第4話 奴隷を鍛えよう
エルフの奴隷少女アーデを買っても、まだ俺の財布には余裕があった。
欠損奴隷ということもあって、アーデはかなり安かったからな。
アーデを買った翌週も、俺は奴隷市場についていくことにした。
今回のお目当ては男の奴隷だ。
今後、いろいろと金が必要になってくるだろう。
破滅フラグを回避するために、金がたくさんあれば安心だ。
だから、俺は金もうけの手段を考えたのだ。
男の奴隷を買い、冒険者として働かせる。
そうすれば、安定して収入が手に入るということだ。
しかも仕入れ値は欠損奴隷だからめちゃくちゃ安く済む。
俺は男の奴隷を買って、そいつを鍛えるつもりだ。
いきなり冒険者として働かせるのは危険だからな。
そうやって奴隷を育てて成長させることで俺の影響力を高めることもできる。
俺の奴隷が有能になれば、それだけ俺の立場も強くなるわけだ。
破滅回避のためには、根回しも欠かせない。
奴隷に冒険者をさせて、クエストで名を売るのも悪くない。俺の奴隷が優秀だと知れ渡れば、他の貴族も俺に接触してくるかもしれない。影響力を高めておくのは大事だ。
奴隷の質を高めることで、いずれ商会としての信用も上がる。
なるべく、欠損奴隷の中でもガタイがよくて、やる気のありそうなやつを選ぼう。
俺が目をつけたのは、オーク種の奴隷だった。
オークはガタイがよく、体力もある亜人種だ。
そのため、オーク奴隷はよく肉体労働なんかに使われる。
工房なんかで職人奴隷として働かせたり、冒険者紛いのことをさせられたりもする。
オークなら、冒険者として働かせるのにうってつけだろう。
俺は腕のないオークを見つけて、そいつを買うことにした。
値札を見て、あまりの安さに仰天する。まさに子供の小遣いでも買えるようなレベルだ。
俺は店主にその奴隷をくれと話しかけた。
「お客さん、本当にいいんですかい? 腕のないオークなんか……なんの役にもたちませんよ?」
「こいつが役に立つかどうかは俺が決める。いいからこいつをくれ」
「へいへい」
俺がそいつを買っていくと、まわりにいた他の奴隷商人たちが冷たい目であざわらってきた。
「あいつ、あんなゴミを買っていって、どうする気だ……?」
「まだ子供だからよくわかってねぇんだろ」
ふん、勝手に言ってろ。
◆
俺の買ったオークは、ドミンゴという名前だった。
俺はドミンゴを家に連れて帰り、さっそく腕を生やしてやることにした。
最初、ドミンゴの目には光が灯っていなかった。
「俺を買ってどうするんです。なにもできることはありませんよ。どうせ腕を失ったオークなんか……死ぬしかないんだ……」
「それはダメだ。死ぬ前に、俺のために働いてもらう」
俺はドミンゴに手を当て、回復魔法を唱えた。
「ヒール!」
――キュアアアン!!!!
