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第10話 決闘


「騒がしいですね」

「姫様」

 

 姫様と呼ばれたのは、クレア・グランローズ。ピンク色の髪の毛をクルクル縦ロールに巻いた、いかにもといったお姫様って感じだ。

 ミレイはクレアに事情を説明した。俺がレベル測定器になにかしたんじゃないかという疑いがあるとかなんとか。


「なるほど、確かにレベル9999と言うのは不可解ですね。彼が不正を働き、学園の品位を落とした可能性は十分にあります」

「そうでしょう」


 くそ、姫様まで俺を疑うのか? もしかしてゲーム登場人物だけ、俺に対しての好感度に補正入ってない?

 主人公補正ならぬ、悪役補正。俺はどう転んでも言いがかりをつけられて、悪者にされてしまうのだろうか。


「だったら、ハインリヒ貴族学園の生徒らしく、決闘をするというのはどうでしょう? ミレイさんと、そちらのエルドさんが決闘をし、勝ったほうが正しいということで。もし本当に彼がレベル9999なのでしたら、まさか負けるわけはないでしょう」


 などと、姫様は勝手なことを言い出した。ミレイはそれに乗っかって、


「おお! さすがは姫様。その通りですね。よし、貴様! 今すぐ決闘だ! 決闘場に移動するぞ」

「えぇ……」


 ということで、俺はミレイと決闘をすることになってしまった。

 幸い? アルトは俺に興味がないようで、今回のことには絡んでこなかった。ここであいつまで出てきたらさらに厄介極まりないからな……。

 

 しかし、ミレイと決闘か。たしかこいつは、そこまでレベルは高くなかったはずだ。だとすれば、俺はかなり手加減をしないとな……。

 たしか、新入生のほとんどがレベル1から100の間にいたはずだ。

 だが、ここは身の潔白を証明するためにも、一応勝たなければ……。いやむしろ俺のレベルが間違いだったということにすれば、面倒は避けられるのでは……? うん、よし、わざと負けよう。

 などと考えていると、ドミンゴとアーデから熱烈なエールが飛んでくる。


「エルド様! あんな人、やっつけちゃってください! エルド様なら余裕です!」

 

 俺はわざと負けるために、なにもしないつもりでいた。

 ミレイは、剣を構え、俺に迫ってくる。


「いくぞ! 貴様の不正を暴いてやる! この不届きものめ!」


 俺は一応、剣を構えてミレイの剣を受け止める。

 ミレイの剣が俺の剣に当たる……! 

 ――キン!

 しかし、その瞬間ミレイは大声を上げてうめきだした。

 

「っく……! ぐあああああああああ!!!!」

「どうしたんだ……!?」

「て、手があああああああああ」


 どうやら俺の剣が硬すぎて、ミレイの手に大ダメージがいったようだ。え。俺なんにもしてないんですが……。

 まさか、レベル7とレベル9999って、そこまでの差があるのか……?

 今まで誰とも戦ったことなどないから、わからない。


「くそ……どうやらかなりのレベルの持ち主だというのは本当のようだな……! だが、貴族として、一度売った決闘は負けるわけにはいかない……!」


 だがミレイはまだやる気のようで、果敢にも俺に再び向かってくる。

 だめだ、このままだと普通に勝ってしまう。

 剣で受け止めれば、今度こそミレイの腕が折れてしまうだろう。

 俺は剣をわざと捨てることにした。

 

 ミレイの剣が俺の剣に当たる寸前、俺は剣を手放して、地面に落としたふりをする。

 ふぅ、これで俺の負けで、一件落着。俺はちょっと汚名を被ることになるけど、目立たないで済む。レベル9999はなにかの間違いだったと噂で広まれば、2学期にはもうみんな俺のことなど忘れているだろう。

 そう思ったのだが――。


「うわ……! 落としちまったぁー!」


 (棒読み)

 俺は剣を地面に落とす。

 そして、ミレイの剣が俺の腕に突き刺さる。

 まあ、多少の痛みは我慢しよう。どうせ後で治せばいいしな……。


 ――ズバッ!!!!


