第14話 魔王復活
魔王と戦うといっても、なにも相手は魔王だけじゃない。
魔王が復活すれば、それに伴って魔王軍が結成される。
魔王以外にも、魔王軍幹部や、その他強力な魔物が続々と現れるだろう。
そうなったとき、俺やアルトだけでは戦えない。
魔王本体はアルトに倒してもらうとしても、他の魔王軍と戦うための戦力が必要だ。
俺は魔王討伐隊のみんなにも、アルトと同じようにレベル上げを行った。
アルト含め、50人全員に地獄のレベル上げ合宿をほどこす。
俺は、みんなに訓練の方法を話した。
まずはみんな、ドミンゴにコテンパンにされて、それを俺が回復するというものだ。
そうすることで手軽に実践経験が積めて、レベルも上がるし筋肉もつく。
筋肉というのはぶち壊して回復することで強化できるのだからな。
最初、俺の突飛なアイデアに、みんな反発した。
「えぇ……ちょっとそれは……」
「痛いのは嫌だな……」
「さすがにひどくないですか……?」
「そんなので、本当に強くなれるんですか?」
しかし、それを治めたのはドミンゴの証言だった。
「みんな、大丈夫だ。エルド様のおかげで、俺もここまで強くなった。ほら、みろこの筋肉を!」
「おお……!」
「しかも俺はレベル1700だ。俺みたいにみんなもなれるぞ……!」
「そ、それなら……」
集まった男たちは単純だ。
みんな、強くなれるためなら、なんでもするという連中だ。
「それにな、最初は痛いかもしれんが、だんだんそれが気持ちよくなっていくから大丈夫だ! 強くなれると思えば、どんな痛みも快感に変わる! 安心してエルド様に身を任せるんだ! なあ、アルト!」
ドミンゴがそう言うと、第一信者であるアルトも大きくうなずいた。
「もちろんです! 俺もエルド様の回復魔法のおかげで強くなれましたから!」
◆
オットーにも協力してもらって、こんどは弓矢を避ける練習だ。
オットーが弓矢を一斉に放って、それをみんなが死に物狂いで避ける。
もちろん、オットーはレベル1500で、弓の名手だ。
オットーの弓を避けることは容易ではない。
オットーの弓は、討伐隊のみんなに突き刺さりまくった。
念のため頭は避けるように言ってあるし、頭にはみんな兜をかぶっている。
しかし、オットーの弓はみんなの腕や脚に突き刺さりまくる。
だが安心してほしい。
オットーの弓で死ぬことはない。
矢が突き刺さったやつから、俺が片っ端から治療していく。
こうすることで、みんな気兼ねなく弓矢の嵐に向かっていくことができるのだ。
「ひええええええ……スパルタすぎる……!」
「も、もう嫌です……! 痛いのはいやああああ!」
何人かの連中がそんな声を上げる。
それを、アルトがすかさず鼓舞する。
「なにを言っているんだみんな! 弓を喰らってもエルド隊長が治してくれるんだから大丈夫だ! さあいこう……!」
「ひぇええ……こいつ、イカレてやがるぜ……」
アルトはすっかり、このスパルタ合宿に慣れていた。
まあ、俺がハイになる魔法も使っているからかもしれない。
だが、アルト自身の精神力や意思がすごかった。そこはやはり、さすがは主人公の器と言えるかもしれない。
「オットーさん! もっと、もっと弓をください! 俺はどんどん強くなれるのが気持ちいいんです! ふおおおおお弓のシャワー最高だぜ!」
ドン引きする周りをよそに、アルトはハイテンションで果敢にも弓の嵐に向かって行く。
アルトの肩にはどんどん弓が突き刺さっているが、気にしていないようすだ。
よしよし、この調子でアルトを最強の戦士に育てよう。
オットーの弓を避ける修行は、朝まで続いた。
しだいに、みんな弓を避けるのに慣れていく。
治療があるとはいっても、みんな痛いのはいやだから、必死によける。
足が疲れたものは、すぐに治療する。
そうするうちに、みんなかなり避けれるようになっていった。
よし、これで魔王軍の攻撃を避けることができるな。
それから、アカネには魔法で協力してもらった。
アカネの魔法をみんなに喰らわせて、魔法耐性をつけさせるのだ。
最小出力にして魔法を撃てばかなり痛いが、死ぬことはない。
「くらえ……! 火炎球――壱ノ型・焔」
――ゴオオオ!!!!
