第3話 事業を拡大しよう★
アーデにオーブを渡し、奴隷を大量購入させる作戦は大成功だった。
今後もっと金が増えれば、他にも信用できる奴隷に任せよう。
こうやって繰り返していけば、莫大な利益が出るぞ……!
アーデに渡したオーブ以外にも、まだオーブを余分に買ってあった。
俺は余ったオーブを、ドミンゴとマードックたちに渡す。
「それでご主人様、これをどう使えばいいんですか?」
「お前たちに、これを預ける。あとは簡単だ。冒険者の素質がありそうなやつらを、奴隷市場で買ってきてくれ。そしてそれを治療し、冒険者として育ててくれればいい」
「なるほど、冒険者ビジネスを拡大するんですね」
「そういうことだ」
冒険者となる奴隷を増やせば、その分さらに金が儲かるということだ。
ドミンゴたちはもうかなり冒険者としてもベテランだし、そんな彼らが選んだ奴隷は、きっといい冒険者になるだろう。ドミンゴもさすがに体にもうガタがきていて、あまり多くは戦えない。
今後はドミンゴとマードックで冒険者クランを管理してもらおうと思う。
いくつかのパーティを作って、それを指導し、狩りにいかせる。
そうすることで、利益はうなぎ上りだ。
◆
【sideドミンゴ】
俺はエルド様に言われた通り、奴隷市場を訪れた。
マードックと共に、冒険者奴隷として使えそうなやつを探していく。
欠損奴隷の中でも、眼が死んでないやつを選ぶ。そういう奴の方が、根性がありそうだ。
試しに、俺が3人、マードックが3人と、合計6人の奴隷を買う。
俺の買ったのは、魔法の経験があるやつ、ガタイの良いヤツ。それから目がいいやつ。つまり、俺のパーティと似たような構成だ。目のいい奴にはオットーから弓を教えさせればいいだろう。
マードックが買ったのは、元盗賊のやつ、元踊り子のやつ、それから剣におぼえのあるやつだ。俺のパーティとは少し違うが、こちらもバランスのとれたいいパーティになりそうだ。
屋敷に戻って、彼らを治療してやると、とても喜んでくれた。みんな人生にやる気をとりもどし、なんでもやる気になっている。まるで、かつての俺を見ているみたいだった。
彼らは俺とマードックが主人だと誤解していたので、きちんとエルド様のすばらしさを教え込んでやった。これでみんなエルド様に忠誠を誓っただろう。
俺はパーティの名前を「エルド様の剣」として申請した。マードックは「紅蓮の騎士団」で申請していた。俺みたいにエルド様にちなんだ名前にすればいいのに……。マードックは俺のパーティ名をダサいと言ってきやがった。許せん。
ちなみに、俺とマードックがこうしている間、オットーとアカネはまだ冒険者を続けている。俺の代わりに、ギルダという奴隷がパーティに入っている。ギルダは俺と同じくオークの奴隷で、ガタイがよく、タンク職をやってくれている。
おかげで、こうして後継の育成に専念できるってわけだ。
俺とマードックが育てた冒険者パーティは、みるみる頭角を現した。
オットーたちのパーティと合わせて、3パーティでクランを結成し、それをギルドに申請した。
クランを作ると、いろいろと特典を受けれたりして、さらに効率化できるのだ。
今では俺たちは、冒険者ギルドの中で、ちょっとした一大勢力になっている。
合同でパーティを組んで、超難関クエストに挑んだりもできるようになった。
まあ、それはエルド様が許さないだろうけど……。
◆
【sideエルド】
冒険者事業の拡大は大成功だった。以前に比べて、利益が倍になった。
この調子で、どんどん奴隷を買って、育てて、冒険者を増やしていこう。
さて、他にもまだ俺にはやりたいことがあった。
俺は闘技場のグラディオスのもとを訪れた。
グラディオスは常に闘技場で戦っているから、基本は闘技場の檻の中で寝泊まりしている。
まあ、たまにこうやって顔を出してやらないと、すぐに暴れて手が付けられなくなるから、面倒だ。
「グラディオス……久しぶりだな……」
「エルド様……俺様の出番ってことは、戦場が近いんですか……?」
「いや……それはまだだ」
「っち……なんだ……。くそ、もっと暴れてぇ! 俺は暴れたりねぇぜ!」
「まあ、落ち着け。戦場は別に用意する。今日はお前に頼みがあってな」
「なんですかい? 面倒なのはごめんだぜ?」
「それなりに楽しいと思うぞ……?」
俺はポケットから回復オーブをいくつか取り出した。
「これはなんですかい……?」
「これは回復オーブ。俺の回復魔法を閉じ込めたものだ。これがあれば、相手をいくら壊しても、これで治せる。これまでは全力で暴れられるのは、俺がいるときだけだっただろう? だがこれを持っておけば、常に全力で暴れてもいいぞ」