 しかし、実際に斬られて血が出たのは、ミレイの腕だった。


「ぎゃあああああああ!」

「は……?」


 なんと、俺の腕に当たった剣は、その場で真っ二つに折れた。

 そして折れた剣先が、跳ね返ってミレイの腕に突き刺さったのだ。

 その場で、俺の勝利が審判によって宣言される。


「そこまで! 勝者エルド・シュマーケン!!!!」


 なんか、普通に負けるつもりでいたのに勝っちゃったんですが……。

 俺、なにもしてないよ?

 まさかレベルの差が、ここまで戦闘に関わってくるとは……。

 あれ……?

 でも俺、前に一度刺されたことあるよな……。

 もしかしたらあいつは結構強い奴だったのかもな……。


 しかし、回復魔法を使っていただけでここまで強くなれるなんてな。

 もしかしたら、今の俺なら回復魔法以外にもいろいろ魔法使えたりするのかな?

 そんなことを考えていると、


「っく……やるじゃないか……。どうやら、たしかにレベル9999というのは本当のようだ。認めよう」


 とミレイが悔しそうにしながら、そう言ってきた。

 ミレイは血が出ている腕を抑え、苦しそうにしている。

 ありゃ……これはけっこう深くまで傷がいってるな。下手したら、もう二度とは剣を握れないかもしれない。

 俺はすかさず、そんなミレイに駆け寄っていた。


「おい、大丈夫か? けがさせてしまったな。悪い、いま治す」

「は……? え……?」


 俺はミレイの腕に手を当てて、回復魔法をかける。今まで散々欠損奴隷を治してきた俺だ。このくらいの傷なら、ほんとうに一瞬で治すことができる。

 俺がそうやってやると、ミレイは驚いた顔をしていた。


「い、いま何を……?」

「何って、傷を治しただけだが。アーデが言ってただろ、俺は回復魔法が得意なんだ」

「そ、そうか……すまない、ありがとう……」

「いや別に、俺がさせた怪我だからな。このくらい、お安い御用だ」

「その……すまなかった。レベルのこと疑ってしまって……。君がこんなふうにしてくれる優しい人だともしらずにな……。ほんとうにありがとう。この腕は、失うわけにはいかない大切なものなんだ。これでまた、剣を握れる」


 ミレイは少し顔を赤らめて礼を言った。てかなんでそこで赤くなるんだ?

 ミレイのいう大切なものってのは、妹のことだろうな。

 ゲームでは、ミレイは妹のために剣を握っているという設定だった。

 その辺の事情があって、主人公アルトと共に魔王を倒すっていう流れになるんだったっけか。

 

 そんな俺たちのもとに駆け寄ってきたのは、先ほど俺たちを決闘に焚き付けたクレア姫。

 クレアは俺たちのところまでくると決闘を称えた。


「すばらしい戦いでしたね。エルドさん、私もあなたを少しでも疑ってしまったこと、ここでお詫びして訂正します。本当にお強いんですね」

「あ、ああ……まあ、わかってくれたならいいさ」


 なんか勝っちゃったし、もう俺がレベル9999であることは認める方向でいこう。

 

「実は、ちょっとエルドさんを試したんです」

「え……?」


 なんだか不穏な感じがする。姫さまが、俺を試した……?


「エルドさんが本当に強い方なのかどうかを……。それを確認したくて、あんなことを。でも、よかったです。エルドさんがレベル9999で……」

「それは……どういう……?」

「この国のために、魔王を倒す勇者の一団となってはくれませんでしょうか?」

「は、はぁ……????」


 わけがわからなかった。なんでそうなるんだ。


「実は、近いうちに、魔王が復活することになっているのです……。それは、まだ王族や一部のものだけの秘密なんですが……。ですが、エルドさんなら、レベル9999のエルドさんなら、きっと戦力に……!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……」


 おいおいどうなってんだ。破滅フラグどころか、俺が魔王を倒す勇者になれだと……?