アカネの魔法が、訓練兵たちを襲う。
「ぎゃああああああああ!!!!」
しかし、オットーの弓訓練で慣れたのか、もう文句を言うものはいない。
それどころか、みんなちゃんと強くなれることを実感して、やる気に満ち溢れている。
「もっとです! もっとください! 俺たちはもっと強くなりたいんだああああ!!!!」
「うおおおおおおおおおお!!!!」
アカネが訓練兵たちを焼いては、俺が治療し、それが三日三晩続いた。
おかげで、みんなの魔法耐性が爆上がりした。
「おおおおお! レベルも上がってる! エルド様の修行方法は最高だ!」
「ああ、なんて革新的なんだ。こんな方法、エルド様の回復魔法なしではありえねえ! 討伐隊に入ってよかったぜ!」
と、隊員たちからは軒並み好評だ。
文句をいう奴も最初はいたが、そういう奴はアルトに裏に連れていかれていた。
かえってくるころには、みんな訓練を絶賛していた。
だんだんやっているうちに、みんな訓練中毒みたいになっていって、おかしなテンションになっていく。
まあ、回復魔法にはハイテンションになる副作用があるからな。
一回や二回ではどうともないが、薬中毒みたいなもので、何回も繰り返すと回復中毒になるのだ。
回復中毒になると、痛みも薄れ、どんどんハイテンションになっていく。
◆
魔王討伐隊としてものになったのは、せいぜいが50人だ。
だが、魔王軍との戦いはもっと大規模なものになるだろう。
魔王軍の下っ端モンスターなんかを合わせれば、それこそ数は万をも超える。
だからこちらも、さらに兵士を揃えなければいけない。
そこで俺は考えた。
「そうだ、奴隷を使おう」
やっぱり、奴隷商人である俺といえば、奴隷だ。
奴隷は安く大量に手に入る労働力だ。
そして、特に欠損奴隷であれば。
俺は回復のオーブを、50人全員に配った。
そして、各々欠損奴隷を買ってくるように金を渡す。
50×100で5000人の奴隷が集まったわけだ。
しかも奴隷たちは治療してもらった恩で、忠誠心も高い。
討伐隊の50人には、それぞれ旅団長を名乗らせた。
旅団長の下に100人の奴隷を従えてるという組織構図だ。
旅団長には、さらにオーブを利用して、奴隷の練兵もたのんである。
俺がやったのと同じように、回復オーブで治療しながら修行させるのだ。
これで、5000人の屈強な奴隷兵団が完成した。
また、50人の旅団長をさらにまとめあげる、師団長としてアルトを任命する。
これで5000人規模の軍隊が完成し、アルトを祭り上げる準備は整った。
また、防具や武器も必要に応じて買いそろえた。
それらの資金は、王様が工面してくれた。
これで、俺たちは魔王に備える。
そして、ついに魔王が復活する――。
◆
ある日、空が割れ、暗闇が漏れ出した。
暗闇はシーツに滲んだ染みのように空を満たしていく。
暗闇から手が伸びる――。
その手は、街をひとつかみにし、握りつぶした。
魔王が、復活した。
「魔王だあああああああああ!!!! 魔王が復活したぞおおおおおお!!!!」
◆
魔王は身の丈15メートルほどもある巨人だった。
青白い肌に、雄々しい角。
真っ赤な目に、はち切れんばかりの筋肉質。
地上に降り立った魔王は、人間サイズにその体を縮めた。
まるでそのパワーごと圧縮されたように、凝集された密度の濃い生命体が、そこにいた。
魔王は適当な国を亡ぼすと、そこの城を奪い、根城とした。
魔力の渦が城を包みこみ、魔の蔦が城壁を覆い隠す。
あっという間にそれは、人間の住む城から魔王城へと姿を変えた。
魔王城の中心からは、空に向けて、闇の光柱が立っている。
その光柱は空中の暗闇に接続しており、そこからはあらゆる闇の要素が、柱を伝い滴っている。
光柱を下るようにして、空から異形のものたちが降り立っていく。
デビル、ガーゴイル、サキュバス、ヴァンパイア。
様々なモンスターが魔王城に姿を現した。
そして魔王の命令のもと、人里を目指して旅立っていく――。
戦いは、始まった。
◆
「恐れるな! 俺がついている! 倒せ! 屠れ! 引き返すなああああ!」
俺は討伐隊を鼓舞した。
俺が拠点を構えるのは、ガンダール砦。
魔王城から数百キロ離れた荒野にぽつりとたつ砦だ。
そこを拠点として、魔王討伐隊は魔王城に向けて進軍する。
まず戦闘を行くのは、アルト率いる部隊だ。
そのうしろから、ドミンゴの部隊、オットー、アカネが続く。
他にも、闘技場で戦ってくれているメンバーがいる。
グラディオスに、ギド。
グラディオスはようやく暴れられるときがきたと、喜んでいた。
あれからさらに奴隷を増強した。
こちらには、のべ5万の奴隷部隊がいる。
そして、それぞれの部隊には、回復のオーブをいくつか、用意できる限り渡してある。
もし誰かが負傷した場合、それで回復ができる。
「道を開けろ! 魔物を蹴散らせ! アルトを魔王のもとまで送り届けるぞ!」
ドミンゴが先頭でそう叫ぶ。
作戦はこうだ。
ドミンゴたちが魔物たちを蹴散らし、なんとか魔王のもとまでアルトを送る。
そしてアルトが魔王を討つ。
アルトにはそれができるだけの力がある。
少なくとも、俺はそう育てた。
肝心の俺はというと――。
俺はガンダール砦で待機することにした。
そしてみんなも、そのことに納得してくれている。
俺は、いわば医療班だった。
負傷し、回復のオーブすらも失った部隊は、ガンダール砦まで下がってくることになっている。
その負傷した部隊を治療し、さらにオーブにももう一度回復魔法を補充する。
俺の役目は補給だった。
つまり、俺が手を動かす限りは人類部隊は誰も死なないということだ。
ゾンビアタック作戦で、魔王軍をぶっ潰す!