「マジか……。こりゃあいいぜ……! へっへ。さすがはエルド様。俺のことをわかっているねぇ……! そうだよ、俺は暴れたりなかったんだ。これなら相手を死ぬ寸前までボコボコにできるってわけね……! いいねぇ……!」
グラディオスは今まさに暴れ出しそうなほど、鼻息を荒くして興奮していた。
マジでこいつは……少し加減を間違えると、俺でも手がつけられないんじゃないかというほどだな……。
危険な男だ……。
だからこそ、暇を与えないで縛り付けておく必要がある。
「まあ、これは先に褒美を与えたまでだ。頼み事は別にある」
「なんだ……。まあいいぜ、こんな褒美があるなら、いくらでも頑張れる」
「よし」
先に褒美を提示したのは正解だったな。
俺もだんだん、こいつの扱い方がわかってきた。
グラディオスはひどく短絡的な男だから、先にニンジンをぶら下げておく必要があるのだ。
飴と鞭をうまく使い分けよう。
「お前には奴隷市場で強そうなやつを探してもらいたいんだ。それも、欠損奴隷の中からな」
「なるほど……それでこの回復オーブで治せばいいってわけですね?」
「そういうことだ。なるべく原価は安く抑えたいんでな」
「それで、俺が見つけたそいつらは壊してもいいんですかい?」
「ダメだ」
「ちっ……」
こいつ……すぐに人を壊そうとするのはなんなんだ……。
「そうじゃなく、お前が探すのは仲間だ」
「仲間ぁ……? 俺は仲間なんか必要ないぜ」
「別に一緒に戦えというんじゃない。ただ、闘技場でのビジネスを拡大したくてな。お前意外にも闘技場用の奴隷を雇おうと思っているんだ。そこで、お前に見込みのありそうな奴隷を探してもらいたい。お前が言うなら、きっと強い奴隷だろうからな」
「面倒だな……」
「そう言うな。その代わり、自由に奴隷市場を歩けるんだぞ? 余った金で好きに買い物をしてもいい。飯を食ったり、娼館に行ってもいい」
「お、マジか……! それはいい……! 久しぶりの自由だぜ……! 鎖で縛られるのはもうごめんだからな」
「やってくれるか……?」
「まあ、いいぜ。エルド様の頼みとあれば、そのくらい」
「もし戦いたいやつがいれば、あとで模擬戦くらいなら許可してやろう」
「よっしゃ……! ならやる気が出てきたぜ……!」
ということで、俺はグラディオスに見込みのありそうな奴隷を探してもらった。
グラディオスは欠損奴隷市場の中から、何人か闘技場で使えそうな者を選んで買ってきた。
そして、そいつらを治してやる。
みんな俺に感謝をしめし、忠誠を誓った。
きっと闘技場でも精いっぱい働いてくれるだろう。
その中でひとり、とてもじゃないが闘技場では戦えそうにもない奴隷がいた。
ひょろひょろのガタイで、今にも骨が折れそうな、やせ細った男だ。
名前をギドといった。
「おい、グラディオス……なんでこの男を選んだんだ……? ギドはちゃんと戦えるのか……?」
「俺の眼がたしかなら、こいつはかなり強い。間違いねぇ」
「本当なんだろうな……?」
「ああ、試しに模擬戦をしてもいいですかい? 俺ぁはやくこいつと戦いてぇ……そのために連れてきたんだ」
「まあ、構わんが……」
グラディオスがそこまで言うくらいなら、おそらくは強いのだろう。
だが……本当に……?
俺は半信半疑だった。
ギドの強さを確かめるためにも、俺は模擬戦を許可した。
あんなに細かったら、グラディオスのパンチ一発で死んでしまいそうだけどな……。大丈夫なのだろうか……。
「おいギド、無理はするなよ……? おまえ、戦えるのか……?」
俺がそう言うと、ギドは言った。
「へい……。一応、これでも昔は暗殺者として働いてました……。拷問で手足を失ってからは、奴隷の身に落ちましたがね……。けど、あなたのおかげで助かった。だったらこの命、もう一度必要とされるのなら、燃やしてみせましょう。あの男くらい、軽くひねってやりますよ」
「本当か……? 頼もしいな……」
どうやらギドはグラディオスに勝つつもりらしい。
さすがにそれは無理だろう……。
俺は一応、グラディオスに忠告する。
「おい、ギドを殺すなよ……? 手加減してやれ。そうじゃないと、お前も出場停止にするからな」
俺がそう言うと、グラディオスはなにを言っているんだといわんばかりに、鼻で嗤った。
「はっ……! まさか。あいつを殺す? バカ言っちゃいけねぇぜエルド様よ」
「え……?」
「手加減なんかしたら、俺が殺されちまうよ」
「どういうことだ…………」
「それだけあいつが化物だってことよ。くっくっく……俺も久しぶりに全力で暴れられそうだ……!」
まさか……俺はそう思った。
ギドはほんとうにそこまでの使い手なのだろうか……?
