第15話 手柄を押し付けよう!
「は…………?」
アルトが、死んだ。だと……?
いや待て待て待て待て。
主人公だぞ……? 主人公死んだ……?
え……? マジ……?
せっかく俺が鍛えて、魔王を倒せるようにしたつもりだったのに。
魔王強くね……?
え、マジ……?
頭が真っ白になった。
アルトが、死んだ……。
そんなことが、本当にあり得るのか。
アルト、いいやつだったよな……。
俺のために必死で魔王を倒そうと、頑張ってくれていた。
さすがは主人公。憎めない、とってもいいヤツだった。
そんなアルトが死んで、俺も悲しい。
だが、いつまでも悲しんではいられないのだ。
じゃあ俺の計画は?
アルトに魔王を倒させて、クレアを押し付ける計画は……?
くそ……どうすればいいんだ。
おお勇者よ死んでしまうとは情けない。
「エルド様、次の御指示をください」
「あ、ああ……」
俺はひどく動揺していた。
アルトが死んだということは、じゃあ誰が魔王を倒すんだ……?
そう、俺しかいない。
アルトのことはレベル8400まで育て上げた。
それでもアルトは魔王に敗れた。
もしかして、光の力に覚醒していなかったからなのか?
じゃあ、魔王を倒せるのなんて、俺くらいしかいないんじゃないか?
くそ……結局そうなるのか。
アルトに全部を押し付けるつもりだったのに、結局俺が動かなきゃいけないのか。
運命は、俺を放してはくれないようだ。
「よし……俺が出る」
俺は、覚悟を決めた。
俺がアルトの仇を討つ。
もう他に、それしか方法はないだろう。
◆
ドミンゴと合流し、俺は魔王城の中へ潜入する。
闇魔法でドミンゴのもとまではすぐに転移できた。
「おい、本当にアルトは死んだのか……?」
「ええ……。俺はなんとか逃げれたんですが、アルトは即死でした……」
「っく……そうか……」
ドミンゴの案内で、俺は魔王の部屋の前へ。
「いくぞ……!」
魔王の部屋に押し入ると、そこには血まみれで倒れているアルトの姿があった。
「アルト……!」
駆け寄ろうとすると、魔王が奥から姿を現した。
禍々しいオーラを放ち、魔王はこちらに近づいてくる。
「おや……? 倒したと思ったら、また人間か。おや、貴様は水晶にも映っていた回復術師の男。ちょうどいい、貴様を倒せばすべて片付くと思っていたところだ。まさかそちらからのこのこと現れるとは」
「ふん、それはこっちのセリフだ。お互い、大将同士の決着といこうじゃないか」
俺は魔王と対峙する。
たしか、ゲームでの魔王のレベルは8000ほどだったはずだ。
レベル9999の俺なら、楽勝だろう。
「愚かな人間め……! 死ねえええええ!」
魔王の攻撃を、俺は片手で受け止める。
「なに……!?」
「面倒はごめんだ。一瞬で終わらせる。
黄昏よりも昏きもの――血の流れより紅きもの――
我ここに闇に誓わん――等しく滅びを与えんことを!
覚醒神技――闇魔法グリモア参ノ章――霧雨」
――ズバババババ……!!!!
その瞬間、魔王の身体が無数に切り刻まれる。
「があああああああああああああああああ……!!!!」
決着は一瞬で着いた。
魔王といえども、しょせんはゲームの表ボスだ。
俺のレベル9999といえば、ゲームの裏ボスをも倒せる
「ふぅ……」
魔王を瞬殺した俺は、その場で一息つく。
だが、問題はここからだ。
なんとか俺が倒したことじゃないってことにできないかな……。
「すごいですエルド様! さすがです! 魔王をも瞬殺とは……」
と、ドミンゴがなかば驚きながら、俺をほめたたえる。
俺はドミンゴのほうを向き、すこし考えた。
こいつが倒したことにできねえかな……。
いや、まあでもドミンゴは俺の奴隷だからな。
どっちみち、俺の手柄になってしまう。
やはり、アルトがいてくれればな……。
そのときだった。
「う、うぅ…………」
血まみれで倒れているアルトの死体から、わずかにうめき声があがる。
ま、まさか……!
