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【欠損奴隷を治して高値で売り付けよう!】破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します  作者: みんと
第二章

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第6話 パンと労働★


 俺はミンディから鉱山奴隷たちの過酷な現状をきいて、なんとかしないといけないと思った。

 これまでに俺は様々な奴隷の環境を改善してきた。

 そのおかげで、今ではたくさんの奴隷に感謝されている。

 けどそれは、あくまで俺が自分で買ってきた奴隷や、身の回りの世話をしてくれるような、見えている範囲の奴隷に限られていた。

 鉱山奴隷の環境整備までには手が回っていなかったのだ。


 鉱山奴隷というのは、文字通り鉱山で働く奴隷たちだ。

 そいつらは一番過酷な労働を強いられていて、まさしく使い捨ての駒のような扱いだった。

 けど、いつまでもそんなことをやっていては、奴隷の恨みを買うだけだ。

 いずれこの世界では革命が起こって、奴隷たちに仕返しされてしまうかもしれない。

 そうなったときに一番主人を恨んでいるのは鉱山奴隷たちだろうからな。

 今のうちに、彼らに媚びを売っておこう。

 

 鉱山奴隷は親父の持ち物だし、まずは親父の許可を得ないといけないな。

 俺は父の書斎を訪れた。


「お父様、鉱山奴隷の環境整備を私のほうで進めても構いませんか?」


 俺がそう尋ねると、親父はなにをいっているんだこいつはというような顔をした。


「なぜそんなことをする? 奴隷の労働環境などどうでもいいではないか。あんなものは使い捨ての道具にすぎない。もし死んでも、つぎからつぎに新しい健康な奴隷が降って湧いてくる。まるでゴキブリのような連中だ。せいぜい利用するだけ利用して、捨てておけばいいのだ」


 やはり、親父ならそう言うだろうと思った。

 ドフーン・シュマーケン……我が父ながら、本当に酷い人間だ。まさに奴隷商人としては鑑のような男。

 しかし、時代は変わっていく。そのままだと奴隷に足をすくわれるぞ。

 俺は親父を説得するために、言い方を変えて説明してみた。


「たしかにそうです……。ですが、もしさらにコストを抑えて、奴隷を搾取する方法があるとしたら? どうしますか?」

「なに……!? そんなことが可能なのか!」

「はい……! 私の修行しているこの回復魔法を使えば、奴隷を再利用することができます!」

「なるほどな……。たしかにそれなら、コストが抑えられるかもしれん……」

「それに、奴隷に作らせた新しい道具を使えば、さらに効率的に作業ができます!」

「なに!? 新しい道具だと! それはいい! さっそく進めてくれ」

「はい……! ありがとうございます」


 なんとか親父を説得することができたな。まあ、結果としては効率化できるのだから、嘘は言っていない。

 ただ、俺がするのは奴隷を搾取するのではなく、奴隷に媚びを売ることだ。





 俺は鉱山奴隷の環境整備をするべく、鉱山までやってきた。

 そして、全員を招集する。


「全員、注目! いったん作業をやめて集まってくれ!」


 俺が言うと、みんな怯えながら集まってきた。

 きっとなにか酷いことでもされると思っているのだろう。

 だが……違う。


「怪我をしているものはいないか……?」

「い、いません……! そんな者は存在しません……!」


 俺が怪我人を尋ねると、明らかに怪我をしているような奴がそう答えた。

 ははぁ……怪我をしているのがバレると、殺処分されるとでも思っているのだろうな……。

 まあ、親父ならそうするだろうからな……。

 これは誤解を解くのが面倒だぞ……。


「正直に言ってくれ。ペナルティはない。むしろ、けが人を治すために俺はここに来たんだ」

「ど、どういうことですか……? 怪我人を処分しに来られたのではないのですか……?」

「俺には回復魔法がある。見ていろ……」


 俺はその奴隷に近づいていって、腕の怪我を治してやった。

 すると、さっきまで半信半疑、俺に怯えていた奴隷たちの顔がぱあっと明るくなる。

 

「ほ、ほんとだ……! 嘘みたいだ……! あ、ありがとうございます……!」


 どうやら鉱山奴隷たちは、俺の能力のことを全然知らないみたいだな。

 まあ、それも無理のない話だ。

 鉱山奴隷はずっと鉱山にこもって、作業をさせられているからな。

 他の部署の奴隷との交流もない。

 俺の能力を知っているのは、比較的マシな環境にある連中だけだろう。


「し、しかし……なぜ奴隷の怪我なんかを治してくださるのですか……? ご主人様たちからすれば、処分したほうが効率がいいのでは……?」

「いや、処分すると新たにコストがかかるからな。治して再利用したほうがいい。勘違いするなよ、俺は優しさで治しているわけじゃないんだからな。お前たちに再び働いてもらうために治したまでだ」