 ってことは、主人公?

 エゴイスティック・ファンタジーの世界では、魔王を倒すのは当然、主人公であるアルトだった。

 それはこの世界でも同じはずだ。

 アルトは光の勇者なんだからな。


 えーっと、ちょっと待てよ。

 俺は遠い記憶の彼方にある、エゴイスティック・ファンタジーのストーリーを思い出す。

 そういえば、アルトが光の勇者として見出されるのには、きっかけがあったな……。

 たしか、クレアが関わっていたっけ……?

 俺はだんだん思い出してきて、だんだん胃が痛くなってくる。

 げろ吐きそう。


 あ、そうだ。クレアだ。

 勇者アルトを指名したのは、他でもないこの姫さまだったはずだ。

 それが今はどういうことだ? 俺をその勇者にしようとしているのか?

 待て待て待て待て。俺はアルトに成り代わる気なんてないぞ?

 このままだと、さすがに話がややこしいことになる。


 なんとか回避する方法はないのか?

 俺はさらに記憶をたどる。

 そういえば、クレアとアルトが一気に急接近するイベントがあったはずだ。

 それは、入学式の直後に起きたっけ。

 そう、ちょうど今ぐらいのタイミングで――。


 そのときだった。

 急にクレアが咳き込み始めた。

 そして、その場に血反吐を吐いて倒れてしまった。


「けほけほ……ぐぼぉあ……!」

「クレア……!?」


 俺はあわてて、クレアのことを支える。くそ……なんで今更。

 俺は完全に思い出した。そう、このイベントだ。

 入学式の直後、クレアはこうやって倒れてしまう。クレアは生まれつき身体が弱く、たびたびこうやって倒れる設定だ。

 その病状が急に悪化して、学園で倒れてしまう。そこをアルトがたまたま、光の力で治療するという話だったはずだ。

 これをきっかけに、二人は急接近。


 そのまま、アルトは光の力に目覚めていき、クレアはアルトにどんどん惹かれていく。

 だが、ここにはアルトはいないし、代わりに俺がクレアを抱きかかえているという謎の状況に……。

 くそ、俺が物語序盤に介入してしまったせいで、イベントのタイミングがおかしなことになったのか。

 それもこれも、ミレイが変なことを言い出したせいだ。

 いや、もとはと言えば、俺がレベル9999なんてデタラメな数値を出したせいだ。

 いや、もっといえば、レベル9999になってしまったのは、幼少期に回復魔法を極めようとしたせいだ。

 あれ……? これ、詰んでね?


 俺が破滅フラグ回避のために回復魔法を修行して、そのせいで今こんなことになってるんだ。

 じゃあ、俺は結局どうすればよかったんだ……?


「うぅ…………うぅ…………」


 そうこう考えている間にも、クレアは俺の腕の中でしんどそうに呻く。

 くそ、このまま放っておくわけにもいかない。

 アルトがここに現れてくれればいいんだが……。

 あれほど関わりたくないと思っていたアルトだが、今はあいつが誰よりも恋しい……。


「エルド様! クレア姫が苦しそうです……! ここはなんとか、エルド様のお力で……!」


 と、アーデが期待に満ちた目を向けてくる。

 うん、そうだよね。この流れ、俺が治療する感じになるよね。

 くそ、どうすればいい。これ、俺が治療しちゃって大丈夫なのか……?

 だが、このまま放っておいたらクレアは死んでしまう。

 姫様を目の前で死なせたりしたら、処刑されてもおかしくないぞ。

 ええい、ままよ。


 俺はとびっきりの回復魔法をクレアに放った。


 すると、クレアはみるみるうちに回復し、目を覚ました。

 俺の腕の中で、クレアはうっとりとした目で俺を見つめてくる。

 あれぇ……? なんでそんな目で見つめるの?