俺はアルトに近づいていって、脈を確認する。
「まだ息がある……。わずかにだが、死にかけているが生きているぞ!」
これは希望が見えてきたな。
アルトが生き返れば、すべてが解決する。
「エルド様……!」
「ああ、俺が回復させる……!」
俺はすぐさま、アルトに回復魔法を使った。
しかし、俺のヒールを使っても、すぐには治療できない。
アルトの状態は、それほど悪かった。
欠損や血などの外傷はなんとかなるが、なかなかアルトは目を覚まさない。
それでも俺は、必死にヒールをかけ続けた。
こちらにも、かなり負担がかかる。
やはりこのレベルの傷をいやすには、かなり負担が大きいようだ。
だが、俺は決してあきらめない。
なんとしても、アルトを蘇生させる。
なんとしてもアルトを英雄にするんだ……!
「うおおおおおおおおおお!!!! よみがえれえええええええ!!!!」
正義のその奥で夢が息づいているんだあああああ!!!!
呼び覚ませ、鮮やかに!!!!
すると――。
「うぅ……ここは……? あれ? エルド様……?」
「アルト……!!!!」
俺は思わず、アルトにハグをしていた。
おっしゃあああああああああああ!!!!
アルトよみがえったああああああ!!!!
首の皮一枚つながった気分だった。
これで、アルトに押し付けられるうううううう!!!!
やっぱこいつさすがは主人公だわ。
主人公がそう簡単にくたばるわけねーもんな!
よしよし!
あとは魔王はアルトが倒してたことにすれば、万事解決だ!
◆
【sideアルト】
「アルト……!!!!」
「あれ……? エルド様……?」
深い眠りに落ちていたような気がする。
俺は、重たい体を持ち上げて、なんとか起き上がる。
目の前には、よろこんで俺をハグするエルド様がいた。
あれ、なんでエルド様そんなによろこんでるの……?
ていうか、ここはどこ……?
「そうだ……俺は魔王を倒さないと……」
記憶が混濁している。
だが、どういうことだ……?
エルド様の後ろには、魔王の死体があった。
っは……! まさか……! そうか、きっとエルド様が倒したに違いない!
さすがはエルド様だ。
そうだよな、エルド様なら、そのくらい可能だもんな……!
エルド様の顔をみると、エルド様はひどく疲れた顔をしていた。
きっとすさまじい戦いだったのだろう。
俺はそう思い、エルド様に労いの言葉をかけようとした。
その時――。
「いやぁ、アルトお前ほんとすごいなあああ!!!!」
「え……?」
エルド様は俺の肩をつかんで、食い気味にそう言ってきた。
「一人で魔王を倒してしまうだなんてなぁ! さすがは俺の見込んだ通りの男だ! な、なあドミンゴ!」
エルド様は後ろのドミンゴにもそう同意を求める。
ドミンゴは困惑しながらも、懸命にうなずいて同意した。
「そ、そうですねエルド様! さすがエルド様のご慧眼です。アルト、よくやったな!」
などと、エルド様もドミンゴも、俺のことをほめたたえる。
どういうことだ……?
「お、俺が……魔王を……?」
「そ、そうだぞぉー! お前すごかったんだから、記憶を失って暴れまくってたんだから! 魔王を倒したあとは疲れて倒れちゃってたんだから! そこを俺がかけつけて、回復魔法をかけたってわけさ」
「そ、そうだったんですか……?」
なんだかそう言われても、まったく記憶にない。
ぜんぜんピンとこないなぁ……。
俺が、本当に魔王を……?
だけど全然記憶にない。
だけどまあ、エルド様が言うのだから、そうなのだろう。
うん、エルド様は絶対だ。嘘なんかつくはずないもんな!
「エルド様! これもエルド様のおかげです! ありがとうございます!」
「いやぁ、全部アルトの才能だね! よくやったよ! うん!」
エルド様に褒められて、俺は素直にうれしかった。
これまで、魔王を倒すために必死になってがんばってきたんだ。
一番認めてほしかった人に、こうまで言われると、俺も感無量だ。
「あれ、でもエルド様、かなりお疲れのようですが……なにかあったのですか?」
「あ、ああ……それは、お前を治療したからだよ。お前は魔王との戦いでかなり消耗して、死ぬギリギリだったんだから」
「そうだったんですか……。エルド様、俺を助けてくれてありがとうございます」
「なに、魔王を倒した勇者さまだ、死なせるわけにはいかないだろ」
俺はエルド様に心から感謝した。この人には、これからも一生尽くそう。
◆
【sideエルド】
ということで、なんとかアルトは騙せたな。
だが、問題は王様とクレアだ。
あの二人をなんとかしないと……。
俺は魔王を倒したことを報告するために、アルトとドミンゴを連れて王城へ。
「ということで、王様! 見事、魔王を討ち取りました!」
「おお! エルドよ、ご苦労だったな。すばらしい! さすがは我が娘の婚約者だ……!」
う……。胃が痛い。
ゲロ吐きそうだ。
なんとかここから話を婚約破棄の方向にもっていかないと。
「い、いえ……。それがですね、魔王を倒したのは私ではありません……」
「なんと……! そうなのか? では、誰が?」
「それはこちらの、アルト・フランシフォンであります!」
俺は王様に、アルトを紹介する。
「王様、お初にお目にかかります。アルト・フランシフォンです」
「おお、君が……。それは素晴らしい功績であったな。あとで褒美をとらせよう。もちろん、エルドくんにも」
だが、俺はそれを否定する。
「待ってください王様、俺は褒美を受け取る立場にございません」
「なに……?」
「実は、俺はアルトに魔王討伐を押し付け、砦で引きこもっていました。俺はとんだ腰抜けです。なので褒美もいりません! それに、クレアさんにも俺のような男ではなく、アルトのほうがふさわしいと思います!」
俺は早口でまくしたてた。
それを、アルトが否定する。
おい、いらんこと言うな!