「それでも……痛みが楽になりました……! ありがとうございます……!」

「よし、他に怪我人はいるか……? 少しの怪我でも構わない。ここに並べ」


 俺がそう言うと、今度はみんな大挙して押し寄せた。

 俺は奴隷たちを順番に、治していく。


「ヒール! ヒール! ヒール! はぁ……はぁ……」


 さすがに何百人も連続で治していると、俺のほうも疲れてくるな……。

 そんな俺の様子をみて、さっき最初に治した男の奴隷が、声をかけてくる。


「だ、大丈夫ですか……? エルド様……」

「大丈夫だ。気にするな……」

「少し休まれたほうがよいのでは……。我々奴隷なんかのために、ご主人様がそこまでなさらなくても……」

「いや。奴隷のためだからこそ俺が動かねばならないのだ」

「ど、どういうことですか?」

「王が動かねば民もついてこない。当たり前の話だ」

「なるほど……さすがはエルド様です……!」


 ま、昔のアニメで覚えた受け売りの言葉なんだけどな。

 でも、それは事実だと思う。

 奴隷に働けというのなら、まず主人である奴隷商人が働かないといけないだろう。

 そうじゃないと、いくら奴隷とはいえ、誰も心からはついてこない。


「よし……これで全員治したな……」


 全員の軽い傷や重い怪我を治して、俺は一息ついた。

 これでまたみんな元気に働けるはずだろう。


「ありがとうございます……! おかげさまで、身体の痛みがとれました!」

「これでまた明日からも働けます!」

「さすがはエルド様です! 最高のご主人様だ!」


 奴隷たちはみんな俺をほめたたえた。

 しかし、俺による改革はこれだけじゃない。

 俺は、あらかじめ別の奴隷たちに持ってこさせておいた、道具をみんなに配った。

 ミンディの工房で新しく開発した新作道具だ。

 この間、世界樹ギルドのために作ったものと同じものを、俺が金を出して作らせたのだ。

 これも先行投資。

 