「模擬戦、はじめ……!」
二人の模擬戦が始まった。
「グオオオオオオ……!!!!」
グラディオスが先に仕掛ける。
猛烈なパンチが、ギドにぶち当たる。
だめだ……これじゃあ、一瞬でKOだな……。
そう思った……。
しかし、ギドは吹き飛ぶと、なにごともなかったかのように地面から起き上がる。
どういうことだ……!?
「なかなかいいパンチだ……。しかし……私のこのしなやかな肉体の前では、無意味……!」
「ふん……関節を外して身体を柔らかくしたのか……」
「その通り……! よく見えたな……」
「化物め……」
どうやら、二人の会話によると、ギドは身体の骨や関節を自在に操り、身体を柔らかくしたのだそうだ。
そんなことが可能だというのか……!?
元暗殺者だって言ってたけど……これがその能力……!?
「次はこっちからいくぞ……!」
「来い……!」
速い……!
ギドは身体を柔らかくしならせると、グラディオスの身体に飛びついた。
そしてまるでタコか蜘蛛みたいに、グラディオスの身体に自分の手足を巻き付ける。
「うおおおおお……! はなれろ……!」
グラディオスは暴れ回って、ギドを振り払おうとする。
しかし……ギドの身体はふにゃふにゃで、とらえどころがなく、どんな攻撃も通さない。
なんだあの肉体は……!?
「こうなりゃ……こうだ……!」
グラディオスは身体に巻き付いているギドに向かって、牙を突き立てた。
ギドはグラディオスのライオンの牙で、噛みつかれる。
しかし、ギドは悲鳴をあげるどころか、血すらも流れないでいる。
いったいどういうことなんだ……!?
「なに…………!? 俺様の牙が効かないだと……!? どうなってんだ……!?」
「体の血管と神経を横にずらしただけさ。だから痛みもないし、血も流れない」
「なんだと……!?」
まさか……ギドはそんなことまでできるのか……!?
暗殺者……おそるべき能力だ……。
しかし、そんな肉体改造ができるまでのギドが、なぜ四肢を欠損していたんだろう……?
あのギドが手足を失うほどの拷問って……いったいどんなに恐ろしいものなんだ……?
想像しただけで、手足が震えてしまう。
「そちらが牙を使うなら、こちらは爪でお相手しよう……!」
ギドはそう言うと、爪を鋭くとがらせた。
まるで獣の爪のように、ギドの手が一気に伸びる。
なんだあれは……!?
あれもアサシンの肉体改造能力の一種なのか……!?
「くらえ……!」
「ぐあわあああああああ!!!!」
ギドの爪がグラディオスの強固な肉体を切り裂いた。
すごい……まるで金属製の爪のような威力だ。
「俺は厳しい訓練により、肉体改造能力を得た。アサシンだ。お前のような暴れるだけの獅子では、俺には勝てない……!」
「うるせぇ……! 俺は百獣の王だ……! グオオオオオオ!!!!」
そこからグラディオスは感情のままに暴れまくった。
しかし、ギドはそのすべてを冷静に受け流す。
すごい……これが一流の猛者の戦い方か……。
体格からすれば、あきらかにグラディオスのほうが強いと思われた。
しかしまさか、ここまでギドのほうが一方的だとは……。
それからは、まるで大人が赤子の手をひねるように、ギドの一方的な攻撃が続いた。
グラディオスはボロボロになっていった。
そして、審判がグラディオスの負けを宣言する。
「クソおおおおおおおおおお……!!!!」
グラディオスは悔しさのあまり、地面を殴りつける。
試合が終わり、俺はグラディオスとギドと、面会室で落ち合った。
「すごい試合だった……。ギド、まさかそんなに強いとは……」
「ありがとうございます……エルド様。この力、ぜひエルド様のもとで役立てることができればと存じます」
「ああ、頼むよ」
グラディオスの眼は確かだったようだ。
ギドがいれば、きっと闘技場での収益はさらに上がる。
しかし……グラディオスはかなり落ち込んでいるようだ。
あれだけ暴れたがりのうるさい男が、さっきから借りてきた猫のように静かにしている。
「大丈夫か……? グラディオス……?」
しかし、グラディオスは決して落ち込んでいるのではなかった。
むしろその逆……。
これからの戦いに、興奮と希望を燃やしている獅子の眼が、そこにはあった。
「ふっふっふ……大丈夫かって……? そんなの決まってるじゃないですか。エルド様。俺ァこれからの毎日が楽しみで仕方ねぇ……。もっと強くなって、いつかギドに再戦を挑む。俺様の力がまだまだだって知れて、うれしいんですよ……。へっへっへ……」
「そうか……それは……よかったな……」
どうやら、なにも心配はいらなさそうだ。
負けてもさらなる高みがあると知って、戦闘意欲を燃やすか……。
さすがはグラディオスだな。
俺も、そこは見習わないといけないところだな。
何度でも立ち上がる不屈の精神。
まさにグラディオスは戦士だ。
ちなみに、その後ギドはグラディオスと共に、順調に闘技場で勝ち進んでいった。
今では二人は二大巨頭と言えるほど、闘技場のスター的な存在だ。
俺も、ファイトマネーでかなり儲かった。




