな…………」
俺は、どうにかなってしまったのかと思い、何度も頬をつねった。
しかし、これは夢ではない。
ならいったい、なにがどうなってしまったんだ……!?
不思議な感覚が抜けないまま、俺は、またあの屋敷を見に、隣町へ行ってみることにした。
すると……。
「嘘だろ…………」
あの屋敷があった場所は、農地になっていた。
というか、最初から屋敷なんかなかったように……全然別の風景が、そこにはあった。
「ど、どうなってるんだ……。なあ、あんた……!」
俺はその農地で作業をしていたオッサンに、話しかける。
「この土地は、前は屋敷じゃなかったか? なんか、屋敷の廃墟があったはずだ! 違うか……!?」
すると、またしても、オッサンはとんでもないことを言った。
「ああ、確かに……あんたの言う通り、ここは前は廃墟だったさ。けど、それはもう何十年も前のことだぜ……?」
俺は、背筋がすうっと凍るのを感じた。
あれは……いったいなんだったのだろう……。
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