「待ってください、エルド様は砦でみんなを治療していたじゃないですか! 本当の功労者はエルド様ですよ! 俺を瀕死の状態から救ってくれました!」
おいマジでコイツ……いらんこと言うなし。
「それは、本当か? なぜそうまで謙遜して褒美を拒む?」
と、王様が尋ねてくる。
「いえ、それもアルトの作り話です。俺に情けをかけて、こういってくれているんです。アルトは出来た男ですから。そうです、アルトこそ勇者にふさわしい、ぜひクレアさんとの婚約の話もアルトに……」
「むぅ……とにかく、おぬしはよほど褒美がいらんようじゃな? まあいい。そうまで頑なに言うなら、褒美はすべてアルトにやろう」
アルトは、びっくりしながら、俺に問いかける。
「エルド様……。いいんですか……?」
うん、これでいいからあっち向け。
これ以上ここにいると、墓穴を掘りかねん。
とりあえず王様にアルトを押し付けて、俺は逃げるとするか。
「じゃあ、俺はこれで……! 俺のような役立たずは消えますね!」
「あ、エルド様……!?」
にっげるんだよおおおおおおおおおおおおおおお~~~~!!!!
俺は全速力でその場から逃げた。
もう知らん。あとは勝手にしてくれ。
◆
【side:王】
「なんじゃったのだ……あやつは……」
「さぁ……」
エルドが走って逃げてしまい、私とアルトが取り残される。
せっかくエルドには褒美をやろうと考えておったのだがな……。
それに、クレアのことも。
だがしかし、あそこまで拒むとは。
仕方のない男だ。
まあ、彼にも彼なりの事情というものがあるのだろう。
救国の英雄、そこは汲んでやるかの。
「それでクレア、お前はいいのか? それで」
私は後ろで隠れていたクレアに問いかける。
クレアはエルドに、思いを寄せていたはずだ。
「わ、私は……構いません……。エルド様のお相手は、私では務まらないでしょう……。エルド様がお付きのエルフの少女を見る目、あんな姿を見せらては、入る隙もありません」
やはり、エルドはあのエルフ少女とできておるのだろう。
それは一目見て明らかじゃった。
「そうか。それに、お前もまだ覚悟ができとらんみたいだしな……」
「御父様……!? 気づいて……」
エルドがまだクレアに手を出しておらんことは、気づいていた。
エルドにどうしても魔王討伐させるため、クレアと婚約だのと言ったが、やはりクレアにはまだ早かったかのう……。
「当たり前だ。これでも父だからな。魔王討伐のためとはいえ、お前には申し訳ないことをしたな……」
「いえ……エルド様が、誠実な方でよかったです」
「うむ、あんな男は珍しいのう」
エルドは本当に出来た男だ。あれほどの男、ぜひ本当にクレアの配偶者にと思っておったが……。
まあ、あそこまで拒まれたら仕方がない。彼の意思を尊重しよう。
それに、魔王討伐は成ったのだから、政略結婚みたいなこともさせる必要はないしな。
クレアには、またいい男が見つかるじゃろう。
だが私も、もう長くはない。
クレアはまだ知らないが、実は重い病に侵されている。
それもあって、私が死ぬ前に、なんとか魔王を倒せればと思っておったのだ。
だからこそ、エルドには無理やりにでも魔王討伐に協力させたのだった。
エルドとアルトのおかげで、それはなんとか間に合った。
そうじゃの、アルトにも褒美をとらせなければの。
私は、目の前の男にこう提案した。
「アルトよ、魔王討伐ご苦労じゃった。して、アルトよ。王座になど、興味はないか――?」
◆
あれから、俺はなんとか手柄をアルトに押し付けることに成功した。
王様も、婚約のことについてそれ以上は言ってこなかった。
アルトは、王様から大量の金と、領地と伯爵位をもらったそうだ。
平民であるアルトが、晴れて貴族の仲間入りってわけだ。
あれだけ頑張ってくれたアルトが報われて、俺もうれしい。
根はいいやつだからな。善人がちゃんと報われるのはとてもいいことだ。