 そのとき俺は思い出した。そういえば、このクレア救出イベントで、クレアはアルトに惚れるんだっけ。

 不治の病と言われていた自分を、光の力で治したことで、アルトにベタぼれになるはずだ。

 ん? 待てよ。ってことは、これ俺が惚れられるんじゃね……?

 クレアは、俺のことを潤んだ目で見つめて、言った。


「エルド様……やはりあなたが光の勇者……ずっと、お探ししていました。しゅき……♡」

「えぇ……」


 なんか、俺が光の勇者にされてしまったのだが……?

 アルトくんどこ。



 ◆



【sideミレイ】


 私には、夢があった。

 病気の妹を元気にするという夢だ。

 そのために、私は剣を握っている。


 妹の病気は少々特殊だった。いろんな医者や回復術師に見せたけど、誰もかれも打つ手がないとのたまった。

 妹の病気は、普通の病気ではなく、おそらくは呪いの類だろうとのことだった。

 呪い……それについて、私にはなんの手がかりもない。

 呪いだということで、呪術師にも見せたが、こんな呪いはみたこともないとのことだった。

 そもそも、本当に呪いなのかもわからない。


 そんな中、親交のあったクレア姫から、あることをきかされる。

 どうやら近々、魔王が復活するとの兆しがあるという。

 私は、妙にそれが気にかかった。

 もしかしたら、妹のこの病状は、魔王復活となにか関係があるのではなかろうか。そう考えるようになった。

 だとしたら、その魔王を倒せば、もしかしたら妹は元気になるのではないか。


 全然関係のない話かもしれない。だけど、私にはもはや他に縋るものがなかった。

 私は魔王を倒すことを一心に考え、剣の修行をし続けた。

 それだけに、強者を騙るものを許せないのだ。

 エルド・シュマーケン――入学式でレベル9999などとうそぶいた輩だ。

 レベル9999なんかが本当なら、それこそ魔王すらも倒せるかもしれない。


 そんな人物、ありえるわけがない。

 私は彼が許せなかった。自分の努力を嘲笑われたような気すらもした。

 もし本当に彼がレベル9999なら、何でもできるはずだ。魔王を倒して、妹の病気を治すことだって……。

 だけど、そんなのはありえない。入学式でいきなりそんな勇者みたいな男と出会うなんて、都合がよすぎる。私には、そいつが大ウソつきにしかみえなかった。

 だから、喧嘩をふっかけた。


 

 ◆


 

 私とエルドは決闘を行った。

 しかし、どうしたことか、エルドは異常に強かった。

 私の剣などでは、まったく歯が立たない。

 なんで……どうして。私はこれまで、必死に剣をふるってきたのに。

 妹のために、魔王を倒せるくらい強くなろうと思ってきたのに……。

 それなのに、なんでこうもあっさり負けてしまうのだ。

 