ドミンゴの腕は回復魔法に反応して、筋肉がうごめきながら徐々に形作られていく。
ドミンゴの腕が生え、彼の目にも生気が戻る。
それは、再び腕が動くという希望の光だった。
「こ、これは……!? すごいです。俺の腕が……!」
「ほら、これでお前にもまだ働けるだろう?」
「ありがとうございます……! なんとお礼を言えばいいか……」
「礼はいらない。その分働いてくれさえすればな」
俺はドミンゴを冒険者としてクエストに出すつもりだ。
だがその前に、ドミンゴを鍛えることにする。
腕のリハビリもあるからな。
昨日まで腕のない、ずぶの素人だったんだ。
これから最低限鍛えてからじゃないと、またけがをするだけだ。
「よしじゃあドミンゴ、今日から数週間、鍛えてくれ。剣と修練場は自由に使ってくれていい」
「ありがとうございます! きっとご主人の期待にこたえられるよう、がんばってみせます!」
「よし」
それからドミンゴは、ひたすらに剣を振り続けた。
怪我をしたり筋肉痛になれば、俺がすぐに回復魔法をかける。
その繰り返しで、ドミンゴはわずかな短期間でどんどん成長していった。
ドミンゴは剣の振り方すら忘れかけていたが、すぐに体が思い出したようで、オークらしい力強い太刀筋を見せてくれた。
初日はまともに剣も握れなかったが、3日目には動きが滑らかになった。
これなら実戦でも通用するだろう。
「よし、そろそろクエストに行っても大丈夫なころだな。ドミンゴ、街へ行って冒険者として登録してきてくれるか? あとは適当に、金を稼いでくれればいい。その間は自由にしていていい」
「ど、奴隷の自分が冒険者ですか……? しかも、そんな自由でいいんですか……?」
「なにか問題が……?」
「いえ、ただ……奴隷が冒険者なんて、あまりきかないもので……」
普通、奴隷にそこまでの自由を与えるものは少ない。
だがドミンゴは俺のことを信頼してくれているようだし、ある程度好きに動いてもらって大丈夫だろう。
「そうだな。クエストの報酬の8割を俺にくれればいい。あとの2割は次の冒険の予算にするなり、自分の小遣いにするなりしてくれ」
「そんな……! 奴隷の俺に、お金までいただけるんですか……!?」
「そのほうがクエストのパフォーマンスもあがるだろう? 息抜きは必要だ。その分、さらに稼いでくれれば問題はない」
「なんと言えばいいか……。腕を治してもらったうえ、こんな寛大な措置……。ここまでのチャンスをくださり、ありがとうございます……!」
ということで、ドミンゴを自由行動にしてクエストに出してみることにした。
夕方、ドミンゴはいくつかのクエスト報酬を手に、屋敷に戻ってきた。
「おおー! さすがはドミンゴ。けっこうな報酬になるじゃないか」
「これも、すべてご主人様のおかげです」
この調子でドミンゴを稼働させ続ければ、安定して報酬が手に入る。
ここでの報酬をもとに、また新たに奴隷を仕入れたりできるしな。
それに、破滅回避を考えれば、金はいくらあってもいい。
備えあれば患いなしだ。
金は今後どんどん貯めていこう。
「本当にご主人様はすごいです。奴隷の自分を信頼して、ここまで任せていただけるなんて……。本当にお優しくて、人ができていらっしゃる。こちらも、この恩に報いるべく、やる気がでます」
「ふん、勘違いするな。これはあくまで金のためだ」
「そういうことにしておきます」
実際、俺は自分の破滅回避のことしか考えてなどいない。
ドミンゴがやりがいを感じたり、快適に過ごせていたりなど、俺の興味の範疇外だ。
だが、それで感謝されるのであれば、それに越したことはない。
俺に味方する奴隷は、多ければ多いほどいいからな。
◆
【sideドミンゴ】
俺はオークのドミンゴ。奴隷市場で、奴隷として売られている。
オークってのは、けっこう奴隷として人気だ。
体力もあるし、ガタイもよくて、なんでもできる。
戦闘や過酷労働には、身体が丈夫なオーク奴隷がもってこいだった。
だが、俺は奴隷市場の片隅で、いつまでも売れ残っていた。
俺には腕がなかった。奴隷になる前に怪我をして、そのせいで腕を失った。
そんな俺だから、奴隷としての価値はほとんどなかった。
腕のないオーク奴隷なんて、誰も欲しがらないだろう。
それに、俺はむさ苦しいオッサンだ。女奴隷のように性奴隷としての価値もない。