クレアとアルトの仲も、けっこううまくいってるみたいだ。
俺が完全にクレアを振る形になってしまったからな。
まあ、クレアとアルトがくっついてくれれば、俺としてもうれしい。
それはまあ、お互い奥手だろうから、長い目でみるか。
で、あれから数年が経った。
俺はアーデと仲良く楽しく暮らしている。
ハインリヒ貴族学園も卒業し、俺は20歳になっていた。
もう酒を飲める歳だ。
っていっても、それは日本でのことで、こっちでは16から飲めるんだけどな。
そんなある日のことだ。
俺の父である、ドフーン・シュマーケンが死んだ。
まあ、元々ろくでもない人間だったし、特に悲しみはない。
歳のせいもあって、病気で死んだのだ。
てなわけで、俺がシュマーケン家を継ぐことになった。
これからは、この家を俺の好きにできるというわけだ。
それに、魔王も討伐したことだし、俺は自由だ。
クレアやアルトのことも片付いた。
俺にはもう破滅フラグはやってこない。
すべての破滅フラグを回避したのだ。
「やったああああああああ!!!! 自由だあああああああああああ!!!!」
俺にはアーデという愛する人がいる。
それに、ドミンゴたちという忠実な奴隷たちもいる。
アルトのように、慕ってくれる仲間もいる。
もうなにも恐れることはない。
俺はこれから、自由に生きるんだ。
念のために貯めていた金も、腐るほどあるしな。
これはアーデと新婚旅行でもいくかな。
俺は、アーデと結婚することにした。
正式な結婚だ。
父ドフーンが生きているうちは、アーデのことはまだ伏せていた。
あの奴隷を嫌悪し差別していた親父のことだ、アーデのことを言ったら、どうなっていたかわかったもんじゃない。
親父が死んだことで、俺は晴れて正式にアーデと結ばれた。
式は、金をありったけ使って盛大に行った。
王都の教会を貸し切って、いろんな人を呼んだ。
魔王討伐隊のみんなや、学園でお世話になった人。
それから、ベーゼに、セモンド伯爵に、ハレルヤにフレイヤ。
シャンディの一家にルミナ、ローリエ、ミンディ。
もちろんドミンゴやオットーたちもだ。
とにかく、関わってくれた人全員だ。
ちなみに、マードックは昨年亡くなった。
マードックの治療には結構な努力をしたが、さすがに寿命までは変えられないようだ。
王様やアルトも招待した。
ウエディングドレス姿のアーデは、それはもう綺麗だった。
「旦那様、私、今とっても幸せです」
「アーデ、俺もだよ」
俺とアーデは幸せなキスをした――。
◆
そんな幸せな日々が続いた。
そして幸せな日々は、そのまま永遠に続くかとすら思えた。
だがある日、事件は突然起きたのだった――。
◆
なんと、王様が死去したのだ。
王様は、前から病気だった。
俺はアルトから、そのことをきいていたので、アルトに回復のオーブを定期的に渡してきた。
アルトの手柄ということにして、王様の治療をしていたのだ。
最後のほうは俺も直接出向いて、治療をしたりした。
だが、それもここまでだったようだ。
王様は、ついに寿命で死んでしまった。
最善は尽くしてきたが、やはり寿命には勝てないようだ。
ということで、アルトが王座を継ぐことになった。
だが、そのせいで、まさかあんなことになろうとは――。
◆
「エルド様! ようこそおいでくださりました!」
アルトはそう言って、俺のことを出迎える。
こいつ、王になったというのに、俺のことをまだ様とかいって崇めるんだよなぁ……。
俺は、アルトに呼ばれ、城にきていた。
「それで、なんのようなんだ?」
「じつはですね――」
それから、アルトはとんでもないことを言い出したのだった。
「エルド教を作ろうと思っているのです……!」
「は、はぁ……????」
俺は、なにを言われているのかさっぱりだった。頭の中がはてなでいっぱいだぞ。
なにを言っているんだ、この若き王様は……?