「ぎゃあああああああ!」


 私の剣はエルドの腕に弾かれ、折れてしまう。

 そして、私の腕に折れた剣が突き刺さる。

 私は悔しくてたまらなかった。

 剣はかなり深くまで突き刺さっていて、このままだともう剣を二度と握れないかもしれないほどだった。

 くそ……勝手な思い込みで、私はエルドに喧嘩を売った。

 その結果が、このざまだ。


 私はひどく後悔した。

 身勝手な思い込みで、人に疑いをかけた。

 そのせいで、私は剣を失うかもしれない。

 腕を失うかもしれない。

 そうなれば、妹を守れない……。

 くそ……私はなにをやっているんだ。


「っく……やるじゃないか……。どうやら、たしかにレベル9999というのは本当のようだ。認めよう」


 おそらくだが、エルドは本当にレベル9999なのだろう。彼はそれほどまでに、圧倒的に強かった。

 くそ、そんなに強いのなら、魔王を倒してくれよ……。そう思うのは、さすがに身勝手だろう。

 私が最初から、彼を信用して、彼に魔王を倒してと頼めば、彼はやってくれただろうか。

 いろいろな後悔が押し寄せてくる。

 だが、エルドはひどく怒っているのだろうな。

 私にあらぬ疑いをかけられて……。

 そんな彼に、今更妹を救ってくれなどとは、とても言えない。

 くそ、私がレベル9999だというのを信じておけば……。

 だが、エルドは少しも怒っていないようすで、私に駆け寄ってきてこう言った。


「おい、大丈夫か? けがさせてしまったな。悪い、いま治す」

「は……? え……?」

 

 私は言ってる意味がわからなかった。

 けがをしたのは、いわば私の自業自得だ。勝手に彼に決闘を申し込み、自滅した。

 エルドはなにも剣をこちらに向けてきてはいないし、けがをさせたというのはひどい誤謬だ。

 それなのに、彼は私の腕にやさしく触れると、なんと回復魔法をかけてくれた。


 しかも、彼の回復魔法はすさまじいものだった。

 今までにも怪我をしたときは回復魔法のお世話になったことがある。

 だが、彼の回復魔法は格別だった。ただ傷を治すだけじゃなく、妙なヒーリング効果まであった。

 なにか、心の奥底から、あたたかいものがあふれてくる。

 すごい……これが、レベル9999の回復魔法の力……?


 そういえば、彼の奴隷が、さっき主人は回復魔法のエキスパートだとかって言ってたっけ……。

 それにしても、すごい能力だ。私の腕の傷が、一瞬で回復する。

 ここまでの回復魔法、宮廷魔導医師にもできないだろう。初めてみた。

 私は心の中で、涙した。

 彼はなんと優しい人物なのだろうか。本当なら腹が立っているだろうに、こんな私にも、情けをかけてくれる。

 後悔と、それから感謝と、私の中でいろんな気持ちがごちゃまぜになった。

 これで、私はまだ剣を握れる。まだ妹を守れる。夢に、すがることができる。

 

「その……すまなかった。レベルのこと疑ってしまって……。君がこんなふうにしてくれる優しい人だともしらずにな……。ほんとうにありがとう。この腕は、失うわけにはいかない大切なものなんだ。これでまた、剣を握れる」


 私は素直なお礼の言葉を口にする。

 そのとき、エルドの目がどうしても見られなかった。

 知らないうちに、自分の顔が真っ赤になっていることに気づく。

 まさか、私はこの男に……?

 いやいや、なにを期待しているんだ。私は、この男にひどいことをしてしまったじゃないか。

 それは、望めないことだ。



 ◆



【sideクレア】


 私はずっと、探していました。

 魔王を倒してくださる方を……。

 それは、魔王復活を知る王族としての使命だと思っていました。


 言い伝えには、こうあります。

 どこかにいるという、光の勇者。その光の勇者が、魔王を倒すであろうと。

 光の勇者は16歳くらいで、覚醒し、世界に平和をもたらすといいます。

 ちょうど、貴族学園に入学するのは16歳です。


 それに、なんだか私は不思議な予感がしていました。

 この貴族学園で、光の勇者に出会うような運命を感じていたのです。

 そして、それは入学式で起こりました。


「エルド・シュマーケン、レベル9999……!??!?!」


 私は自分の耳と目を疑いました。

 まさか、こんなに都合のいいことがあるのでしょうか。

 レベル9999……それは、もしかしたら魔王をも倒すことができるかもしれない力です。

 そんな人物に、いきなり出会うことって、あるのでしょうか。

 これは、運命を感じざるを得ません。


 しかも、驚いたことに、彼は私と同じクラスでした。

 ですが、不可解なことがあります。

 本当に彼はレベル9999なのでしょうか。そんなことって、あり得るのでしょうか。

 私は彼の力を確かめたい。そう思いました。

 そんなとき、ちょうどいいことに、ミレイさんが彼に話しかけているのを見つけました。


 ミレイさんも、私と同じ思いだったようです。

 ミレイさんもエルドさんがレベル9999であるのを疑っているようでした。

 というよりも、なかば言いがかりに近い……?