腕がなくても女で顔がよければ、物好きが買っていくだろう。
だが俺なんかじゃ男娼としての価値もない。
俺は自分の人生に絶望しきっていた。
奴隷の身に落ちたこともそうだし、奴隷としてすら需要がないなんて。
せめて誰かに買われて仕事をもらえればと思ってしまう。
そうすれば、いずれ奴隷の身から解放される日がくるかもしれない。
それに、仕事があればやりがいもある。やりがいがあれば、生きる気にもなる。
だが今の俺は、誰からも必要とされず、こうして奴隷市場の片隅で、処分される日を待つのみだった。
そんな俺に、ある日転機が訪れる。
俺なんかを買っていった奴隷商人が現れたのだ。
また無駄なゴミだと言ってひどく扱われるのかと思ったが、違った。
「死ぬ前に、俺のために働いてもらう」
その少年は、俺にそう言った。
そして、俺の腕に回復魔法を施した。
「こ、これは……!? すごいです。俺の腕が……!」
回復魔法を受けて、なんと俺の腕が元通りになった。
俺は信じられない思いだった。
今まで死んでいた俺の目にも、光が戻る。
あきらめていたのに、ここにきて希望が持てるなんてな。
ふつう、失った腕を回復させようと思ったら、大賢者に高額を支払って治してもらうか、エリクサーなどの超高級薬品を使うかだ。
だがしかし、誰も奴隷にそんな大金をかけてまで、治療するような馬鹿はいない。
そんなことをするくらいなら、同じ値段を出せば健康で有能な奴隷がいくらでも買えるのだから。
だがこのエルド様というお方は、自らの回復魔法で俺を癒してしまわれた。
このちいさな少年に、まさかそこまでの才能があるなんて。
しかもエルド様は、俺を治療してくださっただけではなく、あろうことか、とんでもないことを言い出した。
「よしじゃあドミンゴ、今日から数週間、鍛えてくれ。剣と修練場は自由に使ってくれていい」
エルド様はそう言うと、俺に剣を渡し、訓練施設を与えてくださった。
奴隷である俺に、剣を渡してしまうなんて。反抗が怖くはないのだろうか。
奴隷は主人に手をあげることはできない。だが、剣さえあれば、周りの人間を人質にとったり、いろんな悪さをするかもしれない。
それなのに、このお方は迷いなく俺に剣を渡したのだ。
わざわざ奴隷を訓練などさせなくてもいいだろうに、訓練施設まで与えて。
奴隷なんてのは、基本が使い捨てだ。いくらでも湧いてくる。
だから、奴隷が死んでもさほど誰も気にしない。代わりを使えばいいからだ。
それに、元々有能な奴隷を雇えばいいだけの話。
それなのに、この人はわざわざ俺に訓練をしろと言う。
クエストに出て死なないために、訓練をしろと言うのだ。
俺は必死に期待に応えようと、剣を振るった。
最初は剣の振り方も忘れていたが、次第に感覚が戻ってきた。
俺はかつて戦士だった。
もう忘れたと思っていたが、剣を握れば体が思い出す。
三日目には、かなり慣れてきて、剣も軽々と扱えるようになっていた。
「よし、そろそろクエストに行っても大丈夫なころだな。ドミンゴ、街へ行って冒険者として登録してきてくれるか? あとは適当に、金を稼いでくれればいい。その間は自由にしていていい」
「ど、奴隷の自分が冒険者ですか……? しかも、そんな自由でいいんですか……?」
「そうだな。クエストの報酬の8割を俺にくれればいい。あとの2割は次の冒険の予算にするなり、自分の小遣いにするなりしてくれ」
「そんな……! 奴隷の俺に、お金までいただけるんですか……!?」
なんとエルド様は、俺をそこまで自由にしてくださった。
これじゃあ奴隷というよりは、正規の傭兵に近いような仕事だ。
こんな待遇は、普通に仕事を探してもなかなかないだろう。
俺は腕を失ってから始めて、人間扱いをされたような気がした。
エルド様に与えられた仕事は最高だった。
クエストをこなし、その報酬を渡す。
クエストを受けてそれを自分の腕でクリアするのは、とてもやりがいがあった。
これじゃ奴隷じゃなくて、まるで普通の冒険者だ。
今まで腕を失って絶望していた俺だ。
自分の腕で稼いで、それで食う飯は最高に美味かった。
エルド様から2割のお金は自由に使っていいと言われているので、クエストの帰りに飯屋にいったりもした。
そんな日々を送るのは、やりがいにあふれていて、生きてるって感じがした。
誰からも必要とされない。そう思っていた俺に、再び光が差したのだ。