「お、お前……自分が言ってることわかってるのか?」
「もちろんです! 俺は、せっかく王になったことだし、エルド様を崇め称えるエルド教を作って、国教にしようと思うんです! それが、それこそが、俺が王になったことの使命だと思うのです!」
「は、はぁ……?」
おいおいコイツ……やべえよやべえよ……。
さすがにアルトの忠誠心を高めすぎたのか?
まさかコイツがここまで俺に心酔しているとは思っていなかった。
エルド教ってなんだよ……。
「ちょっと待て、なんだその宗教は。そもそも、信者が集まるのか……?」
「当然ですよ! 集まるに決まってるじゃないですか! 少なくとも、うちの5万の兵士がすでに信者です!」
「すでに……!?」
そういえば、魔王討伐のときに徴兵した5万の奴隷たちは、そのままアルトのもとで兵士として働いている。
そいつらは、俺に欠損を治してもらった恩があるってことで、アルトと同じように俺に心酔している。
じゃあ、そいつらが信者なのか……。
「それだけじゃないですよ! ドミンゴさんとかも、きっとエルド教に入ってくれると思います!」
「ま、まあ……そうだろうけど……」
「エルド様に救われた国民は、大勢います! 魔王を倒したのも実質エルド様ですからね!」
「うーんこの……」
ということで、俺はなんか勝手に祭り上げられてしまった。
まあいいや……もう勝手にしてくれ……。
◆
エルド教に入れば、あらゆる病気が治る……などという、変な噂が立ち始めた。
まさかアルトが流してるのか……?
とにかく、俺は医者じゃないんだけどな……。
せっかく破滅フラグを回避して自由になったんだから、俺は医者の真似事をするつもりはない。
だが、困ったことに、その噂を鵜呑みにしてしまうやつらがいるのだ。
「エルド様ぁああああ! お願いします! うちの娘を治してください!!!!」
「うるさい……! 帰れ……!」
なんと朝から、俺の屋敷の前に、そんなことを叫ぶ男が現れたのだ。
まったく、クソ迷惑なことだ……。
ていうか、アルトのやつ、エルド教のエルド様が俺だって公言しているのか?
これから俺の家にいろいろ押しかけてくるってこと……?
ヤバくね……?
俺のプライバシーは……?
俺は医者じゃないんだから、縁もゆかりもない赤の他人のためにいちいち回復魔法を使ってなどはいられない。
俺は別に世界平和を望んでいるわけでもないし、ただで治してやろうというお人よしでもないんだからな。
「そこをなんとか……! お願いします! なんでもします! お金はあります! いくらでも払いますから……!」
「ん? 今いくらでもって言ったか……?」
俺はちょっと考えてみた。
たしかに俺は今腐るほど金を持っている。
だが、今後なにが起こるかわからない。
アルトがエルド教などというわけのわからないものを発足させたりしたからな。
またアルトがどんな暴走をするかわからないぞ。
だから、今後もお金は溜めておいたほうがいいだろう。
「よし、そういうことならこれを売ってやろう」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
俺は、回復のオーブをそいつに売ってやることにした。
オーブはもともと一個5万Gだから、俺は回復のオーブを10万Gで売ってやった。
これでもうけは5万Gだ。
「これはもしかしたら、いい稼ぎになるかもしれないぞ……?」
男が帰り、それから数週間が経った。
すると、今度はあの男以外にも俺の家の周りに行列ができていた。
「な、なんだこれは……」
「回復のオーブを売れと、朝から行列ができているんです……!」
門番の奴隷が俺にそう説明する。
はぁ……やっぱりこうなったか……。
だが、こうなったら追い返すわけにもいかない。
エルド教の評判が悪くなったりすれば、アルトからの俺への忠誠心も下がるかもしれないからな。
アルトはやはり依然として要注意人物だ。
俺が今後破滅するとすれば、原因はアルトだろうからな。
そんなアルトの手綱を握っておくためにも、エルド教に加担するほうがいいだろう。
俺は仕方なく、そいつらにも回復のオーブを売ってやった。
「ありがとうございます! ありがとうございます! エルド様!」
「エルド教万歳! エルド教万歳!」
はぁ……まじでめんどくさい……。
まずは読んでくださりありがとうございます!
読者の皆様に、大切なお願いがあります。
もしすこしでも、
「面白そう!」
「続きがきになる!」
「期待できそう!」
そう思っていただけましたら、
ブクマと★星を入れていただけますと嬉しいです!
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