 ですがこれはいいチャンスです。ミレイさんに便乗して、彼の力を確かめましょう。

 私は、二人に決闘を提案しました。



 ◆



 決闘は無事に、エルドさんの勝利で終わりました。

 そしてエルドさんはなんと、ミレイさんの怪我まで一瞬で治してしまったのです。

 これはもう……私は確信しました。

 彼が光の勇者で、間違いない……と!


「この国のために、魔王を倒す勇者の一団となってはくれませんでしょうか?」


 私は彼を誘いました。

 しかし、そのときでした。急に、心臓が痛くなったのです。

 私には、不治の病がありました。

 病といっても、これは呪いのようなものです。

 誰にも治せない、そう言われていました。


 おそらくこれは、魔王復活の兆しであろうと、城の神官は言っていました。

 魔王復活の数年前から、謎の奇病が流行しだしたと、文献にもあります。

 ミレイさんの妹さんも、実は同じ病気でした。

 そのため、ミレイさんとは以前から親交がありました。


 せっかく光の勇者さまを見つけたというのに、私はこのまま、死んでしまうのでしょうか。

 そのくらい、胸が苦しくなります。

 そして、喉の奥が痛みだし、血を吐いてしまいます。


「けほけほ……ぐぼぉあ……!」

「クレア……!?」


 そんな私を、エルドさんは優しく抱きかかえてくれました。

 そしてなんと、私に回復魔法をかけ出したのです。

 ですが、この病に回復魔法は効きません。

 どんな高名な宮廷魔導医師にかかっても、治すことはおろか、やわらげることすら不可能でした。

 そのはず、でした――。


 しかし――。


 エルドさんの回復魔法をかけられると、私の胸がすううっと軽くなっていきます。

 そしてあれだけ苦しかったのが、嘘のように楽になりました。


 まさか、これが光の勇者の力……?

 彼ならば本当に、魔王を倒すことができるかもしれません。


 そうですわ! きっとエルドさまこそが、運命の御方!


「エルド様……やはりあなたが光の勇者……ずっと、お探ししていました。しゅき……♡」

「えぇ…………」


 私は心に決めました、この方こそを、一生お慕いすると――。



 ◆



【sideエルド】


 というわけで、教室に戻ってきて、俺は今、ミレイとクレアに挟まれているのだが――。

 なぜか二人から熱烈な視線を感じる。

 まさかこの貴族のお嬢さま方、恋愛をしたことがないんだろうか。

 もう隠す気もないくらい、眼からラブラブ光線が出ている。


 だから、なんで俺なんだ……。

 その目線は、本来アルトに向けられるべきものだろうが……!

 ゲームのシナリオ、完全に破壊されたわこれ。

 だってこんな展開、どのルートでもみたことねえもん。

 まあ、一緒に破滅フラグもぶっ壊れてくれてればいいけど……。


 待てよ……これ、じゃあアルトの光の勇者の力って、覚醒しないんじゃないの?

 アルトはクレアを治すことをきっかけに力に目覚めるはずだった。

 だったら、アルトはこのままなんの力にも目覚めないままか?

 じゃあ、俺がアルトより先に治療しちゃったせいで、あいつはこのままモブ人生を送るってことか……?

 いやスマン……。俺の破滅フラグ回避のための、尊い犠牲となってくれ、アルトくんよ……。

 俺は教室の隅で、地味に一人で弁当を食うアルトくんを眺めながら、そんなことを考えた。


「はい、エルド様、あーんですわ」

「お、おう……」


 俺の横で、クレアが俺にあーんしてくる。それを恨めしそうに、アーデが見つめている。

 なんだこれ……。






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