◆
【side魔王】
魔王エルムンドーラ。それが自分の名だった。
生まれたときには、そのことを知っていた。
生まれた瞬間、俺の脳にある指令が下った。
人間を滅ぼせ。
それだけが、俺の使命だった。
「フハハハハハ! 我が魔王軍は無敵なり……! やはり人間は雑魚だな」
戦況は、こちらに有利だった。
人類はしょせん、魔力も少ない人間種だ。
こちらは魔力を多く持つ魔物たち。
数もこちらが圧倒的に多い。
どんどんと人類の戦線を下げていく。
「少しは骨のあるものがいればと思ったが……他愛ないな」
私は最初、そうやって人類を甘く見ていた。
だが、ことは戦争開始から5日目に起こった。
「おかしい……なぜだ……」
あれだけ人類を倒し、戦線を下げさせているのに、一向に相手の砦が落ちない。
それどころか、こちらの魔物たちが疲弊してきているのに、相手の勢いは衰えない。
「どういうことだ……?」
さらに一週間が経過した。
あきらかに、おかしなことが起きていた。
「くそ……どういうことだ……!? なぜ人類軍は減らない!? それどころか、さらに勢いが増していないか……!?」
さすがにおかしいと思った私は、水晶魔法を使った。
水晶で、相手のガンダール砦の様子を覗いてみることにする。
すると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
◆◇◆◇◆◇
「ヒール!」
男がそう唱えると、兵士たちの傷が一気に癒える。
それどころか、さらに兵士たちの士気があがり、筋肉量もましたように見える。
傷ついて、回復したことで、パワーアップしているように見えた。
「うおおおおおお! さすがはエルド様の回復魔法だ! これでまた戦える! もうなにも怖くないぜ!」
「そうだそうだ。俺たちにはエルド様がついている! 魔王軍なんて怖くないね!」
回復された兵士たちは、また剣を持って、すぐさま砦を出て行った。
なにものをも恐れないその姿は、まるで狂戦士のよう。
「ヒール! ヒール! ヒール!」
男は次々に兵士たちを回復させていった。
中には腕を失った兵士や瀕死のものもいた。
だがみんなすぐに回復すると、戦線に戻っていく。
誰も死を恐れているものはいなかった。
それどころか、喜んで死地に向かっていっているようだ。
「うおおおおお! 気持ちいいいいいい!」
「また怪我して治してもらえるぜええええ!!!!」
「これで俺もレベルアップだ! レベルアップ気持ちいいい!!!!」
「怪我してもレベルアップできるんならカンケーねぇ!」
◆◇◆◇◆◇
水晶でガンダール砦の様子をみて、私はあっけにとられていた。
「な、なんなんだこれは……どうなっている……」
まさか人間側にあんな治療師がいたとは。
それにしても、この士気の高さはいったい……。
なるほど、これでは敵が減らないわけだ。
直接あの治療師を叩かねば……。
そう考えていたときだった。
――ドン!
いきなり魔王城の私の部屋の扉が開く。
そこには、魔王軍幹部の首を持った人間がいた。
「アンタが魔王か? ようやくたどりついたぜ」
「なん……だと……」
さっきまで幹部たちは作戦会議をしていたはずだ。
それに、戦線はそこまで下がっていないはず……。
いったいどこから入り込んだ……!?
「この勇者アルト様が、成敗してくれる!」
「このぅううううう人間風情がぁあああ魔王である私の部屋にノックもなく侵入するとはいい度胸だ。死ぬ覚悟の準備はできているんだろうな!!!!」
私は、剣を抜いた――。
◆
【sideエルド】
すべてが上手く行っていた。
たしかに魔王軍は強かった。
だが、こちらの被害は最小限だ。
みんな負傷をしたものはすぐに下がってきて、俺のもとで治療を受ける。
おかげで、どんどんみんなのレベルが上がっていく。
やはり、実戦で得られる経験値ほど価値のあるものはないからな。
最初こそ苦戦したが、戦線は徐々に上がっていっている。
それに、目的は魔王の討伐だ。
うまくアルトを魔王のもとまで送り届ければ、それで解決する。
他の戦いはいわば時間稼ぎにすぎない。
アルトがうまく魔王さえ討伐してくれれば、それで問題は解決する。
魔王軍のモンスターたちの異常なまでの魔力は、すべて魔王から供給されている。
だから頭をたたけば、この戦いは終わるということだ。
アルトはゲームの世界では、無事に魔王を倒せる人物だ。
だから俺が鍛えたアルトなら、問題なく魔王を倒せるだろう。
俺はそう思っていた――。
だが、アルトが魔王城へ乗り込んだ知らせを聞いた翌日。
伝令の兵士から、ある知らせが届いた。
「その……アルトさんが、魔王に敗れて戦死したとのことです。エルド様、次の御指示を……どうなさいますか?」
「は…………?」
俺は、頭が真っ白になっていた。