 いい道具があれば、みんなのモチベーションも上がるし、さらに効率化できるからな。

 クワに鎌に、スコップに、ピッケル。俺はそれぞれみんなに配って与えた。


「これはミンディの工房で作った新しい奴隷用の道具だ。みんなにプレゼントだ。これで明日から頑張ってほしい」

「うおおおお! ありがとうございます……! 俺たち奴隷に道具のプレゼントなんて……! なんてすばらしいご主人様なんだ……!」


 だが、奴隷を効率化させるということは、さらなる労働の成果を期待するということだ。

 つまり、奴隷にとってはいいことだけではない。

 環境はよくなるかもしれないが、その分さらに労働の成果が求められる。

 今はみんな喜んでくれているが、実際に作業がはじまれば、そのことを不満に思う奴隷も出てくるだろう。

 だから俺は、さらなる策を用意していた。


「それから……明日からパンの供給を増やすことにする。みんな頑張ってくれているからな。成果に応じて報酬も出そう……!」

「うおおおお! ありがとうございます! 道具だけじゃなくて、パンまでも……!」

「当然だ。それだけ働いてもらっているのだからな」


 幸い、パンの供給量はローリエとキャンシーのおかげで足りている。

 ローリエが他の料理人に作り方を教えていることで、シンシャーニサンドの供給量も増えてきているしな。

 やはりパンは大事だ。

 親父はパンもケチっていたが、やはりお腹が空いていては働くこともできないだろう。

 いくら利益率を追求してコストをカットしようとしても、それで奴隷たちの労働意欲が削がれ、効率が落ちていては本末転倒というものだ。


 俺は週に一回、全員にシンシャーニサンドを配ることを約束した。

 おかげで、鉱山奴隷の効率はかなりよくなった。

 みんな一生懸命に働いてくれている。


 さらに、褒美はもう一つ用意してある。


「みんな、もし鉱山で珍しい宝石が出たら教えてくれ! ミンディの工房で高値で買い取る。そのさい、利益の2割をみんなにも還元しよう」


 本来であれば、鉱山で宝石が出た場合でも、それは奴隷の利益にはならない。

 全部利益は親父が持っていってしまうのだ。

 だったら、俺が安くでもいいから奴隷から買い取ればいいのだと気づいた。


 俺は奴隷たちから鉱石を安く買い取り、それをミンディのもとへともっていった。

 これでミンディの工房も仕入れ値が安くなるし、奴隷たちのモチベーションにもつながる。

 まあ、親父の利益は減ってしまうかもだが……。その分、パンや道具で奴隷の効率化をしてあるから、結局はトントンにおさまった。


 奴隷たちも、高い宝石が出れば俺に売ることができるというので、前よりも労働意欲が増したようだ。

 これまではいくら頑張っても、一日にパンを一つもらえるだけだったからな。

 そんなのでは、誰もちゃんと働く気になれないだろう。


 ちなみに、奴隷も金を貯めることで、一日外出券などが買えたりもする。

 もちろん奴隷紋があるから、あまり遠くにはいけないし、戻ってこない場合は奴隷紋によって殺されるんだがな……。

 あと、さらに金を貯めれば、自分で自分を買い取って、奴隷から解放されることも可能だった。

 まあ、それには法外な値段が必要なんだけど……。

 でも、わずかにでも希望が持てるようになったことで、鉱山奴隷たちの顔は明るくなった。


 これで、俺も万が一の場合にも奴隷たちから仕返しされることはなくなっただろう。

 俺も奴隷も儲かって、いいことずくめだった。

 




【side:リゲット】


 俺の名前はリゲット。

 シュマーケン家で、鉱山奴隷として働いている。

 俺たち鉱山奴隷は、生まれたときから死ぬまで使い捨ての駒だった。

 

 朝から晩まで、ただひたすらにツルハシを振るい、岩を砕き、鉱石を掘り続けるだけの人生。

 ケガをすれば放置され、動けなくなれば、そのまま捨てられる。

 それが当たり前だった。

 

 だから、あの日もいつもと同じだと思っていた。

 俺たちが集められたとき、どうせまた何か新しい命令が下されるだけだと思っていた。

 だけど、違った。


「怪我をしているものはいないか?」


 そう問いかけたのは、シュマーケン家の御曹司――エルド様だった。

 

 俺たちはすぐに顔を伏せた。

 怪我をしているとバレれば、処分される。

 鉱山奴隷にとって、それは常識だった。

 だが、エルド様はまるでそれを意に介さず、俺たちの前に立つと、怪我をしていた奴隷の腕に手をかざした。


「ヒール」


 するとどうだ。

 光があふれ、みるみるうちにその奴隷の傷が塞がっていった。


「う、うそだろ……!?」


 その場にいた全員が目を疑った。

 今まで、傷を治されるなんてこと、一度たりともなかった。

 むしろ、怪我をした時点で終わりだった。

 なのに、この方は……。

 驚く俺たちを前に、エルド様は淡々と続けた。


「次、他に怪我をしている奴はいるか? どんな傷でもいい、治してやる」


 最初は疑っていた。

 何か裏があるのではないかと、警戒もした。

 だが、一人また一人と治されていくうちに、俺たちは次第に理解した。

 

 ――この方は、本当に俺たちを治してくれる。


 それに気づいたとき、俺たちは我先にと列をなした。


「俺も! 俺も頼む!」

「お願いです! 足を治してください!」


 エルド様は、そんな俺たちの必死の願いに、一つも嫌な顔をせず、ただ黙々と魔法を使い続けた。

 普通の貴族なら、こんなことは絶対にしない。

 貴族は俺たち奴隷を道具だとしか思っていないはずだ。

 なのに、エルド様は違った。


「……はぁ、はぁ……。これで全員分、終わったな……」


 明らかに消耗しているのに、それでも最後までやり遂げてくださった。

 

「ありがとうございます……! ありがとうございます……!」


 俺たちは自然と頭を下げていた。

 いや、そんな礼で足りるとは思えない。

 エルド様がいなければ、俺たちはいずれ使い潰され、捨てられていた。

 だが、それだけでは終わらなかった。


「これはミンディの工房で作った新しい奴隷用の道具だ。みんなにプレゼントだ。これで明日から頑張ってほしい」


 手渡されたのは、見たこともない道具だった。

 今まで使っていたのは、刃こぼれしたツルハシや、すぐに壊れるスコップ。

 だが、この道具は違う。


「な、なんだこれ……!? 軽いのに丈夫だ……!」

「俺でも振り下ろせる……! こんな楽なのは初めてだ……!」


 次々に歓声が上がる。

 そして、さらに信じられない言葉が続いた。


「明日からパンの供給を増やす。頑張った奴には成果報酬も考えている」

「うおおおおおおお!」


 誰かが歓声をあげ、それが全員へと広がった。

 俺たち鉱山奴隷は、こんなことを言われたことはなかった。

 ただ黙って働くことしか許されていなかった。

 

 でも、エルド様は違う。

 俺たちのことを、ただの道具ではなく、一人の人間として見てくれている。

 エルド様が去った後、鉱山には異変が起こった。


 俺たちの目に、光が宿っていたのだ。


「エルド様のためなら……! 俺たちは働ける……!」


 誰かがそう呟き、俺たちは静かにうなずき合った。

 この人についていけば、俺たちはまだ生きられる。

 

 この世界で、まだ生きる価値があると、そう思わせてくれる唯一の人なのだから……。





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